第16話 消えた息子
4月15日の土曜日。
連続強盗殺人事件改め、イジメ復讐連続殺人事件の次なるターゲットにされる
可能性が高い新直尚隆の家を俺が訪問してから二日後の翌日の朝。
休日に事件が起きた事に苛立ちながらもそれを使命感で押し殺し、
俺は部下の川口と新田と共に神奈川のある場所に向けて
空も真っ白な曇りの中、いつも通りの赤ランプ付きの
黒い車を猛スピードで走らせていた。
俺達三人が乗る車以外にも前に一台、後続に二台、合計四台の
警視庁の車両が赤いサイレンを響かせ走っている。
後続には鑑識を乗せた大型車が、前には俺達と同じ刑事が乗る車が走る。
一昨日のマンションとはうって変わって今日向かう場所は閑静な住宅街。
一軒家が建ち並び、道は狭く、車も多くない。歩く人も少ない。
狭い道では民家の塀にぶつからないよう慎重に車を走らせ、目標の家に到着した。
茶色い屋根に白い壁、二階建てで裏庭がある家だ。
二階には四角い障子のマス目で覆われた和風の窓が見える。
玄関の横の駐車場には白いごく普通の乗用車が停めてあった。
家周辺は緊迫とした空気に包まれていた。
既に俺達が来る前に近くの所轄署によって、立ち入りが規制され、
黒と黄色のバリケードが敷かれている。
この状況はもう言わなくても分かるだろう。
さすがに県警から本庁に『民家で遺体が発見された』と
連絡がいった時は俺ら揃ってまたかと思ったが。
この前も同じ神奈川で殺しがあったばかりだというのに。
近頃はJGBと共に追ってるあの事件もあり、
俺達本庁の刑事も殺人事件となると毎回『トリカブトの花の事件か!?』と思ってしまう。
本当、最近はこういう誰かが殺されたり死んだりする事件が後を絶たない。
やはり春だからなんだろう。
春は卒業とか新生活とか、新しい始まりを感じさせる一見輝かしい言葉が浮かぶ季節だが、
一方で人生で失敗した奴の人身事故とか自殺も多い。
人身事故を起こした奴の身元がつい1ヶ月前まで大企業の元正社員だったり、
自室で青酸カリで自殺したのが名門大の受験に失敗した浪人生だったり・・・
特に前者はほぼ毎年聞く話だ。
ったく、春ってのは・・・・ある意味、人間の人生の光輝いている部分と暗く濁った部分が
大きく分かりやすくハッキリと表れる季節なのかもしれねぇな・・・・・
「お疲れ様です」
バリケードの前に立っている警察官が敬礼してくるので、
警察手帳を見せて俺達は現場に入り込んだ。
今この瞬間から、この事件に俺達捜査一課が入り込んだ。
所轄署には今回は連続殺人の件も考慮し、事前に本庁より
『本庁から捜査員が来るまでは現場には立ち入らないように』と通達が入っている。
俺達は通報通り、手に白い手袋をした後、遺体があるという目の前の家に玄関から乗り込む。
既に鍵は外されており、黒いドアを開けた瞬間、和風地味た香りが漂ってくる。
中へ入って回りを見渡すと明かりは何もなかった。
電気も何もつけられていない。ただ外から日差しが差し込んでいるだけ。
俺達は慎重に一歩一歩、歩を進めていく。俺が先頭で後ろから川口と新田を連れて。
玄関から奥にリビングと思われる襖が正面にあった。
横には二階への階段が伸びており、上がってみないと先が見えない。
襖の影響か茶色いフローリングがあってもどこか昔ながらの懐かしさを感じた。
とりあえず、目の前の襖の先をチェックする。二階は後だ。
俺は襖の丸い取っ手に左手をやり、後ろの川口と新田の方に少し横に顔を向ける。
二人が頷いた所を右目で確認すると俺はその襖をそっと開けた・・・・・
「なっ・・・・・・!」
開けた先の光景に新田が驚嘆の声を一瞬、発した。
俺も川口もその目の前のずさんな光景に思わず、目を丸くした。
中は確かにリビングだった。もう一度言う、リビング"だった"。
だが、そこはあらゆる物が滅茶苦茶に散乱し、散らかっている。
まるで空き巣にでも入られたかのような惨状だった。
ちょうどこの前起こったイジメ復讐殺人事件第七の現場を想起させた。
そして、俺達の目の前には仰向けで横たわり、充血した目を
大きく開けて口を開けてこちらを見て倒れている
グロテスクな顔を浮かべた肌が白いご老体の遺体があった。
とりあえず、遺体を調べる事から始めよう。
「頭を思い切り固くて重い鈍器で殴打されたって所か・・・・・」
俺はその遺体の様子を見て、そのままを口にした。
その証拠、頭から出血し、顔にも血が流れている。
他の目立つ外傷は何もないようだ。
川口や新田が遺体周辺を調べ、鑑識も入る中、俺はその場をキョロキョロと辺りを見渡した。
酷く荒らされた室内の本棚から崩れ落ちた本の数々や至る所に散乱する色んな服や
倒れた電源も入ってない小型ストーブなどに目がいくがそれじゃねえ。
するとちょうど足元に捜しているそれはあった。
「凶器になった物は・・・・・・・これか」
それは遺体の横たわる奥に横になって散乱する物に
混じって捨ててあるように床に放置されてあった。
青色の鉄アレイ。両端が丸く、片手で持てるぐらいのサイズだった。
後で鑑識の手で正式にこれが凶器だと断定されるだろう。
血痕が両端の丸い部分のうち一つに付着している。
これで殴って殺したようだな・・・・・
例の花もないようだ・・・・トリカブトの花。
あの事件とは関連性は無し・・・か。
となると、単純に強盗目的で殺したんだろうか。
殺して、部屋を荒らして何かを盗って、逃げてったという物取りの線か?
犯人はどこから侵入したのやら・・・・裏庭か?
俺は草むらが生い茂る広い裏庭に続く窓ガラスを調べた。
窓ガラスは壊された様子もないが鍵がかかっていない。無用心だ・・・
裏庭からどうにか窓を開けて侵入した可能性が高そうだ。
鍵がかかってないのもそのためだ。外からは鍵はかけられない。
その後、俺はこの場を鑑識達と川口や新田に任せ、
外にいた第一発見者の婦人に話を聞きに外の方へ向かった。
「おい、この方が遺体の第一発見者か?」
俺は第一発見者の対応を所轄署の奴と一緒に対応してる、
同じく本庁から来た木田に尋ねた。
「はい、警部。この家の隣に住む方です」
第一発見者は年配の婦人だった。
白髪に紫の高価な服を着た大きなメガネをかけた婦人だ。
死体を発見したショックからか、沈んだ表情を浮かべている。
そっと会釈をしてきたので俺も軽く頭を下げる。
「申し訳ありませんが、詳しい遺体発見時の経緯をお聞かせ頂けないでしょうか?」
俺は婦人から遺体発見時の話を詳しく聞くべく、そう尋ねた。
メモ帳を取り出し、婦人が死体を発見した経緯を聞き出しては書き出していく。
「・・・・・で、あなたは三日前、回覧板をこの家の樫木さんに届けようとしたが、
その後も応答がなく、それで今朝、改めて訪ねても誰も出ない事を不信に感じ、警察に通報したと」
「はい、おまわりさんに開けてもらって中に入ったら・・・・
中で麻紗紀さんがリビングで仰向けで・・・・ううっ・・・・」
婦人は涙が溢れる目をハンカチでそっと拭く。
どうやら、被害者とは隣人同士親しい関係にあったそうだ。会わない日もそうそうないらしい。
旅行で長期間、家を空ける時も必ず婦人に一声知らせるほどの交流はあったらしい。
都会と違って、こういうとこは近所付きあいが結構身近なんだよなあ。
被害者もこの婦人も見た所、高齢だ・・・・年が近いのも交流が盛んになる理由だろう。
先ほど見てきた遺体の身元・・・・・
殺害されたのはこの家に住んでいた樫木麻紗紀という男。
婦人の話だと定年を迎えて年金暮らしで、この家には息子と二人で住んでいたそうだ。
非常に大人しく、婦人とも毎日世間話に花を咲かせ、
町内会の行事も欠かさず参加するなどやはり近所から孤立してはいなかったようだ。
それなのに回覧板を婦人が届けに行った段階で
何も告げず、家を空けるのもおかしいな・・・・・
はたして、そんな彼を殺したのは一体どこのどいつなんだか・・・・
ん・・・・・・?待てよ・・・・?ちょっと待てよぉ?
息子はどうした??どこにいるんだ??
息子の存在が気になった俺はすかさず婦人に尋ねた。
「殺された樫木さんの息子さんは今、どこにいらっしゃるんですか?」
「仕事だと思います。一緒に住んでるとはいえ、家にはいない事が多いんですよ。
ですが、私が4日前、麻紗紀さんと近くのスーパーで会った時、
麻紗紀さんが仕事が忙しくて外で寝泊りが多いマサヤ君が
久しぶりにその日の夜、帰ってくると喜んでいたのを覚えています・・・・」
「4日前・・・・・・・?もしや・・・・・・まさか!!」
「ちょっと失礼。すぐに戻ります」
「木田、しばし頼む」「は、はい」
婦人に断りを入れ、木田にその場を頼み、まさかと思った俺は
慌ててもう一度樫木家に上がり込んだ。
婦人の話を聞いてもしやと思った。二人だけで住むにしては
少々寂しい広々とした家だ・・・俺の直感が正しければ、家のどこかで・・・・
一階で現場を調べていた川口達のとこに駆け寄った。開いたままの襖を通って。
「おい、もう一体、死体あがらなかったか!?」
俺がそう訊くと川口はこちらを向くが鑑識達は集中して作業を続けている。
「いえ、警部、一階にはこの遺体以外何も・・・
新田のとこに行ってみては?二階にいますよ」
「分かった。引き続きここを頼む」
続けて俺は二階の階段を上へと駆け上がる。新田がいるだろう。
二階はドアが三つ。三方向に一つずつあり、うちトイレが一つ。
それぞれが白い壁で覆われた短い通路の先にある。床は同じくフローリング。
トイレのドアには「toilet」と書かれた木札が画鋲にかけられていた。
左手にあるトイレともう一つの右のドアは後回しにして、ひとまず
正面の奥の半開きになっているドアを開けるとそこでは新田が捜査し、
同時に数人の鑑識が作業をしていた。
見た所、父親か息子・・・どちらかの個室といった所のようだ。
左奥には一人用のベッド、その手前の机にはパソコン、その右には
本が敷き詰められた本棚があった。一階のように荒らされてはいなかった。
「新田。死体、あがらなかったか?」
俺が入るとすぐこちらの方を見た新田に尋ねた。
「いえ、警部、この部屋には何も・・・・」
「そうか、引き続きここを頼む」
そう言い残してすぐに俺は廊下へ戻り、もう一つの部屋の扉を開けた。
上がってきた階段から見ると右にある扉だ。
そこは床がフローリングではなく畳の和室の部屋だった。
どうやらさっき見かけた障子の窓の部屋はここらしい。
畳まれた状態のままの青い布団に窓際の低い木製の茶色い机・・・・
奥には窓を包む障子があり、入って左の壁には布団をしまう襖と
この家に初めて入った直後に感じた和の香りがそのまま部屋に反映されている。
若者らしくない部屋だ、ここは被害者である父親の部屋か・・・?
襖を開けてみるが遺体はない。色んな物が入っているだけ。
ここも一階のように荒らされてはおらず、
さっきの滅茶苦茶な光景とは正反対の平穏に満ちていた。
俺ももしやと思って求めたもう一つの遺体もない。
犯人は一階だけ荒らして逃げたのか・・・?
い、いや、まだトイレが残っている。
トイレという狭い密室で殺されてるケースもありうる。
俺は廊下へ戻るとトイレのドアの取っ手に手をやった。
俺はドアノブに手をつける。そこには便器の上に座る遺体が・・・・
バタン!!!
大きくドアを開けた。
と、思ったらなんにもなく荒らされた形跡もなかった。くっ・・・・・
遺体は無し、か・・・・ひとまず、婦人の所へ戻るとしよう。
俺は外で待ってる木田と婦人の下へ戻った。そして、いきなりその場を外した事をまずは謝る。
「すいません。お待たせして」
「どうしたんですか?いきなり行ってしまって・・・おまわりさん」
「申し訳ありません。唐突に。その息子のマサヤ君も恐らく帰ってきて外から来た誰かに
お父さんと一緒に殺され、あの家のどこかで死んでいるのではと思ったもので・・・・確認に」
「ではマサヤ君はどこかで生きているんですね・・・・・
どこで何をしているのかしら・・・・お父さん亡くなったのに・・・・・」
婦人はマサヤ君が生きている事にホッと息をつき、
同時に彼を心配する表情を浮かべている。そのマサヤ君とも親しかったのだろうか。
「お宅はマサヤ君とは親しかったんですか?」
「前に一度、話をした事があるぐらいです。
ですが、大人しくてお父さんを大切にしている頑張り屋でいい子ですよ」
木田が訊くと婦人はまるで自分の孫を可愛がるように話を続けた。
俺は再び先程までの聞き込みで得た情報がビッシリ書き込まれている
メモ帳を取り出し、とっていく。
被害者と会う事は多くても、息子とは会う機会は少ないらしい。
続けて今度は俺が切り出して訊く。
「彼の勤務先・・・・職業とかは分かりますか?」
「いえ・・・そこまでは・・・」婦人は首を横に振った。
「マサヤ君が麻紗紀さんに口止めしてるらしくて、
私も麻紗紀さんからは"家にあまり帰ってこれないほど忙しい仕事"としか聞かされていないんです・・・・
麻紗紀さんもマサヤ君の事を思って喋らないようなので・・・・」
「では、あなたが最後にマサヤ君と会ったのはいつ頃ですか?
さっき、前に一度話をした事があると仰ってましたよね?」
すると婦人は額を抑え、頭を悩ませながら、
「それが明確には覚えていません・・・・・ごめんなさい・・・・
最近やたらと物忘れが酷くて・・・・
あと、4日前も帰ってくるのが夜と聞いてたので私は会っていません」
「なるほど・・・・・・」
・・・・・4日前は息子も夜、この家に来ていた。
・・・・・・・・被害者の樫木麻紗紀もその時はまだ生きていた。
息子はとにかく、家に帰る余裕もなく帰れない時は恐らく
ホテルとかを転々とする生活なんだろう。
婦人の証言から、就いてる仕事はかなり多忙な物に絞り込めるな。
婦人が最初家を訪ねた3日前には既に誰も出なかった事から
被害者の樫木麻紗紀は4日前に婦人と最後に会った後に殺されたと考えられる。
その4日前に息子も帰ってきていたという。
で、ここからが問題だ。
息子と父親が接触、息子はさっき見てきて遺体がなかった事から
自宅に寝泊りはしなかったのだろう。
寝泊りしていれば、今頃父親共々、乗り込んできた犯人に殺されているはずだ。
あるいは帰ってくると言っておいて
実際はやっぱり忙しくて帰って来れなかった可能性もあり得るか。
そもそも息子が来たという確証がまだないので可能性はある。
俺がメモをとってる間に木田が質問を続けた。
「4日前、3日前に怪しい人物が付近をうろついていたりとか
何か変わった出来事はありましたか?」
「いえ・・・・特にありませんでした。回覧板を届けに行った後、
近くのスーパーにお買い物に出かけましたが特にそういう人は・・・・」
「そうですか・・・・・・」
怪しい奴の目撃は無し・・・・か。
・・・・・念のため、後でもう少し、この辺りで聞き込み捜査してみるか。
この近辺あたって、それらの目撃情報や証言が出れば直前に
接触した息子の動向が分かり、ハッキリするだろう。
息子が実際に家に来たと仮定するなら、父親が殺されたのも息子が家を出た後かもしれない。
息子と入れ替わりで犯人があの家に侵入したのもあり得るからだ。
だが、それ以前に被害者が殺される直前に理由はどうであれ、
家に来ていたという息子も疑わしい事は確かだ。
最後に被害者と会ったと思われるのは息子。
なら、その息子が重要な何かを握ってるかもしれないし、"最悪のパターン"もある。
俺はその後も犯人が誰か、内心考えながら捜査を続けた。
被害者の明確な死因が鑑識によって明らかになった。
鑑識によると被害者の詳しい死因はさっきの鉄アレイで頭部を
強打された事による脳挫傷による出血死。
また、先ほど新田が見ていた部屋で口頭でしか分からなかった息子の正式な名前が判明した。
彼の部屋の本棚の中に残された一冊のノートに息子の名前が書かれていたためだ。
たくさんの本があり、たくさんのカラフルなノートは一箇所に敷き詰められていた。
ノートの内容はさしずめ物理の勉強ノートといった所か。
図形や計算式、問題文が丁寧に書かれている。内容的に高校時代の物のようだ。
他には国語や英語、理科、社会、歴史、世界史、政治経済のノートがあった。
学生時代のノート捨てずに残してるあたり、なんかこだわりがあんだろうな・・・・
それで、このノートにそれぞれ書かれていた息子の名前は・・・・・
樫木麻彩。・・・・これで"まさや"と読むようだ。
しっかし、読みはよくある名前だと思ったが、
随分ややこしい漢字使った名前だな・・・・
これじゃ『マヤ』とも読める・・・・女の子の名前か?こりゃ。
あの婦人から話聞かなきゃマサヤって俺は読めなかったかもしれない・・・・
おっと、これ以上、他人の名前をとやかく言うのは良くないな。
鑑識達と共に実況見分を一通り終えた俺は川口、新田と共に
早速付近に聞き込みに回る事にした。
が、先ほどの婦人と同じく他の近所の住民も3日前に
怪しい人物や不可解な事は一切見かけなかったという。
しかし、住民の話から樫木家の内情は少しずつ分かってきた。
付近の住民によると二人は7年前、埼玉からこの家に引っ越してきたようだ。
奥さんはその時からおらず、昔に病気で亡くなったらしい。
その後も継続して聞き込み捜査を行ったが息子である樫木麻彩の所在、
また、犯人への有力な手掛かりは掴めなかった。
だが、4日前に樫木麻彩が本当にこの家を訪れているかという証拠は
鑑識にかかれば、すぐに分かるだろう。
しかし、彼の職については依然、不明だ。
分かる事は仕事で家を空ける事が多いだけ・・・・
うーむ・・・・家から見つかる手掛かりや他をあたるしかないようだ。
しかし・・・・・トリカブトの花とは異なるこの殺人事件の焦点は
捜査が進むにつれて、俺も薄々思っていた通り、
自然と、被害者の行方不明の息子である樫木麻彩へと向きつつあった。
それもそのはず、被害者と本当に最後に会っている可能性があるのが
家を訪れている彼に他ならないからだ。
今の所、他に有力な手掛かりがない以上、一番疑わしい。
これで彼が本当に家に訪れている事が確定すれば、
最悪のパターンである"あっちの線"も十分あり得る。
それは言わずもがな、"ストレートに犯人は樫木麻彩"という線・・・・だ。
樫木麻彩は白か黒か・・・・・
彼を見つけて聴取して証明しなければ、この事件は解決に近づかない。
自供すれば即解決だ。
だが、彼が犯人じゃなければ、捜査も先が分からなくなる。
待っているのは果たしてどっちだ?
失踪した彼がこの事件の重要な手掛かりであると睨んだ警視庁上層部は
昼下がりに情報をメディアに公開し、樫木麻彩の全国手配をする事で
情報提供を呼びかけ、状況をより加速させた。
全ては樫木麻彩が鍵を握っている・・・・
刑事である俺も上に従い、奴を捜し出す他ない。




