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ソルジャーズ・スカイスクレーパー  作者: オウサキ・セファー
第二章 トリカブトの華
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第24話 運送会社

青い作業着を着た作業員達が忙しそうに右往左往する。

荷台にダンボールをいくつも積んで運んでいく者、

長い机にて立ち作業でダンボールを検量する者。


様々な機械音や荷台の音、人々の声が行き交う中、

外からはトラックが走る音が微かに聞こえた。

この天井が高く広々とした倉庫で荷物を積み込み、発車したのだろう。



2034年4月18日。正午過ぎ。私は一連の事件の犯人である樫木麻彩が

勤めていたという東京都内の運送会社を訪れている。

神奈川の樫木麻紗紀殺人事件による全国手配と

東京支部の情報がなければここにたどり着く事はまずなかったと言えるだろう。


ここで彼の経緯を整理しておく。

樫木麻彩は高校卒業後の2027年に運送会社に就職し、2031年には

ここを退職して岩龍会の傘下に与する犯罪組織ダークメアに加入している。


彼がここに就職した経緯、退職理由など、何か分かればいいのだが・・・・

ここの責任者は生憎今、留守にしている。あと30分ほどで戻ってくるらしいので、

私は邪魔にならない程度にこの会社の見学をしていた。



一連の事件の犯人が分かった今、我々の捜査も当てずっぽうではなくなってきた。

過去のイジメ自殺事件の情報集めはほとんど裏方か新入りの仕事。

既に諜報部は情報方面で、本務は足で樫木麻彩の捜索にあたっている。


樫木が書き込んだとされる例の掲示板のスレも何か

変化がないか諜報部が目をつけているだろう。あの掲示板で

情報が流れてしまったために既にこの件はネットを中心に話題沸騰となっている。


当初発見されたスレは何者かに削除されたが、もう手遅れであり、

まるでいたちごっこのようにスレもまとめサイトも

第三者の手によって消されても復活する。


そういった状況が何度も続き、荒れる要因にもなっている。

無論、削除したのもそれらをよく思わない組織の仕業である事は確かなのだが。


樫木が現れそうな場所には既にサーモゴーグルを

つけた本務の捜査員がパトロールにあたっているだろう。

サーモゴーグル・・・物体から放射される赤外線を分析して熱分布を現す丸いゴーグルだ。


私も念のため、一つ拝借してきた。

これをつければ、視界は裸眼の時よりも圧倒的に暗くなり見づらいが、

たとえ透明な樫木でも姿を一目瞭然に捉える事が出来る。


樫木の能力は視界的な意味で透明になるのであって、

その実体までは透過させる事が出来ないと、

東京支部のヴィルヘルム支部長と総本部の科学部総括部長アークライト博士が発表していた。



それにしても、まさか東京支部が我々より先に犯人を突き止めてしまうとは。

最も、犯人と最初交戦したのが狙われていた新直尚隆を守った東京支部なので納得はいくが。


ヴィルヘルム支部長はサカ副長官共々、楠木前長官の時代は

フォルテシア長官が率いていた部隊にいた。



長官の信頼も厚い彼も我々が動くその裏で更に

何か手を打っていたのだろう。恐れ入った。



15日に神奈川における樫木家の殺人事件においては我々も情報を集めたが、

その日の夕暮れに例の全国手配の知らせがきたので驚いたものだ。

更に16日早朝に東京支部による犯人目撃、そしてそれにより犯人が誰か判明する・・・・

ここ数日、留まる事を知らずに次々と事態は動いていた。


樫木の父親を殺害した犯人はまだ分からない。

鈍器によって殴られた撲殺・・・・だが樫木ではないと私は考える。

樫木は実質、父親の死をきっかけにこうして全国手配されている。

自分で自分の首を絞める真似をするとは到底考えられない。


全国手配された樫木もいくら透明になれるとはいえ、

大きな動きは出来ないだろう。能力も割れてしまったのだから。


岐阜、大阪、新潟、埼玉、東京、神奈川を巻き込んだ大事件も

いよいよ大詰めを迎えようとしている。




ジリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリ!!!!





っと、電話だ・・・・折原からだ。ポケットからブルブル振動音が。



「はい、荒城」私はポケットからスマホを取り出して電話に出た。




「憲一く~ん、そっちはどーお?」



電話に出るなり、短大時代の陽気で甘いテンションで折原の声がする。



「あと30分もすればここの会社の責任者と話が出来る」



「そう。ねえ憲一君~、この事件終わったら、来週末のゴールデンウィーク

 どこかに遊びに行かない?マリンアイランドとか。ウォルターズランドでもいいよ♪」



「あぁ、久しぶりにいいかもな。・・・・だが、今は仕事中だ。そういう話は後でな」



「もう、憲一君は真面目なんだから・・・・

 こっちは今、休憩中だから電話してんのに」



折原の聞き慣れたふてくされた声が聞こえてくる。



「悪いけど、こっちは仕事中だ。折原」



「は~~~い」折原は残念そうに伸ばして返事をする。




「それじゃ、またあとでね、憲一君」




「ああ」




ピッ!



私は電話を切って携帯をポケットにしまった。

マリンアイランドか・・・・



私が子供の頃に聞いた話では90年代や2000年代初頭は汚かった東京の海。


だが、各所に配備された濾過水機という機械のお陰で

今では沖縄やハワイのようなあちらほどではないが綺麗な海と呼ばれ、

一昔前の汚い海のイメージを払拭している。



アメリカの大企業I.N社が開発した濾過水機は本来は

貧しい発展途上国の水不足を解決する目的で開発された物だが、

東京都もよりよい街作りと再開発のために目をつけてそれを導入。



更にその前々より建造されていた海上除染施設が完成した相乗効果により、

約3年で汚いと言われていた東京の海は一昔前より改善されたという。


そんな東京都の尽力もあって生まれ変わった東京の海に浮かぶ島に

更に4年かけて出来たのが海洋テーマパークマリンアイランド。


お台場からは離れた場所にあるが、そこは深海の楽園とも言うべき場所で

一大テーマパークの東京ウォルターズランドにはない

海底独特の装飾と演出で人気を集めている。

島の上にあるのだから、ちょっとした沖縄気分を味わえる。



あそこに入るだけならまだしも全てを楽しむには

やはりそれなりの金がいる事だろう。



折原には厳しく言ったが、今回の事件で3月から多忙ゆえに

今年のゴールデンウィークは

大きく羽を伸ばすのも悪くはないかもしれないな・・・・




そんなこんなで30分適当に時間を潰す私だった。

なお、現在の時刻は午後の2時17分。

この分だと帰りは15時過ぎぐらいになりそうだな・・・・



しばらく待っていると最初に会ったここの職員の者が

私に声をかけてきたので案内されて言う通りに従う。

案内されてついてきた先の部屋で

私は黒いソファーに座る責任者と話をする事が出来た。




責任者は背が高く、青い作業着を着た体格もいい中年の男性。

私よりも身長は高く、肌も焼けている。

髪は黒くて薄い。人情モノの映画の主人公のような渋い雰囲気を感じさせる。

黒いスーツに赤いネクタイをしている。怒らせると怖そうだ。



「あなたがここの責任者ですか?」私は尋ねた。



「ああ、あんたが事件調べてる捜査員か。座りなよ」



「よろしくお願いします」私は頭を下げてガラスの机を

 挟んだ向かいの黒いソファーに腰を降ろす。




早速、私は彼から樫木の経緯について聞き出していく。

彼から話を聞いていくと調べたい事は概ね分かってきた。



大学受験で失敗した樫木は就職活動の末に

この運送会社に運良く契約社員で入社したようだ。


契約社員で入社して以降、樫木は非常に真面目に

どんな職務も黙々とこなしていたという。とても素直だったとか。

最初はこの巨大倉庫をはじめとした内務勤務で仕事をし、

入社3年目の2029年から上司の意向でトラックの運転免許を勉強し取得、

翌年の2030年には外務での仕事もこなしていたようだ。


トラックの免許の取得資格は満21歳かららしく、仕方なかったらしい。


免許取得後も真面目に仕事をこなしていたが2031年の2月に

本人の意向で依願退職、勿論、責任者も一度は止めたが

『やりたい事が出来た』と本人の意志は固く、退職したようだ。


「これ以上、アイツのせいで無関係な人間が死ぬのは元上司として心苦しい・・・・

 どうか、アイツの頬を引っぱたいて逮捕してくれ、JGBの捜査員さん」


樫木の全国手配でこの事件の全貌を知った責任者も

まさかその退職した職員が、元部下がこうして3年後に犯罪者として

有名になるとは思わなかったようで話しているとそれゆえの複雑な心境を察する。

気持ちから離れるためか、寂しそうにライターとタバコを取り出し、

複雑な表情で火をつけてタバコを口にくわえている。



うぅ・・・・口には出せないがタバコの煙は苦手だ。

だが、せっかく時間とってもらってるのに苦言を呈す事は出来ない。


花粉といい、このタバコの煙といい、私にとって害悪な空気は多い。

だからタバコをよく吸う人間とはあまり付き合いたくないものだ。




「お忙しい所、ありがとうございました」




聴取を終えると私は一礼してその場を立ち去った。

別れ際に責任者からも「どうかお願いします」と改めて樫木の事を頼まれた。

私一人では出来ない事だが、長官達に代わって了承した。



やりたい事が出来た・・・・・か。

それでダークメア加入を経て、3年後このような事件を・・・・



2031年の時点で彼が抱いていた願望である"やりたい事が出来た"とは

具体的に一体なんなのだろうか。


何か・・・・・何かあるはずだ・・・・・言い訳でないとするのならば・・・・



疑問を巡らせながら、私は会社裏の駐車場に停めてあった

運転してきた車に帰り付き、帰路に着く。


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