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ソルジャーズ・スカイスクレーパー  作者: オウサキ・セファー
第二章 トリカブトの華
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第4話 副長官の休息

東京支部33階。

自動販売機があり、休憩用の背もたれがある白い椅子と

丸いテーブルが3セットある。ここは33階の休憩室。

窓がない照明だけの部屋。椅子はテーブル一つにつき、三つある。


昼休みにはまだ早いこの時刻では小休憩に入ってるスーツ姿の

職員二人がうち1セットの椅子にそれぞれ腰掛けて

休みながら缶コーヒーを口にしている以外は至って静か。



「お疲れ様です、副長官!!」



「お疲れ」



職員二人の元気な挨拶に対し、僕は静かに挨拶を返す。

僕が休憩室に入るや否や、急に背筋が固くなった彼らもその後に

「気にしなくていい」と心遣いをかけたら素でいてくれた。


その方が僕としてもありがたい。緊張する彼らも彼らだが、

こっちも目線が気になってしょうがない。


僕は遠慮なく自動販売機で買った茶色い缶コーヒーをグッと口にしていた。

やはりコーヒー豆で作る物よりも苦味が劣るが、休息には十分だ。

長官用の缶コーヒーはワイシャツから上に着ているコートのポケットにしまってある。


正直な話、昨日は寝るのも仕事で遅かったからやや眠気がある。


コーヒーを飲みながら僕は今回の件についてふと考えていた。

今回の警視庁からの依頼である連続強盗殺人事件・・・・

一体なぜ今日に至るまで犯人に犯行を許してしまったのだろうか。


テレビでも騒がれているが、事態に対する対処が遅すぎる。

警視庁はなぜ今になってJGBに協力を仰いだのか。

もっと早い段階で協力を仰げば、犯人にこれほどまで

好き勝手されなかったんじゃないか?


ま、蔭山刑事が言っていた、刑事部長などが

納得しなかったからなのかもしれないが。

現場を取り仕切るトップも、他の組織に

お株を取られるのはいい気がしないのだろう。


やれやれ・・・・そんな現場に見かねた警察の上層部は

JIAを通してJGBに協力を要請し今に至る、といった所か。


要請して翌日、また人が死んでるのが発見された。

本当、こんな状況ではたして犯人は捕まるのだろうか。油断は出来ない。


今回の事件は殺害された者の遺体の傍には必ず毒花が置いてあった。


その光景はまるで、昔、僕がドイツ時代に観た

サスペンス映画「ダーティ・ブルー」のオープニングのようだ。

80年代のロンドン郊外で謎の連続殺人事件が夜な夜な相次いで発生。

犯行現場に置かれていたのは手製のダークブルーの薔薇。


それを元刑事の名探偵と現役刑事が協力して共に追いかけていく・・・

振り返ればそんな映画だった。


殺害方法は様々で、どれも劇場で観て中には目に背けたくなるものもあった。

ナイフで残虐に体を切り刻み、バラバラに解体された遺体や

街に並ぶ電灯に串焼きのように串刺しにされた血を流した

グロテスクな遺体が容赦なく出てくる。そんな映画だ。

他にも今回の事件のように壁に貼り付けて何度もナイフで滅多刺しにされた遺体や

川に仰向けで浮く血まみれの遺体が群がるカラスの餌になってたり・・・・

苦手な人間はすぐにまぶたを閉じたくなる・・・・容赦ない演出だった。


殺された者はいずれもそれなりの資産や地位を持った人間ばかりで、

複数犯の犯行として探偵も刑事も最初は事件を追っていたが、

オチを言ってしまえば、犯人はロンドンの大学で教育に関して

教鞭を執るたった一人の教授だった。



動機も単なる人間への嫉妬。人を導く名教授を持ちながら

街を歩く幸せなカップルや裕福で欲に溺れた金持ちを見てそれを疎ましく思い、

殺人鬼となり、一方的な自分勝手で犯行に及んだ。

一見、単純な動機かもしれないが、それでも当時の僕の心には大きく響いた。

人間という物は追い詰められれば、感情に駆られ誰でも狂人になる可能性があるのだなと。


教授も名教授でありながら恐妻家であり、奥さんに金は使い潰され、

せっかく働いても教授のとこに入ってくる金はほんのわずか、

食事や交通費など最低限な金しか得られない。趣味のゴルフも出来ない。

離婚を提案するも、提出前の離婚届は破られた挙句、

恐喝まがいに脅され、職業柄夜逃げも出来ない・・・・

そんな追い詰められた彼は何も関係ない相手に

その怒りの矛先を向けたのだった。


映画を観に行ったのも高校時代の友人に誘われたのでその付き合いだった。

当時は高校三年生で寒い冬の中、映画館に行ったのを覚えている。

言っておくがその友人はヴィルじゃない。

アイツとは古巣であるドイツ軍の基地で知り合った。



僕やヴィルはJGBに所属する以前はドイツ軍にいた。

そもそも、父親がドイツ軍に勤めていたその影響で

高校卒業後に僕は大学には進学せず、ドイツ軍に入隊した。



大学受験も人生経験の一環で先生の勧めもあって一応受けたが

また学校へ入って4年間勉学に勤しむぐらいならば、軍人として

社会経験をし、修行する方がいいと考えた僕の

受験に対する怠惰な感情をまるで見抜いたかのように

受験という関門は僕を拒んだ。



僕は生まれ持ってのソルジャーだったが、父の顔もあり、

裕福な暮らしも出来た。母親が極度の日本通だったため、

家にはドイツの物と日本の物が混在していた。


幼少の頃、母が観ていたチャンバラ映画のビデオを観て

剣術に憧れた僕はそちらの方面で腕を磨いた。

主人公が一人で大勢の男達を次々とバッタバッタ

倒していくのを見て、憧れたものだ。


僕はソウルは持っていてもヴィルや長官のように特殊能力はない。

しかし、剣を磨けば磨くほど普通の人間よりも

確実に強い力が自分にはある事を実感した。


学生時代も度々、狩り目的のソルジャーが

襲ってきた事もあったが撃退した。剣道の授業と違い、勿論実戦だ。


ドイツ軍には7年近く勤めていたが、そこで今よりも幼い彼女・・・・

フォルテシア・クランバートルと出会った事で僕に転機が訪れた。


当時は今とは大違いで心を閉ざし、今のように掲げる強い信念も何もなかった。

ただ一つ言える事がその時から同じ年頃の子供とは比べ物につかない

非凡の才を発揮し、難しい数式の計算や科学者の論文なども理解していた。


それでお目付け役を任された僕も最初は頭を悩まされた。



だが、彼女が天才にも関わらず心を閉ざしていた理由・・・・

その理由を知った時はスっと納得がいった。



しかし、その前になぜ軍の施設にこんな小さい女の子がいたのか。



ドイツ軍には身寄りのない子供を引き取る軍が所有する養護施設がある。

親に捨てられたり、様々な事情で親と住めなくなった子供が暮らすための施設。


だがそこはただ、親に恵まれなかった子供を助けるための慈善施設ではない。

全てはドイツ軍の利益のため、すなわち国のためだ。


ドイツ軍は強い軍隊を作るため、優秀な人材を欲しがっている。

ソルジャーなのかそうでないか関係なく子供を養護施設に迎え入れる理由も

幼い時から教育を施して強い人材に育てるためだ。


そして・・・・これらの活動の延長線上にある目的は

当然、ソルジャーの子供を発掘するためだ。


まさに金の卵。普通の人間にはないパワーを持つソルジャーが

ドイツ軍に入れば、どれほど強力な戦力になるか。これを利用しない手はない。

アメリカもこの手のモノに着手し始めていると聞く。


僕もソルジャーである事は父を通して軍内部に

知られていたため、軍に入った時には盛大に歓迎を受けたものだ。


ソルジャーの存在は世間では公に浸透していなくても、

ドイツ軍はその存在を快く受け入れてくれる・・・・

ゆえにドイツ軍は常人よりも戦力に優れるソルジャーにとって

最高の職場だろう。と、当初は僕も思っていた。



しかし、彼女が心を閉ざす理由を知り、確かめた事で

僕の中にあるドイツ軍に対するイメージの全てが吹き飛ぶ事になる。




後に自らの後継者を探し、ドイツ軍の基地を訪れていた

先代のJGB長官、楠木大和くすのき やまと

彼女が自ら彼についていく事を決めると

僕とヴィルも彼女について行く事を決めてドイツ軍を去った。

そして、僕らは彼女の側近としてJGBに入隊した。



母の影響で日本という国に興味があったのもそうだが、

何より彼女の力になりたかった。

それだけ彼女は重いモノを抱えていたからだ。


更に同時にドイツ軍の隠された闇の実態を知ってしまったのもある。

幼少の頃から馴染み深かった憧れのドイツ軍の裏であんなプロジェクトが

行われていたとは僕も思わなかったし、知らなかった。


あれは禁忌。神を嘲笑い、倫理を冒涜する恐るべき"遺産"。

応用するには未完成の代物だったと言われていたようだが・・・・

それは長い時の中で彼の手によって既に完成してしまっていたのだ。


Dr.(ドクター)ヨーゼフの手によって・・・・・



彼女が心を閉ざしていた理由もそれだった。

ドイツ軍の闇の部分を知った僕はとてもこのままドイツ軍にいる気がしなくなった。

そして、楠木大和に惹かれていた彼女のためについていく事を決めた・・・・





「サカ」






「あ、長官・・・・・」




職員達とは別のテーブルの椅子に座って考えにふけり、

缶コーヒーを飲んでいると彼女がちょうど傍に歩みよってきていた。

黒いJGBの制服の上に背中からマントのように羽織っている、白い大きな軍用コートが

美しい長い金髪と共に凛々しくなびいている。

黒いホットパンツからの素脚がより女の子らしさを出している。



「お疲れ様です!!長官!!」



近くで休んでいた職員二人が休憩室に入ってきていた長官に

しっかりと大きな声で二人揃って挨拶をする。



「お疲れ様です」



挨拶された長官もしっかり二人の方を向いて返す。

すると僕の方を向いて、



「どうしましたか?先ほどからボーッとしていましたよ」



彼女は僕を見るなり、不思議な顔をしている。



「いえ、大丈夫です」




「そうですか?何か意識が遠くに行っているように見えたので」




やれやれ、長官には何もかもお見通しのようだ。

こちらの顔を覗き込んでくる。が、ここはやり過ごそう。



「ちょっと考え事をしていただけです。

 それよりも、出発ですよね?」



僕は席から立ち上がるとコートの襟を正す。




「ええ、総本部へ帰りましょう。もうすぐ約束の時間です」



長官が右腕の腕時計を見ると僕も右腕の腕時計に目を通す。

長官が指定した11時まであと10分。



僕と彼女は二人で休憩室を後にし、

廊下を並んで今後の話を色々しながら歩き出す。




とりあえず、事件の事を考えたらふと昔の事を思い出してしまったが、

意識を現実に引き戻し、仕事に戻るとしよう・・・・・



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