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ソルジャーズ・スカイスクレーパー  作者: オウサキ・セファー
第二章 トリカブトの華
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第33話 殺人鬼

「そこまでです!!!」



私はドアを大きく開けて部屋の中に突入するとすぐに武器である

投げナイフを三本ずつ両手に装備して構えた。



「やっとお出ましか・・・・」



聞いた事がある落ち着いた声がこちらを出迎える。間違いない。奴だ。



そこは部屋の奥に置かれた白いランプで明かりが灯された、

床と壁は一面灰色のコンクリートの部屋だった。

元々は模様替えされていた部屋がビル自体使われなくなってから

置いてある物だけでなく、壁や床も全て、跡形もなく片付けられた部屋なのだろう。



そして、ランプに照らされた部屋のその中央に立っているのは

一連の事件を引き起こした張本人。私達がずっと捜していた男がいた。




"元"犯罪組織ダークメア構成員。樫木麻彩。

放送で見た通り、下は黒い靴に加え、黒かがったジーパンで

細顔の骸骨が描かれた黒い服の上に裾がトゲトゲした黒いコート姿。

丸く整った髪に尖った鋭い目、メガネをかけている。

身長は私よりも高いが特別高いというわけでもない。



彼の手前にはインターネットに映像を流すためと思われる外付けのカメラと

ノートパソコンが小さなテーブルの上に並んで置かれていた。

だが、いずれも壊されている。機器は凹み滅茶苦茶になり

壊されて内部が露出した部分はビリビリと電気を放っている。



「ち、長官・・・・・・・」



そして、私と樫木の間で縄で体と足をロープで縛られて

横にうつ伏せで倒れ、痛みを堪えながらの声を出したのはモロヅミだった。



「モロヅミ・・・・・・」



私よりも先にこの場所に到着し、樫木に戦いを挑んだが返り討ちにあってしまったのだろう。

モロヅミはそのままの体制で縄を何とか振りほどこうともがきながら、



「長官・・・・・俺の・・・・無鐵砲をお許しください・・・・・

 樫木のアジト見つけても報告が出来なくて・・・・・・・」



「奴の・・・・間違いを正そうと燃え上がった挙句・・・・

 このような事になってしまって・・・・・・・」



モロヅミは痛みを堪えながら強く私に謝罪した。

すると樫木は不敵な笑みを浮かべて両手をポケットに入れて

前へと進み、モロヅミの所に歩み寄り、倒れているモロヅミを見下ろした。



「フッフ、諸積君、君がまさか一番最初に来てくれるとは思わなかったよ。

 高校時代を同じ学校で過ごした君はすぐ殺さず、

 こうして見せしめにしとくのがちょうどいい」



樫木はそっと私の方向を向いた。



「お前がJGB長官か。お前が来る事は分かっていたんだ」




先ほどの生放送の演説のようにこちらに

大きく訴えかけるのではなく、落ち着いた雰囲気の樫木。




「あなたの思い通りにはさせません」



私は強い目で樫木の顔を見た。



「あなた・・・・自分がやった事がどういう事か、自覚はあるのですか?

 学生時代の友人を縛り付け、それ以前にも同級生の諸木坂さんも殺し・・・・

 6人の命を奪い・・・・罪の意識はないのですか?」




「フ、罪の意識か・・・・・・・・」




私が罪の自覚があるのかを問うと樫木は軽く笑った。





「それは・・・・・無いに決まっているだろう?」




樫木は軽く笑った後、邪悪な笑みを浮かべてさらっと言いのけた。

すると樫木はこちらを目を大きく開けて睨みつけた。



「僕はこれまでやってきた事に罪の意識とか罪悪感とか、そんなモノは一片も感じていない。

 全部、この国の教育を変える革命のためにやってきた事だと思ってる!!」



「今の日本の教育はゴミだ。子供達の事をまるで分かっていない。

 現にアイツが気に食わないとか色んな理由でイジメが横行し、被害にあい続ける子供達の中には

 誰にも助けを求める事も出来ず、絶望と苦しみを抱えたまま自ら命を絶つ・・・・」



「・・・・こんな事があっていいのか!?繰り返されていいのか!?」



樫木の大きく訴えかける演説が部屋中に響く。



「学校も教育統制委員会がちゃんとしないからこんな悲劇が延々と繰り返されて無くならない!!

 僕はこの負の歴史に終止符を打ちたい・・・・忌まわしき教育の膿を全て消し去りたい!!

 これは大いなる聖戦ジハードだ、罪の意識?知ったことか、これは革命なんだよ!!」



「僕は・・・・この一件を通して日本の教育を変えるために声を皆にあげてもらいたいと思っている!!

 再びイジメ自殺事件が起こった今こそ!!!立ち上がる時なんだよぉぉ!!!!」



樫木は落ち着いた雰囲気を思い切り吹き飛ばし、

自らの意志を大きな声で凄まじい剣幕で強く訴える。

その目には非常に固い信念を感じさせる。

同時に怒りと憎しみと悲しみ、それらが濁るように入り混じっているようにも。



彼の言葉だけを汲み取れば、彼も彼なりの正義で

このような事件を起こしたのだろう。



しかし、それでも彼は人として壮絶に間違った事をしている。



この国の教育の現実を否定するつもりはないが、復讐だけでは何も解決しない。

復讐は新たな復讐と悲劇を呼ぶだけ・・・・・



私も楠木さんをレーツァンに殺されて、奴に対しては

この手で必ず決着をつけたいという思いと同時に憎悪もある。



だから復讐や憎悪について咎める資格はない。

自分の事を棚に上げて言うなと言われても仕方がないのかもしれない。



だが・・・・JGB長官として・・・秩序と平和を守る者として・・・・

このような行為は決して見過ごしてはおけない。



彼はこの歪んだ正義だけで殺人を犯したとは思えない。確かな根拠がある。

私はこれからそれを問おうと思う。



「樫木麻彩・・・・一つ、あなたに訊きたい事があります」




「なんだ?」




「諸木坂さんを殺したのはなぜですか?

 彼はあなたの憎む、イジメとは何も関係のない人間のはず・・・・

 なぜ殺す必要があったのですか?」




「なんだ、その事か・・・・・・・・・」




「決まってるだろ。個人的な恨みを晴らすために殺した」




「なっ・・・・・・・!」




樫木がサラっと発した一言にモロヅミは信じられないという様子で目を丸くした。

すかさずモロヅミが大きな声で樫木に問い詰めた。




「どういう事だ、樫木!!!ツヨシは・・・・

 お前に何も悪い事してないだろう!!!」


「少なくとも俺が見た限りだとツヨシはお前とも大して

 交流があったわけでもなかった・・・・・なのになんで殺したんだよ!!!!」




「うっせえよバァカ!!!!!!!!」




「ぐはっ・・・・・・・・!!」




声を大きくして問いかけるモロヅミに対し、早口で大きな声で怒鳴って返し、

樫木は右足で自分の前に縛り付けて倒れているモロヅミの腹を強く蹴った。





「僕はな・・・・アイツは許せなかったんだよ・・・・」



溜め込んでいた湧き上がる怒りを抑えるような声で樫木は語りだした。



「本当に許せなかった・・・・・僕はいつもイジメられてばっかなのに

 アイツはみんなから慕われて、さながらマスコットのように可愛がられてた・・・・・

 羨ましい限りだったよ・・・・いつか殺してやりたいってほどにね・・・・」




「諸積君、分かるだろ・・・・?僕の苦しみが・・・・僕の絶望が!!!!」



樫木はモロヅミの方を見下ろしながら、大きな声で怒鳴った。



樫木は自分の主張を訴え続ける。



「全部、諸木坂がいけないんだ!!!アイツが人気者だから

 人気じゃない僕はまるで淘汰されるかのようにイジメられる・・・・

 何もかも徹頭徹尾アイツが悪いんだよ!!!」



「僕は・・・・誰も信用出来なかった。だから孤独を貫いた。

 みんな僕の事を心の奥ではキモイ、弱虫とか見てるだろうと思ったからだ・・・・

 でも奴らを見返そうと僕は勉学で自分を鍛え続けた・・・・・」



「でも、いくら努力を重ねようと、いくらセンコーに褒められても回りの目は変わらなかった!!!

 なんでコイツがって陰口叩かれた。その時、こう思ったよ」



「ここじゃもう誰も信用出来ないって。

 信用出来ない奴らの中で一番憎たらしかったのがアイツだった、それだけだ!!!」




「樫木・・・・・・お前・・・・・・!」



樫木の怒りの暴言の数々に言葉が出ないモロヅミ。

怒りと悲しみが錯綜したものがそこにはあった。

まさか自分の同級生がこんな事を裏で考えていたなんて思ってもいなかったのだろう。



この瞬間、私は樫木の確かなものを感じた。

彼は自分のあらゆる憎悪と怨恨を根源とし、

復讐と怒りから来る歪んだ正義で今回の事件を起こした。



ここまで彼の話を聞いて、内心既に分かりきっている事だが、もう一つ・・・・・




「樫木麻彩・・・・あなたは自分のお父様も・・・

 そうやって自分の都合で手にかけたんですよね?」



「な・・・・・!樫木・・・・・」モロヅミはなんとも言えない表情で樫木を見た。




「・・・・・そうだよ。親父もまた、僕の計画のために犠牲になってもらった。

 でも諸木坂とその他の6人のゴミ共とは違って、比べ物にならないぐらい尊い物だよ。

 殺したくなかったけど殺すしかなかった」



樫木は天井を見上げて切なげに言った。



ともかく、やはりそうだった。父親を殺したのも樫木本人・・・・

あの事件を捜査した蔭山警部からはこの一連の事件の犯人が樫木と分かった段階で

話を聞いたのだが、警部曰く、父親は生前最後に話をした人物である目撃者と接触後、殺された。



その目撃者は近所の住民で、樫木の父親とも交流もある人物だったという。



そして、その目撃者と被害者の父親が会った日の夜、

樫木が家にやってきた可能性が確証は得ていないが、

聞き込みの段階ではその日の夜、しっかりと来る予定になっていたという。



そのため、樫木は実は実家を訪れていないか、あるいは

樫木が帰った後に全く別の犯人が来て父親を殺害した二つのケースがあると同時に

樫木が父親を殺害して帰ったという三つ目の直球なケースが考えられる。



どのケースが正しいのか、真実を明らかにするため、

目撃者よりもその後に父親に最後に接触したとされている樫木は

自然と重要参考人として全国手配された。


それに、樫木が殺しと無関係ならば、

警察に通報して来ないのも気がかりだった。

自分の家族が殺されたのに遺族として警察に届けないのも不自然だ。


そのため、私は彼が本当に父親を殺したのではないかとも考えた。

だから直球に物は試しと訊いてみる事にした。



蔭山警部の話だと、近隣の住民からも怪しい目撃証言は出ていない。

それもそのはず、樫木の自らを透明する能力ならば、

近隣の住民に気づかれずに外を歩く事も可能な上、

家の中で犯行に及んだ後も気づかれずに逃げる事だって出来る。



私はその可能性を考え、追求した。

また、そもそも諸木坂を殺した時点で彼がイジメの加害者以外の

人間にも手を掛ける可能性は出てきていた。



彼が諸木坂を殺した動機と合わせても、

彼が『世の中のイジメ自殺事件に対する復讐目的』以外での殺人、

つまり、父親を殺害しても何も不思議ではない。





だが、殺害方法を変えたのはなぜだろうか。




「では、もう一つ訊きます。あなたのお父様を殺害した際、

 復讐の象徴たるトリカブトの花を置かず、殺害方法を変えたのはなぜですか?

 あたかも別の事件のように見せかける偽装ですか?」




「そうさ・・・全ては世間を騒がせ、人々をそういった出来事に

 敏感にさせ、注目を集めるためだよ・・・・・

 花を置かなかったのも偽装工作のためだ」



天井を向いていた樫木は再びこちらを見て、不敵な笑みを含んでそう言った。

すると樫木は再び邪悪で狂気的な表情で語り始める。

 


「政府も学校もろくにこの問題に取り組もうとしないこの世の中・・・・

 インターネットや暗黒街の片隅でそれらに対する不平不満しか言う事が出来ない

 人々の意識を変えていく事が一番近道だと思った・・・・・」



「権力でモノを言い、どんなに汚い手を使っても自分達の保身を守る事に必死で

 死んだ子供やその遺族を何とも思わない奴らを失墜させるにはそれしかなかった!!」



「6人のイジメ自殺事件の加害者と諸木坂を殺した時もそうさ。

 同一犯と思わせるために復讐と栄光の象徴である

 トリカブトの花を犯行現場に置いた。新直は殺せなかったけどね」



「更に一応実家に住んでいたから・・・・

 家に強盗が入って親父が殺されて僕が失踪すれば

 警察は親父と住んでいた僕の事を血眼に捜し回るだろうと仕向け・・・・」



「インターネットに例の6人がイジメ自殺事件の加害者だという事をリークし・・・・・」



「そしてこの生放送を最後の総仕上げとして踏んだんだよぉ!!!!」

 



「樫木・・・・・てめえ・・・・・!」




モロヅミもそんな樫木を怒りの目で見る。




「なんと卑劣な・・・・・・」



分かっていたとはいえ、私もこれ以上言葉が出なかった。同時に悟った。

目の前にいるのは、決して正義感から行動を起こした英雄などではない。ただの殺人鬼だと。



復讐と憎悪、独りよがりで行動を起こし、歪んだ正義に取り憑かれ、

自らの正義を全うするためにはいかなる犠牲を厭わず、どんな手段も辞さない・・・・

ここまで行けば、狂気としか言いようがない。




すると樫木は両手を広げて天に上げてこう言った。




「ここまでやれば、僕の計画もいよいよ華僑だ!!!

 あとは忌まわしき千葉教育統制委員会の建物を爆破するだけ!!!」



「そしたら僕は生放送での公約通り、失踪する!!

 そして、またしばらくしたらイジメ自殺事件の加害者共を殺して回る!!!

 二度とあんな事件の数々が起こらないような日本を創るんだよ!!!」




樫木は目を大きく開け、勝ち誇ったかのように大きな声でそれらを宣言した。





ガシャン!!!ヴァゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!!!!




その時だった。

樫木がいる奥の灰色の壁に大きなヒビが入り、

破裂、壁に大きな穴が開き、衝撃で辺りに灰色の煙が漂った。




「な・・・・・・なんだ!?」



樫木も先ほどの狂気的かつ余裕な態度から一転、

何が起こったか分からず、戸惑う。モロヅミもその方向を見ている。




一体、こんな時に誰が・・・・・私は開いた穴の奥の様子をうかがう。




壁に開いた穴を漂う濃い煙が少しずつ晴れていく。

煙が晴れるとこの穴を開けた当人が穴の中から姿を現す。





「フヒャハハハハハハハハハハハハハハハ・・・・・・・・・!」





煙の中から現れたのはこちらを嘲笑い、おかしい笑みを

浮かべているあの男・・・・・レーツァンだった。



なぜこのようなタイミングで現れたかは気がかりだが・・・・・






「この・・・・・裏切り者ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」





レーツァンの大きな怒号の叫びが部屋全体に響く。


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