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ソルジャーズ・スカイスクレーパー  作者: オウサキ・セファー
第二章 トリカブトの華
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第12話 友の死

薄暗く、冷えきった夜間の空気が辺りに漂う。

電球による微かな光だけが俺がいる静かな薄暗い廊下を照らす。

薄暗い景色に白い床と壁、天井・・・まるで真夜中の病院のようだ。


ここは川崎の警察署地下にある小さな霊安室の入口前。

霊安室とは、遺体を一時的に安置しておく場所だ。


俺はアイツが眠る霊安室の前の壁際にあった青いクッションの長椅子に腰掛けている。

今、アイツの遺族達が遠くから訃報を聞きつけて駆けつけてきて・・・・・

もう動かなくなったアイツと面会している。

俺は辛いあまり、霊安室から外を出て、今に至る。


アイツの4つ離れた妹やおふくろ、親父がナイフで

刺されて死んだアイツの遺体を前に泣き崩れているのを

見るととてもいたたまれない気分になった。



もう、アイツは動く事はない。起きる事もない。

このまま遺体は明日にも遺族が引き取って、通夜、そして次の日は告別式だろう。

司法解剖については俺が到着した夕方までに終わっていて、

これまでに起こっている例のトリカブトの連続強盗殺人犯の仕業である

事からそう時間はかからなかったようだ・・・・・・




・・・・・なんで・・・・なんで・・・・

こんな事になってしまったんだよ・・・・・




俺はその場で両手で顔を覆い、泣き崩れた。



俺の中で、溢れる悲しみと共にアイツとの懐かしい数々の思い出が

浮かび上がる無数の泡の中に映し出される。





アイツとは中学時代からの親友だった。

俺の苗字、「諸積」とアイツの苗字、「諸木坂」。

お互いの苗字に「諸」という字がついてその上、隣の席で

よく一緒にいたからよく周りの奴に「ダブルモロ」とかってあだ名された。



部活でも仲良し、野球部だった。

二人揃ってやんちゃして先輩達に怒られてばかりだったけど、

今となってはいい思い出。


クラスも一緒、進級してもクラス変わっても

何だかんだでずっーと一緒で腐れ縁だった。

そんなある日、こんな事を言われたのを覚えている。



「ケンジ、オレと一緒にお笑いやらねえか?」




「は?お笑い?俺には無理だって」




「んな事言うなよ~~、な?」



と、俺の右肩に手を置いたアイツ。

一緒に修学旅行先の出し物としてお笑いをやろうって誘われた。

最初は突拍子もなく言い出すもんだから、馬鹿だろと思った。



が、アイツは関西のお笑いのDVDとかを持っていた。

修学旅行のために集めたらしい。熱心に研究していた。

修学旅行で誰かとコントを一度でいいからやってみたいと言ってきやがった。


お笑いはあまり興味はなかったが、もうアイツは先生に提案をして聞き入れられ、許可を得ていた。

それで相方を探そうとまず俺がアイツにスカウトされ、それでも何か足りないと

悩むアイツに代わって俺があともう一人、悪友だった滝沢を誘って三人でコントをした。


俺はアイツのやんちゃさとひたむきさに胸を打たれ、

アイツの作った台本通りに何度も三人で練習をして・・・・結果は大成功だった。

オリジナルだけでなく、当時の流行りモノのギャグも入り混じった内容で、

他の奴や先生だけでなく、泊まったホテルのおかみ達も笑わせられ、

その前に立ててとても気持ち良かったのを今も覚えている。


無論、苦労も多く、練習は前々から行い、前日は

台本が俺の分だけどこかに消えて特にヒヤヒヤさせられた。

記憶力と気合で乗り切ったがあんなに冷や汗をかいた修学旅行は一度きりかもしれない。

しかも、周囲からも期待されてプレッシャーも半端なかった。



中学卒業後に進学した高校もたまたま偶然同じで、俺達の腐れ縁は続いた。

最も、俺もアイツもそれぞれ第一志望だった別々の志望校落ちて共々その高校へ流れ着いたわけだが。

因みに俺は志望校は3つあったが、どれも落ちて、泣いた末にこの高校受けたら受かった。

まっさか一緒になるとは思わなかった。それも腐れ縁の奴と。


アイツは高校へ入ってからは中学以上にはちゃけ、

クラスの連中には慕われ、何かと楽しいことばかりを考えていた。

文化祭の一発芸でみんなでバンドをしようぜと言い出し、俺と仲良しだった

メンバー3人、俺、アイツ、八幡、田中、佐藤の5人でバンドをやった。

吹奏楽部や軽音楽部から楽器なんかとてもじゃないが借りられなかったから、

5人で各々バイトで金稼いだり小遣い奮発して

エレキギターとかセットを買ったな・・・・・・



移動教室や修学旅行では進んで前々からアイツは何かとみんなを集めて

楽しい遊びを繰り広げていたのを覚えている。


勿論、俺もそれに巻き込まれた。

俺はアイツの相棒のようによく動き回ったものだ。

それで毎回俺が誘って、八幡、佐藤、田中も巻き込んで。


移動教室では夜中に近くの神社で肝試しをしようと言い出し、

修学旅行ではなんとアイツは家庭用ゲーム機をバッグの中に持ってきて、

先生には内緒という条件付きでゲーム大会を開いたり。


何か楽しい事があれば必ず俺達にとっては

良い意味で何かをやらかす、そんな奴だった。

遊びの天才、愛すべき馬鹿という言葉が本当に似合う奴だった。




最後の最後の卒業式のパーティーでもみんなの前で

笑ってみんなが面白がる事をしてはあちこちを飛び回っていた。

「みんな、どこへ行っても元気でなー!!」って。元気なアイツの顔が蘇ってくる。



卒業後も交流はとってはいた。

だが、時間が経つにつれていつの間にか互いに離れていった。








アイツには芸人という夢があったが、俺にはこれといって夢はなかった。

それもあって、アイツにはコンプレックスも少々あった。

なんでアイツには夢があるんだよ、って。


勉強で特別興味ある事もなかったし、得意分野だった数学や英語の道を

打診されたが意欲が出なかった。

中学は野球部だったが、高校は一応帰宅部で勉学の傍ら、

アイツとバンドとかよく遊んで過ごした。

高校にも野球部があったが、アイツに誘われても入る事はなかった。

結局、アイツも高1で野球部やめたけど。

その代わり、アイツの遊びには色々付き合う事にした俺だった。


進路選択の年になってどこの大学を見ても漠然的すぎて

建物や雰囲気とか魅力があっても入ろうと思うとあまり興味を抱けなかったのもある。

行けと言われて見学で話を聞いても、向こうに気を遣って答えるだけで

本当はどこへ行ったらいいかが分からなかった。


つまり、俺は最初から大学入試に乗り気がしなかった。

回りに言われたから、ただやった。親と教師に。

ウチの親は結構エリート思考強かったから

専門学校なんて言ったら間違いなく殺されてただろう。

高校も3つ落ちたけど、今思えばあの受験は"冒険"。レベルも高かったな・・・


正直、高校時代、部活に入らなかったのも遊びの傍ら、

大学受験のために勉強していたのが理由だったりする。


大学に乗り気じゃなかった俺は大学とは別に"個人的な理由"もあり、JGBの一般試験を受けた。

試験を受けたのも、高卒でも受験資格がある公務員試験だったからこそ。


大学に興味が出ない、専門学校も空気的に選べない。


そんな俺が何か職にありつきたいと大学受験に備えてと親に言われてやった

勉強の成果をJGBの試験で出したら通ってしまったので

理由もあり、高校卒業後、俺はそのままJGBに就職した。




受かった時はどこか重みが抜けたように感じた。

もう、大学とか考えなくていいんだと。

親もやっていければそれでいいと揃って言っていたのもある。

ここで反対されたら、どんなに不条理を感じていたか。


JGBの道は無論、決して甘くはなかった。

研修の段階でも厳しく、根を上げる奴もいた。


最初は総本部ではなく、茨城支部の本務第六部隊に配属になって

ビシビシと仕事のノウハウを叩き込まれながらも食らいつく日々が続いた。


デスクワークとかビジネスマナーとか基礎的な研修以外にも

剣道や体術などあらゆる体力をつける研修もやらされた。



そして、研修を終えて仕事にもすっかり慣れて定着した頃、

楠木さんが亡くなって、JGBのトップに今のフォルテシア長官が

就任した頃から組織の若返りの一環で俺は総本部に転属となった。



因みに親に大学も受けさせられ、受かったが勿論辞退した。

入っても意欲がなかったので辞退する事は回りから

「もったいねー」と言われようと知るかとしか思わなかったが。


しかし、これで良かった。JGBでの日々はアイツのように夢もなく、

大学にも入る気がしなかった将来のビジョンはなかった

俺にとって苦難もあったが退屈しない毎日をくれた。


諜報部や科学部などの他の部署の試験もあったが

野球もやって、アイツにも結構色んな事で振り回されてきて、

体力にも自信があった俺には今の戦闘と捜査をメインとする

本務部の仕事で良かった。



命の危険も伴う仕事だが、そもそものきっかけは一つある。それが"個人的な理由"だ。

JGBに入る事になるだいぶ前、ある日、ツヨシ達と夜遊びをしていて、

日常社会にはないものを見て、後々恐れるよりも何か出来ないかと考えた。



それまでは漫画の世界での話と思っていた。


だが、特殊な力を使う人間、それが実在したからだ。



最初は化け物か妖怪だと思った。

が、すっかり暗くなった歓楽街の閑静な街外れでそれを見てしまった。



そう、JGBが一人の赤いオーラを纏った男を相手に睨み合ってる現場。

男はヤクザを引き連れ、JGBの捜査員達と対峙していたのを俺は目撃した。


俺もツヨシもあの時は怖くなって逃げ出したが、俺はあの時、

男と戦っていたのは警察ではない事を確信した。

で、捜査員の帽子から男と戦っていたのは「JGB」だと知った。


しかもその時、相手の男は炎を掌で操っていた。それを見てゾッとした。

何かの間違いだと一瞬思った。だが、これが現実なんだと後になって痛感した。


その後、しばらくして進路を決める時期に大学受験に

乗り気になれず将来に悩んでいた際、俺はふと、その時の事を思い出した。


恐ろしいが、考えれば考えるほど、そういう奴らから世の中を守りたいと内心燃え上がった。

ちょうどJGBが近場で一般試験がやっていて高校生でも受験が可能だった事もあり、

大学受験にも乗り気じゃない将来に悩む俺は

職にありつきたいのもあり、また、恐ろしい奴からこの平和な世界を守りたいという

燃え上がった思いもあり、受験したらあっさりと合格してしまったわけだ。



この世界にはその炎の男のような人間、つまりソルジャーがいる。

そんな彼らに対する警察がJGB。通常の警察や自衛隊でも対処出来ない事件を

担当する組織という事もあり、先入観でエリート思考を感じたが、

これは誰もが通る門だと先輩に言われたのを今もよく覚えている。


警察や自衛隊よりも市民から見て目立たないものの

アメリカのFBIなどの影響もあってどこか現実よりも

誇張された面があるのは否めなかった。


そもそもなぜソルジャーの存在が現実では浸透しておらず、

普通なら大事件として公になってもおかしくないのに

なぜ真実が隠されてるのか、疑問に思った。




しかし、その疑問に対して"世の中の構造がそうさせている"と

先輩に都合よく返され、更に吹き込まれた話が頭の中に残っている。



そう、世の中はソルジャーの存在を知らない。

マスコミもその存在やソルジャーが引き起こす事件を正しく報道しない。

インターネットにもそれらはオカルトの類に変化して断片的に散らばっているだけ。

そうやって世の中は大昔から今に至るまで歩んできた。


だから、警察はおろかJGBも、その上のお偉方もソルジャーに関わる人間の誰もが

ソルジャーを表社会の公の場で言いふらすような

浸透させるようなマネもしないし、それを表社会に理解させようとするような活動もしない。


してもトボけられ、馬鹿にされ、否定されるだけだからだ。


表の世界にとってはソルジャーはもはや、漫画やアニメに出てくる

魔術師や悪魔と同じ存在で、現実にいるなんて有り得ない存在だ。


漫画やアニメに出てくる特殊な能力を持った普通じゃない人間が

本当にいるなんて、誰も言わないだろう。

中には「本当にいたらいいな」と思う奴もいるだろうが、所詮は願望。


「本当にいるんだよ」と言っても、「お前なに言ってんの?」と馬鹿にされる。



その話を先輩から聞いて、俺はこの世界は表と裏、二つに分かれていて、

どうする事も出来ない壁に隔てられてるんだなぁ・・・・と改めて思った。


同時に改めてJGBに入って良かったと思った。

こんな現状の世界だったら、尚更、表を影からでも守りたい。



変えるのが無理ならば・・・・平和を出来る範囲で守るしかない。そう感じた。






一方、大学受験から一転、JGBに就職し、殺伐とした世界の

一応公務員になった俺とは違い、アイツは掲げていた夢を

掴み取るべく、お笑いの専門学校に進んだ。



前々からいつか関西に行って芸人になりたいよとよくほざいていた。

進路を決める年、芸人になって面白いことをしてテレビに出て、

世界を駆け回りたいとも言っていたな・・・

芸人の本場は関西、これも昔から築かれてきた世の中の構造の一部分だろう。


が、殺されるまで食品会社に就職していた事からその夢は叶えられなかったようだ。

それだけ険しい世界だったのか、はたまたそれとは

他にやりたい事があっちへ行って出来たのか・・・・


バンドやお笑い、やりたい事はとことんやったアイツの事だ。

後者の可能性は低そうだ。



どちらだったとしてもまだまだこれからだったのに

こんな最悪な結末でアイツの全てが終わった。

あの世にいるアイツ、本当に無念この上ないだろう・・・・・





・・・・どうしてこんな事に・・・・・・・




どうして俺より・・・・先に逝くんだよ・・・・・

ツヨシ・・・・うっ・・・・・




「ケンジ、オレ達・・・・いつまでも友達だよな!!」



「ケンジ、お前もJGBで頑張れよ。オレは関西で頑張るぞぉ!!」



アイツの陽気でやんちゃな声が聞こえる。


アイツとの思い出、アイツと交わした言葉の数々が記憶の中から蘇る。



アイツの事を思い出せば思い出すほど、同時にこれまでの自分を振り返れば振り返るほど、

悲しみが傷のように広がり、それが大粒の涙となって目から溢れ出る。



ツヨシ・・・・お前・・・・うっうう・・・・・うう・・・・・・・・



泣き顔を誰かに見られたくないと、コートのポケットから

ハンカチを手に取り、両手で顔を抑えて

拭き取っても拭き取っても止まる事を知らない涙。


今にも嗚咽をあげたくなってくる。



うっ・・・・・うう・・・・・・どうしてツヨシが・・・・・・

死ななければならなかったぁ・・・・・・





ツヨシぃ・・・・・・・・・









ピリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリ!!!!!!






ピリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリ!!!!!!






ピリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリ!!!!!!







・・・・・・はっ!




気がつくと静寂と闇を打ち破るようにポケットの

携帯の着信音がただただ響いていた。

ランプがレインボー色に光る自分の携帯を開いた。

クラスコからのようだ。



目元が涙で濡れながらもそっと携帯に出て、そっと耳に傾ける。




「先輩、モロヅミ先輩!!もしもし、クラスコです」




必死なクラスコの奴からの声が聞こえる。



「クラスコか・・・なんだ?早退届けならちゃんと提出したぞ」



「フォルテシア長官が、先輩に用があるって」




「長官が?代わってくれ・・・・・」



微かな雑音の後、電話の向こうから長官の凛々しい声が聞こえる。



「モロヅミ、辛い心境の中、申し訳ありません」



「ああ、クラスコから聞きましたか・・・・・」



「ええ・・・・7人目の被害者、諸木坂剛は

 あなたの高校時代の友人だったそうですね」



「はい、中学時代からの腐れ縁でした」



長官もどこか切ない様子だ。少しだけ心が洗われる気分だ。

年下とはいえ、上司にも心配されるのは・・・・



「長い間ご友人だったようですね・・・・

 こういう時には凄い訊きづらいのですが・・・・一つ、あなたに質問があります」



「なんですか?」



「あなたの友人は、他人をイジメたりとかそういう事はしていましたか?」



「は、はい?どうして・・・・・」



どうしてそういう質問が?ツヨシはそんな真似をする人間ではない。



「あなたはまだ知らないでしょうが、

 今回の連続強盗殺人事件、怨恨の線が強まったんです」



「ええっ・・・・・・!それは一体、どういう・・・・・・」




「諜報部がいち早く見つけた情報を照合した結果、

 犯人は過去に起こったイジメ自殺事件の加害者側の人間を

 復讐のために殺そうとしている事が分かったんです」



「なっ、それじゃあツヨシ・・・・いや、諸木坂もそれに関わっていると・・・・」



「はい。あなたの友人もそれで殺されたのではないかと・・・・」



「違います!!諸木坂は・・・・ツヨシは・・・・

 そんなイジメとかする奴じゃありませんよ!!!」



俺はさっきまでの悲しみの涙をこらえ、必死にツヨシは何も悪くないと強く訴えた。

すると長官は再び、


「・・・・では質問を少し変えます。あなたが諸木坂さんといた

 学校では生徒の誰かが突然、自殺するような事件は起こったりしましたか?」



「いえ、そのような事件は一度も起こってません」



俺とツヨシは中学と高校が一緒だったが、

そんな物騒な事件はどちらの学校でも起きていない。



「分かりました。辛い所、申し訳ありません。あなたが言う事が本当なら諸木坂さんは

 当然、今まで殺された6人の被害者の法則とは違う事になるんですよ」



今まで殺されたのは皆、その手の事件の関係者・・・・という事か・・・・・・




「加害者ではないのに殺されるって・・・・一体・・・・・」



「私にもまだ分かりません。ですが、何かしら理由はあるはずです。

 花を置いて去っている以上、同一犯なのは確かですから・・・・」



「くっ・・・・・・・・」



一体、犯人は何が目的なんだ・・・・どうしてツヨシを・・・・・



「あと最後にもう一つ。明日、JGB総本部で改めて今後の事をJGB単独で

 話し合う会議を行うのですがモロヅミ、あなたは諸木坂さんの傍にいてあげなさい」



「いえ、自分も行きます!!!」



このままツヨシを殺されて黙っていられるものか・・・・



「いいえ、これは命令です。忌引き届けは私が出しておきますから。

 あなたは乗り越えて下さい。悲しみを」




「乗り越える・・・・・」



長官の厳しくも勇ましい声が俺を鼓舞する。

しかし、ツヨシが死んで、立ち止まっていていいのか・・・・?



「大切な人を失った悲しみはすぐに癒える事はありません。

 あなたはきっと、殺された友人のために行きたいと思っているのでしょうが、

 迷いがあれば、成せるものも成せません」



「ここはお願いします。休んで下さい。お願いします・・・・」



「長官・・・・・」



長官の切実な願いの声が俺の心に突き刺さる・・・・・

長官も前長官の楠木さんを失った経験からそう言っているのかもしれない・・・・






「詳しい事は戻ったらまた改めてお伝えします。・・・・・・では、失礼します」





長官と俺の通話は、これで終わった。


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