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ソルジャーズ・スカイスクレーパー  作者: オウサキ・セファー
第二章 トリカブトの華
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第38話 残されたナゾ

私が放った渾身の一撃は樫木だけでなく、彼が開けた穴のある壁を丸ごと打ち破った。



その一撃をモロに受けて体がボロボロになった樫木は両手を広げ、

私の目の前に仰向けに倒れ、口を大きく開けて、白目で失神し、倒れている。


生きているだろうか・・・・私はそっと歩み寄り、

樫木の右手を手に取り、脈を確認。

うん・・・大丈夫だ、気を失っているだけのようだ。



「ふぅ・・・・・・」



私はその場で大きく息をつき、膝をついた。

同時に全身から力が抜けると同時にグッと疲れと痛みがくる・・・・・



ただ樫木を倒したので安心した、だけではない。



この一撃の反動にまだ私の体が耐えきれていない。




要は追いついていない。私も・・・まだまだ。

楠木さんには程遠い・・・・こんな事で苦しんでいては、

続けて他の敵と戦う事なんて出来はしない。



もっと、鍛錬が必要だ・・・・・



丸ごと壁を打ち破った先には寝静まった船橋の街並みが広がっていた。

電灯などの微かな明かり以外は全て夜の闇に包まれ、

私と倒れている樫木がいるこの外から露出した5階の部屋を青白い月の光が照らす。



ピリリリリリリリ!!!ピリリリリリリリ!!!



その時だった。静寂を破ってスマートフォンのコール音が響く。

私はスマートフォンを取り出した。アークライトだ。



「こちら、フォルテシア」



「あ、長官!アークライトです~。千葉教育統制委員会の本部にあった爆弾、

 やっと全て解除し終えました・・・・・」



疲れきったアークライトの声が向こうから聞こえる。

その声は、聞いてとても安心出来るものだった。



「お疲れ様です。アークライト。無事で良かったです。

 こちらもたった今、全ての根源である樫木麻彩を確保しました」



「本当ですか!?じゃあ、これでめでたく事件解決ですね!」



アークライトの嬉しそうな声がこちらまで響く。



「はい」



するとアークライトは思い出したように話を真面目に振った。



「そうだ・・・・聞いて下さい、長官。爆弾なんですけれども、

 長官の読み通り、時限式の小さな爆弾多数に加えてスイッチ式の爆弾が4つ見つかりました」


「・・・・やはり遠距離から爆破するためにスイッチ式を仕組んでましたか」


「しかし、一つだけ部屋の床から天井に近い大きいサイズの

 巨大爆弾があって、解除に手こずったんですよ」




「え・・・・・・?

 他の爆弾はどれぐらいの大きさでしたか?」




スイッチ式は良いとして、更に強力な爆弾があった・・・・?



「アークライト、詳しく話を」私は真っ先に話に食いつく。



「時限式はいずれも小さい箱型の小包ぐらいの物でした。

 しかし、スイッチ式が裏側にセットされた状態でその巨大爆弾はありました。

 無論、巨大爆弾は時限式です」



時限式の巨大爆弾・・・・?なぜ・・・・・?



「たぶん、宣言した樫木の仕業だとは思うんですが・・・・妙なんです。

 正直な話、あんなに大きな爆弾があったら普通に私達が駆けつける前に

 発覚しててもおかしくないと思います」



「それにあんなにたくさん爆弾があって、事前に発覚しないのもおかしいです。

 なぜでしょうか?」



アークライトは次々と疑問を私にぶつけてきた。



「・・・・・すみません、アークライト。後で詳しい事を聞かせて下さい。気になります。

 巨大爆弾の写真などはありますよね?」



「はい。警察の方が撮っていますのでお借りしてきます」



「では、後でお願いします。引き上げて下さい。・・・・お疲れ様でした」



アークライトとの無線が終わり、無線機をしまう。

巨大爆弾の謎について考えるべく、思考を巡らせた時だった。





「フッヒャハハハハハハハハハハ・・・・・・・!」




背後から陽気かつ邪悪な笑い声がする。

笑い声から気づいてはいたが・・・・



その方向に立っていたのはいつの間にかいなくなっていたレーツァンだった。

両手を広げて笑いを浮かべている。




「レーツァン・・・・・・!」




そういえば、彼の存在をすっかり忘れていた・・・・・




「長くてキレーな髪だなァ、ドロドロに汚してやりたいぐらいだ。

 クックックックッ・・・・!」




「くっ・・・・・!」



レーツァンは私の長い金髪を見て、下品な冗談を言うような態度で侮辱してくる。

私はそんな彼を鋭い目で睨みつける。


帽子が樫木との戦いでぬげたため、今の私は長い金髪が

ハッキリと分かるようになっている。




「おっと、ジョークはさておき。ご苦労、フォルテシア。

 お前達がやり合ってるのをあそこから見物させてもらったぞ・・・・!」



レーツァンは自分の背後にあった四角い窓がついている

ドアを軽く左手で指差して言った。この部屋の入口のドアだった。




「フヒャハハハハハハ・・・・・!

 コイツには持ちきれないぐらいの借りを返さねェとなあ・・・・・」



レーツァンはそう言いながら私を押しのけ、倒れて気絶している樫木の下へ歩み寄った。




「・・・・・だが」




「それは"連れ帰って"からでもイイか・・・・・!」



レーツァンは大きく膨れ上がり充血している不気味な右目で

私をギロリと見て、こちらに振り返った。




「まさか・・・レーツァン、樫木の身柄を・・・・!」



「その通りっ!!コイツはおれ達が頂く。

 お前からハイエナするために・・・・おれはこの時を待っていた!!」



レーツァンは邪悪な笑みを浮かべた。

大きく赤く腫れている不気味な右目と襟がトゲトゲな紫の道化師のような服、

決して輝かないボロボロな金髪、そして辺りの暗闇がその邪悪さを引き立てている。




「今のお前は力を使い果たしてヘトヘトだ・・・おれ様を倒したいか?

 だが、そんな体では満足には戦えまい・・・・!」



「ククク、おれ様の勝ちだなァ!!!フヒャーーーーァハハハハハハハハハハハハ!!!!」



「ハハハハハハハハハ・・・・・・フヒャーーーァァァハハハハハハ!!!!」



「く・・・・・・・・!」



両手を高らかにあげ、レーツァンの侮蔑と優越感のこもった

悪魔のような響く笑い声が私の心に突き刺さる。


4年前の楠木さんがやられた時が頭を過る。その時も彼は笑っていた。

部下達を引き連れ、その中央で。



と、再び目の前が現実に戻る。

このままでは樫木の身柄を奴に奪われてしまう。どうすれば・・・・



「レーツァン・・・・・・・!」



「フッヒャ、這いつくばってればいいものを。不満のようだな」



「よし・・・・樫木を倒してくれた礼にフォルテシア・・・・・

 お前におれ様が最高のプレゼントをくれてやろう・・・・・!」



「・・・・・・・!」




私は唾を飲み込み、急な危機感を感じ、少しずつ彼から距離をとった。




「ここで虫の息のお前を始末してやろう」




「死ね!!フォルテシア!!!」




するとレーツァンは最悪の一言と共に左手の平をこちらに向けて

黒と緑の燃えるエネルギー弾を私に目掛けて放った。


「くっ・・・・・!」



飛んでくるエネルギー弾を右に跳んで避ける。




ドガーーーーーーーン!!!!




エネルギー弾は背後の地面に当たって小規模な爆発を起こす。

その爆発が爆風を巻き起こし、視界を曇らせる。





「レーツァン。樫木の身柄を奪うというのなら、

 あなたを力づくでも止めるまでです!!」



威勢を強くし、私は自分を鼓舞し、私は立ち向かう。

仕方がない、虚勢を張っても、ここは不利でも戦うしかない。



私は彼に怒りをこめて両手に三本ずつナイフを素早く装備し、

それら六本をまとめてレーツァンに投げつけた。



六本のナイフはまとまってレーツァンに飛んでいく。



「フッヒャハハハハハハハハ・・・・・・・!」



レーツァンの出した左手の平から黒と緑に染まった光線を放ってきた。



その光線は一直線にナイフ六本を全て正面から打ち破り、そのまま私に襲いかかる。



「うっ・・・・・・・・・・!」



私は迫り来る光線に対して両手を前に、力をこめた。

両手が金色の光に包まれ、レーツァンの光線を食い止める。



が・・・・・強い・・・・このままでは・・・・



「うわぁっ!!!」



光線を食い止めたが、私は跳ね飛ばされてしまった。

そのまま仰向けのまま床に体を叩きつけられる。



「ケオ・クロール・・・・!」



レーツァンがそう言って左手を床につけると、

そこから送り込まれる黒と緑のエネルギーで出来た地を這う何かが迫り来る。



この技は見るのが初めてだ。



それはまるで水面を泳ぐサメのように私に狙いをつけて地を泳いでくる。

正体を隠して、小さい水たまりのような姿で・・・・・水たまりからは鋭く赤い目が見える。



私は立ち上がり、迫ってくるそれを素早く右手からナイフを取り出し、投げて迎撃する。

するとナイフが刺さった水たまりは不気味な怨嗟の悲鳴をあげドカン!!と小さな爆発と共に消えた。

その悲鳴は怨念のようなもので肌寒さを感じた。



レーツァンの全力は計り知れない。

これまで幾度も奴と衝突してきたが、実はこの男が全力らしい全力を

出し切って戦った姿を私は見た事がない。


奴は部下や周りの者に戦いを任せ、自分は遠くから高みの見物をする他、

姿を現してもその際に必要ある分の力しか行使しない。

しかも、それだけで目の前の障害を全て取り除いている。


たとえ、私が戦いを挑んでもその実力の全てらしいモノを出そうとしない。


そのため奴のソウルの色も、奴の能力が具体的に何を操る能力なのかも不明だ。

また、樫木を殴ってみせたように奴は素の力も半端ではない。



「まだまだァ・・・・・ケオ・クロール!!」



レーツァンが再び左手を床につけると、そこから同様の水たまりが生まれて今度は5つ、

私に素早く地を泳いで迫ってくる。その姿はまさに水中に身を隠し、

獲物を狙い、水面を泳ぐ人食い魚そのもの。



私はすかさず、両手に三本ずつのナイフを装備し、

一体、そしてもう一体、続けてもう三体・・・・水たまりを撃破していく。

爆破と不気味な怨嗟の声が次々と響き渡る。




5つの水たまりが爆発し、煙があがる。




その時だった。




「おっと、おれはここだ」



「なっ・・・・・・!?」



気がついたら、レーツァンは私のすぐ目の前に現れていた。




「があぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」




そのままレーツァンに顔を右手で斜めから叩かれ、私はそのままその場に体を崩して倒れた。



くっ・・・・素手とはいえ、さっきの樫木とは比べ物にならない威力だ・・・・・

痛みとめまいで立ち上がる事がとても出来ない・・・・



「フッヒャハハハハハハハ・・・・・!また、おれ様の勝ちだな!!」




地に這いつくばる私を眼下から見下ろして、嘲笑するレーツァン。

くっ・・・・・・こいつに4年前、楠木さんも・・・・



私も・・・・まだまだ長官として、力不足なのか・・・・・




「ん?さっきからあの4年前に死んだジジイの事が忘れられないって顔しているな??

 そう、おれ様がボロボロなお前を笑った時から・・・・・!」



レーツァンは腰を下ろしてしゃがみながら私の顔に

自分の顔を近づけて覗き込みながら語りかけてきた。



右手の人差し指で私の鼻に触れた。

白く染まり、紫色のつけ爪がされたその手はまるで悪魔のような手。

指先はとても冷たく、彼の性格をそのまま表していた。



「ごまかしても無駄だ。おれには分かるんだぜェ?お前の顔を見れば一目瞭然だ・・・・

 お前がおれを憎い事ぐらい分かる・・・・

 お前がホントは無謀なのにおれに向かってきた事もな!!」



再び、腰を上げると面白おかしく微笑するレーツァン。




「さぁ、今ここで寂しくないようにあの世のジジイのとこに手厚く送ってやろう!!

 あの世で仲良く暮らせ!!そして、おれ様に感謝するんだな!!!」



レーツァンは左手を広げてこちらに向ける。

すると彼の左手には再び黒と緑のエネルギーの塊が発生し、燃え上がる。

エネルギーが増大を始めた。



「さて、おれ様に恐怖しながら死ねェ・・・・フヒャハハハハハハ!!!」




・・・・・・・もはや、ここまでか・・・・・・



やはり彼を最初から放置するんじゃなかった・・・・・・

このビルに乗り込む前にダークメアが現れた時点で

レーツァンがいる事は分かっていたのに・・・・くっ・・・・



自分の力に過信していたようだ・・・・



こうなれば・・・・サカかヴィルに救援を・・・・・




なんとかスマートフォンで直接助けを呼ぶべく、それを取り出そうと手を動かす。



が、その直後だった。





ピリリリリリリリリリリリ!!!




取り出そうとしたスマートフォンが突如鳴り出したので素早く出た。

画面を見るとそれは折原部長からだった。




「こちらフォルテシア」



「長官!!ご無事で何よりです!!折原です。

 所属不明のヘリがそちらのビルに急速で接近中です!!」




「ヘリ?」




ブルブルブルブルブルブルブルブルブルブルブルブルブルブルブル・・・・・・




するとけたたましいプロペラ音が徐々にこのビルに近づいてくるのが聞こえた。

私の一撃でこの部屋の外側の壁は丸ごと壊れてしまっている。


船橋の街の夜空から現れたのは二つのプロペラをつけた大型ヘリだった。

あれは、チヌークという大型輸送ヘリだ。



今回は敵に気取られる事を懸念してヘリは出していない。一体、誰が・・・・

私は痛みとめまいに耐えながらなんとかその場で足を地につけて立ち上がり、

そっとスマートフォンの通話を切って元の服のポケットにしまう。



「っと。なんだ?あのヘリは・・・・・」



レーツァンもヘリが気になり、私に向けて放とうとしていたエネルギーを

溜めるのをやめ、向けていた左手をそっと下げる。ヘリに注目した。



ヘリはこちらに狙いをつけて、横の状態で飛びながら留まった。

すぐ目の前に飛行するヘリの大きな扉が開き、そこから長い鉄橋がビルにかかる。

プロペラから来る強い風が私達に吹き荒ぶ。



そして、ヘリの中から鉄橋を通り、両手をそれぞれの腰のポケットに入れて

プロペラの風と共にゆっくり歩いて現れた小柄な人物は私も知っている顔だった。

それは、黒い長靴にジーパン、更に緑色のフードを被った美しい緑髪の少年。



私はそれが誰か・・・・・見てすぐに分かった。




「根来・・・・亮二・・・・・!」



「フッ・・・・・・!」




私がその名を口にすると出てきた少年は不敵な笑みを浮かべる。



「よォ、根来。豪勢な迎えしてくれるじゃねェか・・・・」



レーツァンはすぐさま彼の傍にそっと歩み寄った。

まさか・・・・・・



「根来亮二!!岩龍会構成員とダークメアを動かしたのも全てあなたの仕業ですか・・・・!」



私は根来に追求した。彼にはそれが出来ても不思議ではない。



「ええ。ご名答です、長官。岩龍会の名立たる極道たちと

 彼らダークメアを動かしたのはこの私です」



「くっ・・・・・」私は唇を強く噛んだ。




低く、落ち着いた冷静な口調で語る根来。

初めて根来を見た者はその姿とは正反対の物腰に異端的なモノを覚えるだろう。

だが、そんな彼も紛れもないソルジャーであり、岩龍会の構成員だ。



根来亮二。

四天衆の一角にして二次団体、根来興業の会長トップ

会長、岩舘剛大を支える4人の最高幹部の一人。



子供なのか大人なのか、その年齢が分かりにくい風貌と思考が読みにくい性格から、

四天衆の中で最も謎が多い人物として知られている。



ここに来て、とてつもなく厄介な相手が出てきた・・・・四天衆・・・・

無論、先ほどの樫木麻彩とは比べ物にならない相手だ。



「ここまで動いてくれた礼に教えましょう。鈴川組はダークメア系の組。

 我が根来興業をはじめとした岩龍会関係団体と取引をしていました」



根来は冷静に語りながら倒れている樫木に目をやった。



「ところが、そこの裏切り者のせいで組は壊滅。

 そこで私はレーツァンに彼を捜して捕えるよう命じたのです」



鈴川組はダークメアの二次団体だという事は私も知っている。

勿論、岩龍会と武器や麻薬などの取引をしていた事も・・・・



しかし、その取引相手の中心に岩龍会二次団体では勢力も大きい

根来興業がいた事は私も初耳だった。



無論、レーツァンが根来の命令で動いていた事も・・・・



諜報部も他の支部も掴めていなかったとなると彼らも彼らで

こちらを恐れて厳重な情報統制を敷いていたのだろう・・・・鈴川組も含めて。




まさかレーツァンが根来の手先になっていたとは・・・・




「フヒャハハハハハハ・・・・そういう事だ、フォルテシア。

 樫木を見つけ出してくれた上、倒してくれて本当にご苦労だった・・・・!

 お前らJGBが動いてくれなかったら、おれ達は根来に消されてたんだ」



レーツァンが間から口を挟んでくる。



「フッ・・・・・レーツァンさん、あなたの大切な部下達も

 既に我が根来興業の手の者が救助、回収済みです」



「助かる。奴らを失うと寂しいもんでな・・・・フフフ」




レーツァンはこの任務に失敗すれば消されると通告された。



だから私にあえて情報を提供リークし、

樫木を追い詰めさせるという手段に出た・・・・・という訳か。


あの時、裏がないと言っていたのも嘘だったようだ。



やはり、あのレーツァンだ。

無償で情報提供してくれる辺りが怪しいと思っていた・・・・




レーツァンは再び倒れている樫木の下に歩いていく。

どうする・・・・このままでは樫木を奪われてしまう・・・・だが・・・・

この二人を一度に相手するのは今の私には無謀だ。



樫木戦で力を使いすぎた・・・・・くっ・・・・・



このまま樫木を奪われるわけにはいかない。どうすれば・・・・・




悩んでいた・・・・・その時だった。





ドガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァン!!!




突如、この部屋の内側の壁が爆発で吹き飛ぶ。

爆発による煙でその先が見えない・・・・・誰だ・・・・また新手か・・・・?




「フォルテシア長官!!!!」



私を呼ぶ声、煙の中から現れたのは敵ではない。

声の主はサカ・・・・そしてその右隣にヴィル・・・・そして、

左隣にいるのは上の階で縛り付けにされていたモロヅミだった。



「ホウ、ダークメアのボスに岩龍会の大幹部がそろい踏みか」



ヴィルはそれぞれ二人の顔を見るなり、涼しげな表情を浮かべる。



「長官、ご無事ですか!!!!」



その横でモロヅミがこちらに向かって叫ぶ。



「サカ・・・・・・・!ヴィル・・・・・!モロヅミ・・・・・!」




なんと幸運な事だ。絶体絶命な時にこんなにも頼もしい救援が・・・・・!




「くーっ、救援が来やがったか!いいだろう、まとめて消してやろう・・・・!」



レーツァンは憤慨し、広げた左手の上で黒と緑のエネルギーが激しく燃え上がる。




「いえ、レーツァンさん。やむを得ません。

 ここは樫木は捨ててさっさと撤退しましょう」



撤退・・・・・・?根来は特に動じることもなく、あっさりそう言った。



「何を言う根来!?あともう少しでこの裏切り者を消せるんだぞ!?」



特に動揺もしない平然とした根来の意外な指示にレーツァンがただ反論する。

根来の方を向いて文句をぶつける。



根来は特に動じる事なく続ける。



「いいえ、あなた方はよくやってくれましたよ。

 あなた方が動いた事でこの結果に至ったのですから。

 長官の手でとはいえ、樫木をこのように再起不能にした以上、意味はありましたよ」



「・・・・・・しかし、東京支部の支部長や副長官までいる以上、ここは必然的に分が悪いです。

 樫木を抱えてヘリで逃げようモノなら間違いなく我々のヘリは追撃を受けて落とされ全て終わり。

 ここで彼を殺しても彼らを刺激しかねないでしょう」 



「グッ・・・・・そいつはヤベえな・・・・・」



レーツァンもそれを聞いて態度を低くする。

それはそうだ、サカやヴィルが来てくれた以上、樫木を抱えて逃げるつもりならば

あのヘリを落とす事も不可能ではない。ヘリは彼らにとっては命綱だ。



「樫木についてはこの状況下、捨てるのは惜しいですが捨てるほかありません。早くヘリへ」




「おい」その会話に口を挟んだのはヴィル。




「なに敵の目の前でグダグダとつったって相談してやがんだ?」

 



「むざむざ逃がすと思うなよ。アイジュデルツ・フォイア!!!」




会話に横槍を入れたヴィルが右手のひらから放つそれは巨大な黒炎の弾。

向けられた右手の平から膨れ上がり、放たれるそれはヴィルの身長の三倍はある。



それは根来とレーツァンに向かって一直線に飛んでいく。

彼らと対峙していた私も後ろから来るその攻撃に

当たらないように左側に慌てて大きく跳ぶ。



当たれば、2人を圧倒的に丸ごと飲み込んでしまうほどの大きさ。

避けても彼らの背後にある逃げのヘリが粉砕され、

このフロアにも凄まじい爆風が吹き荒ぶだろう。だが・・・・・・



「フッフフフフ・・・・・・・!」




くっ、奴は使うつもりだ、あの力を。

根来はその場から動く事なく余裕の笑みを浮かべると

自分達に迫り来る圧倒的な大きさを誇る黒炎の弾に対して、右手をそっと前に出す。



そして、人差し指を前に向けた。

ヴィルの放った迫り来るまるで一つの惑星のような巨大な燃える黒炎の塊を前に。



臆する事もなく、それを指差す。防御も逃げもしない。

ただそれをじっと右手で指差すだけで動かない。




ボォォォォォォォォォ・・・・!




ドガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァン!!!



突如、ヴィルが放った黒炎の弾は真ん中に丸い大きな空洞が開き、

根来に届く事なく黒い炎の弾は筒の形となってその場で爆発した。



黒炎の弾をまるで巨大な棒に貫かれたかのように

輪の形となり、爆発した。



その爆風は私達のいる方向にも激しく吹き荒ぶ。





そう・・・・これが四天衆の一角、根来亮二の能力。

最高幹部の名に相応しい、極めて強力な力。



それは近づいて直接攻撃する必要もなく、自ら武器を使う必要もなく、

ただ指を動かすだけで相手を傷つけてしまう力。



指で直接指された者は指された部分を貫かれてしまう。



「チッ・・・・ガキが・・・・・!」



両腕で前を覆って爆風を防ぎながらも唇を噛むヴィル。

爆風は吹き荒れる中、その間にレーツァンはヘリの鉄橋に素早く駆け込んだ。

続けて、根来も乗り込み、ビルとヘリを

繋いでいた鉄橋も収納され、ヘリはビルを離れて飛び立った。

しまった、根来に上手く足止めをされてしまった・・・・・



「フォルテシア、今日はこれぐらいにしてやろう・・・・!

 また会おう・・・・・フヒャーーーーーーーーァハハハハハハハハハ!!!!」




レーツァンの侮蔑に満ちた笑い声が響きながら、

中から現れたスカールによってヘリの扉は閉じられる。



するとヘリは夜空高くへとけたたましいプロペラ音をあげて、

瞬く間に夜空の彼方へと消えていく・・・・




くっ・・・・・レーツァン・・・・・・!



レーツァン・・・・・・!




またしても・・・・それに予想以上にヘリの飛行速度も早い・・・・くっ・・・・







「長官・・・・・・」



「・・・・・?」



レーツァンを取り逃がした事を悔いて夜空を

見ていると後ろからモロヅミの声がしたので振り向いた。



「モロヅミ・・・・・・」



「長官・・・・終わったんですよね・・・・・?」




「ええ、レーツァンと根来亮二には逃げられましたが、

 終わりました・・・・樫木麻彩はこの通り・・・・・」



モロヅミに尋ねられると私は仰向けで口を開けて

倒れたままの樫木麻彩の方を見た。



「長官、こんな事をこの場で言うのは難ですが・・・・・」



一体、なんの事かと思う事も束の間、

モロヅミは背筋をピンとし、そっと頭を下げた。

それは謝罪の念をこめた物であった。



「此度の勝手で私情を挟んだ行動をお許し下さい・・・・・

 規律違反の処分は受けます・・・・・本当に・・・・申し訳ありませんでした」




「・・・・・・・・・・・・・・・。」




「何があったんだ?」



モロヅミに何があったか知らないヴィルが横にいるサカの方に訊いた。



「モロヅミは高校時代の友人である樫木を止めるために

 単身で長官より先に敵のアジトに乗り込んだ・・・・といった所だ」



私に代わって、サカが代わりにモロヅミの経緯を解説した。



「ホウ・・・・理由はどうあれこれは十分なルール違反だな。仕事に私情挟むのは」



ヴィルはモロヅミを卑しむような口調で言った。

実は彼も素行は悪いが、JGBとしての組織の規律は守っている。

最も、普段の素行が悪い時点で彼が言える事でもないのだが。



例え私情とはいえ、任務中に勝手な行動は

決して許される事ではない。


組織、チームは上に統率される事で動く。

自分勝手な行動は組織人としては御法度だ。



だが・・・・これはあくまで組織人としての規範。

人としてならば・・・・今回は許されない反面、

己の正義に従ったともとれる。



現にクラスコはこのビルにたどり着く前、

傷つきながらもこう言っていた。




『そうです・・・・先輩は樫木と会って・・・高校の同級生として

 しっかり奴の間違いを正したいと・・・・そう言ってました。

 なので今頃・・・樫木の所へ・・・・』



私は・・・・・ただ組織に縛られるだけでは

正義は全う出来ないと思っている。

時には規律を破っても守られなければならない正義はあるのではないかと時々考える。



組織において、自分勝手な行動をしたのは確かに規律違反だ。

勿論、しかるべき処分はとらせるつもりだ。


しかし・・・・・・



「モロヅミ・・・・あなたがなぜこのような勝手な行動に及んだのかは私も分かっています」




「長官・・・・・・・」



私が頭を下げるモロヅミにそっと声をかけるとモロヅミは私を見た。



「あなたが直々に私の下に来て、樫木の事を話してくれましたからね・・・・

 しかし、規律違反は規律違反です」




「・・・・今回は私もあなたも事情は知っているので処分は謹慎にしておきますが・・・・

 もしも、今後、このような事があった場合は私に必ず相談して下さい。

 私で良ければ・・・・力になりますよ」



私は彼に厳しく言いつつも、そっと優しく彼に助言をするように伝えた。



「はい、長官・・・・・・申し訳ありませんでした」モロヅミは改めて一礼した。

 


彼も己の正義に従っただけだ。

もしも、それで動くのが分かっていたならどれほど良かったか・・・・


自分勝手な行動による規律違反を規律違反でなくするためには、

上官がそれを予め知っておけばいいのでないだろうか。

知っておけば何かしらの対策がとれ、特殊な対応も出来る。


勿論、目の前の課題に対して立ち向かう正義の下に限られるのであって、

単なる好奇心による自分勝手な行動は厳重な処分に値するが。



・・・・・・私はやはりJGB長官に相応するスキルを

持っただけの子供と見られているのだろうか。


子供に相談するのは大人気ないと思われるのだろうか・・・・



力や知識はあっても、人生経験だけはどうしようもないのは私も分かっている。

人生は教科書や本で学ぶ物ではない、自分で体験して学ぶ事だ。


JGBの中では組織のためにたくさん学ぶ事はあっても、

一般社会には私がまだまだ知らない事も多い。



私も・・・・まだまだだな・・・・長官としても、人としても。




「おう、説教は終わったか、フォルテシア」



ヴィルがこちらに来て声をかけてくる。



「終わりましたよ」



「こっちもダークメアのカヴラには逃げられたが、このビルで大きな爆発が

 あったから副長官と一緒に来た甲斐があったもんだ」



「ええ。あなた方のお陰です。本当に感謝しています」



もしも彼らが来るのが遅かったら今頃、樫木の身柄も奪われていただろう。

あるいは根来とレーツァンに殺されていたかもしれない。感謝しなければ。



「私もタランティーノを退けさせた所でヴィルと交差点で合流し、

 そしたら爆発があったので二人でビルを駆け上がって、

 途中でモロヅミとも合流して今に至ります」



サカがヴィルに続けて経緯を説明をする。

なるほど・・・・爆発というのは言うまでもなく私が思いの力を

こめて樫木にトドメを刺したあの一撃だろう。



まさか、あの技が

このような幸運を呼び込む事になろうとは・・・・




「それじゃ・・・・さっさとこの熱血反イジメ活動家を連行しちまおうぜ」




ヴィルがそう促すと私達は樫木を連行する準備に入った。




ガチャ。




ヴィルの手によって対ソルジャー用の手錠が樫木の両手にハメられた。

未だに意識を取り戻さない樫木はそのまま担がれ、

トラックバスで一足先に連行された。


因みにこの手錠は対ソルジャー用に作られた手錠で能力を

行使しようとすると神経に電磁波が走り、麻痺を引き起こす特殊な手錠だ。

基本、ソルジャーを拘留する際はこれを使用する。



多数のJGBの車が駆けつけ、騒然とした雑居ビルの前で

連行されていく樫木の乗せられた車の背中を見届ける。

私達も帰路につこうと思った所で意外な人物がやってきた。



「おおーーーい!!フォルテシア!!」



後ろから聞き慣れた男の声がしたので振り向くとそこにいたのは蔭山警部。



「蔭山警部・・・・・」



犯人ホシは捕まったみてえだな」



「はい、ビル内部で樫木と戦う事になりましたが何とか」



「お疲れ。とにもかくにも、これで3月から続いた

 連続殺人の事件ヤマもようやく解決したってわけだなー」



蔭山警部は事件の犯人が捕まって安堵と同時に笑顔を浮かべた。



「こっちは大変だったぜ、岩龍会の奴らが車ごと突っ込んでくるんだからよ」



「そうですね、蔭山警部もお疲れ様です。

 これで・・・・全て終わればいいのですが・・・・・」



本当に、これだけで全て終われば一件落着だ。




だが、樫木を逮捕しても、まだこの事件は全て終わっていない。



アークライトから聞いた、地下に仕掛けられた巨大爆弾もそうだが、

そもそも樫木はどこから過去のイジメ自殺事件の

加害者の情報を得たのかも調べる必要がある。




樫木を取り調べて、これらの答えを全て

彼から引き出せれば良いのだが・・・・・

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