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ソルジャーズ・スカイスクレーパー  作者: オウサキ・セファー
第二章 トリカブトの華
47/120

第15話 出動

午後の昼下がり。空は真っ青。

至る所にあるサクラもまだまだ見頃のようだ。


オレ達も乗ってる無数の黒い車両が列を組んで

繁華街の道路を他の車の横を突き抜けて駆け抜ける。



オレはその黒い車両列の真ん中の車両の後ろ座席に座る。

コイツらを率いているのは勿論、オレだ。



第七の殺人、川崎での諸木坂剛殺害事件から四日後。4月14日の金曜。

オレは今、いやオレ達は今、港区のある場所に向かっている。

全く・・・・警察サツもたまにはいい仕事やってくれるもんだ。




フォルテシアからオレの下へ電話が来たのが事の始まりだった。





「ヴィル、警視庁が19年前の新潟のイジメ自殺事件の加害者、

 新直尚隆の所在を掴みました。彼はまだ生きています」



「明日、彼が住むマンションに防衛ラインを直ちに敷いて下さい。

 そして犯人が来たら新直尚隆を守り、犯人を確保して下さい。攻撃は許可します」



「新直を連れてどこかに逃げるって選択肢は無しでいいんだな?」



「ええ。ヴィル。私はあなたを信じています。狙われた一般人を餌のようにするのは致し方ありませんが、

 一刻も早く一連の事件の犯人を確保し、この事件を収束させるには仕方がない事です・・・・」



「・・・・・・・了解ヤー

 



な~んて、フォルテシアから電話が昨日の午後来た。

それで色々と可能な準備を進めていて今に至る。


最後のフォルテシアの言葉は不本意さを感じた。

当然だろう。そいつだけでなく、付近の住民も騒ぎに巻き込むのだから。

オレはそんなアイツに素直に答えた。



当然だ。フォルテシア・・・・お前の苦渋の判断が

間違っているなんて・・・言わせねぇよ。



そんなわけで、オレ達はその新直とかいうのが住むマンションに向かってるというわけだ。

ともかく、ようやくこの連続殺人の犯人のツラを拝む事が

出来るチャンスがやってきたのは違いねぇ。

オレとしても、さっさとこの面倒な手伝いは終わらせたい所だ・・・・・



警備もそうだが、そのためにやる事は張り込みだ。

とりあえず、オレとサニア、あと今回警備を固めるに当たって

マンションの管理人への了承をもらったり、諸々の準備を

裏で進めているグレゴールで数日間はそいつが住む

マンションの周辺をガチガチに固める。


付近の住人には無論、このマンションに殺人犯が来る可能性が

あるとは言うまでもないが公表しない。

ちょうど春なので、マンションに住むガキどもを守る

犯罪防止の安全運動の一環という事にさせるようグレゴールに頼んである。



新直が殺される以外にも無関係な奴が被害を

受けるような事態も避けなければならない。


失敗すれば付近の住民だけでなく、マンションからも不信を買う。

オレ達の信用問題にも関わる。それに嘘までついてるんだからリスクもより高い。



だが、このような仕事は腐るほどやってきた。


作戦プランはもう・・・・・出来ている。オレの中で。



まず、正面玄関、裏口など、とにかくマンションに入り込める所に検問を置く。

科学部開発の特殊金属探知機で通行人の持ち物をチェック、

探知機が反応したらその場で止めて即持ち物チェック。


普段から武器となる刃物を持ち歩く人間なんてまずいない。

ソルジャーか裏社会の人間ぐらいだ、そんなの。

せいぜい日用品のハサミかカッターぐらいだろう。


外側も警備を強化。壁を上って外側のベランダから侵入してくる可能性がある。

夜間も暗視ゴーグルをつけた警備部隊が見回りをし、かつ新直の部屋をマークして警備にあたる。


マンション内部に入られたとしても、

新直の部屋の近くでオレとサニアが交代で警備する。



これまでのデータ上、痕跡もほとんど残さなかった犯人が

視界も見やすい真っ昼間から姿を現すとは考えにくい。

だから昼間の警備は最低限でいい。

犯人もこれまではいずれも夜に犯行を起こしてきたんだろう。

だったらその時に警備を固めればいい。




だが、必ず犯人ターゲットは現れる。



既に言われてる事だが、新潟の事件の加害者のうち他の2人は

死んでんだから新直の所だけ来ないのもおかしい。



しかも、復讐が動機なら新直だけをみすみす生かすとは思えない。

いずれは必ず、やってくる。



まぁ、何かあればフォルテシアなりサカなりから連絡が来るだろう。

アイツらもアイツらで色々動いてるようだからな・・・・・



オレはふと、横の窓から流れていく景色を眺めた。

大通りを通る車は歓楽街を高速で通り過ぎ、次第に車は住宅街に入っていく・・・・






三日前、JGBの総本部で今回の事件に際して、オレを含めた

関東各地の支部長達にも中継を繋いでネット会議が行われた。


ネット会議とはその名の通り、コンピューターを使った会議。

総本部のコンピューターと専用ツールがインストールされた各支部の専用パソコンで

ネット回線を互いに繋ぎ合い、輪を組んで会議を行う画期的な方法だ。


総本部からは回線を繋ぐオレ達の顔はスクリーンを通して見えているし、

オレのノートパソコンからも総本部のフォルテシアやサカ、折原だけでなく、

他にノートパソコンを繋いでる支部長の声も聞こえるようになっているし、顔も見れる。


文書ファイルも送信可能だ。これで会議資料を配ったりする。

この方法ならば、今回のように総本部が召集かける余裕がない場合や

召集かけられても行けない奴が出ても会議に参加出来るわけだ。



会議はというと折原率いる諜報部がかき集めた情報から、

得体の知れない犯人の目的がようやくハッキリしてきた。



犯人が殺した人間の傍に置いていくトリカブトの花言葉・・・・・


その花言葉から怨恨の線が強まり、更に先行捜査していた

諜報部が見つけ出したこのニッポンの腐った教育の闇・・・・


これら二つから導き出された答えがオレ達にも知らされた事で

事態は新たな局面を迎える事となった。





犯人の目的は『過去に起こったイジメ自殺事件の復讐』。

事件を起こした加害者達を皆殺しにしようって魂胆なようだ。


典型的な怨恨の線による犯行だが、

こう断続的に続く犯行なのだから、相当タチの悪いタマには違いねえ。

組織ぐるみの複数犯かそれとも一匹狼で実力が高い単独犯か・・・・

それすらもまだ分からんが、これだけは言える。



いつの世も、馬鹿が掻き回すものだと。



今の所は7人目を除いて新潟と群馬の事件に関与した奴しか殺されていない。

だが、このままでは他の同じような事件の関係者にも被害が及ぶ可能性があると

その時の会議で、画面内のフォルテシアは言っていた。


全く、その通り。

復讐、報復を考える奴はその矛先をいつどこに向けるのか、

怒りをどこへぶつけるのか、何を仕出かすのか分からないもんだ。


同時にそれは可能性じゃなくて必然なんじゃないかとオレは考えている。



また、仮にも新潟の事件に関係ある奴が今回の犯人なら、

どうして群馬の事件の奴まで殺す?


また、仮にもその逆ならなぜ新潟の奴が殺されなければならない?


犯人のそこまでするメリットは?


こちらの捜査を攪乱する目的にしては動く分、リスクも高すぎると思うが?


まだ関連性が不明な7人目を除いた

殺された奴の関係先を殺された順番に並べるとこーなる。


群馬、群馬、新潟、新潟、新潟、群馬。



もう見事にバラバラだ・・・・

群馬の事件の奴だけを始末するには岐阜、大阪、東京を経由しなければならない。

逆に新潟の奴だけを始末するには新潟と埼玉だけで事が済む。


この時点で犯人が新潟の事件の加害者だけを恨んでる奴という線は崩れる。

新潟の奴に殺意あるならなんで最初に群馬の事件の関係者を殺す?それだけで疑問だ。


同様に群馬の奴だけ殺したいならなんで途中に新潟を挟む?

オレが殺す側なら素直に新潟と埼玉飛ばして東京へ向かうが?


一番最西端の大阪じゃなく、

岐阜で犯行が始まった事からも何かしら狙ってるんだろう。



どう見ても可能性なんてレベルじゃない、必然だ。

起こるべくして起こる。





・・・・・しかし、犯人は今までどんな手で

大昔の事件の加害者の個人情報突き止めた?


これは三日前の会議でも挙がっていた。

諜報部も引き続き視野を広げて調べるつもりらしい。


折原の情報と照合すると犯人の標的になった奴らは諸木坂を除いて

全てが二つの事件に色々な形でそれぞれ関与しているという共通点がある。



犯人側にも何かしら情報源はあるはずだ。

犯人は正確な情報をどこでどうやって手に入れた?

裏社会に溢れる情報屋からでも買ったか?

いずれにせよ、何らかの手段で情報を手に入れてる事は間違いない。




事件の起こる間隔はそれぞれ最初の事件と第二の事件が6日、


第二の事件と第三の事件が起こるまで8日、


第三と第四の事件まで2日、


第四と第五の事件までが8日、


第五と第六の事件まで10日、


そして・・・・その4日後に第七の諸木坂殺しは起こった。



この見事にバラバラな空白の期間に犯人はターゲットの情報を

何らかの手段で入手し、特定し殺していたんじゃなかろうか?

どっかで自分を追うサツを尻目に遊んでたとか

さすがにそんなんじゃないだろう。


犯人が誰かを特定するための痕跡はこれまでない・・・・

強いて言えば、第三の事件の砂浜に残った

ゲソコンのサイズから見て、あの事件で

死体捨てたのは男だって事ぐらいだ。



ま、色々考えていてもしょうがない。そろそろ目標のマンションが近いか。

犯人のツラはいずれ拝める・・・・それまでじっくり構えている事にしよう。




その後、オレは目標のマンション近くに車を停めさせ、

オレは近頃外を歩くのに欠かせないサニア特製の黒いニット帽を被ると

サニアを連れて二人でマンションに上がり込んだ。

エントランスのオートロックの扉を新直に開けてもらって。

ちっ・・・・なかなかいい場所に住んでるじゃないか。



大勢で乗り込む必要はないので部下達は下で手筈通り準備させておいている。



さすがは加害者、ひねくれた口じゃないか・・・・・

フフッ・・・・人ひとり殺しといてノウノウと

生きてるヤツのツラ・・・・どんなもんか見てみてぇな。



オレ達二人は奴の部屋の前に着くとオレはサニアの方を見て、

顔をスっと前に向ける事でインターホンを押させるよう指示をした。

サニアは黙って右手人差し指でインターホンを押す。



ピンポーーーーンの音がした後、

ドアから顔を出したのは丸いメガネ野郎だった。



「改めて自己紹介しよう・・・・・・

 JGB東京支部、支部長のヴィルヘルム・ゲーリングだ。

 ・・・・お前が新直だな?」



「あぁ、そうだよ」



不機嫌そうな面してやがるぜ・・・・

因縁をつけるような目でこっちを見てきやがる。



「アンタみたいなのがJGBか。

 随分変わってんだなぁ・・・・ま、昨日の蔭山とかいう

 警察のうっさいオッサンが地味すぎただけか」



「そりゃどうも。ニッポン人に珍しく言われるのは慣れてるんでね」



オレはそう言いながら、そっと左手で

自分の長い黒髪のひと束に軽く触れる。



「ハッ、まるでどっかのペテン師みたいな髪型してんだな。

 長いクネクネした髪に丸メガネ・・・・

 帽子脱いだらまさにそれだぜ・・・・・

 いててててててててててててててて!!!!や、やめろって!!!」



コイツ・・・・予想はしてたが、オレを"あんなの"と比較しやがった。

すかさず、オレが指示するまでもなくサニアが笑えないジョーク飛ばした

コイツに両手の鉄拳で頭を挟む"鉄拳挟みの刑"をお見舞いした。

いいぞ、もっとやれ。こういう奴には躾が必要だ。



「ヴィルを詐欺師と同じに扱うなんてまるで分かってないんですね。

 ・・・・・そんなのにはお仕置きです」



「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!やめろってぇ!!!

 冗談だってぇ!!!ジョークだからぁ!!!」



「ジョークじゃ済まされませんね。あなたにヴィルの苦しみは分からない。

 もっと・・・・・もっと痛めつけて・・・・・」



「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」



静かで厳しい口調で鉄拳挟みの刑を繰り返すサニア。

上手く正面から奴の頭を素早く両手の拳で捉え、刑に及んでいる。

頭をサニアの両手の鉄拳で板挟みにされながら、

新直は頭をオレの前で下げ、滑稽に泣きながら叫び声をあげる。







で、コイツになぜオレは『ペテン師』とか言われたのか。

それは今、頭に被ってるニット帽を被る理由にも直結する。



ホント、腹立つ胸糞悪い事で思い出したくもないが・・・・・・



今回の連続殺人事件にJGBが関わる事になった日・・・・・

そう、6人目の襲山喜一郎の殺害現場を見た日から一週間前に遡る。


オレはいつも通り、朝の新宿の街で昼飯用の弁当をコンビニであさっていた。

目標の弁当を見つけ、それを手に持ってレジの行列に並んだ。だが、その時だった。



「ちょっと・・・・あなた待ちなさいよ!!!!」



「あぁ?」



いきなり後ろから見知らぬ若い女が声と共に右肩を軽く叩いて絡んできた。

オレは女の声がする方を向いた。

かなり怒ってるようで、眉を吊り上げた表情、いきなりなんだと思った。



「あなた・・・・ジョギーでしょ!?」



「はぁ?なんの事だ・・・・?」オレには全然意味が分からなかった。



「あなたには失望しました。

 本当に障がいで苦しんでる人を何だと思ってるんですか!!」



『だからなんの事だ?』とオレが反論する間もなく女は怒りをオレにぶつけた。

 


「私、看護師なんですけどあなたみたいな病気や障がいで苦しんでる人を

 冒涜するあなたみたいな人が一番嫌いなんです!!!

 罪もない障がい者を金儲けでバカにしているあなたを見ると吐き気がします!!!」



こう、唐突にオレは通りすがりの見知らぬ看護師を

名乗るメガネをかけた若い女に怒鳴られた。



何だよ突然と思ったがここで抗議なんかしたら何かとメンドーな事になりかねない・・・

おまけにその女のせいでオレはその場にいた大勢の一般市民からも注目の的に。

ザワザワと野次馬が騒ぎ始めた。



仕方なく、すぐに買おうと思っていた弁当を元あった場所に戻し、

早足で便乗した罵声も掻い潜ってその場から逃げ去った。



「あっ、逃げるんですか!!!詐欺師ですね、本当に最低です!!!」



看護師の女を無視してオレはその場を後にした。

怒りを堪えて、そのまま逃げ込むように出勤した東京支部で

今朝の朝刊のある記事の写真と手持ちの手鏡に写る自分の顔を見比べて納得がいった。



それはこんな騒動を扱った記事だった。

ちょうどその日の昨夜、発覚して今朝からの大スクープだった。

仕事に追われていたオレはこんな事をイチイチ知る由もなかった。



16年前からこのニッポンで活動し、天才と称えられた音楽家、

「ジョギー・久留山くるやま・フォーランド」。

縮めて、「ジョギー・フォーランド」。


生まれつき、目が見えない視覚障害を抱えたその男は

目が見えないという大きなハンデを抱えながらもその恐ろしいほど

強い聴覚と感覚で様々な楽曲を生み出した音楽アーティスト。


ジャズやクラシック音楽を中心に作曲を手掛け、

色んな楽団によってそいつが作った曲を演奏する

コンサートが開かれる事もあった。


同時にニッポンの盲目の音楽家として世間から莫大な富と名声を掴んでいた。

それに加え、アメリカのジャズシンガー、フォーランドと

日本人の名ピアニスト、久留山里子くるやま さとこの間に

生まれたハーフという経歴もあり、かなり持ち上がった。


フォーランドはアメリカでは有名なジャズシンガーだ。

一方、久留山と言えばその業界を挙げれば真っ先に名前が挙げられるという名ピアニスト。

その血筋を引くジョギーもまた、自然と期待を持たれるわけだ・・・・・



ここまで聞けば、フォルテシアやアークライトと同じく、紛れもなく天才だろう。

もしかしたらそのハンデを補える何かしらの能力が使える

ソルジャーなんじゃないかともオレは思った。



だが・・・・・・ここからが本題にして大問題。大きな裏があった。

そいつは実は作曲には一切、いや、全く関わっていなかった。




盲目で目が見えないのも真っ赤な嘘だった。



実はしっかり目が見えて、曲は全部、アカの他人が作っていた。

俗に言うゴーストライターって奴だ。

しかもタチが悪い事にそのゴーストライターはジョギーが

様々な楽曲を手掛けたと見せるために22人もいたから驚きだ。


22人の本職の音楽家は全員がジョギーのダチのヤクザによって

選ばれ、多額の金を餌に雇われ、こき使われていた。



いずれも金に困っていたり、大金に目がくらんだ連中だ。

特別世間的に有名だったわけでもない。



証明になる障がい者手帳もそのヤクザが持ってる

パイプを活かして作られた偽装手帳だった。



それで音楽の作曲も雇った音楽家全員に丸投げ。

本人もこれでもかってほどの音楽の家庭で生まれ、音楽に接する機会はあったものの、

ジャズシンガー、ピアニストとして成功した両親みたく伸びる事が出来ず、

周囲からただ寄せられる期待と自分の伸びない才能が逆に

コンプレックスとなり、このような詐欺に走ったようだ。



それでジョギー本人は公の場で盲目な音楽家を演じきる事で

この16年間悠々自適な生活を送っていたってオチだ。


稼いだ金はそいつとそのヤクザと雇われ音楽家達で山分けされたという。

そして、こんな詐欺師のような生活に嫌気をさした

雇われた一人の音楽家の内部告発で全てが暴露された。



因みにスキャンダル発覚してオレが批判された次の日、オレは総本部に別件で向かった。

で、ついでにジョギーを裏から支援していたそのヤクザが誰かを折原に尋ねた。

・・・・そしたら案の定、岩龍会の下っ端の下っ端、末端の五次団体だった。

五次団体だから一応傘下よりは格上だ。だが、そんなもんさして変わらない。



ジョギーのスポンサーであり支援者・・・・そいつの名前は音山田儲樹おとやまだ もうき

岩龍会の五次団体、小規模な音楽制作会社、音山田カンパニーのトップで

ジョギー効果により、岩龍会の末端組織の中でもかなり稼げていて

上からも評価は良かったようだ。



障がい者手帳を偽装したのも、表向きはヤクザがやった事に

なっているが実際にやったのはその音山田と関係が深い偽装屋だ。


偽装屋。奴らの手にかかれば、入店にチケットが必要な高級料理店や

キャバクラとかのチケットは勿論、パスポートの偽装もお手の物。

勿論、障がい者手帳とかだってその気になれば作れてしまう。


パスポートを作れるという事で本物のパスポートがとれない悪党ワル御用達でもある。

こういう偽装商売は暗黒街、裏社会ではよくある商売の一つだ。



ダチだったジョギーと結託し、コンプレックスから脱したいジョギーと

岩龍会で出世したい音山田・・・・二人の思惑は合致、

それで両者は手を結び、16年もの歳月の間、詐欺生活を働いていた。



勿論、そいつらが儲けた金は幾らか本家である岩龍会にも上納されたんだろう。



16年間も親からも回りからも告発されなかったのも音山田が裏工作を仕掛けていたため。

時には人を口封じに消すのも勿論、音楽で飯を食ってきた両親も事故に見せかけ、8年前に殺害。

両親ともに有名人だったから、折原曰く、ジョギーがスキャンダルになった際は

有名だった両親の葬儀、告別式が報道されていた事を思い出したという。



雇った音楽家にも『逃げても俺の上には本家がいる事を忘れるなよ』と脅し、

『逃げたり内部告発するような事があれば本家が潰しに来る』と教え込んでいたため、

その中の誰かが勇敢に告発に踏み切るまで詐欺は続いた。


誓約書も書かせ、ちゃんと曲を作った際はそれに合った

見返り通りの大金を渡して徹底的に服従させていた。


だが、それでもこの現状に我慢出来なくなった

勇敢な音楽家の一人が告発に踏み切った。




でもって・・・・そのジョギーとかいうヤツはオレと見た目がそっくり・・・

年はオレよりも上だが、パーマかかった長い黒髪に丸いメガネをかけた姿。


それは世間的に見て、ジョギーの特徴とも言うべきトレードマークだった。

だから看護師の女はオレをそいつと間違えて何も罪もないオレに怒鳴った。

ホント・・・・・迷惑極まりない話だ。風評被害にも程がある。



所詮、音山田も一つの五次団体のトップという下っ端のまた下っ端、

小物の中の小物だからこそやりそうな事だ。

ジョギーもまた、逃げ出したくなるほどのコンプレックスと

立場に押し潰されて、こんな奇行に走ったんだろう。



ジョギーは事件が朝刊に載って、内部告発した音楽家が記者会見した

その日に確保されたが、肝心の音山田は今現在も逮捕されていない。



どこかに雲隠れしたといわれている。

だが、警察サツはジョギーと障がい者手帳を偽装した偽装屋も含めて

事情聴取するため、音山田と偽装屋を追っているようだ。



オレがジョギーと間違えられる事は髪を切ればすぐ解決なんだが・・・

正直、髪を切るとあのバカ女とジョギーに負けた気がしてならない。


遠まわしに髪を切れと言われてるようなもんじゃんか。

何があっても切るもんか。


この髪型との付き合いは長い。今更変えられるか。切りたくない。迷惑な話だ。

そうだな・・・・フォルテシアが命令するなら考えてもいいがな。


ゆえに今は街歩く時はほとぼりが冷めるまで、

季節に合わないサニア制作のこの黒いニット帽をポケットに忍ばせ被っている。



本当、いつの世も、こういう馬鹿が掻き回すものだ・・・・・







「ア、アンタ!!この女を何とかしてくれ!!黙って見てないで!!」




っと、気付かなかった。新直の助けを求める声で意識が現実に戻る。

オレはここに嫌がらせをしにきたわけじゃない。仕事に来たんだ。



オレはパチン!!と右手フィンガースナップでサニアを黙らせる。



「いってて・・・・ホントジョークだから!悪かったから!

 ちょっとした冗談だよ・・・・」



自分の頭を両手で撫でながら言い訳を続ける新直。



「ヴィル・・・・・」



サニアがオレを横から見上げ、眉を吊り上げた顔で見つめている。



「・・・・・・構うな。とっとと用件済ませようぜ。

 さ、オレ達のためにも、そしてアンタのためにもこれから

 オレが言う通りにするんだ・・・中で話しようか?」



「ああ・・・・入りなよ・・・・ったく」



新直は観念してオレ達を家の中へと入れてくれた。

こんな状況じゃなかったら今頃、軽くほっぺたに

鉄拳を食らわせても良かった所だ。


ま、今日の所は許してやろう。

だが、人ひとり死なせてノウノウと生きてる

加害者の生き残りだけあって、タチが悪い・・・・



コイツに接触したのも、ただ挨拶だけが目的じゃねえ。

こちらが守ってやる以上は最低限の備えをやってもらうためだ。

そのためにやってもらう事は三つ。


「まずは・・・・と」



オレは部屋に入るや否やベランダの方へと目を向けた。

まず、オレがコイツに下した指示は『ベランダに通じてる窓は全て鍵をする事』。

きっちり閉ざされたカーテンの先はベランダだった。

ガチガチに警備を固めてる正面から犯人が入ってこれる

可能性は警備を固めている関係上、極端に低い。相当強い奴じゃない限りな。


だったら犯人は外側からの侵入を試みるはずだ。

何かスパイのようにロープとか小道具を使ってよじ登ってくるか

それとも鳥のように飛んでくるか、それは来てからのお楽しみ。


なので鍵をしてもらい、中側からガムテで窓の淵などを塞いで補強する。

これで例え突破されようが突破までにオレ達が駆けつける時間は十分に稼げる。

因みに空気の換気は換気扇を使えばいい。ただそれだけだ。

気候も春だ。暑すぎもなければ寒すぎる事もない。



「これをやろう」



続けて、オレは新直にある物を軽く投げて与えた。



「な、なんだこりゃ?」



新直に与えたそれは警報スイッチリモコン。

これはなんだ、という表情で自分の手にある物を見る新直に

それが何なのかを単純に説明した。


コイツは科学部が護衛対象である要人に持たせる目的で開発したもの。

4cmの四角いデザインにアンテナ付きの黒いリモコン。

中央の赤いボタンを押す事で特殊電波をアンテナより発信、

半径10メートル以内のそのリモコンに対応した

受信機全てがそれをキャッチし、振動で知らせてくれる。



要はコイツが危なくなってボタンを押せば、

最も近くであるドアの外側にいるオレかサニアが

持つ受信機が振動し、すぐに駆けつけられる。



なお、この受信機はオレとサニアがそれぞれ一つずつ対応した同じ物を携帯するので、

サニアが見張りをしている時でもオレは奴のSOSを受け取れる。逆も当然。


欠点としては、見た目がまんま怪しいリモコンである事。

呼び出しボタン用ならカモフラージュに特化した

ペンの形をしたSOSペンでも良かったが、

あちらはペン二つで連動してるのに対し、こちらは設定すれば

同機種なら複数の受信機に対応出来るという点がある。

また、説明もしやすい。



だが、欠点とかそんな事は今は関係ない。



「さて、部屋の合鍵を提供してもらおうか」



最後に、部屋の合鍵を提供してもらう。

これで部屋の正面を開けられるのはオレかサニア、新直だけだ。

オレが手を差し延べると新直は仕方なさそうな感じでそれを手渡してきた。



そんなこんなで、オレ達は下にいる部下に

ガムテを持ってこさせ、補強作業に取り掛かった。



新直のパソコンやテーブルがあるこの部屋の窓の補強作業が終わった頃、

オレの懐のスマホが鳴り出したので出た。アイツからだ。




「なんだ?」



「ヴィルヘルム支部長、グレゴールです。

 ただいま、全ての裏準備が完了致しました」



「そうか。マンション管理人への挨拶も済んだか?」



「ええ、事前に今回の一件に関しては連絡をしていますし、向こうも

 この事件をニュースで知っていたので話がしやすく、快い返事を頂きました、ハイ。

 犯罪防止の安全運動という事で表向きに通すよう伝えてあります」



「ご苦労、お前もすぐにこっちへ来い」



「かしこまりました」



オレは通話を切るとスマホをしまった。あっちは済んだようだな。



「ヴィル・・・誰から?」サニアが静かに横から尋ねてくる。



「グレゴールからだ。裏準備が終わったそうだ」



「そう・・・・・」サニアは呟くように返事をする。



さて、これでハリコミの準備は完了だな。

後は・・・・必ずやってくるだろう獲物がいつノコノコやってくるか・・・・・

この布陣の下、待ち構えているとしよう。フフ・・・・・


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