第27話 カウントダウン
「日本に新たな時代の風を吹き込むための総仕上げとして・・・・
この千葉の教育統制委員会本部を・・・・・
本日午前0時をもって・・・・・・・・・・破壊する!!!!」
「なっ・・・・・・・・!」
突如、生放送を始め、反イジメの演説の中で飛び出した、
画面中央に写っている樫木の衝撃的な宣言。
フォルテシアもサカも目を丸くし、戦慄する。
「既に建物の地下に大量の爆弾を仕掛けてある。爆発時刻は午前0時!!!
日付が変わったその瞬間、まとめて爆発するようになっている・・・・・!」
「千葉の教育統制委員会本部は跡形もなく消し飛ぶ!!!
6人の加害者を殺っても、まだ分からない奴らへの最高の見せしめだ!!!」
狂気的かつ快楽な表情を浮かべる樫木は演説を続ける。
この発表に対して、依然、コメントは賛否と批判に更に溢れていた。
やりすぎという声もある。正論だ。
樫木は右手の腕時計にふと目を通した。
「今、時計はもうすぐ10時を回る頃だ。
さあ、最高のセレモニーまでの時間をとくと楽しもうじゃないか!!!」
樫木は画面の外から紙コップに一本ペットボトルに入ったオレンジジュースを持ってきて、
目の前であぐらをかいて座り、紙コップにジュースを注ぎ、乾杯の音頭をとろうとしている。
その言葉にフォルテシアはすかさずパソコン右下の時計に目をやった。
現在の時刻は午後9時50分・・・・・爆発まで残り130分・・・・・時間がない!
フォルテシアはただちに長官室内の黒電話の受話器を取り、
総本部地下の諜報部の情報処理室にいる折原に繋いだ。
「折原部長!!今の放送での発表、聞きましたか」
「はい、長官。千葉の教育統制委員会本部が0時に爆発すると・・・・」
「この放送が行われている場所・・・・調べられましたか?」
「今、急ピッチでやってます。が、具体的にはまだ分からないんです・・・・・」
折原は歯切れを悪く口にした。諜報部も苦戦しているようだ。
しかし・・・・黙って待っているわけにはいかない。
「具体的じゃなくてもいいんです!
およその場所が分かっていたらそれだけでも教えて頂けませんか?」
「ええと・・・・・・場所は・・・・・・」
折原も緊迫した状況に焦りを抱いていた。何かをチェックしている。
10秒ほどするとその答えが返ってくる。
「場所は・・・・・千葉の"船橋"である事は確定しています!!
船橋には例の千葉の教育統制委員会本部もありますのでビンゴです!!
が、それ以上はまだ分かりません・・・・」
「船橋・・・・・・!ありがとうございます!
引き続きそちらをお願いします。分かったら連絡を」
「はい!長官!」
フォルテシアは受話器を置くとすぐに生放送が開かれてる
ノートパソコンで検索エンジンを開き、素早いタイピングでとあるワードを検索した。
「千葉の教育統制委員会本部は船橋・・・・・!」
「サカ!!!」
フォルテシアはパソコンで千葉の教育統制委員会本部の場所を
再確認すると大きな声でサカの方を向いて声をかけた。
「すぐに緊急配備です。場所は船橋にある千葉教育統制委員会本部。
その周辺を徹底的にあたるのです!」
「了解。ただちに東京支部、警視庁にも応援を要請します」
サカは敬礼して、冷静な口調で言った。
「お願いします。爆弾は科学部に任せますが、
警視庁には千葉教育統制委員会側に避難の一報と付近の住民への通達、
念のために爆弾解除の応援要請も入れておいて下さい。あと・・・・」
「あと?」
サカが訊いた後にフォルテシアは口を開く。
「サカ・・・・奴の言葉から察するに、爆弾は時限式、かつ、
"まとめて"という言葉から複数仕掛けられているのは確かでしょう」
「が、しかしです・・・・」
「樫木は・・・あっさりと計画を阻止されそうになった時のための
保険となる我々への対抗策を隠し持っている可能性も考えられませんか?」
フォルテシアはサカに自分の考えを問う。
「ええ、生放送でわざわざ場所と爆破時刻を予告するあたり、
『解除出来るものならやってみろ』と言ってるようなものです。臭いですね」
全くサカの言うその通りであった。生放送という公の場で犯行予告をし、
しかもご丁寧に爆弾の場所や何時に爆発するかまで伝えている。
そのメッセージは『止めてみろ』という"挑戦状"であると同時にある意味、"招待状"でもあった。
「はい、我々をわざと誘き寄せる罠を用意している可能性も大いにあります。
自ら打って出ず、我々を迎え撃つ策を・・・・」
同時に敵は確認出来る範囲で樫木ただ一人である事も、怪しさに歯車をかけていた。
これまでの犯行は全て樫木一人によるものだ。
他に強力な戦闘要員を引き連れている可能性は低いだろう。
そのため、爆弾が見つかり、全て処理されてしまえば、
樫木にはもう打つ手がないのである。それはサカも分かっていた。
「その上で考えられるのは・・・・遠くからの遠隔操作で
あの施設を破壊出来るモノを仕込んでいること・・・・
そう、時限式爆弾の他にスイッチ式の爆弾があるのではないでしょうか?」
素早い分析を元に自分の推理を説明し、問いただすフォルテシア。
それに対し、サカは、顎に右手を当てて考えながらこう言った。
「確かに・・・・スイッチ式で一つでも爆破させれば、
その他の周りの爆弾も一緒に爆発、更にその爆風による連鎖で
次々と仕掛けた爆弾を爆発させられますね」
「はい。更にいつでも爆破出来ますので解除されても保険には最適です。
我々を誘き寄せて、最悪、まとめて爆弾で施設ごと一掃する事も可能です」
時間がないのでフォルテシアは素早く話を続ける。
「スイッチ式の爆弾が仕掛けられていると仮定して、
遠くからそれを爆破するためのリモコンの電波が届く範囲は、
私が知ってる物では最大でも半径2キロ圏内が限界です」
「折原部長の分析から、既に奴が船橋のどこかに潜伏している事は確定しています」
「ならば・・・・・その施設の近くで、かつリモコンを通して
爆弾に電波が送れる場所に樫木もいるのではないでしょうか?サカ」
「つまり長官は・・・向こうが手薄な状況にも関わらず爆弾予告をした事を疑問に感じ、
敵に何か策があると考え、遠距離から動かせる"何か"があると考えた。
そして、それは爆弾と予測し、爆破するためにリモコンの電波の届く距離が
2キロという考えに至った・・・・というわけですね?」
「はい、そうです」
サカがフォルテシアの考えを読むと彼女はそう頷き、話を続ける。
「それに、爆弾以外で遠距離からあの大きさの建物を破壊するには
ロケットランチャー並みの破壊力を持つ銃火器か、
直接出向いてソルジャーの力を使うぐらいしか思い当たりません」
「が、建物一つをすぐに破壊出来るほどのソルジャーの力が彼にあるとも思えません」
フォルテシアは樫木には建物一つを軽く破壊するぐらいの強大な力はないと考えていた。
これまでの樫木が起こした事件では被害者宅を襲った事件はいずれも中は荒らされたりはしたものの
建物そのものは破壊されていない。壊せるのならば、とっくに壊しているのではないだろうか。
「3月から痕跡をほとんど残さずに犯行を繰り返してきた彼です。
爆弾が捜索され、解除されるのを生放送しながら黙って見てるとは思えません。
決して、無策ではないと私は考えます・・・・・」
「が、・・・・まだ樫木が船橋のどこにいるかまで明確に掴めていません。
現段階では可能性にすぎませんが、樫木は船橋にある千葉の教育統制委員会の
半径2キロ圏内にいる可能性がある事をヴィルや蔭山警部にも伝えて下さい・・・・」
「・・・・お願いします、サカ」
「いいえ、長官。あなたの推理と頭脳、私も信じます」
フォルテシアの話を聞き終えるとサカは
首を横に振った後、そっと頷いてそう言った。
「昔から長官、あなたの勘はよく当たりますからね」
そう、フォルテシアは頭がいいだけでなく、勘もよく当たる。
それはドイツ時代から彼女を見てきたサカもよく知っていた。
戦闘能力だけでなく、天才少女の名にふさわしい、
難しい論文や数式も理解してしまうほどの高い頭脳。
戦況を読み、二歩、時に三歩先を読んだ指揮能力。
それらはまさに非凡の才であり科学者を、軍人達を驚愕させた。
「では、私はすぐに総本部の部隊に緊急配備の号令をかけてきます」
フォルテシアはそう言い残すと席の横の服掛けにかけてある
白い長官用のコートを羽織り、JGBの帽子を被ると長官室を駆け足で出て行く。
その一方で、サカはその場にあった黒電話で各所に繋ぎ始める。
一方、その同じ頃・・・・・ここは新宿にあるJGB東京支部の作戦司令室。
支部長ヴィルヘルム・ゲーリング、
並びに支部長補佐"兼"第一部隊隊長のサニア・バルトリッヒ、
第三部隊隊長リュディガー・グレゴール・・・・・・
その他の彼らの多数の部下達もパソコンの映像を
目の前のプロジェクターで大きくして画面の前で
適当に立って樫木の生放送を視聴していた。
「フッ・・・・・面白い。いよいよ決着つける日がやってきたってわけか」
ヴィルヘルムは生放送の映像を前に楽しそうに笑みを浮かべる。
「ヴィル、私達はどうするの?行くの?」サニアが静かに横からヴィルヘルムに尋ねる。
「ヴィルヘルム一佐!!我々も行きましょう!!ご指示を!!」
勇ましい口調で、一刻も早い出撃を促すグレゴール。
しかし、ヴィルヘルムは平静を保っていた。
「黙れ。これからあっちから連絡が来るはずだ・・・・」
目を向け、静かに彼にそう制止するヴィルヘルム。
ジリリリリリリリリリ!!!ジリリリリリリリリリ!!!
ヴィルヘルムのコートの裏ポケットの
マナーモードとなっているスマートフォンが震える。
「ほら来た」
ピッ!
ヴィルヘルムはそう言うと
スマートフォンを取り出し、通話に出る。
「はい、こちらヴィルヘルム」
「サカだ。ヴィル、そちらも例の生放送は観ているな?」
「観ているよ。で、どうした?フォルテシアの指示は?」
ヴィルヘルムもこのタイミングでフォルテシアから
指示が来る事は織り込み済みであった。
「ヴィル、千葉の船橋の教育統制委員会本部に至急、向かってほしい。
折原部長の情報で放送が行われている場所は船橋のどこか、
かつ長官の推理だと樫木麻彩はその本部から半径2キロ圏内にいると可能性を出している」
「ほぉ~、半径2キロ圏内か」
「長官は爆弾が時限式であること以外に、
スイッチ式の爆弾が仕掛けられていると読んでいる。
それを爆発させるリモコンの電波が届く限界が
半径2キロ圏内である事からそう予測している」
「なるほど・・・・分かった。アイツの予感だ・・・・信じるよ。
ドイツが生んだ天才少女の推理、デタラメじゃないだろう?」
ヴィルヘルムはもう結果は分かっていると
言わんばかりに軽く笑って答えた。
「理解が早くて助かる。こちらも警視庁に連絡して、一斉に出撃の予定だ。
では、急いでるのでこれで」
「おう。こっからそっちまでは、少々遅れて着く事になるだろうが、
目標地点が消し飛ぶまでには応援で駆けつけてやるさ」
ピッ。
ヴィルヘルムはスマートフォンをコートの裏ポケットにしまう。
そして・・・・電話しているヴィルヘルムに注目していた周りの部下達の顔を見渡す。
「お前ら。もう、分かってると思うが、すぐに出撃の準備だ。車を出せ。
場所は千葉の船橋、生放送にも映っていた千葉の教育統制委員会本部!!」
「さっさと動けノロマども!!」
「り、了解・・・・・・・!」
ヴィルヘルムの声が室内に大きく響くと同時に
彼とサニア、グレゴールを除いたJGBの捜査員達が
慌ただしく直ちに出撃に向けて動き出す。
更にその少し後・・・・・ここは警視庁のオフィス。
捜査第一課の蔭山警部は同じくサカからの電話に出ていた。
サカも、先ほどヴィルヘルムにもした話を同じく蔭山にもしていた。
「・・・・・・そうか。そちらの事は分かった。爆弾処理班を出動させる」
「はい。お願いします。繰り返しますが、樫木麻彩は千葉教育統制委員会本部から
半径2キロ圏内のどこかに潜伏している可能性があります。注意して下さい」
「あぁ。あの長官の言ってる事だ。注意しとくよ」
スイッチ式の爆弾を爆発させるためのリモコンの電波が
届く範囲が半径2キロ圏内という知識がすぐに頭から
出てきたことには驚くしかない蔭山であった。
「相手はソルジャーです。我々で捜しますので警部達は
千葉教育統制委員会本部の職員の方々に避難の旨を伝えて後方から支援をお願いします。
あと、現地では付近の住民の安全確保をお願いします」
「分かってるって。こういう事件はお前らが
オフェンスで俺達はディフェンス・・・だろ?」
警察とJGBの役割分担を得意気に語る蔭山。
そう、こういうJGBと共同作戦を行う事件は何度も経験している。
警察官になったばかりのまだ若い蔭山はこのやり方に納得がいかなかった事もある。
なぜ事件が起きてるのに、現場を警察じゃない他のヤツに明け渡さなければならないのか。
疑問だった。納得いかず、上司に反抗だってした事もある。
が、警察官として歩んでいく中で警察だけではどうやっても太刀打ち出来ない存在が有る事に気づき、
次第に今のように警察は警察として出来る役目を果たす方へと考えを改め、現在に至る。
そんな蔭山は度々JGBをオフェンス、自分達をディフェンスと呼んでいる。
「ありがとうございます。では、これで」
「おう、お疲れさん」
挨拶し合うとサカと蔭山の通話が終わる。
更にその同じ頃・・・・再び場面は戻ってJGB総本部。
警報のサイレンが鳴り響き、長官フォルテシアによる号令の下、
本務の部隊に属する黒服の者達が大勢、一斉に整列して広い廊下を走り抜けていく。
黒いコートや制服に身を纏っている者達。
彼らは正式にはJGB本務部。第一部隊と言うように部隊で区分けされており、
情報収集や捜査を担当するだけの諜報部の捜査員と異なり、
捜査だけでなく戦闘も行う者達である。
走る者達の中にはこの事件で友を失い・・・・
同時に友と戦わざるを得なくなったモロヅミの姿があった。
「先輩、オレ・・・・先輩にどこまでもついていきますよ!!」
走るモロヅミの後ろには後輩であり、
部下のお調子者なクラスコ・オーズリーの姿も。
「助かる。だが、無理はするなよ!!」
「分かってますって。サーモゴーグルだって忘れずに持ってきてますよ!」
「ああ!!」
モロヅミは先の樫木の生放送を見ていて決意していた。
そう・・・・元クラスメートとして、3年間を同じ場所で過ごした者として・・・・
樫木の暴挙を何としてもやめさせると。
たとえ頬をぶん殴っても、奴の間違いを正してやると。
JGBとして・・・・・同じ学校の同級生だった者として。
彼の後輩であり、部下であるクラスコも
そんなモロヅミに心を打たれ、お供する事を決めた。
彼にとっては総本部に配属になって最初の上司であり、それがモロヅミ。
今のモロヅミは苦しんでいる・・・・親友を失い、しかも敵は同級生。
誰かが支えてあげなければ、モロヅミは無茶をしすぎてしまう。
最悪、モロヅミが死んでしまうかもしれない。
だからこそ、モロヅミの役に立とうとクラスコも
彼の傍で銃を構える事を決めたのだった。
折原が掴んだ微かな情報、そしてフォルテシアの推理・・・・
これによって樫木の捜索範囲も絞られた。
そして今・・・・過去のイジメ自殺事件と教育を巡る
この一連の連続復讐殺人事件は・・・・まさに最終局面へと入ろうとしていた・・・・・




