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ソルジャーズ・スカイスクレーパー  作者: オウサキ・セファー
第二章 トリカブトの華
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第2話 連続強盗殺人事件 ~6人の被害者と花の秘密~

殺人事件の現場の視察を終え、私達は車で最寄りの新宿にあるヴィルが

支部長を務める東京支部へと向かう。

我々JGBの本拠地、総本部は千葉の美浜区の海の上にあるのだが、

やる事があるのでそちらに向かう事にした。


因みに私達が乗ってきた車がどうやって美浜から

東京の中野という所まで短時間で移動出来たのか。

それは、この関東の都心には短時間で現場に迅速に目的地に辿り着くための

俗にショートカットポイントとも言うべき隠された道路が無数にあり、

車やバイクなどが入ろうとすると道路や壁が少しだけ開閉し、その中を通っていく形となる。

2010年代から推進されて行われてきた都市の再開発の賜物の一つでもある。


ガラス張りされた高層ビルが建ち並ぶ景観溢れる大都市に首都高速が至る所に

張り巡らされており、それはまるで複雑に絡み合う糸のよう。

この首都高速含め、至る所に交通を便利にするためのそういったポイントがある。


我々が乗る車は美浜からしばらく車を走らせ、ポイントを2つほど経由し、

新宿に辿り着くとそこから真っ直ぐ現場を目指す事で

最短で約一時間弱で現場のある中野へ急行出来る。

近代的で生活を豊かにする画期的な発明はこの世には星の数ほどあるが、

これはその中で交通手段を便利した物の一つだろう。



さて、車の中の助手席で今回の事件について、

今分かる事を私なりに頭の中でまとめてみる。

犯人はナイフと思われる凶器で今さっき見てきた現場も含め合計6人を殺害した。

必ずトリカブトの花を置いて被害者の所持品から金品を奪い逃走している。


指紋はいずれの事件でも取れておらず、DNA採取にも至っていない。


更に言えば、東京都内での犯行は今回が初めてである。

過去の5件は東京ではない場所で起こっている。

起こった順番に挙げていくと、岐阜、大阪、新潟、埼玉。


見ての通り、次第に西から東へ向かっている。

岐阜で最初の事件が起こった後はそこから西にある大阪で同様の事件が起き、

その後新潟、埼玉、そして東京と来ている。

なお、新潟では二件、同様の犯行が起きている。


地方と地方をまたいで間隔は空いているとはいえ、

同じ手口で連続して起こっている犯行であるため、

警視庁は複数犯も視野に入れ、犯人達が情報交換する方法なども含め、

捜査を始めているが、これといって有力な手掛かりがない。

私もまだ、単独犯か複数犯か、検討がつかないでいる。


警視庁からJGBに提供されたファイルに入れられた資料を見て、これまでの経緯を振り返ってみる。

最初の犯行は都内とは距離もかけ離れている岐阜県で起きた。3月3日の金曜日、ちょうどひな祭りの頃だ。

殺されたのは阿義田義文あぎた よしふみ、48歳、大阪府出身、職業は大学の職員。

当初は職員が殺された事もあって、彼が勤める大学や遺族に捜査が入ったが、

これといって犯人の有力な手掛かりを得られず、そのまま第二の同一犯による犯行を許している。


犯行現場は彼が勤務する大学の近くの公園。

公園と言っても空き地に近く、金網に囲まれ、砂場と滑り台しかない。

殺される直前は普通に大学におり、夜22時半に大学を出たのが偶然その時残っていた職員から

得た最後の目撃証言となっており、その後帰宅途中に襲われたとされている。


高台にそびえ立つ大学から長い階段を降り、その下の閑静な住宅街にある小さくて

砂場と滑り台とベンチしかない貧相な公園の砂利の上で腹から血を流し、

うつ伏せで公園の真ん中でスーツ姿で倒れているのを翌日、近くの地元住民に発見された。

公園で立ってタバコを吸っている所を襲われたようだ。現場には吸殻が一本落ちていた。


持っていた財布の現金が全て抜かれ、腹部を凶器で何度も刺され、

真っ赤な血痕が辺りに飛び散る非常に残虐な犯行であり、

同時に死者に手向けるように一輪のトリカブトの花が遺体の傍に置かれていた。



岐阜県で阿義田義文が殺された事件から次の週の週末、3月9日の木曜日。

今度は岐阜から西の大阪にて同様の事件が起きた。

殺害された二人目の犠牲者は宇緒坂健介うおさか けんすけ、27歳、群馬県出身。

職業は大阪のゲーム会社に勤めるシステムエンジニア。

スーツ姿で大阪の街中の暗く狭い路地裏にて壁を背中に預け、

足を左右に広げた血を流した刺殺体が発見された。


前回同様、腹部を何度も凶器に刺した後があり、血が辺りに飛び散り、路地裏の壁も血だらけ、

そして、岐阜の事件同様、一輪のトリカブトの花が遺体の傍に置かれており、

財布の現金がまたしても全て抜かれていた。


最後に目撃されたのは殺害された日の午前二時。職場の上司の証言だ。

残業により帰宅が遅くなり、またも帰宅途中での犯行を許すこととなった。


第二の事件においても、やはり被害者の遺族、関係者や職場も

捜査対象となったが、犯人が見つかる事はなかった。


大阪の事件から一週間後、3月の中旬から下旬に差し掛かる週の中頃、

3月17日の金曜日、新潟で事件は起きた。

前回と前々回の犯行の空いた期間と比較して間が空いたのが特徴なこの事件。

殺されたのは、鬼築正和きちく まさかず、32歳、職業は不動産屋に勤めている。新潟県出身。

彼は新潟の浜辺で打ち上げられているように灰色ズボンと白いシャツ姿で遺体となって発見された。


無論、今までと同様、ナイフとみられる凶器で

何度も腹部を滅多刺しにされ、傍にはトリカブトの花が一輪。

財布から現金が全て抜かれているのも相変わらずだ。

最後に目撃されたのは前々日、職場にて元気に出勤してくる姿が上司から証言されている。


しかし、彼の場合、これまでの帰宅時を狙った二件とは違ったケースで殺害されている。

それは16日に行方不明になり、その次の日、つまり17日に

浜辺に打ち上げられるように遺体となって発見されたからだ。

地形が浜辺であるため、行き帰りの犯人と思われる一人分のゲソコン(足跡)が発見された。


遺体は白シャツにジーンズ姿であり、更にマンションの自宅が荒らされ、

リビングのフローリングに多量の血痕が付着し、赤く染まっていた事から

犯人に襲撃されて殺害され、その後、遺体をこの浜辺に遺棄したと警察は見ている。


まるで空き巣に入られたかのように酷く荒らされており、

物がデタラメに散乱していたという。

また、自宅から遺体が見つかった浜辺までは距離があり、車で一時間近くはかかる。


ゲソコンで綺麗に痕跡が残っている事からこの時点で、犯人は人間一人を

遠くまで担ぐぐらいの力はあり、男性である確率が高まっている。

また、一時間にも及ぶ距離を気づかれずに移動している事から、

すっかり寝静まった夜中に襲撃された事、犯人は車を所有している事といった説が浮上している。

車については、マンション付近に怪しい車は停まってなかったか等の情報提供を呼びかけている。


誘拐されて殺された事から近所の住民にもマンションに怪しい人物は

いなかったかの聞き込みが行われたが、有力な手掛かりはなかった。

なお、未だに被害者が殺された場所ではいずれも

常に犯人逮捕のための情報提供を警察は求めている。


その後、事件から二日後、3月19日の日曜日、警察が新潟で捜査をしている矢先、

第四の犯行が追い打ちをかけるように起こった。

新潟にある山奥にて、これまでと同様の手口による遺体が見つかった。

死んでいたのは武高川浩一むこうがわ こういち。彼も新潟県出身。

年齢は32歳、職業は地元の食品会社に勤めているサラリーマン。

最後に目撃されたのは殺害される前々日。金曜日だ。

通常通り出勤し、業務に励んでいたという。


しかしその次の日の土曜日に鬼築正和と同様、行方不明になり、

翌日、スーツ姿で刺殺体となって登山者に発見された。


土曜日は偶然、彼は出勤する日となっていたため、

会社側も一向に出勤して来ない彼の自宅に連絡をとった。

だが、繋がらなかったため仕方なく彼抜きで業務を行い、

そのまま翌日遺体が発見され、彼と判明した。


自宅は荒らされておらず、金曜の帰宅途中か土曜日に

誘拐されて殺されたとされている。

遺体の傍にトリカブトの花が一輪置かれ、ナイフで刺され、

かつ財布の現金が抜かれているのは同じだった。


山道で被害者の血痕が至る所で発見されたが、

登山者や山を管理する者の間では遺体を抱えた怪しい人物の目撃情報はなかったという。



新潟で起こった二件の強盗殺人事件に警察も全力を挙げて

新潟のどこかにいると思われる犯人を捜したが有力な犯人に結びつく証拠はなかった。

しかし、新潟で殺された鬼築正和と武高川浩一は中学時代は

同じ学校の同級生である事が経歴書で判明している。



これにより、動機が二人と関係を持つ者の怨恨の線であるという説が浮上した。

ただ、新潟以前のこれまでの2件の事件の事もあり、その説は一旦廃れた。


しかし、この時点で私が先ほど第六の犯行現場で気にかけた犯人の

怨恨の線を強める"花から導かれるメッセージ"が浮上していた事もあり、


犯人は被害者全てに怨恨を抱く人間である可能性が一転、改めて強まり、

ただの物取り目的の連続強盗殺人という説と

そのメッセージから導かれる怨恨の線であるという説に二分し始めていた。




その後、やはりとしか言わんばかりに第五の事件が起こってしまった。




新潟の二回目の事件から一週間後の3月の下旬。3月27日の月曜日。場所は埼玉。

犯行現場はとある公園にある川。そこで流された刺殺体が発見された。

殺害されたのは、菊治丸由美きくちまる ゆみ、49歳。愛知県出身。

埼玉の教育センターに勤務する女性。

遺体が発見される前々日は教育センターにいてその後行方不明になった事から、

岐阜、大阪同様帰宅時に狙われたものと見られる。

センターを出たのも夜21時頃と遅かったという。

また、川の上流にある橋の上で彼女の血痕が検出されたため、

刺殺された後、川に投げ落とされたと警察は見ている。


これまで通り、ナイフと見られる凶器によって腹部を何度も滅多刺しにされ、

また、彼女の所持品であったバッグも橋の近くで

捨てられていたのが発見され、財布の中身の現金は全てこれまで通り抜かれていた。



しかし、今まであったはずの一輪のトリカブトの花は現場のどこにもなかった。

だが、その後行われた司法解剖で、なんと胃の中にトリカブトの花があった事が判明した。

なお、その他の被害者4人の司法解剖では体内に異物が入っていた事はなかった。


その後も分析の結果、ヴィルが蔭山警部に

言っていたような毒を飲まされて殺されたわけではなく、

刺された後に無理やり水と一緒に飲まされた事が判明している。




こうして、先ほど見てきた第六の事件に繋がる。

埼玉と東京での殺人は約一週間しか間が空いていない。



犯人が単独犯かそれとも複数犯か・・・どちらも視野に入れられており、

二つをそれぞれ仮定して考えてみる事にする。


まず、犯人が単独犯なら、岐阜、大阪、新潟、埼玉、そして東京へと単独で移動し、

殺人を行ってるというものだが、それぞれの犯行が行われる間の空白の期間が

まちまちなので、犯人は空白の時間で移動以外にどこで何をしていたのか、

また、どうやって移動を繰り返していたのかも気がかりである。


整理すると第一の岐阜の事件から第二の大阪の事件が起きるまでと

そしてそこから第三の新潟の事件が起きるまでに約一週間、

第四の新潟の事件が起きるまでに二日間、そして再び

第五の埼玉の事件が起きるまでとそこから第六の東京の事件が

起きるまでに約一週間かかっている。

その期間中、怪しい人物の目撃情報もない。ますます謎だ。


一方、複数犯ならば、グループそれぞれが何らかの方法でやりとりをし、

計画的に犯行を行ったという推理がある。

携帯電話、スマートフォン、インターネット、メール、挙げるだけでも

離れてる相手と秘密裏に連絡を取り合う手段はいくらでもある。

犯人達がそれぞれ犯行があった場所の近くに

バラバラに住んでいたりすれば、尚更可能ではないだろうか。


現金が持ち去られていたのは第六の事件だけではなく、

それまでの事件全てだ。特に第三の犯行は自宅も荒らされている。

ゆえに連続強盗殺人と呼ばれている。


だが、花がある事でそれは違ってくるようにも見える。

ここで、犯人の怨恨の線を強める"花から導かれるメッセージ"について改めて紐解いてみる。

実の所、答えは花そのものには当然ない。答えはその外にある。


新潟での第三の犯行が起こり、第四の犯行が起こる二日間の空白の中で、

捜査線上に花の事で根拠を導き出し、その上で怨恨の線を挙げる

推理が一部の刑事達の間で浮上し、広まったのだ。


唐突な話だが、花と言えば、象徴的な意味を持たせるため、

その植物に与えられる花言葉というものがある。


私も昔、本で読んだ事がある。オリーブは平和の象徴、バラは愛の象徴、

ヒナギクは純真の象徴、ゲッケイジュは栄光の象徴といったように

花にはそれぞれ様々な花言葉がある。


それらは贈り物をする時、式典に飾る時などに用いられる事もあるという話だ。


そういった経緯から一見、花言葉という物は希望や光に満ち溢れた明るいテーマに

沿った物しかないと先入観で考えてしまう事も少なくないかもしれない。


が、世の中にはその一方で、人には教えたくない花言葉というものがある。

私は昔、本で読んでから世界が明るい出来事と悲しい出来事で

満ち溢れているように、花の世界にも明るいもの、悲しいものがあるという事を知った。


例えば、キクの花言葉。これは破れた恋の象徴である。

続けて、ブドウは酔いと狂気の象徴といったように誰でも

知っている植物にもそういった暗い要素がある。



では、トリカブトの花の花言葉はなんだろうか。

それを知った途端、花から導かれるメッセージがすぐに浮かび上がる。



トリカブトの花言葉。それは・・・・・・・










復讐。










トリカブトの花は復讐の象徴。

フランスでは「あなたは私に死を与えた」という花言葉もある。

他にも「美しい輝き」「厭世家」「人嫌い」「騎士道」「栄光」などといった物がある。

イギリスでは、「人間嫌い」「騎士の武者修行」「騎士道」「栄光」という花言葉となる。


「栄光」「美しい輝き」「騎士道」などといった一見、明るいテーマがあるようにも見えるが、

花そのものが有毒植物であるため、悪い意味で捉えられ、贈り物や式典には適さない花だろう。



そう、この中でも殺人に一番関連性がありそうな物として

一番納得がいく花言葉が「復讐」だ。


これが正しければ、その言葉通り、犯人は

自分が復讐したい相手を次々と殺害している事になる。

財布から現金を奪うのもその復讐なのではないだろうか。


私はただの強盗殺人説よりこちらの説に考えが傾いている。

しかし、第三の犯行でその説が浮上し、今に至るまで"動機"が見つかっていない。

花のメッセージが復讐だとするのなら、なぜ怨恨を抱くのか、その動機は何なのか。


殺された6人全員に恨みがあるというのなら、その恨みはどこから来るのだろうか。



怪しい人物の目撃情報すら未だにない。

被害者の回りを調べてもほとんど情報が出なかった。

そういう物から有力な証拠や犯人逮捕の決め手は

出てくるのだがそれが見つかっていない。




一体、犯人は何者なのだろうか・・・・




被害者の中に新潟の二人のような同様の共通点はないだろうか。

もう一度よく調べてみるべきだと思った。

犯人、もしくは犯人達が6人全員に恨みがあると仮定するのならば、

被害者の人間関係や過去から当たってみるべきだろう。



花言葉の推理が出てから3人の人間が殺されている。

そして依然、有力な手掛かりが出ていない。



警察も捜査を続けているだろうが、ここは一つ、

東京支部に着いたらJGBの"あの部署"に現在の状況を

聞いてみようと私は考えた。


その部署は既に三週間前からこの事件を嗅ぎつけ、動いている。



そう、JGBの中でも最も情報収集に特化した部署である、諜報部だ。

その部署に属する、"ある課"がこの事件を水面下で追いかけているはずだ・・・・



それをまずは確認しに行く。






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