第0話 始まり
寒波のいてつく風がコンクリートの上に吹き荒ぶ。
それらは大地、空気、人、動物、植物、海、コンクリート、全てを凍えさせる風。
青い空の下、一つの広大な敷地に広がる高い4階建ての建物の広い屋上。
灰色コンクリートで出来た屋上。
屋上の周りを覆う、その気になれば跨がれるぐらいの柵を
越えた先に一人の若い男が立っていた。
男は柵を越えた先のわずかな足場に立っている。
太っちょな体格で、薄汚れてボロボロな黒い服を身にまとった男。
目の前に広がるこの辺りの何気ない街の光景をこの高い場所から見下ろしている。
かなり遠くには青い海が見える。真冬で凍える海が・・・・
彼以外には屋上には誰もおらず、
静寂に満ちた、冷える風の音しかしない。
男は決心するとそのままその身を目の前の足場のない場所に向かって
自らの体を棒立ちで倒し、その大きな体を宙へ投げ出した。
真っ逆さまに悲鳴をあげることなく落下した男の体は
地面で大きな衝撃を立て、真下にあった更地のグラウンドに落ち、
弾けるように辺りに赤色の血が飛び散り、倒れた男の体の回りの
地面を真っ赤な血がドロドロドロドロと円の形をつくって辺りを侵食する。
一見、よくありがちな飛び降り自殺。
誰かが彼を想い、彼を引き止めれば、彼の運命も変わったかもしれない。
が、そのような人物は誰ひとりとして現れる事はなかった。
この日、男は・・・・・自らその短い生涯に幕を下ろした―――――――




