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ソルジャーズ・スカイスクレーパー  作者: オウサキ・セファー
第二章 トリカブトの華
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第36話 死闘

レーツァンが脱落し、私と樫木だけになった部屋。



「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」



樫木は叫びながらこちらに殴りかかってくる。




「でぇりぁぁぁぁぁぁ!!!!」



高く飛び上がって両手の拳をハンマーのように

空中から振り下ろして力強く落下してきた。



私はそれを後ろに下がって避けると立ち上がるその隙を突いて、

自分の両手の指と指に挟む投げナイフをまとめて6本、樫木に放った。



「はぁっ!!!」




「ぐぁぁっ!!!・・・・・・見越してるんだよぉ!!!!」



吐き捨てながらも一本が樫木の右胸に刺さるも

残りを凄まじいスピードで高速移動し、左右へと瞬時に回避した。

だが、私の力が宿ったナイフが刺さっている以上、奴は・・・・



「なぜだ!?なぜ透明になれない!?」



両手の拳を前に構え、全身に軽く力をこめて能力を行使しても、

己の体に変化がない事に動揺している樫木。

彼は私の力をまるで分かっていない。攻めるなら今だ。



「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」



「ぐぁぁっ!!!」



私は走り出し、掛け声をあげて力強く樫木の左頬を右手で殴りつけた。



「いてぇんだよぉ!!!!!」



「あぁっ!」



すぐさま、左手で赤く染まる左頬を抑えながらも

樫木が放った反撃の頭突きからの体当たりが私に直撃する。

軽く吹っ飛ばされたが受け身で体を翻し、すぐに体勢を立て直す。



ナイフで倒すか、素手で倒すか・・・・

ここは素手よりもナイフの方が効果的かもしれない。



素手でもダメージは十分与えられる。

だが、今の並々ならぬ憎悪と怨恨を力の糧として怒りをぶつけてくる奴を

素手だけで倒すのは難しい気がする。



奴は上の階でのレーツァンの攻撃を受けて、

ある程度負傷していてもまだ動けるだけの体力が残っている。

簡単に倒れない相手なのは間違いない。



「畜生、僕をコケにしやがって・・・・・ならばこうだぁ!!!」



樫木は自分に刺さっていたナイフを左手で抜き取って投げ捨てるとそう叫び、

こちらに向かって走ってくるとその途中、体が白い光に包まれ、なんと3人に分身した。

どこをどう見ても全く同じ体格、姿をした3人の男が3人横に並んで走ってくる。



それらは透明にならずに私を瞬時に三方に取り囲み、素早く影分身を繰り返す。

目に止まらない早さで私を逃すまいと囲む無数の樫木。

するといきなり左から力強い拳が襲いかかる。



「ぐっ・・・・・・!」



すかさず、反応した私は左手で三本ずつ投げナイフを瞬時に懐から取り出して

樫木の拳をその三本のナイフを持った左手で防いだ。

その瞬間、分身も消えた。


私のナイフと、樫木の拳が互いにぶつかる。

拳をたとえ、ナイフで正面から指を傷つけられようが全く動じる事がない樫木。

まさに刃ごときでは止まらない鉄の拳。



私はその場から後ろに跳び、樫木から距離をとった。



「あなた、こういう力も使えるんですね」



身体能力向上による派生技・・・・・

分身してからの影分身、ここまで能力を高めていたとは・・・

やはり・・・身体能力だけは特化しているか・・・



「あぁ。全ては未来の子供達のため!!!未来の子供達のためなんだぁ!!!!!!!!」



「それと僕の復讐のためだ!!!そのためならば・・・・・・」



樫木は後ろに跳んで距離をとる。



「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」



雄叫びを高らかにあげた樫木は先ほどよりも速いスピードで分身をし、

また3人の樫木が三方から私を取り囲み、素早く影分身してくる。



私は神経を集中させる。来る。今度は右から・・・・!




防ごうにも間に合わない。右手で三本のナイフを出しても間に合わなかった。



「ぐあぁぁぁっ!!!」



私は樫木の鉄拳を右肩に受けて少し体が宙に仰向けに体が浮く。

すると樫木は瞬時に私の頭の方へと瞬時に移動し・・・・・



「邪魔する奴を排除する努力をするのも当たり前だろうがぁぁぁぁ!!!!」





私の背中に樫木の長い脚によるローキックが炸裂する。






「うっ・・・・あぁぁぁぁぁっ・・・・!」




まるで野球のボールのように背中から打たれた私は吹っ飛ばされ、

その痛烈な一撃でその場でうつ伏せで地面に叩きつけられた・・・・・くっ・・・・・




「僕はな・・・・・今年になってから、この力を使って・・・・

 今、やらなければならない事に気づいた!!」



「心の底ではずっと待っていた事に気づいたんだ・・・・・

 僕自身の復讐を果たす時と、この腐った日本の教育をこの手で変える時を・・・・

 だからそれを邪魔する奴もみんな残らず消し去ってやるんだよぉ!!!!!!」



私の背中に向けた樫木の荒げた大きな声が部屋中に大きく響く。



私は彼が自分の主張を喋っている間に背中の痛みを堪えて体を起こし、

身を翻して樫木の方を向いた。



「あなたは・・・・力を手にして、あるいは自分が力を持っている事に

 自覚してすぐ・・・・復讐しようとは思わなかったようですね」



私は痛みを抑えながら彼に訊いた。

レーツァンは3年近く彼と付き合いがあり、能力を買って彼を部下にしたと言っていた。




「思ったさ。諸木坂君だけでなく、気に入らない奴はみんな殺してやろうってね。

 イジメをする奴はみんな恐怖に陥れなければと思ったさ・・・・・だけどよ・・・・」





「強い力に溺れて浮かれるあまり、暴挙に乗り出す事は

 救いようのない小物がする事だ。・・・・・・そうだろ?」




「僕はそういう小物共とは違う。溢れる憎しみを我慢しつつ、

 あえてひたすら己を高める努力をする事を決めた・・・・

 いつか復讐するために!!復讐してイジメという悪をこの世から消し去るためにねぇ!!!!」




「・・・・・・・・・。」




なるほど。



力を手に入れた事で自分が受けたイジメから来る憎しみと

世間で繰り返されている悲劇を知って、

歪んだ正義に囚われてしまった男・・・・それが樫木麻彩。



今の彼を見ていると少し考えさせられる物がある。



彼がソルジャーの力を得なければ、またこの国でイジメ自殺という

悲劇が繰り返されてなければ、このような事件を起こす事もなかったのだろう。



アークライトと共に聞いた、モロヅミの話が蘇ってくる。

イジメられていた頃は本当にごく普通の少年だったのかもしれない。




しかしそれ以前に・・・・直接指摘したい事が一つある。




「樫木麻彩・・・・それを言うならば、

 今のあなたも救いようのない"小物"ではないのですか?」



「はぁ!?何を言ってるんだ?」いきなりトボけた口調になる樫木。



「この力は最強だ。透明になる事で一般人には気づかれずに人を殺せる!!!

 この力と長い雌伏の時の中で鍛えたこの僕を小物呼ばわりするのかぁ!!!!!!」



「私は、所詮この復讐を考えた時点であなた自身も

 あなたの言う"小物"同然と言っているんですよ」



「強い力に溺れて浮かれ、暴挙に乗り出しているのは

 今の自分自身だという事に気がつかないのですか?」



そうだ・・・・・力を手にして復讐を決意する・・・・

そして自分の力と正義を絶対的なモノだと肯定する・・・・

強い力に溺れて浮かれるあまり暴挙に乗り出す・・・・・・まさにそれだ。



「現にあなたは己の力に過信するあまり、心の内にあった憎しみのままに復讐に走った。

 ダークメアでもレーツァンに見限られて追い出された挙句、

 このような事件を起こしているではないですか」



「くっ・・・・ぐっ・・・・・」



樫木は唇を噛み、何も反論が出来ない。

それはそうだろう、ここで素直に自分の非を認めるような男とは思えない。




「ふざけんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」



樫木は雄叫びをあげ、再び全力で殴りかかってきた。同時に体を透明にして。

彼の視界では見えない左右の連続パンチが私に襲いかかる。



だが、見えなくてもどれも動きが読める。一発一発、右、左と的確に避けていく。

冷静さを失っている彼のパンチはとにかく怒りに満ちている。

連打をやり過ごす中で樫木の声が聞こえてくる。



「僕が力に溺れた小物だと!?笑わせるなぁ!!!!!」



凄まじい怒号と共に樫木の攻撃速度が同時に速まる。

一発、また一発、左、右とくる力強い一撃を私は避けていく。



接戦の中、奴の両手の拳を両手の平で受け止め、樫木の両手と私の両手が合わさる。

彼の両手からくるグッとこちらを押し込む力とともに

凄まじい剣幕に満ちた顔が私のすぐ目の前に迫る。



「第一、あんたのような人生経験もなさそうな小娘に何も分かるわけがない・・・・」




「僕は毎日毎日、イジメられ続けた時からずっと思っていた・・・・

 アイツらに対抗出来る力が欲しいとどこかでずっと願っていた・・・・・!」



「そして長い時の中で・・・力を手にした・・・・強い力を手にした・・・・

 その力で、ただやりたい事をやっているだけだ!!!!

 邪魔するんじゃねぇよぉぉぉ!!!!!!」



樫木の両手の力が強くなり、怒鳴る奴の口から幾分か唾が私の顔にかかる。



「・・・・・くっ!!!」



私は唾がかかると反射的にすぐ目の前の彼の額に頭突きを食らわせた。



「ぐあっ!!!!」



汚い・・・・・

だが両手を離すと途端に反撃を許してしまう。ここは・・・・




「うわっ!!!!ぐわっ!!!!」



私は樫木に二回頭突きを食らわせた。すると樫木も、



「このぉ!!!!」 「ああっ!!!」



「おらぁ!!!」「うっ・・・・!」



反撃で二回頭突きをこちらにかましてきた。



同時に先ほど私が反射的に行った頭突きで私が被っていた

JGBの帽子が頭突きの拍子で後ろの床に落ちている事に今、気づいた。



私の・・・・長い金髪が露になる。



私も再び頭突きで反撃しようとしたが、樫木は私の体を身長を武器に押し倒してきた。



「くっ・・・・・!」



私は床の上で仰向けになり、押し倒される形で樫木はその上にいる。

私の膝に座り、私を完全に拘束した後・・・・・



「うおらぁっ!!!!!」



「ぐっ!!!ああっ!!!」



樫木は両手で私の顔を何度も何度も殴ってきた。



「ああっ!!!ぐっ!!ああっ!!!ぐっ!!!」




馬乗りされ、ひたすら殴られ続ける私。身動きもとれず、反撃の術もない。

膝の上に乗られ、下半身が動けないも同然なのでナイフも出せない。反撃出来ない。

このままでは・・・・・



諦めかけた・・・・・その時だった。




私が今、押し倒されている下の床に何やら異変を感じた。

床にギシギシとヒビが大きく入る鈍い音がする。




すると・・・・・その瞬間、まさかと思った時だった。




「うっ、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!?」




「なっ・・・・うおわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」




硬いはずの床が突然、丸ごと崩れ落ちる。




突如、私の倒れている床に空いた大きな穴は私だけでなく、

私の上に乗っていた樫木も一緒にまとめて飲み込んでいった。




私達は悲鳴をあげながら今いる6階から下の階へと、何もない暗闇の底へと・・・・・




落ちていく・・・・・



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