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ソルジャーズ・スカイスクレーパー  作者: オウサキ・セファー
第二章 トリカブトの華
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第23話 見える接点

警視庁に今回の一連の事件に際して開いた説明会の翌日。今日は4月18日。

私は長官室の自分の机で書類の山を一枚一枚とって一枚ずつサインをして

その山を築きながら、ふと一昨日と昨日の事を考えていた。


正直な話、昨日の説明会はある意味、私の中で罪悪感とジレンマがそれぞれ錯綜していた。

情報は正しく伝えたとはいえ、ヴィルに嘘をつかせてしまったという申し訳なさ、

またこうしないと現状を打開出来ない、仕方ないというジレンマ。


ヴィルが管轄の東京支部がある新宿には歌舞伎町があるゆえに

独自の情報収集も可能とはいえ、真実を知っている者には辛い。


罪悪感も事が終わってから急にやってきた。

ヴィルの提案を彼に押されて首を縦に振った時は覚悟を決めたのだが・・・・




・・・・・だが、これで良かったのだと割り切ろう。もう。

仕事に精が入らない。このままでは・・・・・



しかし、複雑なものだ。少なくとも部下が調べた事にするなど、

ヴィルが私を説得してくれなかったら

私もこれには首を縦には振らなかっただろう。

現に、私は私の正義で自分で泥をかぶろうとしていたから・・・・・



でも、それもヴィルに言われて、彼とサニアの意見を飲む事にした。






あれから自覚した事がある。



・・・・私は少し不慣れなのかもしれない。



危機的状況の中で誰かにすがるという事が。



仕事上、誰かに何かを依頼したり、頼ったりする事はある。

しかし、それ以外の事で誰かに頼ったりすがる事はほとんどない。


概ね、ヴィルに言われた事がそのまま物語っている。

長官として皆の上に立つ以上、私は責任はとり、部下や組織、

そして国の治安を守るためには自分が泥をかぶる事も覚悟している。


弱音は厳禁だ。JGB長官として。

天才と言われていてもそう生まれたくて生まれてきたわけじゃない。


傍から見れば、まだ14歳の子供だ。

ゆえにそんな子供が強大な力を買われ、JGBという組織の頂点に立つからこそ、

甘えや弱音は厳禁だ。組織を束ねる者がそんな事ではいけない。



楠木さんの方が良かった、楠木さんは何を考えていたんだ・・・・

そういった不満が高まらないように。そういった文句も

言われたくないし聞きたくない。楠木さんに申し訳ない。



私は4年前からそうやってきた。

自分でやる事は自分でしっかりやっていた。


甘えや弱音は断じて吐かない。

楠木さん亡き後のJGBを守り、使命を守りたいと決めた時にも

完全にそう決めていた。彼のような強き長官になると。



しかし、ヴィル言われて・・・・気づいた。

私は少し囚われすぎていたのかもしれない。熱くなりすぎたのかもしれない。

使命や・・・・・責任、プライドというものに・・・・・・



最近の私は使命感と責任感に固執しすぎているのかもしれない。

JGB長官という使命感とJGBという組織の頂点に立つゆえの責任感。



ゆえに誰かにすがる事が出来ず、自分で泥をかぶろうとするのだろう。

また、楠木さんが今も生きていたのなら、そうしていたはずだから。



この意識は・・・・私があの人を失った時から始まっていたんだろう。

先代のJGB長官、楠木さんがレーツァンに殺されたあの日から。



私はあの人が死ぬ間際まで常に全てを託されてきた。

今思えば、私の使命感と責任感を強くする要因だったのかもしれない。



だがしかし、使命感と責任感は己を鼓舞する上で、

また長官としてやっていく上で必要な物だと私は考えている。



大組織の頂点に立つ者として規律を守り、組織の役割を理解し、

自分の置かれた立場を十分に自覚する事・・・これが一番大切だ。




あの後、考えに考えた。ヴィルは私に何を言いたかったのか。

それが少しだけ分かったような気がする。






コンコン。長官室のドアを軽くノックする音がした。



「どうぞ」



「失礼します。長官、お昼一緒にどーですか?」



私がドアに向かって声をかけると開けて入ってきて

気楽に声をかけてきたのはアークライト。

そういえば、ふと左の壁の高い位置にある時計を見ると12時20分。すっかり忘れていた。



「そうですね。一緒にお昼にしましょうか」



私も出来るだけ明るく返す。

せっかくだ・・・・彼女と一緒に昼食をとる事で

少し気考えすぎた頭が楽になるかもしれない。



私達は総本部内の食堂へと向かう。

だが、エレベーターで食堂のある階に下り、

二人で廊下を歩いている時の事だった・・・・



「・・・・ちょっと長官、お昼どきにすみません・・・・今よろしいでしょうか?」



慎重に静かに声をかけてきたのはモロヅミだった。


右手には何やら赤い分厚い本を持っている。



そういえば彼は三日間の忌引の後、ちゃんと通常通りに

出勤して来てる事はサカから聞いていたし、当の本人からも

諸木坂さんの葬儀、告別式には参列したという旨の話は聞いた。



「どうしました、モロヅミ。そんなに急いで」



「汗ダクダクですねえ。温度差激しいですから風邪引かないで下さいね。モロヅミさん」



横にいるアークライトが優しく彼の心配をする。

彼の顔は赤く、かなりの汗をかいている様子だった。



「長官、あなたを捜していました・・・・お伝えしたい事があって・・・・・」



「なんですか?」



伝えたい事?それに手にある赤い本は一体・・・・・?




「昨日、一連の事件の犯人は樫木麻彩って・・・長官達発表してましたよね?

 その樫木なんですけど・・・・」



彼の言う通り、一連の連続殺人事件の犯人は樫木麻彩だ。



この事は現在、JGB、警視庁だけが知っていて、

外部にはまだ公表していないため、

樫木の存在は世間には神奈川の事件の重要参考人として知れ渡っているが・・・・・









「自分の・・・・高校時代の同級生なんですよ」




「えっ!?」




「ええええええええ!?連続殺人犯がモロヅミさんの知り合いなんですか!?」



私は目を丸くし、アークライトはそれを聞いて驚愕する。




「しっ、アークライト。ひとまず場所を変えましょう。

 モロヅミ、事情を聞きます。お時間よろしいですか?」



「はい」



私はアークライトに口元の前に人差し指をあげて注意し、

モロヅミから了承を得ると二人を連れて

この近くの最寄りの面談用の小部屋に移動した。



これは尚更、話を聞かなければならない。昼食は後だ。



幸い、使われてない部屋が一つあったので、

中に入り電気をつけて、外に向けて使用中の札をドアにかけた。



私とアークライトは隣り合って座り、モロヅミは白い机を挟んで向かいの席に。



「では、モロヅミ。詳しい事を聞かせて頂けませんか?」



私が尋ねるとモロヅミは口を開いた。真面目で硬い表情で語り始める。

私達は彼から詳しい話を聞く事にした。



「はい。樫木は高校からの同級生です。

 殺されたツヨシ・・・いや、諸木坂とは違い、

 特別仲良しだったというわけでもありません」



「おんなじクラスメートだったりはしたんですか?」



横のアークライトが私の代わりにモロヅミに質問した。



「はい、一年と三年は同じクラスでした。いつも友達がいなくて一人で仲間外れ、

 不良グループにいじめられてたりとか不憫な意味で目立ってましたね。

 無口で暗い奴ですが、いじめられて怒ると凄い怒鳴っていたのを覚えています」



「不憫、ですか・・・・・・・具体的には?」私が尋ねる。



「一年の頃は毎日のように絡まれてサンドバッグ状態、悪口、暴力はいつもの事、

 教室で一人泣き崩れていた事もありました。

 ただ勉強は出来て先生からは褒められてましたね。

 ノート綺麗だとか、定期テストも軒並み上位の成績だったり」



「・・・・それぐらいの実力を持っていてもいじめられたんですか・・・・?」

アークライトが再び彼に質問をする。

何だかアークライトも少し辛そうな様子だ。



「はい。不良達も樫木に嫉妬して、そればかりか

 ほぼ全員が「なんであんなのが」って偏見の眼差しで見てましたね。

 おまけに怒ると激しくキレるアイツは周囲から面白がられて、

 次第にネタキャラな感じになってました。本人は真面目に起こってるんでしょうけど」




樫木はかなり暗い高校生活を送っていたようだ。

いじめられていたという実体験がある・・・・・それだったら、イジメに対して

強い憎しみや嫌悪感を抱いてもおかしくないと言える。

面白がられていたのも樫木本人にとっては非常に不服だった可能性が濃厚だ。



「モロヅミは樫木の事をどう思っていますか?」



私は引き続きモロヅミに尋ねた。

モロヅミから見て、樫木をどう思うのか・・・・それが気になった。



「それは・・・特別友達ではなかったですが、クラスメートかつ同じ学校の同級生だったので複雑です・・・・

 こんな事を早くやめさせて自首させたいですよ・・・・

 問い詰めたいです、たとえこの一連の事件が復讐や世直しのためだとしても

 どうして諸木坂を・・・・ツヨシを標的にしたのか・・・・」



「モロヅミさん・・・・・・」



辛い胸中を語るモロヅミをアークライトも心配した様子で見る。



「諸木坂さんが殺された理由に思い当たる節はありますか?」私は更に尋ねた。



「・・・・自分の記憶だと、諸木坂と樫木は接点はなかったです・・・・

 たぶん、どこかで交流があったのかもしれませんが、分かりません」



モロヅミは取り出したハンカチで自分の横から流れる汗を軽く拭いながら答えた。 



「樫木と話す機会が来たら直接訊きますよ。なんで殺したのか・・・・」 



「なんでこんな事になってしまったのか・・・・本当に訳が分かりません」



モロヅミの言葉からは悲しみと同時に友人を想う心をひしひしと感じた。



「・・・・ああ、長官に見せようと思って。これ、自分の高校の卒業アルバムです」



モロヅミはふと思い出したように机の上に先ほどから持っていた

赤い分厚い本を置き、私達の前に、テーブルにそれを置き、開いて見せた。

開かれたのは生徒と教員の顔写真が並ぶページだった。



「あ、もしかしてこれ当時のモロヅミさんですか?あまり変わってませんね~」



アークライトが何か楽しそうにモロヅミの顔写真を見つけて右手で指差した。



「ええ、まぁ・・・・そうですね。卒業して回りが

大学や専門学校行く中、俺だけJGBですから。チャラい感じは避けてました」



少しだけ照れくさい様子のモロヅミ。

私もそれを見てみるが今よりも顔つきが若々しさを感じる。



「こちらが・・・高校時代の樫木・・・・」



二人が楽しそうに話してるのをよそに私は樫木の写真を右手で指差した。




縦長顔のモロヅミと違って、髪も丸く少しかかるぐらいで

メガネをかけており、鋭い目をしている。


既に公開されている写真とはあまり変わっていないが

モロヅミの写真同様、若々しさを感じる。



また、表情はモロヅミ同様、笑ってはいない。



「ご友人が殺人鬼に変貌してしまうとは、とても思わなかったでしょうね・・・・・」



「はい」



私の悲観に満ちた言葉に対して、モロヅミは頷いた。


続けて、私は各写真の名前部分を見て、もう一人を探した。

そう、諸木坂だ。モロヅミや樫木と同じく、若さを感じる写真だ。


髪型も遺体で発見された時と同じような髪型。

ショートヘアーの黒髪で前髪もサラサラしていて、顔立ちも整い、美形だ。



「失礼、他のページも見て構いませんか?」



私は他の写真も見たくて断りを入れる。

この中に樫木の高校時代の記録が少しでも

残されているかもしれないと思ったから。



「はい、構いませんよ」モロヅミはそっと頷いた。



「では、失礼します」



私はそう言ってアルバムのページをめくった。

他にもあるだろう、樫木とモロヅミ、諸木坂の写真を探すために・・・・・



モロヅミの思い出が詰まったアルバム。

そこから先ほどの顔写真を元に三人の姿を確認していく。



他人の卒業写真から目標の人物を探して

確認するなど、自分にとって造作もないはず。



だが、アルバムを見ていると同時に押し殺せないほどの

虚しさが徐々に私の中でにじみ出てきた。


入学式、運動会、文化祭、移動教室、修学旅行、卒業式・・・・などなど。


モロヅミの学生時代の記録がこの本にはしっかりと記録されている。

自分がこれまで見聞きした情報と自分がこれまで歩んできた人生、

そしてこの本を見ているとどうしても虚しさが溢れてしまう。



自分の考えていた事と自分の人生が彼、つまり普通の人間とは違う事に。




・・・・私は学校という場所に通った事がない。

私は生まれた時からドイツの軍事施設におり、そこで育てられていた。

バーチャル空間上で実戦のための戦闘訓練は勿論のこと、

部隊の指揮戦闘のミッションなどを幼少期から。


高度な数学の計算問題もやらされたし、

国語、社会、科学、化け学、政治、経済・・・・

あらゆる高度な学問をひたすらやらされた。


だが、私にはそれも容易い事だった。



なぜだか問題を見て自然と浮かんできたのだ、答えが。

それを導き出す過程までがスラスラと。


まるで勉強した記憶がどこかにあるように。

勿論、戦闘訓練や指揮訓練も例外ではない。


訓練も目の前の課題も、困難を極めるものもあった。

だが、考えれば対処法などが答えとなって自然と浮かび出てくる。



それらは当然、ただの幼い子供にはとても無理な代物だ。

だが、私は出来てしまった、無意識に。

施設内にあった難しい論文なども読み切って理解してしまった。



難しい数式だって解いてしまった。



本当に無意識だったが、後になって

自分の存在がどういう物かを知り、戸惑った。



何のために私は生まれてきたのかと。私は誰なのかと。



だが、そんな私にも神の幸運がついていたのかもしれない。

現に私は楠木さんと出会い、才能を見出されて結果的にここにいる。



私の生い立ちは・・・・それ相応の学力や力は持っていても

学校という場所とは無縁の環境で育ったと言えば分かりやすいだろう。



そんな自分にはあまりにも新鮮で実際は憧れの光景が

このアルバムには詰め込まれている。



虚しさ以外にも羨望な心も溢れ出ているのかもしれない。今の私には。


皆が楽しそうだ・・・・青春という思い出を謳歌している。


青春・・・・意味は知っていても、体験した事がないものだ。



だが私の場合、どうあがいても学校には行かせてもらえなかっただろう。

そもそも英才教育に力を入れるドイツ軍の施設で生を受けた時点で。



「長官」



「は、はい?」私は横から私を案ずるアークライトの声に反応してそっちを向いた。



「なんかアルバムじっと見て、泣きそうな顔してますけど・・・・どうかしましたか?」



い、いけない。アークライトに見られていた。

アークライトがこちらを心配して見ている。



「な、なんでもありません!!ちょっと、思う事があっただけです」



私は慌てて手で軽く自分の目を拭き取り、彼女から顔を背ける。



「ふふ、いいんですよ、長官。悲しくならなくても」



「え?」



「長官は・・・・学校という物に親しみがないから・・・羨ましいんでしょう?」



「そ、それは・・・・・・」



少し寂しげに優しく私の本音を突くアークライト。

この虚しさの大元はたぶんそれなのだろうか。

ぐっ・・・・本音を突かれた恥ずかしさからその本音が出せない。



「私には長官の気持ちがわかりますよ。

 長官だけじゃないんですよ・・・・・生まれゆえに

 スクールライフを完全に楽しめなかった人間は」



アークライトの優しさのこもった穏やかな声に少しだけ安らぎを感じる。



「え・・・・・・・・」



「アーク博士、あなたは聞いた話だと長官にスカウトされる前、

 アメリカの大学にいたではないですか。それもかなり名門の・・・・」



モロヅミがアークライトの境遇を信じられないのか尋ねた。

今まさに私も思わず尋ねようとしていた事だ。



「はい、長官もモロヅミさんもご存知の通り、私は確かに大学にいましたけど、

 モロヅミさんの経験された事はほとんどしていません。研究に公演ばっかりで」



少し眉をひそめるもぎこちない笑顔を作るアークライト。

だが、それを聞くとさっきまでの虚しさが少しだけ和らいでくるような気がした。



同時の意外だった。彼女も学校という場所には

普通の人間と同じようにとはいかないとはいえ、

ある程度親しみがあるとばかり思っていた。

才能を買われ、10歳で大学にいたほどの彼女が・・・・


だが、実際そうじゃないと分かると少しだけ

孤独感から開放されたような気分になる。

そういう面でも私と彼女は似た者同士なのかもしれない。


歩んできた道は違えど私とアークライトは生まれながらの天才と称されてきた。

ゆえに通常の人間とは違う世界を歩んできた。

私はドイツ軍で、アークライトはアメリカの大学で・・・・


2年前、彼女と出会い、武器密売組織ユナイテッドとの

戦いを通して通じあった際も私と似た物をどこか感じた。

スカウトという意識だけでなく、次第に友になりたいという気持ちもあった。



改めて私は・・・・アークライトと出会えて良かったような気がした。




私達はその後も気を取り直して、アルバムを通して一枚一枚、

モロヅミ、諸木坂、樫木・・・・特に樫木が写っている写真を確認していった。


アークライトがよくこの頃のモロヅミに反応して楽しそうで雑談を繰り広げ、

モロヅミも彼女の反応に面白そうな顔をして対応している様子だった。

私は私でこの頃の樫木を確認していく。


たぶん、アークライトは興味津々で仕方がないのだろう。

科学者ゆえだろうか。好奇心旺盛という言葉が似合う。

また、経験していない事だからでもあるだろう。




私がこの頃の樫木を見ての感想としては至って普通。

ただモロヅミに改めて訊くと彼曰く、彼に対するいじめは

もはや当たり前だったらしいのでそれは行事の中でも行われていたのだろう。



同時にいくつか疑念が出てきた。



果たして、彼はこの頃はソルジャーだったのだろうかという事だ。

ソルジャーは先天的な者と後天的な者がいる。

前者は生まれつきのソルジャー、後者は覚醒してソルジャーになる。


覚醒する理由は私も知らないし、明らかにもされていない。

ただ、一つ・・・・覚醒すると髪の色や目の色などが

覚醒前と変わる事があるというデータがある。

それは千差万別であり、人によって違うという見解が

ドイツに置いてあった研究資料に書かれていた。


無論、覚醒しても体に変化がないという記述もされていた。



なぜ、人はソルジャーに覚醒するのか。そして、ソルジャーで生まれるのか。

私がこれまで読んだ本の中に未だに記憶の片隅に残っている一文がある。



覚醒する理由はその本の筆者の推測や解釈と思われるが、


その本には『神に選ばれ、神から祝福を受けた事』によるものと書かれていた。



また、ソルジャーとして生まれる理由もそれであると。



恐らく、神を信仰する言い回しから、本の筆者は

何かしらの宗教を信仰していたに違いないと私は考えている。



因みに私は自分自身を特別神に選ばれた存在とか、その神から

特別祝福を受けた存在とは到底思っていない。



自分自身の事は神ではなく、私が一番よく知っている。





今の所、彼がこの高校時代の時点でソルジャーである可能性は中といった所か。

どちらとも言えない。警視庁が発表した現在の樫木の顔写真と

比較すると年による若干の変化ぐらいだ。髪の色も瞳も黒で変化がない。


今のモロヅミのように若さ以外はあまり変わってはいないのと同じ。



警視庁から提供された資料によれば、

樫木は高校卒業後に都内の運送会社に就職している。



モロヅミ曰く、定期テストも軒並み成績もいいと評判の樫木。

大学、あるいは専門学校などへの進学は考えなかったのだろうか。





「モロヅミ、情報ありがとうございました」



ひとまずアルバムを一通り見せてもらって話を聞いた所で私は彼に礼を言った。



「いえ・・・・・自分も樫木が全国手配されてるニュースを見て、

 慌ててアルバムを探して来たので・・・長官に伝えられて良かったです」



・・・・・・モロヅミとの話を終え、彼と別れて

静まった廊下でアークライトと二人きりになる。

私の後ろをアークライトはそっとついてくる。私はそっと小さく声をかけた。



「アークライト」




「どうしました?長官」




私は立ち止まり、向き直った。




「ありがとうございました。先ほどは。あなたも・・・・

 私と同じなんですね・・・・・」




「はい。長官だけじゃないですよ。生まれ、境遇ゆえに

 スクールライフや本来、過ごすべき時間を周りの人達に奪われてしまったのは」



穏やかで優しさが溢れた声でアークライトはそう言った。



「そうですね・・・・・自分だけがそうだと思っていました。 

 あなたが言ってくれなかったらあなたの本当の学校生活も分からなかったと思います」



「分かってくれたなら私も嬉しいです。

 さ、暗い話よりもお昼を食べませんか?長官。お昼休みがなくなっちゃいます。

 私は・・・・なるべく長官には笑っていて欲しいんですよ」



アークライトは私のそばまで歩み寄り、ニッコリと笑った。

 


「分かりました、行きましょう」



私も笑って返す。二人で食堂に向かって歩いていく。

食堂にの賑やかな飛び交う声も私の気持ちを明るくしてくれる・・・そんな気がした。


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