第29話 真相
闇。深い闇。暗い闇の中。
荻野先生との電話の後、私は布団の中で悲しみと衝撃の狭間にいた。
歩美……どうして……どうして私に黙っていなくなっちゃったの……
それしか考えられなかった。
今まで一緒にここまでやってきた大切な友達が、突然いなくなったショックは私に重くのしかかったのだから。
そう、荻野先生から残念そうに告げられた事……それは私にとってはとてつもない衝撃だった。その時の先生とのやりとりが断片的に脳裏に蘇ってくる……
『どうしたんですか? 歩美がどうかしたんですか?』
何だか心臓の鼓動が早くなったのを感じた。気になった私は早くその答えを待つ。
『笹城なんだけど、それがな――』
荻野先生は一瞬、間を置いた後、続けた。
『今週の火曜を最後に、家の都合で京都の学校に転校する事になってな……だからもういないんだ』
先生が残念そうに言った一言に私の中に衝撃が走る。
そんな、嘘だ……歩美が私に黙って転校?転校しちゃったの……?
ほぼ毎日連絡をくれたあの歩美だ、転校するなら私にも絶対何かで……
『私も正直、月曜の朝にいきなり電話で聞かされたから驚いた。どうやら、日曜の時点で笹城は引っ越しの準備を始めていたようでな……』
『火曜の授業を最後にクラスの皆で名残惜しいが見送ったよ。転校自体は既に水面下で検討されていた事のようだから、しょうがないな』
『そ、そうですか……』
私はがっくりと肩を下ろした。
『黒條、酷だと思うが彼女は社長令嬢だから、こればっかりは家の都合でしかない。残念だが、そういう事だ』
『は、はい……そうですね……ありがとうございます』
『風邪きっちり治したら来いよ。休んだ分のプリントも渡すから必ず朝来たら職員室に来るように。じゃあな』
ガチャ――……
電話が切れると私はそっとスマートフォンをテーブルに置いた。そして、まだ敷いたままの布団に歩いていき、そのまま横たわった……
……――そうして、今に至る。
正直な所、これだけでは納得がいかないのと同時に突然の衝撃にただ悲しむ私だった。家の都合?
それだけじゃ、分からない。分からないよ……歩美、どうして……?
どうして私に黙っていなくなるの……?
真実を知りたい、詳しい話を聞きたい……そうでなければこんな前触れもない別れ方、絶対に納得出来ない。
とにかく、詳しい話を知りたい……デリケートな問題かもしれないけど、何か言葉が欲しい……
だけどそのためには早く風邪を治さないといけない。一刻も早く風邪を治し、まずは荻野先生だ。先生から直接話を聞くんだ。
先生ならば、私と歩美の関係も知ってるだろうし、きっと話してくれる。
食べなきゃ風邪も良くならないし、いつまでもこのままだ。
だから私は悲しみをこらえて歩美との思い出を思い出して時々泣きながらもその日の昼食と夕食はちゃんと食べる事にした。
食欲は意外にもあった。体が栄養を欲して悲鳴を上げてるんだろうか。不思議だ。
しかし、風邪を治す事に前向きになったのはいいけれど、歩美がいなくなった悲しみだけは私を決して逃がしてはくれなかった。
泣きながら、涙を手で拭いながら昼食のカップのうどんを食べている間も、歩美との思い出が走馬灯のように次々と蘇ってくる。
初めて会った時の事、一緒に勉強した事、一緒に遊んだ事、一緒に助けあった事、シーザーに歩美を人質に取られて戦った事、五日前のスケアクロウ事件の事……
そして……最後に蘇った記憶は……自殺しようとした私を助けてくれて、その後も私生活の面で私を助けてくれた事。
歩美と過ごしてきたこの約一年半の出来事……それらを思い出す毎に私の目元から多量の涙がこぼれ落ちる。
今でも歩美には感謝の気持ちでいっぱいだ。
右目の視力を失った事で今まで通り満足に体が機能しなくなった事で思いつめて死のうと思った私を助けてくれたのだから。
歩美がいてくれなかったら、私はとっくに死んでいたかもしれない。無論、今頃ここにもいなかった。
だから、その後、スケアクロウと戦って、それで勝って……これからまた新たな楽しい日常を二人で始めよう……そう思っていたのに……
こうなってしまうとは思わなかった……
とにかく、風邪が治って学校に行けたら荻野先生にもっと聞くしかない。歩美が突然転校していなくなった理由は先生なら必ず知ってるはずだ。
夕食後、薬を飲んで私は早いうちに眠りについた。夕食はコンビニの弁当で済ませた。
明日までに体調を万全にして、先生に会うんだ。真相を解き明かす事が、今の私の一番の薬になると私は確信した。
早く知りたい、早くすっきりしたい……そんな事を考えると心臓がドキドキして、眠れない。
けど、眠らないといけない。新たな明日を迎えるために。
次の日。私は出来るだけ早く登校し、ホームルーム開始前に職員室の前にいた。
昨日、頑張って寝た甲斐もあってか、すっかり熱も下がっていて体調も回復し、凄ぶる良好だった。
実質約一週間ぶりの登校だけど、歩美がいなくなったこの日常はどこか自然と物悲しさを感じた。空は真っ白な雲に覆われていた。
私は真相を知るためにすぐに職員室の扉を開ける。
「失礼します」
職員室に入って挨拶し、荻野先生がいらっしゃらないか尋ねると席に座っていた荻野先生がこっちを向いてこちらに来るように合図されたので、私は荻野先生の座る机の所まで行った。
既にたくさんの教職員の先生方が出勤していた。
「先生、おはようございます」
「おはよう、黒條。随分早い登校だが、もう体調は大丈夫なのか?」
「はい、お陰様で。十分、休んでこの通りです」
「そうか、良かった。けど、無理は禁物だぞ。これが休んでた分のプリントだ。さ、持っていきなさい」
「はい……ありがとうございます」
私は先生から紙袋に入ったプリントの山積みをもらった。休んだ分の科目全部の奴なので結構多い。とっさに一週間の重みがのしかかる。
「ノートは誰かに適当にコピーさせてもらうといい。職員室のコピー機を使っていいから。黒條、笹城がいなくなって辛いと思うが、これを期に新しい友達を作るとか、少し努力してみるといいんじゃないか?」
「は、はい……」
ダメだ……今の状況、誰かにノート見せてなんて言えっこない。
周りは私にとって敵だらけだ。歩美がいてくれたらどんなに助かってた事か……
そうだ、このまま話を終わってはいけない。本題を入れないと。
「あの、先生……」
「なんだ?」
「話を……もう少し詳しく聞かせてくれませんか?」
「笹城の事か?」
「はい、私、納得できないんです。一番の親友だったのに黙っていなくなったのには何か訳があるはずなんです。このままではとても落ち着けません」
私は強い口調で先生に主張した。
「先生、歩美の転校に関する詳しい話を私にも聞かせて下さい! 何か先生も聞いてるはずですよね!? お願いします!!」
私は訴えた後、思い切り頭を下げた。
「うっ……」
私が頭を大きく下げ、先生が口ごもってしばらく沈黙が続くと先生の口が開いた。そして、先生はなんか言いにくそうな苦渋な顔で、
「……そうだな。知らなかったようだし、お前には話そう。月曜に笹城本人から聞いた話を」
なぜか先生は妙に言いにくそうな表情をしている。どうしてだろう。
「先生、何か言いにくい事ってあるんですか?」
「すまん、席移動しようか。話しやすいとこに移動しよう」
先生に言われると、先生は席を立ち、私も先生の後を追いかけた。
そこは、職員室にある黒くて長いクッションの椅子が二つ向い合せにあり、その間に長方形の黒いテーブルがある小さな面談用スペースだった。
主に保護者と教師が面談したりする場所であり、青いカーテンに囲まれ、教職員用の席が並ぶ机とは隔離された場所だ。
私と先生は向かい合ってそこに腰掛けた。何を言われるのかと思うとこの瞬間でもドキドキする。
「では、話すが……あまりあそこでは話しにくい話だ。だからここに移動した。先に言っておくが、どんな内容だろうと、受け入れる気はあるな?」
「はい……そのためにここにいます」
先生の真面目な問いに私は強く答える。
「分かった。もう一度言うがこれは笹城本人からも聞いた話だ……結論から言うと、笹城は会社の経営絡みとかそういう事情で引っ越す事になったわけじゃないんだ」
「えっ!?」
突然、荻野先生から出た一言に私は目を丸くした。
「じ、じゃあ、なんで……!」
私は目を丸くしながらも荻野先生に尋ねた。
「彼女の……身の安全のためだ」
「え……!」
まさか……!?
そのまさかなの……考える間もなく、荻野先生は話を進めた。
「まず話は今年の二月に遡る。彼女は社長令嬢ゆえにストーカーの被害を受けた。相手はライバル会社の幹部社員。笹城のお父さんが経営する会社とは犬猿の関係で、社長令嬢である彼女を社長、つまり笹城のお父さんへの嫌がらせ目的にストーカーしていたんだ」
ストーカー? スケアクロウの件以外で……? そんな話は初耳……
「あの、先生、それ私も初めて聞くんですけど……」
「すまない、お前が知らないのも無理もないと思う。その事件が起こったのも、お前が右目を失明して再び学校に通い始めた時期と重なってるからな」
え!? そんなにも前……!?
その時期だと確か、歩美が私の自殺を食い止めてくれた後……
でもその後も歩美はいつもと変わらない様子で約束通り家に来てくれたりしたんだけど……私の事を常に気にかけてくれて……
「クラスの中で傷つくお前を誰よりも面倒見ていたのは笹城だけだ。あの時、失明したばかりのお前が知らないという事は、彼女も当時怪我人だったお前に心配をかけさせたくなかったゆえ、話さなかったという事だろうな……」
荻野先生は深刻な表情で言った。
「それ、本当なんですか……?」
知らなかった。同時に信じられなかった……私の前では素直で偽りもない歩美にそんな闇があったなんて……
「なぜそれを話さなかったかは私の推測だが、他は本当の事だ」
「どうして……先生は私にその事件を私に教えてくれなかったんですか?」
私は荻野先生を責めるように言った。
正直、半分失望した……歩美に何かあったなら教えてくれてもいいのに……クラスが荒れ始めた時に味方してくれた先生なら……教えてくれたって……
「お前は笹城の友達とはいえ、この件とは関係ないからだ。向こうの家の問題だからな……だが、私もまさかあの事件が笹城の転校にそのまま発展するとは……思ってもいなかったな……」
先生の言葉からも後悔する気持ちを感じる。最後の言葉には溜息が混じっている。その様子だと先生もきっと歩美の転校にとても驚いたに違いない。
「で、話を戻すが、そのストーカー事件は当然、社長であるお父さんの耳に入った。笹城本人がお父さんに助けを求めた。だが、それが全ての引き金になったんだ……」
私に隠し事をしてたなんて……歩美……だから私にもスケアクロウの事件の時も、暗くて、私が言うまで相談しなかったのかな……
私は息をのんで荻野先生の話を聞く。
「不安になったお父さんは事件後、彼女を安全な場所に移そうかという話を笹城本人に持ちかけた。ところが、笹城はお前と一緒にいたいから必死に断ったんだそうだ」
「そんな……そんな事があったなんて……」
私は酷く戸惑った。まさか、あの優しいお父さんとの間でそんな事があったなんて……まさか歩美と喧嘩していたなんて……
「ストーカー事件の際、一度学校にも彼女のお父さんからも抗議の電話が来たほどだ。自分の子供を大切にしているいいお父さんだったよ」
「で、その時は私からもお父さんに言って、警察にも早急に被害届出したお陰でそのストーカーもすぐ捕まって、その時は何とか短時間で丸く収まったんだが……」
「先週、あんな大事件があったのはお前も知ってるよな?」
「土曜日の……歩美が誘拐されたあの事件ですか」
「ああ。何とか警察だけでなく、JGBも出てくれて助かったから良かったが……お前ももう分かると思うが、結果オーライとはいかなかったな……」
「その事件のお陰で彼女のお父さんはすっかり『この街は愛する娘を一人で住まわせる場所じゃない』と判断してな。で、あまりに唐突すぎるが強引でも転校させる事を決めたらしい……」
「そうだったんですか……」
私は荻野先生の残念そうに言った言葉にがっくりと肩を落とした。同時に……後悔と悲しみが……にじみ出てくる。
私が……あの時……スケアクロウから歩美を守る事が出来てれば……
「彼女のお父さん曰く、転校先の京都に一人で住ませるには一番安全なアテがあるらしい。あの子にはお母さんがいない。自分の娘の身を案じた父親の意向がこの結果を生んだんだ。『二度あることは三度ある』なんて事にでもなったら、大変だろう……」
「そうですか……」
「こればっかりはしょうがない。二度目が起きてしまったんだから……」
荻野先生もかなり、残念な様子だ。
まさか、あの多忙で温厚なお父さんがそこまで歩美の事を心配に思っていたなんて……よくよく考えれば、歩美がたった一人の家族に等しいし……でも、いくらなんでもやりすぎだと思う。歩美は望んでた事なのかな?
父親ならば、娘の意向も平気で踏みにじっていいの……?
「あの、それは……歩美が本当に望んでいた事なんですか?」
私は顔を上げて荻野先生の方を見て、現実に抗うように訊く。
「いや、明らか望んではなかった。だが、こればっかりは本人も反対出来なかったみたいだ。父親からキツく押されたらしくてな……だからしょうがないと割り切って辛そうにしていた」
「歩美は……心配に思ったお父さんの説得に屈したんですか?」
「そうなるな」
荻野先生は腕を組んでハッキリと言った。溜息も少し混じっていたため、先生も腑に落ちない様子だ。
荻野先生が深刻に言いにくそうな顔をしてる理由が何となく分かった気がする。
生徒の父親の抗議に対して、大丈夫と言って数ヵ月後にあの事件が起こるんじゃあ、教師としても面目丸つぶれだろう。
もしも、私がスケアクロウと初めて遭ったあの時倒していたら……こんな事にはならなかったのかな……
「あの、それなら歩美から私宛に何か預かってないですか? 歩美の事です、私に黙って出ていくはずがありません。あと、私について何か言ってませんでしたか?」
「いや、残念ながらそういう物は預かってない。お前についても、特に何も言ってなかったな。学校を転校する事を名残惜しく、悲しんではいたが、急な転校という事もあって、私の目にはかなり忙しそうに映ったな」
「そうですか……分かりました。ありがとうございます……」
私はその場でうなだれた。
「じゃあ……もう、いいか?」
「はい……」
荻野先生との話は、これで終わった。
その後、私は普通に教室へ行って授業を受けている間もその一連の話の事が頭から離れなかった。溢れ出る涙を周りの人に見えないように手の甲で拭き取る。
数学の時間に吉川先生にさされてもそっと返事をし、涙で顔が赤い私を嘲る周囲から飛び交う野次馬の笑いを無視し、黙って黒板に書かれた問題を解く。
休み時間に周囲が唯一の拠り所であった歩美がいなくなった事を周りがからかってくるけど、私には全く聞こえなかった。
いや、相手にしなかったんだ。アイツらには何も分からないから。
昼食を周囲は周囲で勝手に友達と集まって楽しそうに食べている中、私は一人寂しくとった。いつもならば、歩美が目の前ににいて二人で食べていた。
一瞬目の前に映ったいつも一緒にいた歩美の幻覚がそっと寂しく消えていく。今はもういない。一人ぼっちになった事をここで改めて実感した。
午後の授業も、真面目に受けるがそれでも歩美を失った悲しみは癒える事はなかった。周囲の嘲る言葉を無視し、ひたすら学校でやるべき事をこなしていく。
放課後になってもその事が離れず、私を不安と孤独が覆った。
歩美……どうして……どうして黙っていなくなったの?
私を……一人にしないでよ……歩美……歩美ぃ……
涙と共に溢れる悲しみと共に歩美がどうして私に何も告げずにいなくなったのか。納得いかない。
私の事を常に思ってくれていた歩美だったら、急に引っ越すのなら手紙ぐらい残していってもいいと思った。
だけど、そんな物は放課後に家に戻ってポストをあさってもどこにもない。
このまま帰る気がしない私はバスに乗り、歩美の家だった場所へ一人で行ってみるけど、そこは立ち入り禁止になっていた。
家の前の札から笹城家の名前が消え、変わりないようだけど、そこはもう、誰も住まなくなった家と化していた。
ただ、スケアクロウに壊されたと思われる入口のドアは突貫工事で修理されている。家の前に木の板が釘で打ち付けられていた。
それを見るとお父さんの気持ちも少し分かる気がする……大人って表面だけじゃ分からないなあ……
いいお父さんだったけど、ここまで考えていたなんて……
家は取り壊されるか売りに出されるんだろうか。歩美との思い出の場所が消えたのを重く実感した瞬間だった。
歩美がいなくなったと共に、彼女の居場所だった場所もなくなり、一層寂しくなった。
荻野先生から一連の話を聞いて朝から放課後まで溢れる悲しみと共に考えた私。
どうして歩美は私に何も告げずにいなくなったのか……話を聞いてその中で確信したものがある。
これは、歩美のせめてもの心遣いだったんだと思う。
最初のストーカー事件を話さなかったのも先生が言った通り、心遣いからだろう。それは間違いない。
私はソルジャーに覚醒してから、実質頼れる人間が歩美しかいなくなった。みんなが私を蔑み、その中でたった一人、歩美だけが私の味方をしてくれた。
歩美は私の甘えた問いにこう答えてくれた。ずっと味方だと。そう約束してくれた。そして、フォルテシアさんの前では私の事を親友だとも言っていた。
いつも助けてもらったし、ずっと一緒にいた。目を失ってからは特にそうだ。
学校以外でも生活面で色々助けてくれたのは歩美だった。そんな関係が長く続いたから、歩美も私に別れを告げる事もきっと凄く尋常に辛いと思う。
きっと、ソルジャーになった事でいじめに苦しむ私を歩美は悲しませたくなかったんだと思う。私との約束を破りたくなかったんだと思う。
別れを言うのが……別れを伝えるのが辛かったんだと思う。
別れを告げたら、当然、私が悲しむし、最悪、私に嫌われるだろうと。そう悟ったのだろう。
後味の悪い別れが嫌ならば、心苦しいけど黙って別れよう。卑怯で逃げるようだけど、そうするしかない。そう決めたんだと思う。
歩美も辛かった事だと思う。私と別れる事に。私も辛い。突然別れられた事に。会いたいと心の底から願うけどそれも八方塞がりでもう叶わない。
歩美はお父さんの意向も無視して、本当は私とずっと一緒にいたかったんだと思う。だけど、出来なかった……お父さんは娘である歩美を心の底から心配していたから。
そうだ……私が全ていけないんだ。
力を持った私がしっかりしてれば……歩美を誘拐したあんな奴に負けるような事は……
ゆえに歩美を助けたのにこんな結果に終わってしまった。
私自身の責任だ。私が全て悪い。私自身が弱くて、どうする事も出来なくて、歩美に守られてばかりいたからこうなったんだ……
私が唯一歩美を守れる力があったというのに……シーザーを倒してからもっともっとソルジャーの力を使いこなして強くなっていれば、スケアクロウも倒せていて、歩美も連れ去られずに済んだのかもしれない。
作りかけの夕食も一緒に食べて、今日も今頃楽しい一時を過ごせてたかもしれない。
もしも、そうなってたら今よりも全く正反対の結果に終わってたかもしれない。今頃、歩美は転校せずにずっとあの学校にいて、傍にいてくれたと思う。
結局、私がソルジャーになってしまって、その力もろくに研ぎ澄ます事も出来ず、活かす事も出来なかった。だから歩美を結果的にこんな目に合わせてしまった。
力を活かし、スケアクロウに勝っていれば、今頃……
シーザーとの戦いにも巻き込んでしまったし、不本意な転校をさせられてしまったな……私のせいで。
私は私を許せない。数少ない強力なソルジャーの力があるのにそれを活かせず、それのせいで歩美だけでなく、歩美のお父さんの会社や浅草の人達も……JGBも巻き込む大事件に発展してしまった……
全部、無力だった私が悪い……今の私が……いけないんだ……
歩美の家だった場所から帰宅した後、考えに考えて、ようやく私は決心した。そして、確信した事が一つある。
ソルジャーであり、異端者である私は誰かと関われば、結果的にその関わった誰かを傷つけてしまうという事だ。
最悪、何も関係のない人を傷つけてしまう。
関わっただけで、その人の人生を酷く傷つけてしまう。
私は……嫌だ。歩美も私と出会わなければ、こんな悲しい事で京都に引っ越す事はなかったはずだ。
仮に私がいなくて、スケアクロウが現れてもたぶんフォルテシアさんやジーナさんが何とかしてくれて……
それで、お父さんの手で京都に移されたのなら、歩美も唐突の事だろうけど、私のために悲しむ事も辛い思いをする事もなかったはず……
私と一緒にいたいからという理由で、お父さんに反論もする事もなかったと思う。
他の人だってそうだ。
みんな、私を異端と思い、気味悪く、関わりたくないと思うから、みんな離れていくんだ。みんな、察してるんだ。私と関わるとろくな事がないって。
現に私は歩美以外の人間から距離を置かれ、嫌がらせも受けている。
だから、もうやめよう。もう――全て終わりにしよう。




