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ソルジャーズ・スカイスクレーパー  作者: オウサキ・セファー
第二章 トリカブトの華
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第26話 運命の刻

4月19日、午後9時25分。目標の時間は刻々と迫っていた。

私は長官室にて、自分の机の椅子に座り、

横にいるサカと共に目の前の机に開いてある

ノートパソコン前でその時を待っている・・・・・



総本部は夕暮れ頃より、諜報部を中心に慌ただしい空気に包まれている。

折原部長より私の方にもその旨の報告があった。


そう、今日午後夜9時半よりネット生放送にてMayaが放送を行うという。

Mayaは今回の事件で殺された諸木坂以外の被害者が

2015年に新潟、2021年に群馬で起こったイジメ自殺事件の

加害者達である事をネットで暴露した人物。



Mayaの正体は十中八九、樫木麻彩。

レーツァンから話を聞いた時もパスワードが[darkmere]になっていた事から

偶然ではなく、明らか樫木の手が加えられた物と考える。


更に、蔭山警部から先日連絡があり、彼は麻彩という

名前の読み方を変えると「マヤ」になるため、彼の可能性が高いと推理していた。



これもあり、ネット上での騒動も全て樫木麻彩の仕業だと私も考えている。



だが、まだ彼に協力者がいるという可能性は否定出来ない。

蔭山警部もそう言っていた。


現に警部が見たネットカフェの監視カメラにはUSBを差し込み、

そこのパソコンで書き込みを行った黒いニット帽にサングラス、

黒コートの謎の男の姿が目撃されている。

なのでこの放送で実際に樫木が出演するかも分からない。

仮に協力者がいないなら謎の男は樫木という事になる。



また、樫木はダークメアを追放されてから3月になるまでどこで何をしていたのだろうか。

1月の半ばに永久追放したとレーツァンは言っていたがそこから

最初の殺人が起こる3月3日まで約一ヶ月半の空白がある。

この空白と連続して起こった殺人と殺人の間にある空白の時間・・・・

樫木は何をしていたのかが未だ残る謎だ・・・・



目の前のパソコンは既に生放送が開始される動画サイトを開いている。

右から左へと無数の白いコメントが真っ暗な画面内に流れ、

コメントの内容も早く放送が始まらないかと放送を待つような内容がほとんど。


中には「イジメ反対!!」とこの事件での殺しを肯定的に見る者や

それに反して「いくら復讐でも殺人はいけない」と反論する者もいるなど空気は荒れている。



それだけこの日本はイジメの問題を抱えていたという事か。



「あと一分・・・・もうすぐ始まりますね」



左で立って腕を組み、私と同じくパソコンの画面を見ている

サカが画面右下のデジタル時計を見て言った。

私もそう言われると右下の時計を確認した。



「はい。放送が始まって、後は諜報部の方々に全てを託します」



パソコンによる書き込み場所の特定をした時と同じく、

既に諜報部の方ではこの放送を通して放送場所を特定する準備が始まっている。

警視庁のサイバー犯罪対策課もバックで参加している。


因みにこの生放送自体を告知し、手続きを行ったパソコンを特定する作業も

書き込みが見つかった夕暮れ前から開始し、掲示板の書き込みを辿って特定を行ったが、

そのパソコンは破壊されたのか、見つける事は出来なかった。


放送場所を特定するため、生放送を行う予定のサイトの運営元の会社にも

既に折原部長があらかじめ連絡を入れている。

IPアドレスを放送中に入手し、プロトコルやツールを使い、

そのIPアドレスを辿ってアクセスポイントを割り出すという方法を用いる。


上手くいけば早くて一時間ほどで場所特定に繋がる。

そのために夕暮れから諜報部では放送に使われるであろう

パソコンの特定のための下準備が始まっていた。


既に総本部の戦闘部隊と東京支部をはじめとした関東の各支部の捜査員も備えている。

この関東からまだ離れてはいなければ、追いかけられる。

最悪、もしも関東から脱出しているのだとしたら、現地のJGBに連絡し、検討する。



放送の視聴者の数も放送開始まで残り30秒を切った時点で5000人を越えている。

今もそのカウンターは留まることなく増え続けている。


考えや思想は異なるとはいえ、それだけあの掲示板の

書き込みは多くの人々を惹きつけたようだ。




そして・・・・・時計は運命の刻である午後9時半を回った。

画面に注目する事にする。




真っ暗な画面から映し出されたのはどこかの個室。誰もいない。



明かりはオレンジ色のランプでしかつけられておらず、

ランプで照らされていない場所は暗闇で覆われている。電気をつけないのだろうか。



床も壁も灰色のコンクリートで覆われている。窓は見えない。

どこか人気のない場所のようだ。廃墟を思わせる。



その映し出された個室、画面の真ん中に右側の画面の外から誰か歩いてくる。



下は黒かがったジーパンで上は細顔の骸骨が書かれた黒い服、

その上に黒いコートを着た男がやってきた。

コートの裾はトゲトゲした形をしており、

丸く整った髪に尖った鋭い目を持つメガネの男。



全国手配された際の顔写真とほとんど同じだ。間違いない。



映し出される見覚えのある男の顔を見た途端、そう感じた。




右から流れてくるコメントからはまさかのネット上で

堂々と素顔を晒した登場に驚いたのか、

驚嘆の声が次々と流星群のように流れる。



微かに予想していた者はやっぱりかとコメントとしている。



「皆さん、こんばんは・・・・・・」



現れた男・・・・改め、樫木麻彩は軽くお辞儀をして

落ち着いた様子で挨拶をする。



「Maya改め・・・・樫木麻彩です。世間じゃあ僕が殺人犯、あるいは重要参考人って

 扱いになっているだろうが、この放送見に来てくれた人はもう分かるだろう?

 今までこの事件を見てきた奴はもう・・・・分かるだろう?」



「これは聖戦、ジハードだ。この日本の腐った教育を変えるためのね」



そう切り出し、樫木は立ったまま語り始めた。



「僕は1月に勤めていた会社クビになってさ・・・・クビになった理由が

 上司が僕の事が気に入らないから。笑えるでしょ?」



「僕は反イジメを上司に訴え続けた。前々からイジメという行為全てを憎んでいた。

 人間ってどうしてこんな他人の弱い心に漬け込んで酷い事出来るなと考えていた」



樫木の自分の経緯を語るその言葉にはどこか寂しさが含まれていた。



「でもな、12月に起こった千葉の中学校で男子生徒が飛び降り自殺した事件・・・・

 あれを見た瞬間、僕の中で全てが爆発したんだよ」



「あれは本っっっっ当に許せない・・・・亡くなった子や遺族が可哀想すぎる・・・・

 亡くなった子供のような子供がもう二度と現れないように

 しなければならない・・・・そう思わないか?」



「・・・・そうしなければ僕は日本の教育は建前だけで終わるって本気で思ったね。

 学校が無慈悲な心を持ったゴミ共、カス共、クソしか出さない工場と化してしまう」



「だからいきなりだけど声をあげて上司や回りの仲間に訴え続けた。

 会社のみんなで何か出来ないかって」



すると樫木は両手の平を広げ、手を広げ必死に訴えた。



「なのに誰も理解しないばかりか、ある日、僕は会社から暴力で無理矢理追い出された。

 酷いだろ?これもイジメだよ!!会社をクビになってから僕は決意した・・・・・」



「僕は復讐のために全てを捧げるってねぇ!!!!!!」



画面の前にいる我々に訴えかけるように、

また人々の心に響くように自らの主張を強く大きな声で訴える樫木。



「イジメという行為は大罪だ、だけど思いやる心のない

 無慈悲なバカ共クズ共は快感を得るためにイジメを続ける」



「教師や偉い人がどう指導したって、それはなくなる事はない。

 それを理解出来ないばかりか、人を死に追いやっといて

 のうのうと笑って生きてるゴミのような奴がこの国には山ほどいる!!!」



「だから僕はね・・・・そいつらに復讐の刃を向ける事にした」




「人ひとり殺したにも関わらず法律で守られて何も裁かれずに

 平気なツラして生きてる奴が憎くて憎くて憎くて仕方が無かった!!!!

 該当する加害者共をこれまで6人殺したのもそうだ!!!」



「人は一番恐れるものはなんだと思う?・・・・・・・・・・死だよ」



やがて樫木の表情は悲しくも訴える表情から

ある種の狂気のような物へと変わっていく。



「会社クビにされ、何も残っていない僕が手を汚す事でそいつらに死を与え、

 それを全国に発信すればやがて人々は復讐の刃を恐れ、死を恐れ、

 イジメも全てなくなるんだ!!!」



「全ては復讐の名の下に・・・・奴らのせいで短い生涯を終えた少年少女達の無念を僕が晴らす!!!

 僕はそのために全部やってきたんだよ・・・・・ククク・・・・・」




「日本の教育を今こそ変えるチャンスだ!!!

 だから今この放送見てくれているみんなも声をあげていきましょうよ、

 日本の教育の膿を残らず消し去りましょうよ!!!」



「イジメ自殺事件が起こっても被害者遺族側ではなく、加害者側に味方し、事実を隠蔽し、

 この手の事件を風化させ、同じ悲劇を繰り返す教育統制委員会なんていう組織はいりません!!!

 だからみんなで訴えていきましょうよ、大きな声をあげれば政府も分かってくれるはずです!!!」



「この時代に生まれた僕らはラッキーです。なぜなら、

 こうして日本の教育の革命に立ち会えるのですから。

 皆さんが声をあげれば間違いなく、日本の教育変わりますよ、イジメを根絶できますよ!!!」



「それに今はこの前のジョギー・フォーランドとかいう音楽家が裏でヤクザとつるんで障がい者を装った

 悪商売をやってくれたお陰で本当の罪もない障がい者までもが理不尽なイジメの標的にされるかもしれない!!!

 こんな事は決して許してはおけない・・・・それらもろとも全て声をあげて根絶しましょう!!」



「全ては次世代のために・・・・これから生まれてくる未来の子供達のために・・・・

 僕ら市民の手で教育を変える時なんです!!!海の向こうアメリカやドイツじゃ

 イジメから子供を守るための法律があるのにこの日本にはそういうのは何もない!!!」



「だから今のこの国には教育変えるための意識がないんですよ。だから訴えていきましょうよ。

 いずみ島だって理事会という組織の大きな力で学生の自立を促す一人暮らしを

 確立させた功績があるんですから!!やれば出来るんですよ!!!この国も!!!!」


「今、放送を聴いてる人の中にも過去に理不尽なイジメで辛い気持ちを味わった人、たくさんいるでしょう?

 その辛い気持ちを復讐そして革命の刃に変えて声をあげていきましょうよ!!!」



すると樫木は右手の中指と人差し指二つを立てた。



「僕の掲げる政治公約は二つ。一つ、イジメさせない、殺させない。

 もう一つ、子供達がいじめられる事なく豊かな日本を作る事!!!

 賛同出来る人はどんどん声あげて下さいよ!!!ほら、あげて!!!」



一つと言う度に挙げる指を増やし、人々の心に訴えかけるように画面内で政治的な演説を繰り返す樫木。

すると彼は水が入ったペットボトルを長い黒コートのポケットから取り出し口に含んだ。

この彼の演説に対して、コメントは賛同派と批判派に分かれている。


賛同派はまるで宗教のように樫木を褒め称え、神、あるいは英雄と称し、

応援、支持する書き込みをしている。



一方、反対派は正論を樫木に訴えている。

殺された子供や被害者遺族はこんな事は望んでいないと。

殺しはいけないと、あるいはイカれてると。キチガイとも。



ミネラルウオーターで水分補給した樫木は再び演説を再開する。



「今の状態の日本がこのまま続けば、やがてイジメによってその身を滅ぼす!!!

 この最悪の未来を回避するためには隠蔽に負けないように声をあげていかなければならない!!!

 だから僕は世間を騒がすために6人のイジメ自殺事件の加害者に手にかけた!!!」



「今の所は2015年2月新潟で起こった事件と、2021年10月に群馬で起こった事件の

 加害者共しか殺してないけどね・・・・・彼らは生贄でもある。革命を起こすためのね!!

 そしてこれから僕がやろうとしてる事・・・・これを最後に僕は姿を消す。そう断言しておこう」



「警察だけでなくJGBも僕を捜してる。もう、普通には生きられない。

 だからこれからやろうとしてる事を最後に僕は世間から隠居する事に決めた」



「しかし、イジメの復讐はこの後も影に隠れてするつもりだ。

 新潟や群馬以外の事件の加害者、生きてる加害者・・・・・

 みんな・・・みんな、殺してやる・・・・!」




樫木は自分の胸の前に右手の拳を強く握り締め、




「今さっき僕が言った事、この放送見て僕に賛同してくれるみんな、それを心に刻み込んでほしい。

 事が終われば僕はしばらく表舞台から姿を消し、またほとぼりが冷めたら帰ってくると約束しよう」



「そしてまた復讐のための聖戦ジハードを繰り返す。

 これだけは約束しよう。だからみんな・・・・声をあげてほしい」



握り締めた手を大きく挙げる樫木。



「さて、そろそろ今これから僕がやろうとしてる事・・・・発表しようか。

 今、画面変えるよ、ホイ」



樫木はそう言うとコートの裏ポケットから

小さなリモコンを取り出し、こちらに向けて

ボタンを押すと画面が切り替わった。




ノイズの中に映し出された光景は・・・・・

住宅街の中に大きくそびえ立ち、大きな敷地に建てられた建物が斜め向きで映し出されている。

この映像は近隣のどこかの高い建物から映し出されているのだろうか。高い所から映されている。

今は夜ゆえに建物もハッキリと見えない。



コメントだけでなく、私とサカが何の建物かと思っていたら

樫木の声がこの映像のまま聞こえる。




「ここは千葉の教育統制委員会本部・・・・

 12月に地元の男子生徒が飛び降り自殺した事件でも従来通り、

 被害者遺族には事実の隠蔽やイジメと自殺の因果関係を認めないなどの

 凄惨な対応をする一方で保身のためなら加害者側につく・・・・全くもって下衆な奴らの居城だ!!!」





そして、画面が再び、樫木がいる部屋の画面に移り変わると

彼の口からあまりにも衝撃的な宣言が飛び出した。





「日本に新たな時代の風を吹き込むための総仕上げとして・・・・

 この千葉の教育統制委員会本部を・・・・・

 本日午前0時をもって・・・・・・・・・・破壊する!!!!」


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