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ソルジャーズ・スカイスクレーパー  作者: オウサキ・セファー
第一章 シルバークライシス -少女の慟哭-
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第5話 謎の病

 昨日の夕方、称太郎への告白に無事に成功したのも束の間、その日の夕食を作っている最中、突然頭から始まり、やがて全身に激痛が走った。

 それでどういうわけか、私の長い黒髪が真っ白な銀髪に染まってしまった日の翌日。


 朝になっても髪が黒髪に戻っているなんて事はなかった。

 シャワーで髪を流してみたけど、銀髪が黒髪に戻るわけもなく……何か液体を髪にかけられたわけでもないし……


 もうどうする事も出来ない私は朝食をとった後、不安を抱きながら学校へ行くと早いうちに職員室にいる荻野先生の下を訪れた。

 職員室に入った瞬間、やっぱりと言わんばかりに周囲からどよめきの声がする。


 ここに来る途中もそうだったけど、すれ違う先生や生徒が私の姿を見ると唖然とした表情を見せ、目を止め、時には事情を問答無用で訊いてこようとする。

 しかし、ここは大げさな反応はせず、一目散に職員室へと向かった。


「失礼します、荻野先生」


「うぉ!? どうしたんだよ、黒條!!!! その髪!!!!」


 私の姿を見るなり、ビックリ仰天した顔で荻野先生は驚く。


「実は……」


 とても言いづらい話ではあるけれど、私は事情を正直に説明した。信じてもらえないかもしれないけど……


 帰宅して夕食を作っていた最中、激しい激痛に蝕まれ、激痛が進行する中で髪がどんどん黒色から銀色に染まっていった事を。


「うーん、そういう症状が起こる病気は私は見た事も聞いた事はないが……本当なのか?」

 荻野先生は両腕を組んで首を傾げた。まずい、疑われてる……強く言わなきゃ。


「本当です。でなきゃ、私がこうなるはずがありません! 髪だって染める趣味なんてありませんから!」


 私は自分の髪を人差し指で指差して強く訴えた。

「しかしな……その髪では私が特別許可しても校長や教頭は許してくれないかもしれない」


 そう、この中学校の校長と教頭は非常に生徒の身だしなみに厳しい体制を取っている。腰パン、髪染め、服装の乱れは当然アウト。

 それはもうだいぶ前から先生のホームルームの話の中で私も知っていた。


 それに銀髪に染める人なんて、普通に見て完全にコスプレとかあっちの趣味を持った人ぐらいだろう。あるいは生まれつきとか……

 ともかく、先生は私の言う事を否定してはいないみたい。少しホッとした。だけど……


「病院へ行ってきなさい。今日は早退にしてあげるから」

「ですが……」


 原因不明な病気でいきなり早退にされるのは、私には納得がいかない話だった。


「分かっている。校長や教頭には後で私が話をつけておくから。診察結果次第で許してくれるかもしれない」

「……分かりました」

 だけど、その言葉を聞いて、先生が味方してくれると思った私はもはや、了承する他なかった。


「失礼しました!」


 私は先生に一礼して職員室を後にした。

 先ほどまでの不本意な気持ちが冷めた私は教科書やノートなどが入ったバッグを持って、登校してくる生徒達とは逆方向に歩を進める。


 階段を下り、玄関の下駄箱から自分の靴を取り出し、上履きを下駄箱にしまい、靴を履いて学校を出ようとすると、ちょうど登校してきたよく知ってる顔と目が合う。


「零さん……その髪、どうしたの!? 真っ白だけど……」


 そこにいたのは歩美だった。私の髪を見た瞬間、目を丸くする歩美。


「歩美……これは……」


 何をどう言えばいいか分からない私は銀の横髪にそっと手をやり、目をそらす。だけど……今は何を言ったらいいか分からない。歩美には悪いけどここは……


「歩美……ごめん。事情は後で話すから今日はこれで!」


「あ、待って零さん!!!」


 歩美が止める間もなく、私は風にように走り、学校を後にした。確か、病院はこの近くにあったはず。そう遠くもない。

 ごめん、歩美……


 なんだろう。走っていて妙にいつもより身体が軽い気がする。長く走っても全然、息を切らさない。それどころか、足取りも昨日より軽やかになった気がする。


 そうこうしているうちに近くの病院に到着した。普通は学校からだと十分ぐらいかかるのに今回はなぜか異様に足取りと身体が軽い事もあってか約五分で着いてしまった。この辺りでは唯一の病院で、なおかつ七階まである大きな病院。


 赤いレンガの壁が特徴的で、入り口の横には広大な駐車場が広がっている。それもあるので、一階よりも上の回は入院してる患者の病室等が並んでいる。駐車場の奥には入口方面から続く病棟がある。そう、建物は横にしたL字の形をしている。


 とりあえず、あくまで髪が激痛の末に髪が銀に染まった事を診てもらうために、私は病院のカウンターで渡された問診票にふざけてるとは思うけど今の自分の状態をそのままに書いた。

 また、保険証を出して手続きを行った。この間も、辺りから私への視線を感じる。銀髪なんて珍しいし、仕方がない……


 でも、まだ早い時間だったため、病院も開き始めたばかり。辺りを見渡してみるとそれほど人はいない。

 十五分ほど待っていると自分の名前が呼ばれたので案内に従って指定の診療室へ向かう。待っていたのは中年でメガネをかけた白髪と黒髪が混在する短い髪の男のお医者さん。年齢的にかなりのベテランの風格を感じさせるお医者さんだった。


「ええと……黒條零さん……だね」

「はい」

「じゃあ、そこに座ってくれないかな」


 医師に名前を尋ねられ、静かに返事をすると近くの椅子に座るように言われたので座る。医師に診断してもらう中、その時の症状や今の症状などを訊かれたので余すことなく説明した。

 すると……


 医師は机に置いてあるカルテに何かを書き込みながら私に尋ねてくる。


「フム、最初に頭痛から始まって、それからしばらく全身に激痛が起きて、髪が銀色に染まり始めたんだね」

「……はい。それからすぐに痛みは治まりました」

「今は体調は何ともない?」

「はい。ただ、少しだけ不自然な点が……」

「不自然?」


 先生はきょとんとした。おかしいかもしれないけど、とりあえずさっき感じた事を言うだけ言ってみる事にした。意味はないと思うけど……


「先ほどこちらの病院に向かう途中、足取りや身体がやけに軽いんです。それに長時間走っても息を切らさなくなってたんです。学校からここまで十分はかかるはずなのに五分ぐらいで着いてしまって……」

「君は運動は毎日どれぐらいするのかな?」

「学校ではバレーボール部に入ってほぼ部活がある日は運動はしてるんですが……」


「そうだねえ……それは毎日、それだけ動かしてたら体力も自然につくからそれじゃないかな。バレーボールはいつからやってるの?」


「小四から部活動でやり始めました」

「それだったら、そうだよ。君の体力が強くなってるだけだと思う。君のような年頃はね、子どもから大人へと。あらゆる面が凄い著しく成長する時期なんだよ。心もそうだし、体、頭、全てにおいて小学校後半よりも格段に大人に近づいていく年頃なんだよ」


「……。」


 医師の落ち着いた口調で諭された私はうつむいた。確かに小学校の時よりも自分の体の成長は感じる。


 身長は小学校の時と比べて急激には伸びない気はしたけど、胸の膨らみとか歯が生え変わったりとか……そういう事で成長を感じる。


 だけど……果たして、そういう事で済む問題なんだろうか。昨日は部活が休みだったから身体は激しく動かしてないけど、一昨日は部活があってその時はさっきのような異常なまでに足が軽い事はなかったと思う。

 それは勿論……一昨日は激しくボールを追って、長時間体を動かして駆け回ったけども……


「日常生活の中でストレスを感じるような事はないかい?」

「ありません」


 言われても特に思いつかなかった。特にストレスの感じる事は。いや、そもそもストレスなんて……

 感じるといったら、例えば、称太郎を他の人に取られた時とか……そういう事ぐらいしか思いつかない。


 でも、それは別に強いストレスというわけじゃない。確かに称太郎は人気者だけど、私の事は会う度によく見てくれたし、対応に不満を覚えた事もない。他の人に取られて抱く感情はただのやきもちだ。


 あまりに不満やストレスを感じるのならば、私は昨日、告白も何もしていない。称太郎への気持ちは本物……


「……それならばとりあえず……まずは当分様子を見て、それで黒い髪の毛が生えないようだったらまた来なさい」

 あっさり診断が終わってしまった。こうあっさり終わってしまうとより、内心不安が募る……


 あのお医者さんもさすがに普通の白髪の原因であるストレスとは別モノで診ているようだったけど、どうもしっくり来ない。

 髪の毛の色が変わり、しかも身体能力が上がってるなんて一体なんなんだろう。


 先生も言っていた通り、今日は早退扱いにされたのでそのまま早いうちに帰宅する事にした。試しに病院からバス停まで全速力で走ってみた。


 やっぱり早い、すごぶるほど早い。上手くすれば高速移動出来てしまうかも。少し走って立ち止まった後でも息を切らさないほど。

 こんなにスピードは一昨日は出なかった。こんなに出るならバレーで遠くに落下してくるボールも

 すぐ返せてしまうかもしれない。


 私……どうなってしまったんだろう。


 特に時間もかからず、見慣れたバス停に到着。時刻は……自分の腕時計に目を通すと朝の十時を少し過ぎた所。中学生としては帰るのにはあまりにも早すぎる時刻。

 気が進まないけど、帰ったらまず結果を先生に電話で報告しないと。


 叔母さんには……心配をかけたくないので収拾がついたら連絡しよう。これはあまりにも非常事態だけど、もしかしたらほんの少ししたらまた黒髪が生えてくるか、戻るかもしれない……それを信じよう。

 ……今は信じるしかない。歩美にも……後でちゃんと説明しないと……悪い事をしてしまった気がする。


 私は不安を頭に抱えながら、ちょうど来たガラガラに空いていたバスに乗り、帰宅する。


 思えば、この銀髪はやっぱり非常に目立つ。学校だけでなく、病院や外でもすれ違っていく人達からも時折奇妙な視線を感じた。

 この原因不明な病気になった今、これから自分はどうなるんだろうかという不安もどこかにあった。いきなり全ての髪が銀髪になる病気なんて普通あり得ないのだから……


 分からない事を挙げていくと、原因は何か、どうして髪がこのようになったのか、どうして身体能力が上がったのか?

 

 それを一刻も早く知りたい。そう、バスの中で空いていた一番前の左の席に座り、バッグを抱き抱えて一人考える私だった。

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