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ソルジャーズ・スカイスクレーパー  作者: オウサキ・セファー
第二章 トリカブトの華
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第7話 急展開

「・・・・・ふむ。ご協力、ありがとうございます」



俺達は事件に関して、聞き込みを行っていた

相手の若いフレッシュな感じが特徴のスーツ姿の男に一礼し、

メモ帳をしまいその場を去った。


鑑識達が現場で作業に取り掛かる中、殺された被害者について情報を集めるべく、

俺は部下の刑事の川口、新田と共に

被害者の自宅の近隣に住む住人達から聞き込みに回っていた。


神奈川県川崎市宮前区の12階建てのマンション8階に被害者宅はあった。

なので同じマンションに住む住民達に話を聞いて回っている所だ。


今回の被害者は酷く荒らされた自宅のリビングで

背中から血を流してうつぶせに倒れていた。


中は家具は倒され、本棚から本はこぼれ、

テーブルはひっくり返され・・・・

空き巣が入った家の如く荒らされていた。



ジーンズに赤いシャツ姿と軽装でうつぶせで倒れている刺殺体。

これまでの6人の被害者と同じくナイフで何度も刺されて殺され、

三人目の被害者、鬼築正和の時と同じく犯人ホシは自宅を襲撃したようだ。


全く、ひでえ事しやがるぜ・・・・・


無論、今回も決まってアレがあった。

そう、うつぶせになっている刺殺体の横にはこれまでの事件と同様、

トリカブトの花があった。犯人ホシが愛用している毒花だ。


先ほど聞き込みをしていた男は第一発見者。被害者の勤める会社の同僚だ。

被害者は先週木曜日、6日までは元気に通勤していたが、

翌日金曜日の7日には連絡もなく出勤して来なかった。

その時は会社も急病か何らかの事情があるとして様子見して特に動かなかったようだ。


だが、被害者と特別親しかった彼は気に掛かり、

金曜の段階で何度も電話やメールを送るも応答がなかった。

土日も連絡がつかなかったため、気になった友人は

今日、会社の許可のもと被害者宅を訪れた。


家には鍵がかかり、インターホンを鳴らしても応答がなかった事に

不信に思った友人はマンション管理人に鍵のかかったドアを開けてもらうと

リビングで被害者の遺体を発見、俺らに通報した・・・・というわけだ。



殺害されたその被害者の名前は、諸木坂剛もろぎさか つよし。26歳。

第一発見者の男と共に神奈川の食品会社に勤め、一般事務をしていたようだ。



本当、まだまだ若くて人生もこれからってぇ時に

こんな死に方しちまうなんてなぁ・・・・ご家族も浮かばれない事だろう。

得体の知れない他人ヤツに命奪われて・・・・人生終わらせられるとは思ってなかったろうに。


一体、犯人は何を目的にこんなマネをしてやがんだ・・・・

早く捕まえて、こんなふざけた事をやめさせねえと・・・また次の被害者が出てしまう。



俺は内心燃える怒りを抑えながら殺された被害者を静かに悼んだ。

刑事ゆえ、数え切れないほどの死体を見てきたが、

志半ばで死んじまった死者を悼む心はいくつになっても忘れちゃいけねえ・・・・

犯人ホシを追う刑事として、人としてだ。



ピリリリリリリリリリリリリ!!!!



第一発見者への聞き込みを終え、マンションで

引き続き被害者宅のフロアに住む住民に聞き込みを

行っていると、俺の携帯が突然鳴り出した。



「ちょっと、失礼」



俺は住民に断りを入れ、その場から離れ、電話に出る。

同僚の木田からだった。



「はい、蔭山。木田、どうした?」



「警部、JGBのフォルテシア長官がお見えになりました。

 マンション入口で待っているそうです」



「分かった」



俺は電話を切るとその場で共に聞き込みをしていた

同僚の川口の肩を軽く叩いてこちらを向かせ、




「JGBが来た。俺はちょっくら会ってくる。ここは任せた」



「お疲れ様です」



俺はそれだけ言って挨拶を背中に受けるとその場を後にした。

一人、マンションのエレベーターに向かった。



もうすっかり慣れたがいつもの事だ。

警察とJGBが手を組む際に俺が会いに行くのは。


近年、俺は警視庁の中ではどういう訳だか、

いつの間にかJGBとの面会係のような存在になっていた。

が、別に悪いとは思っちゃいねぇ。

あの聞き分けの良い嬢ちゃんが相手だったらな。



あ、別に年頃の女が好きとか、そんな趣味は一切ない。



先代のJGB長官の楠木大和が亡くなって、後任が彼の遺言に従って

あのドイツから来た天才少女、フォルテシアになった途端、

俺は以前から彼女とよく話していたからという理由ではんば強引に

刑事部長に推され、今は非番以外はこういう暗黙の役回りを回されている。



楠木がご健在だった頃、警察とJGBが合同捜査した事件の現場に現れた

彼の傍らには副長官と一緒に今よりも幼いフォルテシアがいた。



最初は俺もなんで子供が現場にいるんだよと思ったものだ。

だから当たり前に彼を非難した。楠木と連れの部下達にも疑念を抱いた。



が、いざ接してみると決して態度は子供らしいとは言い難く、

誠実で礼儀正しく、静かで幼稚さもない。

俺が抱いていた当時の彼女と同年代の

騒がしいガキのイメージとはまた違っていた。


それは否定出来ず、俺も次第に彼女を見ていくうち、また事件で

彼女と行動を共にするうちその華奢で小さな体には

収まりきらないほどの高い力を感じていった。


小学生ではまず分からない事柄も理解していた。

子供とは思えないほどの知能に大の男も一瞬で倒す戦闘能力。

また、どこで覚えたのか高い指揮能力。



楠木と当時副長官だった岸田海門きしだ かいもんにも

彼女のドイツでの訓練の模様やその実績を聞かされ、

本当、ご両親もいないのにこんな少女も現代には

いるもんだなと思ったものだ。世界は広い。


聞いた話じゃ、元は孤児でドイツ軍に拾われて施設で

育てられていたらしいがそれ以上の事は俺は知らねえ。

ただ分かる事はその時から天才少女と言われていた事。それだけだ。


全く、ソルジャーってのは生まれながらに

天性の才能に恵まれた奴が多いこった。

彼女のご両親もあんな立派な子を産んでおいて

なぜ彼女を捨てたのか・・・・事情があるんだろうがな・・・勿体無いぜ。




今日の空は真っ白だ。少しばかり冬のような冷えた風を感じる日だった。

予報によると、雨が降る事はないようだが。



犯行現場であるマンション。そこから出ると

今も辺りにはバリケードが敷かれ、パトカーなどの車も多数停まっている。



マンションを出て、左には彼女が乗ってきたJGBの黒い車が停まっていた。

彼女は車の横で立って俺を待っていた。背の高い副長官と一緒に。



不敵な笑みを浮かべ、いつもひねくれたあの野郎ヴィルヘルムはいなかった。

今回は長官と副長官の二人だけのようだ。



「これは蔭山警部。お待ちしていました」



「おお、フォルテシア」



彼女に声をかけられると俺も普通に返す。


因みに彼女はどうやら長官と呼ばれなくても気にならないらしい。

その証拠、今まで長官ではなくフォルテシアと呼んでも文句を言われた事がない。

単に年上の俺に気を遣ってるだけかもしれないが。



「殺害された方の身元を教えて頂けませんか?」




「そうだな」



俺は聞き込みで得た情報を二人に話した。




「・・・・・・諸木坂剛」



フォルテシアは左手を顎にやり、

考え込む表情でその名前を呟くように言った。



「どうしたんだ?その名前に何か心当たりがあるのか?」



俺はフォルテシアに尋ねた。



「サカ、例のあのレポートには諸木坂剛の名前はありましたか?確認で訊きますが」



俺の質問を無視して、フォルテシアは手を下げると横にいる副長官の方を向いて訊ねた。



「いえ、諜報部が調べた過去のイジメ自殺事件の加害者の名前には

 そのような人物の名前は記載されてません」




ハッ??イジメ自殺事件・・・・・・?一体・・・・・・・?



唐突に、とっさに副長官の口から自然に出た一言に俺は衝撃を受けた。




「な、なあ、どういう事なんだ?詳しく教えてくれ。

 イジメ自殺事件って・・・・・」



俺は戸惑いながら尋ねる。まさか・・・・そんな事ないよな?



「そうですね、ちょうどそちらにお伝えしようと思っていた所なので伝えます。

 蔭山警部、トリカブトの花言葉、覚えてますか?」



フォルテシアはクイズのように唐突に俺に訊く。

いきなりなんだってんだ・・・・



確か、花言葉の件は第三の殺しがあってから一部で浮上した推理だった。

その理由が・・・・俺は脳みその引き出しからその答えを何とか出す。



「確か、「復讐」・・・・だったな。

 怨恨の線が一部の刑事の間で挙げられた最も有力な手掛かりだった」




「ええ、そうです。復讐です。この他にも近いものとして憎しみの意味もあります。

 この事件・・・・その花言葉通り、ただの連続強盗殺人ではなかった事が判明しました・・・・」




「な・・・・!じゃあ、まさか・・・・」




フォルテシアが冷静に発した一言に俺はぐっと息を飲んだ。

その言葉を発したフォルテシア本人も内心、驚きを堪えているようにも感じた。



「はい」



するとフォルテシアは頷き、俺が予感した事を口に出す前にそっと口を開く。




「そのまさか・・・この事件は・・・怨恨による連続復讐殺人事件で確定です」



「・・・・・やっぱりそうだったのか。

 くそっ、もっと早くに分かっていれば・・・・」



被害者の数を減らす事が出来たかもしれない。

苛立ちしかなかった。ヒントは目の前にあったっていうのに・・・・



「・・・じゃあ、誰なんだよ?その復讐の標的は・・・・分かったんだろ?」



俺は彼女にその詳細を訊ねた。



「はい。ほぼ判明してます。

 そしてその復讐の刃が向けられた先は・・・・」




「過去に学校で自分の同級生をイジメで死に追いやった加害者達・・・・

 及び、それに肩を持った者達・・・・だったんです・・・・・!」



「な・・・・・・なんだとぉ!?」



フォルテシアのその深刻な一言が俺に更なる衝撃となってほとばしり、

俺は驚愕するしかなかった。



じゃ、今まで殺された被害者は・・・・・

標的は誰かと思っていた所にあまりの意表を突かれた

一言でこれ以上、言葉が出ない俺だった。




その後、現場検証にはフォルテシア達も参加した。

先ほど彼女が言った事を俺は他の刑事にも伝えるよう頼まれ、

現場の川口達に話すとまさかこの殺人事件に教育現場のイジメが関わっていたとは

誰も思わず、全員がただ目を丸くし、息を飲み、驚くばかりだった。




まずい・・・・まずい事になってきやがった・・・・・・



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