表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ソルジャーズ・スカイスクレーパー  作者: オウサキ・セファー
第二章 トリカブトの華
62/120

第30話 立ちはだかる者

樫木の潜むアジトを捜して、千葉教育統制委員会本部から

離れた北部にある市街地へとやって来た私達。



そこは道路も広く、雑居ビルが建ち並び、

先ほどの住宅街よりも比較的大きな建物が多くある場所。



恐らく光る看板もないビルは中小企業などのオフィスなどがある雑居ビルだろう。

他にはビルの真下で看板を輝かせるコンビニ、夜間ゆえにATMも使えない真っ暗な小さな銀行、

既に閉店している八百屋などの施設が点在する。


どうやら、スマートフォンの地図を見るとここから少し歩くと

ファミレスやスーパーマーケットもある。

今は夜も遅いゆえに静かだが、普段は活気ある場所なのだろう。


今はたまに車が一台通る程度の大きく静寂に満ちた道路にも

普段はたくさんの車が右往左往に走っているに違いない。



ここに向かう最中に思った事だが、もしこの雑居ビルの中に

空きビルや撤去前の建物などがあれば、

容易に資金を使う事なく潜伏出来そうである。



辺りを見渡すと雑居ビルが至る所にあり、

古びたものも何軒かあった。





岩龍会の刺客が既に様々な場所に現れている。

ここへ来る道中も度々、車で徒党を組んで現れ、

我々の前に立ちはだかり、襲いかかってきた。



各所で捜索にあたる捜査員からも

岩龍会構成員との交戦の報告が絶えない。



が、今の所、最高幹部や幹部クラス、

傘下のソルジャーが現れたという報告はない・・・・・




岩龍会は長である会長を頂点に4人の四天衆してんしゅうと呼ばれる

最高幹部の強豪ソルジャー達で構成されている。



会長は古くからこの関東で岩龍会の会長として関東の頂点に立っている男だ。

先代のJGB長官であり、私の師、楠木大和とも互角に渡り合った逸話を持つ男。




楠木さん亡き今、ソルジャー界では"関東最強の男"と呼ばれている。




彼の名前は岩舘剛大いわだて ごうだい

楠木さんと同じぐらいに屈強で年齢による衰えを感じさせない強さを誇る男。



その岩舘の下に最高幹部とも呼ばれる四天衆がおり、

更にその下に顔を並べるのは強力な幹部達。


そして更にその下には多数の構成員、舎弟、傘下の類の者がおり、

兵力はおよそ2万人以上。



先ほど私達に鉄パイプなどを手に襲いかかってきた

暴力団の構成員も皆、岩龍会の兵隊だ。


彼らがつけていたあの黒くフチが灰色の六角形の中に

『岩龍会』と書かれたバッジは岩龍会の代紋。



ソルジャー界においてもそんな岩龍会の存在は大きく、

関東の名だたるソルジャー達の大半がそれに関わっている。



幹部にも多数のソルジャーがいて、今日も各地から戦力を

集め続けて兵力を増強しているようだが・・・・・・



なぜ今回の事件に関わってくるか、それは私にも分からない。

仮に樫木が岩龍会関係組織と組んでいたとしても、

岩龍会そのものとしてはメリットはあるのだろうか。



一つ、予測出来る事は誰かが動かしている事だ。

誰かが岩龍会を動かしている。

それは樫木か、あるいは彼の協力者か、第三者か・・・・






「この辺りにも反応はありませんね」





私は回りの建物にソウル探知機を手当たり次第向けるも反応がない。

その横でサカはスマートフォンに目を通していた。



「樫木の生放送はまだ続いています・・・」



私は彼のスマートフォンを横から覗き込んだ。

未だに過去のイジメ自殺事件の苦痛を語り尽くしており、逃げ出す様子はない。



ここへ来る途中の車でも自分のスマートフォンで度々放送を見ていたが、

そういった放送が継続して行われている。

コメントには樫木の行いに対する賞賛と批判が同じ頻度で流れている。



「自殺した女の子は将来はピアニストになりたかったと生前語っている・・・・・

 悲しいだろぉ!?この女の子は・・・・こんなゴミ共のせいで

 夢はおろか人生まで潰されて・・・・・・・」



今、樫木が必死に喋っている内容は2028年の11月の愛媛で起こった自殺事件。

樫木はこの手の事件の情報は新潟と群馬以外も掴んでいるようだ。



一体、どこから・・・・

彼の情報源は一体どこにあるのだろうか。



私達はくまなくソウル探知機の反応を探る。

この辺まで来ると奥へ進めば進むほど大きな建物が目についてくるような気がする。





ピリリリリリ!!!




捜索を続けていると私のポケットの中のスマートフォンの着信が鳴り響く。



先ほどの無線を介した捜査員達に対する岩龍会に関する注意をした際は

無線機同士が互いに連動しているこの無線機でなければ一斉発信出来ないため、

スマートフォンではなく無線機を使った。



早速、スマートフォンの着信を確認する。



折原部長だった。諜報部にはスマートフォンにかけるよう指示してある。




「はい、こちらフォルテシア」




画面に折原部長の名前が表示されているのを

確認するとすかさず出る。




「折原です。長官、樫木麻彩の居場所が判明しました!!」




「どこにいるのですか!?樫木は・・・・・・」




良かった・・・・樫木の居場所が分かったようだ・・・・後は・・・・




「今、長官は千葉教育統制委員会本部の周辺にいらっしゃるんですよね?」



「いえ・・・・そこから北の方を捜索中です」





私達が今いるのは北側。まさか・・・・・逆?




「でしたら・・・・・・・」




少し歯切れを悪くした後に折原部長が私達は向かう方向を示した。




「そこから引き返して西の方へ向かってください」




「西・・・・その方向に樫木はいるのですか?」



「はい。千葉教育統制委員会本部から

 西の方へと真っ直ぐ歩くとコンビニがちょうどお向かいに

 見える道路がある場所に出ます」



「更にそのコンビニの横の道路を真っ直ぐ抜けて行くと雑居ビルがたくさんある場所に出ます。

 そこに、現在は使われていない一際大きな全8階のビルがあって、

 調査の結果、樫木のパソコンはそのビルの7階にあり、そこからネットに接続して放送を行っているようです」



「なるほど・・・・では、マップを私のスマートフォンに

 転送して下さい。お願いします」



よし、これで奴のアジトが分かった・・・・

使われていない大きなビル・・・・通りで

廃墟のような場所から放送を行っていたわけだ。



「了解しました。直ちに」



すると数秒経たないうちに私のスマートフォンに

折原部長から樫木の居場所が書かれたマップが画像ファイルで転送されてきた。

軽く画像を動かすと樫木のいるビルの場所に赤いアイコンが置かれている。



「ありがとうございます。それと折原部長、

 ここ一帯に現れた岩龍会については何か調べはついてますか?」



先ほどこの場所へ向かっている道中に頼んでおいた。

折原部長、いや諜報部ならば次々と現れる岩龍会の動きを掴めているはずだ・・・・




「はい、球体探査機で上空から捉えた映像では今も続々と

 この船橋の四方八方、あらゆる場所から岩龍会構成員が車で

 集まってきているのを確認出来ます」



敵の増援も各地からやってきている・・・・

このままでは捜査にも影響が・・・・時間の問題のようだ・・・・・



「各地の交戦戦況はいかがですか?」



「ええと、既に船橋の半径2キロ圏内で銃撃戦や乱戦に発展している場所が何箇所かあります。

 総本部からの捜査員のうち、約20%が撤退を余儀なくされています」



くっ、既に負傷者が・・・・・

それにしてもまるで突然現れたかのようだ・・・・



「もっと早い段階で彼らを見つけ出す事は出来なかったのですか?」



私は折原部長を咎めた。

仮に私達が船橋に乗り込むよりも先に岩龍会が待ち伏せていたとするならば、

諜報部ならば早い段階でこの周辺の様子を球体探査機を介したモニターで確認し、

我々が乗り込んだ直後かその前ぐらいにその旨が行ってもおかしくないはずだ。


奴らが大勢で諜報部に見つからずに潜伏出来るとは思えない。



すると折原部長から言いづらい口調で返答が返ってくる。



「それが、岩龍会が現れ始める直前に・・・・こちらの映像全てに不具合があったんです・・・」




「え・・・・!一体、なにがあったというのですか!」




「5分ほどジャミングがかかって映像が見えないという状態でした。

 それで復旧した途端に岩龍会が各地に出現していました・・・・・」



「こちらからの通信も、やっと復旧したばかりなんですよ・・・・」



折原部長は理由を言いづらそうに起こっていた事情を説明した。



「一体なぜ・・・・・・・?」



ジャミング・・・・・?今日に限ってそんな事があるはずは・・・・



「本日は長官もご存知の通り、午前中は諜報部のシステムメンテナンスの日でした。

 なので不具合が起こるとは到底考え得ないと思います・・・・」



そう、今日4月19日水曜はたまたま諜報部のコンピュータなど

あらゆる機器の定期メンテナンスの日である。



それを終えたばかりで・・・しかもこんな時に

不具合なんて有り得ない。なぜだ・・・・・



だが、今はそんな事を究明している暇はない。

恐らく、岩龍会の工作か。諜報部に何かを仕掛け、それに乗じて攻める事で

諜報部の目を掻い潜り、我々の現れた・・・・



「折原部長、とりあえずこの件は今は置いておきましょう」



私はそう言い切り、話を切った。



「申し訳ございません・・・・・長官。後でメンテ担当者の方に確認します」

申し訳なさそうに折原部長は謝った。



「いえ、いいんです。岩龍会の件については了解しました。現在捜索中の捜査員と応援に回ってる警視庁、

 今こちらに向かっているヴィルヘルム達には岩龍会を食い止めるよう伝えて下さい。

 そして、岩龍会が入ってきている場所の通達等のサポートもお願いします」



「・・・・長官お一人で行くつもりですか?」



「私とサカで行きます。邪魔が入っては樫木の確保に

 支障をきたす可能性もあります。お願いします」



「・・・・・・・・・・・。」




「あの、折原部長?」




「・・・・・はい!承知しました。絶対無事に帰ってきて下さいね、長官」



私はスマートフォンをしまう。心配させてしまっただろうか。無理もない。

折原部長も急に前向きに私を押してきた。



先代が唐突に事件で命を落とした今のJGBには・・・・

だが、いつまでもそうやって過去の事例ゆえに怖がるわけにはいかない。

私は私の成す事を考えなければ。だが・・・・死にに行くつもりは毛頭ない。




「折原部長・・・・・樫木のアジトを突き止めたようですね」



横で会話を聞いていたサカも状況を察したようだ。



「はい、とにかく一度、千葉教育統制委員会本部に戻りましょう。

 私についてきて下さい」



「も、戻る・・・・?逆だったんですか?」



「いえ、そこから西の方にあるビルに奴はいます」



私はサカを連れて先ほど折原部長から聞いた通り、

来た道を急いで戻った。だが・・・・・






「おい、いたぞ!!!フォルテシアだ!!!」





待ち構えていた岩龍会構成員の男達の荒々しい声が閑静な住宅街に響く。

戻り道にも黒スーツに身を纏い、武器を持った男達が

足止めするかのように何人も待ち構えていた。


私達は立ちふさがるそれらを倒しながら進んでいく。


私は投げナイフと体術で、サカは愛用の剣で次々と襲い来る彼らを撃退していくが

岩龍会側もバットや鉄パイプに加えて、

拳銃、剣、スタンガンなどの強力な武器を装備した者も多い。



相手はソルジャーではなく当然普通の人間。

私は能力を行使する意味もない。

そもそも私の能力はソルジャーにしか作用しないからだ。



相手は特別な戦闘訓練を受けてもいなければ秀でてもいない。生身の人間。

ソルジャーよりは戦闘力は弱い。



だが、数が多いとさすがに足止めを食うことになる。



特に注意すべきはスタンガン。拳銃や武器は避けるか受け流せばいい。

だが、スタンガンは相手を気絶させる武器。使われたらひとたまりもない。

私は使われる前にナイフで相手の腕を狙い、ナイフを投げて

スタンガンを落とさせるか破壊する。



サカも卓越した剣術で相手の持つ剣や鉄パイプを弾き飛ばしている。

やはり向こうは一見、立派な日本刀を武器として持っていても

剣術を会得している様子はない。振り方が片手で振り回す鉄パイプと同じだ。



使いこなせていない。



「サカ、全ての敵を倒す必要はありません。

 必要な敵だけ倒して先に進みましょう」



「はい!!」



正面の敵と戦っていると次々と背後の遠くから新手が

駆けつけて来るので私達は正面突破し、走る。



後ろを見ると岩龍会構成員達も携帯を使って次々仲間を呼んでいる。

こうなると場所を完全に知られてしまったようだ。

次々と敵がここに集まって来るだろう。



私達は無用な戦闘を避けるべく、とにかく走る。

敵の声が聞こえなくなるまで。進む先にもやはり、

岩龍会構成員が待ち構えていたが足を止めずに攻撃して撃退する。

私はナイフを投げつけ、サカは軽く斬り捨てる。



そうしてようやく追っ手を退けた所で千葉教育統制委員会本部前に戻ってきた。

辺りは騒然としており、私達が乗ってきたJGBの車の他に警視庁の車も

でたらめに止まり、彼らが施設前で立って状況を見守っている。


アークライト達が今頃、中で爆弾解除にかかっているはず。


警視庁の爆弾処理班が乗る人員輸送車も停まっている。

良かった・・・・彼らも岩龍会にやられる事なくこの場に辿りつけたようだ。

警視庁がこの場を固めている以上、岩龍会も手をつけにくいはず。



それを確認した私達はすぐに樫木がいるという

ビルを目指して西の方へそこから進んだ。

スマートフォンの画面に映っている、折原部長の送ってくれたマップに

その場所が赤い丸いアイコンで指し示されている。



現在の時刻を腕時計で確認。時計の針は11時を少し過ぎた。

急がなければ・・・・あと55分弱しかない。

足止めを食らいすぎたようだ。



私達はひたすら奥へ進む。

閑静な住宅街のずっと奥では何やら物々しい音がする。

怒号、走る足音・・・騒々しい音が混ざり合って微かに聞こえてくる。



夜道なのも相まって、異様に不気味さを感じる。

進む道に時々ある街路灯が唯一の光。



だが、それを臆せず進んでいく。戦いはもう各地で起こっている。





暗い住宅街を進むと、奥から眩しい白い光が見えてくる。



「長官、あれは・・・・・」サカがその光を見て言った。街路灯の光ではない。



それは営業中のコンビニだった。

広い道路を挟んで向こう側にちょうどコンビニが見え、

その左には暗い住宅街が続いている。




地図の場所的にもうすぐ樫木の潜伏するビルも近い。

あとはこの左の暗い住宅街を真っ直ぐに進めば、目的地は近い。




私達は横断歩道を渡り、コンビニの横をその道を通って抜けていく。




再び暗い夜道を進む。だが、コンビニからだいぶ距離が離れた時だった。

進んでいった先の道端で、私とサカは一人、血まみれで倒れている誰かを発見した。



「大丈夫ですか!」



私は声をかけて駆け寄った。それはうつ伏せで血を流し、

倒れているJGBの捜査員だった。私は彼の肩に触れた。



「ち、長官・・・・・・・!」



「お前は・・・・クラスコ!!」



サカは顔を見て倒れている捜査員が誰か真っ先に気づいた。



・・・クラスコ・・・・こんなになるまで・・・・



クラスコはうつ伏せのまま、痛みをこらえながら

こちらに左目だけを向け、小さな声で口を開く。



「長官、副長官・・・・・申し訳ありません・・・・・」



「な、何があったのですか?クラスコ!!」



私は彼に何があったのかを心配しながらも訊く。

一体、彼の身に何が・・・・



・・・・・そうだ、彼は確か、モロヅミの部下。

モロヅミはどこだろうか・・・・




「長官、モロヅミ先輩を・・・・・お願いします・・・・・」




「・・・・・・・・!」



一体、モロヅミがどうしたと言うのだろう。



「一体、なにがあったのですか?詳しく教えなさい!!」



私はクラスコに尋ねた。



「我々は・・・・折原部長から岩龍会の侵攻を食い止めるよう

 指示が下った直後、樫木の居場所を偶然発見しました・・・・」



「しかし、そこでいきなり奴らが襲ってきて・・・・

 オレが全部引き受けて・・・・無線連絡する間もなくこのザマです・・・・」



「モロヅミは樫木のアジトに単身乗り込んでいったのか?」今度はサカが彼に尋ねた。



「そうです・・・・先輩は樫木と会って・・・高校の同級生として

 しっかり奴の間違いを正したいと・・・・そう言ってました。

 なので今頃・・・樫木の所へ・・・・」



「・・・・気をつけて・・・下さい。敵は樫木と岩龍会以外にも・・・いま・・・す。

 奴らに・・・・オレはやられました・・・・」



「樫木と岩龍会以外に敵が・・・誰なんだそれは!」



「だ・・・・うーっ・・・・・・」



サカが再び尋ねるが、クラスコは話そうとした所で

力尽き、倒れたまま目を閉じた。



「クラスコ・・・・しっかりしろ!!クラスコぉ!!」



彼の名前を必死に叫ぶサカ。容態を確認すべく、

彼の体をひっくり返して仰向けにする。

右から左へと斜めに剣で斬られた赤い傷がある。



とにかく、救助隊に応援を呼ぶしかなさそうだ。






「へッへッへッへッ・・・・・!

 全く・・・・!命知らずのバカヤローとはこの事だなぁ・・・・!」



「シャーッ・・・・・一人逃しちまったが、

 残った一人は手加減無しで揉ませてもらったぜ!!」





私がスマートフォンで応援を呼ぼうとした時、

奥から愉快な二人組の声が聞こえた。



私達の進む先。

暗闇に包まれ、ずっと奥にある一つの

街路灯だけが唯一の光である道。


その道は決して視界がいいとは言えなかった。



二人組の声と共に奥に見える人影。

それは大きく、とても常人ではない形をしていた。



これから私達が進む先に見える異形な形をした人影は

私達の下へ歩を休める事なく、揃って並んでゆっくりと歩いてきた。



まるで私達の行く手を阻むように。




そこに現れたのは私もよく知る顔だった。

私は正体が分かった途端、その名を口に出した。




「タランティーノ・・・・・カヴラ・・・・・!」




4本の気味悪い蜘蛛の足に4本の腕、青のワイシャツの上に

黒のスーツのジャケットを着ており、黒のオールバックに

サングラス姿の蜘蛛男、タランティーノ。



襟が出たツナギのような茶色い服を着た筋骨隆々、

一回りある長身で、尖った緑髪と硬い黒い額が特徴の蛇男カヴラ。



・・・・彼らがクラスコを・・・・くっ・・・・・



「あなた方でしたか。ダークメア!!

 最初から何か企んでいると薄々思ってましたが・・・・・」



私は因縁の目を彼らに向けた。



「ふっ、まさかボスがお前らの捜査に手ぇ貸したとこで

 我々がJGBに味方するとでも思っていたのか?」



サングラスを光らせ、苦笑いをし、落ち着いた口調で

こちらを軽く嘲るタランティーノ。



「・・・・・・岩龍会を呼び寄せたのもあなた方のようですね」



私はタランティーノとカヴラ、それぞれの顔を見て彼らを因縁の目で睨みつけて言った。



「まぁな。ウチも岩龍会もアイツのせいで散々な目に合った・・・・

 これはアイツに相応の落とし前をつけるカーニバルなのさぁ!!!」



声がだんだんと大きくなるタランティーノ。

その声はドスの効いた声で、見る者を強く威嚇するものであり、

先ほどの冷静な口調とは対照的なものであった。



「カーニバル・・・・・」



サカがそれを呟くとタランティーノの隣で

構えるカヴラが口を挟んでくる。



「シャーッ・・・・・全てはボスの作戦通りってわけさ。

 樫木はボスのもんだ!!ボスの邪魔はさせねぇ・・・・

 ここから先へ進みたきゃオレ達が相手だ!!」



ボリッ!!ボリッ!!



最初に舌でこちらに蛇の威嚇をし、そう宣言をすると

両手の拳を力強くならすカヴラ。



初めから何か裏はあるだろうとは思っていた。

あのレーツァンが快くこちらに協力するとは考えられない。



だが、口ふりからすると彼らも樫木と敵対しているようだ。

更に彼らを飼いならす岩龍会も動かすほどの悪事を働いていたとなると、

樫木は連続殺人以外にも組織内で岩龍会にも被害が及ぶほどの

問題行動を起こしていた可能性は高そうだ。



「フォルテシア・クランバートル、サカ・ハイドマン。

 お前らにボスからの伝言だ・・・・」



「お前らはもう・・・・・・・」



タランティーノが静かな口調でそう言った直後、

どこからともなく、横から一まとめにされた四本の剣が彼の下へと宙を舞い、飛んでくる。



するとそれを4本の腕で素早くキャッチ、

四本の剣を素早く目に止まらぬ速さで一本一本鞘から抜き、

一本ずつ腕に剣を装備し、構えて華麗に向き直る。




「用済みだとさぁ!!!ここで死ねぇ!!!!!」



装備した剣四本の先端をこちらに向けて構えながら、

タランティーノは粗暴な言葉を吐き捨てる。



彼の足元には四本の剣の鞘が散乱している。



先ほどまでの冷静さはどこへやら凶暴な一面が

一気にむき出しになる時であった。



同時に奴の体からは濃い青色の邪悪な色のソウルが

燃えるオーラとなって湧き出る。



アイツのデータは私も既に目を通している。



ダークスレートブルーのソルジャーソウルを持つソルジャー、タランティーノ。

4本の腕で四本の剣を自在に操る四刀流使い、更に銃の扱いにも

長けていることから『四丁四刀よんちょうよんとう』の異名を持つ。



諜報部の情報では昔はイタリアンマフィアの殺しヒットマンだったという。

それがどういう理由であの男の手先になったのかは不明だが、

我々とは全く逆の道を進んできたのは確かだろう。



「長官、ここは私がやります。先に行って下さい」



サカが冷静に一本の剣を抜き、私を守るように前に立つ。

剣の先端を奴らに向ける。



「サカ!!」



「行って下さい、長官。彼らを振り切るのは困難です」



こちらを向かずに奴らを見て、一本の刃を奴らに向けながら、

サカは後ろにいる私を促す。



・・・・ここはサカに任せるしかないか。

モロヅミはクラスコに彼らを任せてこの先にいるはずだ。



ここにカヴラとタランティーノがいるという事は・・・・恐らく奴も・・・・

もう一人の幹部スカールもこの先に・・・・モロヅミが危ない・・・・・




「分かりました。サカ、ここはお願いします!!」



私はカヴラの横を通り過ぎて全速力で走る。追いつかれないように。




「おおっと!!戦いから背中を向ける気か?

 させねぇぜ!!!」



私が逃げる事を許すはずもなく・・・・

背後からカヴラが走って追跡してくる。



「逃がさねえぜ!!!」



振り切るように走っていると奴は高く跳び上がった。



すると私の前に着地して回り込んだ。

力強く右手の大きな拳を振り下ろしてくるので私はすかさず横に避ける。



「おらぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」



ズシィィィィィィン!!!



カヴラの大きな拳はその場の道路のコンクリートに大きなヒビを入れる。



それを尻目に私は再び、前に素早く走り出す。




「くそっ!!!逃げんじゃねぇ!!!

 オレとバトろうぜぇ!!!なぁ!!!」



走っている今でも感じる。

後ろから奴は走って追いかけてくる。蛇の顔をした巨漢の大男が。




このままでは、どこまでも追ってくるだろう。

樫木のアジトまでこの状況を続けるわけにもいかない。だったら・・・・



私はしばらく走った後で身を翻し、

後ろから全速力で向かってくるカヴラを待ち構えた。

カヴラは猪突猛進にこちらに走ってくる。



「ハッ、ようやく立ち止まったか。そう来なくちゃなぁ!!!

 やっと戦う気になったみてぇだな!!」



走りながらこちらを狙うカヴラの右手に紫色の毒液が

グチャグチャと集まった球体が発生する。


それをまとった右手の拳を私にぶつけるべく、迫ってくる。



「挨拶代わりに一発喰らえ!!!ポイズナックル!!!」




「そこっ!!!」



「グぁぁっ!!!」



私は向かってくるカヴラに素早く三本のナイフを投げた。

そのナイフのうち二本が奴の右胸のバラバラな位置に刺さった。



「クソっ・・・・体に力が出ねえ・・・・・」



一瞬、怯んでいる今がチャンスだ。

私はカヴラに走って近づいて少し跳び、



「たぁぁぁっ!!!!!!」



「グヌぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」



私の左足による蹴りがカヴラの顔面を、右頬に直撃する。

カヴラはその場から少し吹っ飛ばされ、仰向けに倒れ、

そんな彼の前に私もそっと地面に着地する。



すると私はすかさず、それをよそにその場から素早く走り去った。




私もただナイフを投げたわけでも蹴りを入れたわけでもない。



"力"を行使した上でそれらを行った。

そう、"力"を行使しなければ、あんなに

大きな効果は奴には期待出来ないだろう・・・・



私の持つ"力"。私の能力は、触れている

相手ソルジャーの能力を押し込み封じる力。



この力が働いている間、相手ソルジャーは

力を行使する事も出来なくなり、力の源でもある

ソウルを燃え上がらせ、力を漲らせる事も出来ない。つまり、著しく弱体化する。



勿論、私が相手に触れていれば、触れている限り、相手はずっとその状態になる。



さっき私がカヴラに投げたナイフにも私が触れた事によって、

力が少しの間だけナイフに宿るためにこの力は当然働いている。

刺さっているしばらくの間はカヴラも弱体化する。



能力を無効化されたカヴラは私の力が働いている間、能力を一切行使出来ない。

そもそもソルジャーの力を使う事も出来ない。ソウルもたぎらせられない。



カヴラはキングコブラ人間になる能力を持つソルジャー。蛇人間。

この手のソルジャーは力の行使によって姿を

人間の姿からソルジャーごとに異なる異形な姿に変えたりする事が出来る。




つまり早い話が肉体強化。

ソルジャーは元々身体能力や特殊な力に優れているが、

それを更に強い形態に姿を変える事で飛躍的に高める。



私の能力は相手の持つその力を丸ごと封じる事でソルジャーの力による補正で

強化されている面を全て無効化する事が出来る。



また、体を使った蹴りや素手にもこの力は宿っている。

相手の能力を封じながら攻撃する事が出来る。それはナイフも同じ。


しかし、ナイフと違って、刺さらないので刺さっている間、封じる事は出来ない。

蹴られたり、殴られた相手も数秒の間だけしか封じる事が出来ない。


先ほどのカヴラの場合は殴り飛ばされて仰向けに倒れた段階ではもう能力は使える。

が、能力を無視して殴られたために痛みで怯んでいるだけ。


しかし、相手の能力を無視して攻撃出来るのはナイフ、素手関係なくついてくる。



つまり、私は力の行使によって相手の能力を封じ、戦法を封じ、

無効化、無視し、貫通したダメージを相手に与える事が出来る・・・・

同時に自分の体術と自分が触れて使う武器にその力を宿らせて使う事が出来る。



これが私の"力"だ。



だが・・・・・これだけで倒せるほど奴も甘くはない。

先ほどの普通の人間の集まりである岩龍会構成員と違い、

彼もソルジャーなので普通の人間よりも格段に強い。



現に、走りながら少し後ろを向くと、蹴飛ばされたカヴラが

今にも痛みを堪えて、蹴られた頬を抑えて立ち上がろうとしているのが遠く見える。




私は足を速め、走り続ける。



走り続けるともう追っ手の気配がしない。

振り切ったようだが・・・また、いつ追ってくるか分からない。

早く目的を目指す事にする。



暗い閑静な住宅街の道を真っ直ぐ走り、

見えてきた交差点の右手の横断歩道前に差し掛かった。



辺りを見渡していると向かいの右手に周辺の建物よりも

敷地も広く、四角い縦の長方形の窓が一定の間隔で

何列も各階に並んだ大きなオフィスビルがあった。



地図を確認すると、どうやらあの場所のようだ。



折原部長はこのビルの7階と言っていた。





この辺りは至る所に目的地のビルよりも小さい雑居ビルが建ち、小さなコンビニもある。

コンビニはまだ明かりを灯しているが、特に看板もない雑居ビルの中は真っ暗。



大きなアスファルトの上を車も通る気配がなく、冷たい風が静寂さを煽る。



私は目的地であるビルへと向かった。目の前にある大きな横断歩道を渡る。


ちょうど横断歩道を渡る途中、向かいの左側には

一人の黒スーツの男が背を向けて歩いている。岩龍会構成員だろう。

サラリーマンにしてはバッグも何も持っていない。



しかし、こちらには気づいていない。

そのまま私は気づかれないうちに反対にあるビルの方へと小走りで向かった。




ビルの入口前に到着した。私はガラスの自動扉の右手にある真っ白で

何も書かれていないフロア表を見た。



全8階建てのビル。真っ白なフロア表から今は使われている形跡がない。

が、以前は使われていた形跡がある。



隠れ家にするには最適な場所だろう。



急ごう、ここに樫木がいる・・・・




目の前にあるガラスの自動扉。

奥が暗闇に包まれた扉は開く様子もない。




辺りを見回してみても、他に入れそうな所もない。

裏口を探して入るしかなさそうだ。




私は裏口、あるいは非常階段を探しに私はビルを出て右に行くと

曲がり道を更に右に行き、細い住宅街の道を通ってビルの裏手へと向かった。



改めて、折原部長から渡された地図とこの場所をもう一度照合する。

ここで間違いないようだ・・・・・



どうやら、この裏には専用の駐車場があるらしい。

裏から入れる場所はないだろうか・・・・探してみることにする。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ