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ソルジャーズ・スカイスクレーパー  作者: オウサキ・セファー
第二章 トリカブトの華
51/120

第19話 全容

突如、かかってきた犯罪組織ダークメアのボス、レーツァンからの電話。

彼からの電話により、次々と今回の事件の全容が明らかとなった。



通話で彼と交わしたやりとりを記憶の脳裏に蘇らせながら、

私は長官室で一人、今後に向けての整理をしている。



一人で考え事がしたいので部屋には私一人しかいない。

いや、一人にしてもらったというのが正しいか。



この後、今後の方針をサカやヴィル達にも話し、

警視庁にも早くこの一連の事件の犯人が誰かを説明をしなければならない。




レーツァンの話から、一連の事件を引き起こした犯人が誰かであるかが確定した。


全くの初耳ではなく、それはつい最近聞いたばかりの名前だった。

また、その情報はいくらあのレーツァンの情報とはいえ、

偽情報とは思えなかった。



なぜなら、これまでの情報と照合すると確かに辻褄が合うからである。



私とレーツァンの会話。それが頭の中で再び蘇ってくる・・・・・












「お前達が追ってる連続殺人犯・・・・いや、イジメ報復殺人犯か・・・・

 そいつの名前はな、樫木麻彩がしき まさやってんだ。

 聞き覚え・・・・・あるだろ?」




「樫木・・・・麻彩・・・・・」




私はその時その名前を呟いた。それが今回の事件の犯人・・・・・

聞いた瞬間、どこかで聞き覚えがある名前だった。


そう、この名前ならば、つい昨日テレビで聞いたばかりだった。

だが・・・・・・そんな事よりも・・・・・



「・・・・っていうか、なぜあなたがこれを

 イジメ復讐殺人だと知ってるんですか!!!非公開情報ですよ!?」



私は犯人の名前よりもまずはそれに強く突っ込んだ。



「フヒャハハハハハハ・・・・!知っているから知ってるに決まってんだろォ・・・?」



「情報なんてモンはいくらねじ伏せようが一度表に出ればどこかに

 眠ってる物なのさ・・・パズルのピースのようにその一枚一枚が・・・

 埋もれたゴミの中で眠ってるダイヤのように眠ってるんだよォ・・・・フヒャハハハハハハ!!!」

 


・・・・諜報部も裏社会の情報網を多少使ったと聞いてはいたが、

そこを根城にするレーツァンもまた、どこかしらで情報を掴んでいたか・・・・

教育統制委員会の圧力による隠蔽工作も裏社会には

完全に手が届いていないようだ。



それはともかく、先ほど彼の口から出た樫木麻彩という人物。


警視庁が今、別件で昨日から全国手配している

神奈川の閑静な住宅街で起きた殺人事件の被害者の息子の名前。


私も昨日ニュースで見たが既に名前と年齢以外にも顔写真が公開されていた。

誕生日は2月28日、年齢は27歳。


短髪の丸い黒髪で丸いメガネが特徴の青年だったのを覚えている。



それでこの樫木麻彩が今回の事件の犯人だというその根拠は

この後、レーツァンの口から直接聞かされた。




樫木をよく知るという彼の証言により樫木の言動や思想、その能力が明らかとなり、

それとサニアが新直尚隆の住むマンションで目撃した

透明の敵の特徴とこれまでの得た情報、

それら全てを照合した結果、彼が犯人で間違いないと私は確信した。



私の中で決め手となったのはその能力と思想、彼の経緯だった。

レーツァンは一連の経緯を私に語った。



「樫木麻彩はおれの元部下だ。3年前、おれのとこに媚びてきて

 使える奴だったからその能力を買って手下にしてやった。

 優秀にしっかり裏仕事をこなす使える奴だった・・・・だが!!

 今年の頭から手のひら返しに図に乗って付け上がりやがったのさ・・・・」



「何があったのですか?」



手のひら返し・・・・・

優秀に仕事をこなす真面目だったが、豹変したと私はこの時解釈した。


樫木は何か、別の目的でダークメアに入り、

レーツァンを裏切るつもりだったんだろうかと私は思った。


するとレーツァンは苛立ちを隠せない様子で続けた。



「思い出すだけで頭が痛くなる奴だ!!!!

 おれ達に教育統制委員会を潰そうだの何度も何度も偉そうに主張し、一向にやまなかった」



「未来のガキのためだの教育のためだの・・・・・・

 おれ達も本当に興味ない下らない事ばかり言うようになった・・・」



「当初はおれ様の寛大な心に免じて能力だけは使える奴だからと放置したが・・・・・

 次第におれも気に入らなくなって1月の半ばに、おれ達は奴を組織から永久追放した」




樫木麻彩は"元"ダークメア構成員。

レーツァン自身もその態度から樫木の性格を相当良く思っていないようだ。


今まで諜報部にも情報が入ってないとするとこちらの目を撒いて

見えない場所で、レーツァンの特命で細々と悪事を働いていたのかもしれない。


優秀で真面目らしいが、今年になって彼に対して反イジメを訴える政治主張を繰り返し、

組織の方針から対立、場も弁えない態度を嫌悪されてついには組織から追放されたそうだ。


ヴィルが新直の住むマンションで拾ったバッジを持っていたのもまとめサイトの

パスワードが[darkmere]だったのも・・・ダークメアに所属していたゆえだろう。

一連の事件の濡れ衣をレーツァンに着せる事で我々の捜査をかく乱する策だったのだろうか・・・



だが・・・・"永久追放"と聞いて、私は真っ先にその言葉に食いついた。



「結局・・・・あなた方が全ての元凶ではないですか!!! なにが永久追放ですか!!!

 あなた方が放った男のせいで7人の人間が死んだんですよ?分かっているのですか?」



「うるせェ!!!殺すつもりで処分はしたに決まってんだろォ!!

 永久追放はもう二度と組織に帰ってこれない処分だ、とことんやった。

 だが、死んだと思っていたはずが、それでも生きてやがったんだよ、アイツはな!!!」



レーツァンは私に対して激昂し、反論した。



「どういう事ですか!!!奴にした事を詳しく教えなさい!!!」



「追い討ちをかけて、動けなくなるまでボロボロにして、気絶させ、手荷物を全て没収して

 テキトーに遠くへ捨てたよ・・・・まともな食いもんも飲み物も

 有りつけない二度と戻ってこれない場所にな!!!

 それで餓死して苦しみながら死ぬ事がおれ達がアイツに与えた罰なのさ・・・・!」



「・・・・・・・なるほど。あなたのやりそうな事ですね」



私は冷たい口調で返した。

4年前、楠木さんを殺したコイツもただ楠木さんを不意打ちで暗殺したわけではない。

その後、岩龍会の傘下入りをした後の犯行もどれも残虐で冷酷なものばかり。


敵をいたぶって苦しませ、餓死させるような方法は

いかにもレーツァンらしいと言える。



また、いくらソルジャーでも腹は減るし、食べなければ餓死もする。

能力を駆使して他の方法で栄養を得られるならまだしも、

体を透明にする能力を持つ樫木には飲食以外で栄養をとれるとはとても思えない。



まともな食べ物も飲み物も有りつけない場所・・・・・

かつ生存及び帰還が困難な場所・・・・彼は適当に遠くに捨てたと乱暴に言っていた。

どこか、人がいない無人島、孤島あたりだろうか。



どのような場所かは不明だが、そのような環境から一体、

なぜ、どうやって樫木が生還したかは謎だ。

が、それは樫木本人から聞き出す他ないので、今はあまり考えないでおく。



ダークメアは関東を活動範囲にしているが、

岩龍会がバックにいる以上、船やヘリを借りて

小笠原諸島近辺に樫木を捨てる事も不可能ではない。

奴らに与する団体の中には船や潜水艇、襲撃用のヘリを所有している所もある。



とにかく、どこに樫木を追放したかについては

これ以上、追求しても私にとって不愉快な話しか出ない事、

また、重要性を感じないのでこれ以上追求はしないでおいた。




それに、どんな場所に追放したであれ、結果的に

このような事態に発展している以上、訊いても仕方がないと思った。

結果的に彼らが樫木を放ったようなものだ。



それに樫木を捕まえれば、レーツァンに訊くよりも

一連の経緯はより明確に分かるだろうと思った。



彼は樫木を追放し、死んだと思っていた。

が、その樫木は何故か復活を遂げてこのような事件を引き起こした。

それだけで十分だ。





レーツァンの話から分析すると、樫木は本心はというと、

押しが強く自己主張が激しい自己中心的な性格のようである。


レーツァンに声をあげたのは正義感からか、それとも憎しみからか。


一体、何が彼をそうさせたのだろうか。なぜ彼はそうなったのか、

そもそもの事の発端が分からないか私はその時彼に訊いてみた。



「去年の12月の末にどっかの学校でガキが死ぬ自殺事件があった・・・・知ってるだろう?

 そしたらそいつはその事件の影響を受けたのか、もうに二度とそのような事件が起こらないよう

 運動起こすとバカで無能な考えに至ったようだ・・・・」



呆れた口調で語るレーツァン。

その態度から、樫木は彼から見てかなり惜しい人物のようであった。



去年12月末の学校で起こった自殺事件・・・

そのニュースは微かに聞き覚えがあった。

確か、場所は千葉にある市立中学校だった。


12月の冬休みに男子生徒が自ら屋上から飛び降り、イジメを苦に自殺した

イジメ自殺事件があったと小耳に挟んだ記憶がある。


この時は私も普通にたくさんある悲惨な出来事の

一部分と捉える事しか出来なかった。

が、まさかこんな事になるとは・・・・・



因みに今回の連続殺人事件が起こった3月頃には

忘れ去られたかのように全く報道されていなかった。

一度報道されてそれ以降、報道されていたかどうかが怪しく、

私の記憶ならその一度しか耳にしていない。


毎日読んでいる新聞にも記載されていた記憶がない。

これが教育統制委員会の圧力という物なのだろうか・・・・・




レーツァンの話から私的に解釈すると、

組織にいた当時の樫木の目的は

推測される今の目的とは少しだけ異なっている。



ダークメアにいた頃の樫木は復讐の矛先をイジメ自殺事件の加害者側ではなく、

あくまで事実の隠蔽を図った教育統制委員会にしか向けていない・・・

組織を追放された後に彼が教育統制委員会に関係する施設に

襲撃を企て決行したのなら、とっくにその報がこちらに届いているはずだ。


追放されて心境に変化があったのだろうか・・・・どちらにしろまだ分からない。

教育統制委員会と加害者達、恨む方向は似ているが方向性は違う。

だが、イジメという行為を憎んでいる事は変わらないだろう。



そして、私はこの後、レーツァンに樫木が

ソルジャーなのかを確かめた後、彼の能力について訊いた。

やはり樫木はソルジャーだった。

彼が言っていた"能力"とはやはりその力の事だった。



この話がより、私の中で彼が犯人だと確信させる決め手となった。



「・・・・・樫木は薄色のソルジャーだ。自分の体や触れている自分の実体以外の物を

 視界から消して透明にする能力を持っている・・・・隠密能力だけは最高の能力だ。

 おれ様はそれを買って3年前、自分から頭下げて志願してきたそいつを部下にしてやったのさ」



樫木の能力が分かった途端、これまでの不可解な事件の謎が解けた。

紛れもなくヴィルやサニアの証言と同じ能力だった。



ヴィル達から新直のアパートでの出来事の話を聞いた時点で分かっていた事だが、

透明になる事で姿を消し、襲撃し、ナイフで対象を刺して殺したんだろう。

現場で怪しい人物の目撃情報がなかったのもそのためだ。

警察や付近の住民にもまず気づかれる事はない。


触れている物も透明に出来るという事は

そのまま死体を担いで移動しても視界から怪しまれる事はない。

触っている物にも作用する能力は私と同じなようだ。


新潟で鬼築正和と武高川浩一の遺体が

海岸と山奥に遺棄されていたのもそのためだろう。

第三の事件では実体までは消せないゆえに海岸にゲソコンが残った。



大移動に車を使用した可能性は低いと考える。

いくら透明だろうとどんなに静かに車を走らせても音までは消せない。


エンジンの音やタイヤの音など痕跡を残しやすく、

それなら何かしらの不信な目撃情報もあるはず。

見えない車ゆえに他の車とも接触して事故を起こしやすい。



ソルジャーは常人よりも体力と戦闘能力がある。鍛えればそれは特に研ぎ澄ませる。

体力もあり、その透明の能力ゆえに遠くまで担いで屋根の上を飛んだりして

移動しても誰にも見られる事なく移動出来る事も視野に入れよう。



新潟では何かに包むか大きな袋などに遺体を入れるなどして

痕跡が残るのを避けたのだろう。ゆえに道中に血痕はなかった。


ただ、第四の事件では現場へ続く山道に血痕があった事から

袋ではなく、何かに包んだ可能性が高いと見るべきか。

遺体を包んで、それでも中から血痕が流れ出たと考えれば、合点が行く。


なぜここだけ痕跡を残したのかは不明だ。

複数犯の犯行と見せかけるためにミスと見せかけた

カモフラージュだったのだろうか。




サカには残念だが、これでI.N社が開発した光学迷彩を盗み、

使った者が犯人だという彼の推理も廃れた事になる。


だが、これで良かったと思う。

I.N社が第三勢力として捜査線に関わってくる事もない。

理由は、単純に様々な勢力が今回の件に関わってくるほど

事態は簡単にはいかなくなるからだ。



特にI.N社が関わってくれば、最悪、岩龍会よりも厄介である。




最後に私はなぜレーツァンが我々に情報を

提供してくるのかを改めて尋ねた。本当に裏はないのかと。



「裏?ないね」そう笑わずに断言するレーツァン。



「おれ達はただ、捨てるには惜しい奴だった樫木を

 絶望させるぐらいに追い詰めたいだけ・・・・

 "共通の敵"なんだからこうして手を貸してやった・・・ただ、それだけだ」



振り買ってみれば、こいつに手を貸してもらうなど・・・・・礼も言いたくない。

だが、事件解決のためだ・・・・・ここは堪えた・・・・・


私が彼の話を聞くとそう、判断を下したのだから・・・・責任は私にある。










こうして、私はレーツァンとの通話を終えた。

共通の敵と言っている時点で何かしら裏はあるようだが・・・・・関係ない。

そもそも危ない橋を渡る事は覚悟の承知。


個人的な恨みなどは抜きにして、

意外にも彼の話は真実に大きく近づく内容だった。



とにかく、この情報は警視庁には元は公表せず私が独自で調べた事にしておこう。

犯罪組織から提供された情報をそのまま伝えるほど愚かではない。

日本の治安を預かる組織が犯罪組織の手を借りたという事にはなりたくない。



私は人を失望させる嘘は決してつきたくない。

ましてや汚職なんて論外だ。



最も、この考えの時点で汚職なのかもしれないが・・・・・



だが・・・・・こうして一連の事件の真実を知って

それをあえて隠して、また樫木が原因で人が死んだりすれば、

それだけでも非難の対象となり、表社会に不安をもたらす要因になる。



一刻も早くこの事件を解決させる以上、手段は選んでいられない。

出処よりもまずは・・・・・・



私は考える。タブーな事だからと悠長な事を言っていれば、

それだけで手遅れになると。だからやるしかない。



JGBの長官としてこれが問題になるなら、しっかり責任をとる。長官として。

事態が最善の方向へと進めるのなら、私は自ら泥をかぶる事も断じていとわない。




現にあの人・・・・楠木さんがレーツァンに殺されず、

今も生きていたのなら・・・・そうしていたはず・・・・・





私は考えを固めると長官室をそのままそっと出た。

長官室の入口にある部屋は高級な木造の壁で装飾されている。


来客用に赤い絨毯の上には三人用の黒いクッションのソファー二つ。

それらは向き合い、その間にテーブルを挟んだ待合室となっている。



そこにはサカ、ヴィル、サニア、アークライト、折原部長が待っていた。

皆が黒いソファーに腰を下ろしている一方で、

ただ一人、サニアだけは両手と背中をソファーに

思い切り預けるヴィルの隣に立っていた。



「考えはまとまりましたか、長官」



私から見て、一番最寄りに座っていたサカは

静かにソファーを立ち、そう言いながら私の傍へ歩み寄る。



「ええ。レーツァンの情報に従って、JGBの方でも樫木麻彩を追います」




警察サツにそれはどう伝えるんだ?あちらの世界で

 有名な大犯罪者から情報もらったと知れたら大問題だぞ?」



ソファーにぐったり腰掛けながら、

ヴィルが先ほど私も内心懸念した事を話題にあげてくる。



「それを隠して、私が自力で調べた事にします。

 それならば問題はないでしょう?」



私が責任をとれば問題はない。私が泥をかぶればいい。

誰かにせいにする事なんて出来ないのだから。



「フォルテシア、お前みたいな優等生にはそういうのは似合わねえよ」



皆の一番上に立つ長官だからこそなのではないだろうか。

私は覚悟を決めていた。だから反論する。



「ですが、ヴィル。こうするしかないのです。グズグズしていれば、

 また樫木麻彩に同様の犯行を許してしまいます」



「だからさ・・・・・」



呆れた声でそう返すとヴィルは席を立ち、私の前へと

かったるそうな顔でゆっくり歩み寄ってくる。

その顔はやる気のなさよりもむしろ呆れているようにも感じた。



サカはその場から一歩下がった。

そして、ヴィルは右手親指で自分の胸を指した。



「ここはオレに任せろ」




自信溢れた様子でそう言った。




「え・・・・・・」




任せろ・・・・?ヴィル、まさか・・・・・・




「フォルテシア、お前はJGBの看板だ。その顔に泥がつくのはオレも困んだよ」



「昔っからそうだ・・・・お前が平気で誰かを傷つける嘘をつくとは思えねえ。正直だ。

 本当は責任感だとか使命感だとかに囚われて・・・・仕方なく自分を奮い立たせて、

 どんなデカイ泥もかぶろうとしてるのが顔に書いてあるぜ」



軽く笑い、右手を下ろし、私を睨みつけ、次々と私の心を突く言葉を連発するヴィル。



「ヴィル・・・・・・・・・」



ヴィルの名前をポツリと口からこぼすだけで反論出来ない私。

ヴィルの言ってる事は確かに言われてみればそうだ。そうだが・・・・・・




「ヴィル。お前、自ら汚れ役となるつもりなのか?」



サカが横からヴィルに問う。するとヴィルは呆れた口調で、



「でなきゃこんな事言わねぇよ・・・副長官。

 部下がコレとは別で調べた事にすれば全部すんなり解決だろうが」



「そうすれば、わざわざそこのお嬢ちゃんが

 こんな事で体張って嘘をつく必要もない」





「ヴィル・・・・・・・」




ダメだ、名前の後に言葉が出ない・・・・

長官として・・・・しっかりしないと・・・・・・



「オレはお前みたいに清純な心で生きてきた覚えはねえ。

 フォルテシア、ここは汚ならしく生きてきた奴の役目だ。オレに任せろ」



ヴィルは再び私の方を向いて語りかけてくる。

彼の顔色はどこか落ち着いている。



「私に手を汚させたくないと・・・・?」



「そうだ。お前がこんな事で、しかもあんなパンクピエロのせいで

 仕事に泥塗るほどみじめな姿は似合わねえ。

 JGBのトップとして・・・お前は眩しいぐらいに凛と構えてればいいんだよ」



「!?」



荒いが真剣さを感じるヴィルの言葉の数々。

それらが私の心を揺さぶる。



部下の頼もしさとその心強いと思う心もそうだが・・・・・・

それよりも・・・・形はどうあれ・・・・

ヴィルのその姿勢は・・・・・心に響くものを感じた。





・・・・・彼の提案も、受け入れるべきなのかもしれない。

私のために・・・・私の事を思ってそう申し出てくれるのならば。


少し、子供扱いされたような気はするが、

それよりも・・・・・彼の熱意を尊重するべきなのかもしれない。



しれないが・・・・・・本当にこれでいいのか?



長官として、部下に泥をかぶらせていいものなのか?



「長官、ヴィルのフォローはこの私がしますので。

 ここは我々に任せて下さい」



更にヴィルの傍らにサニアがやってきて口を挟んできた。

物静かな口調だが、彼女もやる気なようだ。内に秘めた炎が垣間見える。

さては、私のやろうとしてる事を見越して・・・・・



「ヴィル、サニア・・・・・・これは私の行動を見越しての事ですか?」



私は二人の顔をそれぞれ見て尋ねた。気になる。

照れくさくなったようにヴィルは両手をスーツのポケットに入れて後ろを振り向く。



「・・・・・だろうなと思ってただけさ。

 お前はいつも真面目すぎる。優しすぎるとも言うべきか?回りに遠慮して自分で泥をかぶろうとする。

 重いモンを自分だけで背負い込もうとする・・・・苦しい事や辛い事を誰かと分け合いもしない・・・・

 そういう何でも背負い込むお前の悪い癖に・・・・ウンザリしただけさ」



「ヴィルが決めた事ならば、私は魔界だろうとご一緒する所存です」



「二人とも・・・・・・・」



私のために・・・・二人は私に代わって問題を肩代わりしようとしてくれている。

同時に私は必要とされている・・・・JGBのトップとして。




この事件を解決するには、早く警視庁に先ほどの情報を話して、

樫木の全国手配が始まった今、より強固な協力体制を築いていく必要がある。



二人が汚れ役を買って出てくれているのならば、

それに答えるのもまた、一考なのかもしれない。




部下に重大な責任を押し付けるのは抵抗があった。

また、長官として、とるべき責任はとらなければならない。



だが、ヴィルに心を見透かされて、諦めがついた。




私は覚悟を決めた。




「・・・・二人とも・・・私のために申し訳ないですが・・・・・」




「お願いします」




私は二人を見て、申し訳ない気持ちで静かに二人に命じ、頭を下げた。




「全く、お前は水臭ぇんだよ。長官なんだから頭を下げんな?」




私をけなすように、また、私をからかうように返すヴィル。



「別に水臭いというわけではありません・・・・・!

 私は長官として当然の事を言っただけで・・・・頭を下げるのも当然です!」




私はすかさず顔を上げてムッとなって言い返した。




「はいはい。勿論、さっきのに二言はねえよな?」




「ありません!!もう、いいから続けましょう!!」



私は頬を赤くして大きな声で返し、話し合いを継続させようとした。

上に立つ長官として当然の事を言ったまでだ・・・・

だが・・・・ヴィルの心意気にすっかり折れてしまった・・・・



これで良かったのかもしれないけど、面目ない気持ちもある・・・

この気持ちは一体・・・・・




「だったらさっさと打ち合わせして警察サツに電話しようぜ」



ヴィルが私をそう誘うように促した。



「それに、心配しなくともオレには無用だ。

 オレが管轄する支部がある場所・・・・場所が場所だからな、フッ」



ヴィルはニッと笑う。その顔をする理由は私にも分かる。

そういえばだが、彼が支部長を務める東京支部は新宿にある。

新宿にはちょうど裏社会と"密接に関わる場所"がある。




この後、私も入れて6人でその場で会議が開かれた。

待合室の扉にサカによって鍵がかけられた。ちょうど誰かに聞かれては困ると思っていた所だ。

アークライトと折原部長にも・・・・協力してもらう事にしよう。




ところで、ヴィルにあんな事を言われるとは・・・・

圧倒されて途中、長官としての使命とくすぐられた心が交錯し、

たちまち照れくさくなってしまった・・・・



ヴィルもサカ同様、ドイツ時代から付き合いがある。

が、このときめくような高揚感はなんだ・・・・・?




それよりも・・・・ヴィルに言われた事は私の頭の中に強く残った。

彼の言葉の数々は、私の心をくすぐるものがあったのは確かだった。



会議を終えて、やる事を全て済ませた後、

私は一人、それは女心をくすぐられたのだと思った。



頼もしいと思うと同時に一種の興奮というものを感じた。




その他にも・・・・色々と思う事はあった・・・・


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