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ソルジャーズ・スカイスクレーパー  作者: オウサキ・セファー
第一章 シルバークライシス -少女の慟哭-
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第4話 初恋、そして・・・・

 寒い風と共に落ち葉が転がる十一月の中旬。

 勉強に部活、家事に明け暮れ、毎日ひたすら走り続けるような生活を送っていたら季節はあっという間にもうすぐ冬になろうとしていた。

 でも、振り返ってみれば、大変だったけれど、充実した一年だったと思う。


 五月の体育祭は、100メートル走で一位を取り、六月下旬のテストも平均以上で乗り切り、それを終えた後の夏休みは部活で合宿にも行ったし、帰ってきた後も歩美の誘いで日帰りで温泉やプールにも行ったし、色々な場所に行った。


 夏休みが終わった後の秋も文化祭があって、私はたこ焼き屋班を担当してみんなでたこ焼きをお客さんに振舞った。

 本当は焼きそば班をやりたかったんだけど……人気で入る事が出来なかった。


 でも楽しかった。やっぱりお祭りと言えば焼きそばとたこ焼きなのか、かなり繁盛した。

 たこ焼き作るのは初めてだったけど、先生から習って最初は失敗した事もあるけど、後は上手く作る事が出来た。


 先輩方の手伝いや出し物を歩美と二人で見て回ったりもした。小学校の時もこういうお祭りがあったけど、中学校は中学校で小学校にはなかった出し物があって度々小学校との違いを実感した。


 例えば、体育館でやるバンド。

 小学校の時はリコーダーや鍵盤ハーモニカを使ったもので生徒の私達からすると聴き慣れた音によるものが殆どだった。

 でも中学校ではドラムやギターなど、普段は授業では触らない楽器による演奏で会場は、たこ焼き屋の仕事のシフトを終えた私が来た時には既に入口も人がいっぱいでかなりの熱気に包まれていた。


 ……と、振り返ってみれば、あれもこれも……どれも楽しい思い出だった。この調子ならば、この3年間ずっと安心して楽しく過ごせそうだ。


 今はお昼休み。

 給食を食べ終えた後、クラスメート達の話声が飛び交う騒がしい教室の中、私は窓から青空の下の誰もいないグラウンドの奥に並ぶ、太陽に照らされ、秋を迎えてすっかり葉っぱが赤色、黄色に染まった木々が冷たい秋の風によって揺れる景色を……

 一人、教室の左隅の窓の前でじっと立って見ていた。


 木の葉っぱも既に地面に落ち始め、赤と黄色に下を染めている。冬になった頃にはあれら全てが枝だけになるのだろう。

 私はただ、暇つぶしでその景色を見ているわけじゃない。


 私には今、憧れの先輩がいる。飾るように言えば、彼氏と言うべきなのかな……今も自覚している。まさに私の初恋。これは紛れもない、初恋だ。



 * * * * * *



 三年の有村(ありむら)称太郎(しょうたろう)先輩。男子バレーボール部のキャプテン。爽やかな人柄で、男女問わず人気があって、勉強もスポーツも出来る人。

 見た目もスポーツマンタイプとも言える感じだけど、体が凄く大きくて腕も太いちょっと怖い体育会系という感じではなく、華奢で誰とも仲良く出来て、笑顔が眩しくて、話しかけやすい気さくな感じの人。


 バレーボール部は性別どちらかだけに偏っているのではなく、男女でそれぞれ分かれてやっている。ただ、人気者の称太郎の存在は非常に大きく、種目も違う女子バレーボール部が陰に隠れてしまうほどだった。

 練習は体育館やグラウンドで行われ、それぞれ放課後は同じ時間で、顧問の荻野先生と副顧問の先生が巡回コーチをしている。


 けど、荻野先生は時々、「猫の手も借りたい」と、お手伝いとして出来る人を数人連れてきては、私達に練習の指導をさせる事がある。

 連れてくる男女は先生が信頼を置く3年の先輩たちだった。その中で、ひと際大きな存在感を放っているのが彼。

 私が有村先輩と……いや、称太郎と出会ったのはその時だった。


 私と称太郎の出会いは今から半年前に遡る。ゴールデンウィーク前の練習の時だ。

 練習が始まる前のまだ他の人が来てない体育館のステージ前で荻野先生が称太郎を一足先にと私に紹介したのが始まりだ。

 どうやら先生は全国大会の出場経験がある私の事を高く評価しているらしく、それでキャプテンである彼とのお目通りが叶った。

 私は将来の有望候補として、期待を一身に受ける事となった。


「有村。彼女が……今年入った一年生で全国大会出場経験がある、黒條零だ。黒條、彼はウチの男子バレーボール部のキャプテンの有村称太郎だ」


 荻野先生が私と称太郎にそれぞれ相手の事を紹介する。


「黒條零です。先輩……宜しくお願いします」

 私は落ち着いて頭を下げて謙虚に挨拶する。


「こちらこそ、宜しく。俺は有村称太郎。学年離れてるけど、緊張しなくていいからな」

 称太郎は優しく私に微笑みかけた。


 すると、私の横にいた荻野先生が今回、私を称太郎と会わせた理由を語りだす。


「有村。お前も今年が最後の年だ。黒條は小学校の時、全国大会で準決勝まで進んだ経験がある。ウチのバレー部は男女共に近年は毎年地区大会止まり。部員も決して多くない。けど、彼女は君の貴重な後継者になるかもしれない。時間があれば一緒に練習に励んで欲しい」


「分かりました、先生。彼女はきっと、良い選手になりますよ。全国大会って凄いじゃないですか!」


 先生は称太郎の後継者が欲しいんだろうと、私はその時思った。かなり先生からも信頼されている人なんだなというのが私の称太郎への第一印象。

 同時に礼儀正しくて、明るくて、笑顔も眩しくて……頼りがいのある人という感じだった。


 一方、称太郎も私の経歴を褒めてくれている。それもあって、緊張から解放されて、ちょっと荷が下りた気分になった。


「そうなればいいな~、有村! 思えば、女子で全国大会準決勝まで行った奴が来たのも本当に久しぶりだからなぁ」

「そんな先生……照れますよ……」

「はっはっはっは!!」


 先生と称太郎二人に笑われた。私は頬を赤くして照れてしまった。ちょっとした(おだ)てなんだろうけど……こう持ち上げられると照れる。



 だけども……全国大会準決勝まで私も奮起したのは本当だ。実は部活に初めて入部した時、先生に詳しい話を訊かれたので自分の当時のポジションとかを説明した。

 因みにこの学校でも小学校でも六人制のルールだ。私のポジションはレフト。


 最初はあまり自覚していなかったけど思いやりがあって、人当たりも良い称太郎と接していくうち、私は内心で少しずつ彼に引き込まれていった。

 さすがに毎日というわけではなかったけど、機会があればいつでも彼の下で練習をしていた。私がポスト称太郎になれるか分からないけど、やるからには頑張ると自分に誓った。


 称太郎をはじめとした3年の先輩方はもうすぐバレー部をやめてしまうから、一緒に練習の機会があった時は凄く嬉しかった。

 技術を吸収出来る以外にも先輩と一緒に練習するのが、何より楽しかったんだ……


 最も、長いと感じた夏には先輩と後輩という枠を超えて、名前で呼べるほどになった。敬語とか、かしこまった態度も時が経つにつれ、だんだんなくなってきた。今の私が称太郎と呼んでいるのはそのため。


 そもそものきっかけはある熱い真夏の練習の日の事。


「有村先輩……あの……称太郎って呼んでもいいですか?」


 と、私が勇気を振り絞って持ち出した事がきっかけだ。初めて会った時と違い、今ならばいいよね、大丈夫と思った。ちょっとした好奇心と言えばいいのかは分からないけど……


 そしたらなぜか称太郎の顔には不快感などはなく逆に気持ち良く笑われた。「君って変わってるね」と。


 いまどき、こういう人は少ないのかなと思ったけど……なんか嬉しかった。


「じゃ、俺も――零って呼んでもいいかな?」


 その問いに私は「はい!」と即答した。これほど嬉しい事は今までなかったかもしれない。この時からかも……初恋を感じたのは。


 親しい人を名前で呼びたくなる……よくある事だと思うけど、私にはそうしたくなる癖がいつの間にかついてしまっていた。


 小学生まではどんなに親しくても苗字で呼んでいたけど……いつの間にか変わっていた。


 今、ふと気づいてなんだか不思議な気持ちだ。思い返してみれば、歩美との出会いがきっかけなのかもしれない。

 新しい環境の中、自然と下の名前で呼び合うようになっていったし……


 ここまでは、私と称太郎の付き合いも順風満帆とも取れるかもしれないけど、称太郎は他の人にも人気があるし、最終学年であるため、進路に関わるその他諸々の事情もあってさすがに一人占めとばかりはいかなかった。

 称太郎と同級生の男友達に取られてしまう事もあれば、隙あらば他の同じ学年の女子に取られたりと様々。


 また、先生も含めて、全国大会の経験がある私を依怙贔屓(えこひいき)しているようにも見えるけど、部活中は私を甘やかす事もなく、ちゃんと他の部員と同じく等しく、厳しく指導をする。

 でも、私は負けなかった。いつの間にか目標になっていたのかもしれない。称太郎という目標に少しでも近づくという私の目標が。


 進路を決めるため、進路相談に行ってしまったりで季節が春から夏、秋から冬へと変わっていくにつれ、私と称太郎は会う時間は少なくなっていった。

 勿論、これは私だけでなく他の同じ学年の人もそうだった。

 それは、称太郎の卒業が刻一刻と近づいている事を表していた……



* * * * * *



 こうして一人、窓から日差しがあっても冷え込む秋の景色を眺めているのも、決意を新たにするため。そう……私は今日の放課後、称太郎に告白する。


 私は称太郎が好きだ。告白して、一人暮らしにも慣れてきたし、クリスマスかお正月に一日だけでもデートしたい。

 称太郎との時間が過ぎていく中で、ずっと心の底で考えていた……考えに考えた。



 この前、自分の気持ちがハッキリしない中、ちょっと歩美にその事を相談したら「グズグズしていたら他の子に取られてしまうよ」と背中を押されたのもある。


 そのため、私は称太郎には前々から告白をしたいがために、アポをとっておいた。歩美にも伝えた。


 因みに歩美は称太郎を良く思ってはいるけど、実際にアタックして付き合いたいという所までは至っていないようだった。

 社長令嬢だから恋愛とかも厳しいのかな……と思ったけど、そういうわけじゃないみたい。


 以前、夏の終わりのある日、帰り道で歩美にこっそり訊かれた時、正直に「称太郎が好き」と答えたら素直に応援してくれたし、私と称太郎はお似合いだとも言ってた。


 あの時は正直、自分でもよく分からなくて……困惑したけど、今は……今はこれだけは言える。称太郎の事が好きだって……


 放課後。すっかり静まって誰もいない三年の教室で称太郎は待っていた。空は夕闇に染まり、茜色の光が窓からこちらを照らしている。外のグラウンドから微かに部活で汗を流す生徒達の声が聞こえる程度。

 ゾクゾクする心臓の鼓動に耐えながら、私は息を大きく吸って教室の扉の小窓から称太郎の姿を確認すると、扉を開けて中へ足を踏み入れた。


「……称太郎」

「お、零じゃないか。どうしたんだよ、こんな時間に俺に用事って」

 私がその名前を呟くように口にすると、早速用件を訊いてきた。


「……ごめん」

「どうして謝るのさ」

「称太郎にはこんな時間まで待たせちゃった事……心の準備が出来てなかったから……凄く緊張してるんだよ、こんな事言うの、生まれて初めてだから」


 私の心臓の鼓動が更に早まる。でも私は想いを伝えるべく、小声でぎこちないけど、言葉を繋ぎあわせていく。

 視線を背けてはダメだ……視線を合わせないと……私は称太郎の方をじっと見て、口を開く。


「私、初めてだった。年上の男の人と付き合ったのって……今までこういうの……意識してなかったから」

「でもね、ようやく分かったんだ。称太郎と練習を続けていく中で、抱き続けていた私の想いが……」


「零……」

 称太郎は不思議そうな目をして呟いた。


「うん……」

 私はそっと頷いた。そして、言う。


「私、称太郎の事……大好きだから!!! 生まれて初めてだよ、男の人で好きになったのは……」


「れ、零……」


 緊張しながらも大きな声でひと思いに発した私の言葉に称太郎は息を呑んだ。どう思っているかは分からない。だけど私は必死の覚悟で不器用ながらも続けた。


「称太郎とは、部活や夏ぐらいで後は短くて少ない時間だったけど……ここまで歩んできて、たくさんの思い出を作った……部活とかそればっかりだったけど……」

「私、楽しかったんだよ……? 称太郎と一緒にいる時間が……称太郎と一緒にいる事が。称太郎がくれたものは何でも嬉しかったし、大切にしてきた……大好きなんだ……あなたの事が」


 私が全力で言い切った後、何も音がしない静寂に辺りが包まれる。

 すると称太郎は黙ったまま、しばらくすると優しい笑みを浮かべ、そっと私の身体をそっと優しく暖かい温もりで包み込み……


「零……俺も、零の事、大好きだよ……零といると、何か特別なものを感じるんだ」

 一瞬の沈黙の後、称太郎は言った。


「特別なもの?」

 私は静かに尋ねた。


「ああ、ひと際輝く宝石を見ているような……俺には男女問わずたくさんの友達がいるけど、零はその中で一際大きな光を放っているようなものを感じていた……」

「そして、俺の背中を健気に喜んで追い掛けてくる零の事、俺も可愛く思ったし好きだった・・・・」


 すると称太郎は私の両肩に手を置いたまま、私の顔をじっと見つめる。私の心臓の鼓動が更に早まる。



「零、俺は来年でここを去るけど、君の事は絶対に忘れない……卒業しても、夏休みや冬休みにでもまた、君に会いにくるよ」

「称太郎……」


 その暖かい温もりと、耳元に直接聞こえてくる落ち着いた優しい声に、私はもうこらえきれないほどの涙を流して泣く。

「うん、ずっと一緒だよ……称太郎」私も小さくそっと返す。


「ああ、ずっと一緒だ……」


 私を再び包みこむ称太郎。腕の力がグッと強くなり、私の長い黒髪をそっと右手で撫でてくれる。


 ああ、称太郎……私の事、大好きなんだ……称太郎の気持ちを確かに感じた瞬間だった。同時に……グッと……肩の荷が下りたような瞬間だった。


 称太郎への告白を終えた私はその後、学校の外で称太郎と別れると帰りのバスの中で称太郎への想いを募らせていた。

 緊張してクリスマスやお正月にデートしようなんて、忘れちゃってあの場では言えなかったけど、また頼めばきっとしてくれるはず。きっと……

 ふと、スマートフォンを開くと歩美からのメールが来ていた。メールの中身を見てみると、


『お疲れ様、零さん!! おめでとう!!』


 と、書かれた文字とニコニコした顔の絵文字を据えた文があり、私はホッとした。やり遂げた、ついにやり遂げたんだ……

 因みに私のスマートフォンは青色。もうかれこれ二年使っている。


 告白する事は伝えていたけど……歩美も教室の外とかにこっそり隠れてあの場を見ていたんだろう。他の人に見られたらまずかったけど、歩美ならば見られても大丈夫だった。


 嬉しさと興奮が一向に治まらず、それを胸に秘めながら帰宅して自分で料理を作り始めている時。今日は鍋焼きうどんにしようと決めていた。この時期はコートを着ないととても寒いし、先ほどの称太郎への告白もあって、今もドキドキとワクワクの気持ちが混在していた。


 暖かさと同時にどこか冷たさも感じる。だから鍋焼きうどんを食べて暖まりたいと思っていた所だった。ちょうど昨日、スーパーのセールで野菜も安く買えていた所だったし。


 具を入れてしばらくして、鍋が沸騰して湯気がたち、キッチンを暖かい空気が包みこむ。火を消して……うん、完成かな。


 ――だが、その時だった。


「うっ……うっ……」


 突然、私の頭に視界が見えなくなるほどの凄まじい激痛が走った。

 私の左手から持っていたお玉がスルっと床に落ち、私は急な激痛に耐えきれず、思わず頭を両手で抱え、その場で床に膝をつき、うずくまった。

 まるで、強力な重力に重圧されているように体が激痛で動かない……それと同時に出てくるのは恐怖。痛みが私の頭の中で走り続ける。私に一切の躊躇なく。


「うっ、うわあああああああああああああああああああああああああああ!!!!」


 大きな叫び声をあげた。頭だけじゃない。身体中が痛い。どこも痛い。もはや、身体を動かす事も出来ないほどに……誰にも助けを求める事が出来ない。這って動く事も出来ない。

 痛みだけが、私を支配していた。そして、同時に感じるのが凄まじい心臓の鼓動。

 まるで、何かが私から解き放たれるような……心臓の鼓動がまるでその何かを抑え込んでいるような気がしてならなかった。同時に痛みで身体がはじけてしまいそうな……


「うわああああああああああああ!!!! くっ……うわああああああああああああああああ!!!!」



 私の身体はもはや限界に達していた。辺りを認識できないほどに。これは何かの重い病だろうか……死んでしまうんだろうか……こんな時に死んでしまうんだろうか……死の恐怖が私を襲う。

 称太郎もいるし、歩美もいる……こんな時に死んじゃうのは嫌だ……


 嫌だ、嫌だ、嫌だ……死ぬなんてやだよぉ……もっと人生楽しみたい……死にたくないぃ……


 私は必死にもがいた。感情だけでもがき続けた。だが、その時だった。私の身体に異変がある事を知ったのは。

 そう、左右にたれている黒い横髪が徐々に上から白くなっていく。漆黒に染まっていた私の黒髪が……白で覆い尽くされていく。


 どういう事……? 白……?


 完全に黒が白に染まりきった後、私を支配していた痛みが突如そっと消えた。まるで、全身が苦しみから解き放たれたようなものを感じた。先ほどまでの苦痛や痛みはもう全くない。


「あっ……!」


 私が異変を起こしている間にも沸騰していた鍋は蓋の間から汁が流れ、漏れていた。それに気付いた私は慌ててコンロに駆け込んですかさず火を消した。


「……ふぅ」


 思わず汗が顔の横から流れる。危なかった……もうすぐで火事になってたかもしれない。痛みから解放されたのと、鍋の火を消した事で私は息をし、安堵した。


 今の自分の状態が気になった私はリビングの小さいテーブルに置いてあったお手入れ用の丸い手鏡で今の自分の姿を恐る恐る見てみた。


「な、なに……これ……銀髪?」


 そこには、長髪で光が反射して綺麗な銀髪となった自分の姿が映っていた。長い後ろ髪を前にやって鏡に映すが、髪だけでなく眉毛も全て黒から銀色に変わっていた。


 私は銀に染まった横髪や後ろ髪を手に取ってみる。真っ白、電気の明かりが反射して光っているのが分かる。その場でうろたえ、膝をつく。


 どうして……どうしてこうなるの……病気? 


 いや、違う。病気とは明らかに違う。第一、突然、激痛が走ってその果てに一瞬で銀髪になる病気なんて常識的に考えても存在するのかな……とにかく、大変な事になった。どうしよう……これから……どうすればいいんだろう……


 何が起こったか分からない恐怖という寒気が、私の体を覆っていた。この時は自分に何が起こったか、さっぱり分からなかった。だけど、全ての始まりを表す開幕の鐘が、既に大きく鳴り響いている事に私はまだ気づいていなかった……

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