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ソルジャーズ・スカイスクレーパー  作者: オウサキ・セファー
第一章 シルバークライシス -少女の慟哭-
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第2話 自己紹介

 白髪混じりのフサフサと左右に前髪が飛び出た男の校長先生の話と在校生との対面式を含めた入学式を終えた私は先生の誘導に従って、同じクラスメートになる人達と一緒に適当な順番で列を作ってゾロゾロと教室を目指して校内の廊下を歩いていた。


 因みに入学式前、初めて校舎に入った私は立っていた先生達の誘導に従って、そのまま入学式の行われる体育館の新入生の席へと座らされた。


 入学式を終えた私は髪を立てた刈り上げの黒髪に、メガネをかけた背の高い男の先生の誘導する声に耳を傾けて前に進む。

 先生は顎にはトゲトゲした細かな髭を顎に生やしている。


 校内は白い壁に廊下の右手には大きな四角い窓が並び、そこから眩しい日差しが差し込む綺麗な校風だった。

 床は茶色い木の正方形、マス目のフローリングで覆われており、それに窓からの日差しの光が反射し、綺麗に掃除されている事が分かる。


 着いた先の教室の入口の上から顔を出してる札には1-Dと書いてある。ここが私のクラスのようだ。因みにこの学校は学年ごとにA,B,C,Dの4クラスに分かれている。


 遠くからその入口の札を見た私はすかさず手前の扉が開いた入口から教室へ入った。既に前の列の人達がゾロゾロ教室へと入って行ったからその後を追って。


 奥に並ぶ窓から眩しい日差しが机の並べられた教室を明るく照らしていた。同時に窓が一窓開いていて、暖かく気持ちがいい春風が舞い込む。私が入ると後ろからもゾロゾロとたくさんの生徒が教室の中へとなだれ込み、教卓には既に先ほど誘導していた刈り上げとメガネの男の先生が教卓に立っていた。


「では、自分の番号と名前が書いてある紙が貼ってある席についてくれ」


 教卓に立つ先生の真面目な指示に従い、私は他の生徒にまみれて、自分の名前と出席番号が書かれた小さい紙きれが貼ってある席を探した。

 いずれも綺麗に磨かれた茶色い机の左上には名前と出席番号が縦書きで書かれた長方形の小さい紙切れがセロテープで覆われて貼られている。


 席順は一番前の左から始まって出席番号順に置かれている。自分の出席番号はまだ知らないけど、あいうえお順に出席番号は振られているので、自分の名前の席を見つけてその席に着席した。同時に初めて自分のこのクラスでの出席番号を確認した。


 席は六列で成り立っていて、横五列。私の席は縦三列目、横三列目、ちょうど真ん中だ。まだ他に席を探してウロウロしてる人達がいる。外からは他の先生による生徒を誘導する大きな声が聞こえる。


 どんな人達が私のクラスメートになるのか気になった私は辺りを見渡した。見た所、男女共学であるこの学校は男子も女子も数は同じくらいといった所だった。


 また、色々なタイプの人達が集まっているようだった。見た感じ、大人しそうな人以外にもちょっぴり不良じみた人、明るい雰囲気を持った人と様々。


 見渡していると右隣の一人の赤いピンセットをつけて左側に分け目がある髪が短い女の子と目があった。

 私は思わず照れて恥ずかしい気持ちになって素早く目を背けてしまう。けど、再び一瞬そちらを見てみるとその子はこちらを見てニコっとしていた。


 別に特別気になったとかそんなつもりはなかったんだけどなぁ……ただ、どんな人が自分のクラスメートになるのか気になったのであって……


 全員が席につき、部屋のざわめきが止み、静まりかえる。先生が何か言い始めるのをこの場にいる全員が悟ったかのようだった。既に前と後ろの教室の扉は閉まっている。


「え、ええ~……私が今日から君達の担任になる歴史担当の荻野(おぎの)昌幸(まさゆき)です」


 先ほどまで私達を誘導していた先生……荻野先生が簡潔に自己紹介した。私達新入生に向けて、これからの3年間の事などを話していく。


 中学生になるとはどういう事なのか……とか、この学校の事とか。そういう積もる話を五分ほどした後で荻野先生は新入生にとって最も緊張するだろう、出会って最初のお決まりの儀式の実行を言い渡した。


「じゃあ、まだお互いの事を全く知らないわけだから一人ずつ前に出てきて自己紹介してくれないかな」

「緊張するかもしれないけど、これから始まる新生活、互いの事をよく知る事から始まるんだ。私もどんな子が集まってるか知りたい。話したくない事を無理に話す必要はないから落ち着いていこう」


 荻野先生が私達に気合を入れて鼓舞するように言った。こういう場だと緊張しない人もいるだろうけど、私は用意も無しにやると緊張するものだと思っている。自己紹介でその人の印象がハッキリと付くから。


 少し前にテレビで聞いた話では、就職活動をしている大学生は自分を理解するために自己紹介文や細かいプロフィールを履歴書を作る前にノート等にまとめるのだとか。

 荻野先生も私達にとって少し早いけど、こういう事に慣れさせようとしてるか、あるいは中学校が小学校と違う事を私達に見せつけようとしてるのかもしれない。


 出席番号の上から順だとお決まりすぎてありきたりすぎるからという先生の理由で逆の順番で自己紹介タイムがスタートした。


「じゃあ、山田君からだね」と名簿を見る先生に真っ先に指名された一番後ろの山田君という人は「ええっ!?」と仰天する声をあげ、クラス中は笑いに包まれた。


 その山田君も堅苦しくなりながらもちゃんと自己紹介をし、自己紹介は続いていった。

 真面目に自分の事を話す人、面白い話題を持ってって初っ端からクラスに笑いをもたらす人、様々な人柄を持った人達が一人、また一人と黒板の前に立ち、一人ずつ自己紹介をしていく。時には質問も飛び交い、次第に教室は緊張の糸がほぐれて賑やかになっていく。

 その時、さっきの目が合った赤いピンセットの女の子の番がやってくる。


笹城(ささぎ)歩美(あゆみ)といいます。隣町の学校出身です。趣味は料理です。それから……」


 あの子は笹城歩美っていうんだ。さっき目があった女の子。覚えておこう。さっきは照れちゃったけど、何かと仲良くなれるかもしれない。優しそうだ。


 こうして眺めてみると案外、話せそうな人や仲良くなれそうな人がいるなと感じる。自然と気持ちが楽になり、緊張感が薄れていく。そして、ついに次はその隣に座る私の番がやってきた。


「じゃあ、次……黒條零さん」


 先生に名前を呼ばれると私は「はい」と返事をして席をそっと立ち、緊張感を潜めつつ静かに前へと歩を進める。

 軽く自分の胸に握った左手を当てた後、黒板の中央まで行く。まずは出だしから。ここが肝心だ。私はそっと深呼吸してから、


「黒條零です。皆さんとは違って埼玉の小学校からこの学校に来ました」


 ここまでの自己紹介を聞く限りだと、この中学校に入学してくる人は大抵、この近くにある世田谷の小学校出身。

 それ以外はこの学校から少し離れた隣町の小学校の出身のようで、近くの小学校と隣町の小学校の卒業生がこの学校に集う。

 私ぐらいだ。遠くから引っ越してこの学校に入学する事になったのは。

 何事も印象が大切なので、話す事はだいたい決めていた。


「小学生の頃は、バレーボール部で、全国大会まで進んだ経験があります」


 その瞬間、「おお」という太い驚きの声がクラス中に響き渡る。すると右で椅子に座ってこちらを見ていた荻野先生がすかさず反応し、立ち上がり、


「全国大会まで進んだのか、凄いじゃないか!!」


 と私を褒めてくれた。


「そういえば、君のいた小学校……どこかで聞いた名前だと思ったら……ああ! バレー強い事で有名なあの学校だな!」


 先生ははっとすぐその名前を思い出したように言った。私の資料から既に知っているのだろう。それに私は他の人とは違う場所から来ている。尚更だ。


「全国大会のどこまで進んだんだ?」


 荻野先生が直球で期待をこめた様子で肝心な事を質問してきた。けど、隠す必要もないと思った。


「準決勝まで進みました。あと一歩だったんですけど」


 と控えめに説明した。その瞬間、私を見ている他の机に座っているクラスメート全員から「おおー」と再び声が上がる。


「これは是非バレー部があるから入ってほしいね~。入ってくれたら貴重な人材になりそうだ」


 やけに嬉しそうな顔の荻野先生。先生が顧問だからなのかな?


 すると後ろ側の席に座る、いかにもミーハーなクラスメートの女子達が、


「ねえねえ、黒條さんって他にはスポーツ出来るの?」

「誕生日は?」

「血液型は?」

「好きな歌手は?」

「好きなアニメは?」


 など質問を連続してきた。実は前の笹城さんもその前の前の人もこういう質問攻めに合っていた。それだけそういう質問をぶつける人は興味深いんだろう。


 だけど、それをあまり意識していなかった。もとい私なんかに質問はそれほどないだろうと思っていた私は途端に戸惑ってしまう。が、落ち着いて詰まりながらも頭で整理しながら一つずつ答えた。


「他にスポーツが出来るかと言われたらバスケかな。バレーの次にやってる。誕生日は6月9日。血液型はO型・・・」


 さすがに最近の歌手やアニメなどはあまりよく知らないから、昔のやつだけど喋った。歌手は私は特別好きな歌手がいるわけじゃないけど、よく小さい頃、叔母さんが運転する車の中で叔母さんが好きな歌手の歌が流れてて、休日にどこか出かける時はほぼ毎回聴いたから記憶に残ってる。


 アニメは毎週日曜日の朝食の時間帯にやっていたのを面白くて観ていたけど、それぐらいしか言う事がない。あとは叔母さんの子供二人に付き添って観ていたアニメぐらいしかない。


 それも、これらよりもっと子供向けなものばかりだ。中には下品な下ネタ要素もあり、それも小さい男の子が主人公だったりして明らか男の子向けなものなので、私みたいな女の子が好きって言うのもおかしい気がしたのでこれは言わないでおく。


 印象イメージが大切だから。


 長くなりそうな話題は控えたけど、それでも自己紹介を終えて拍手に包まれる中、席に戻りつつも「何か話し足りない」と心が少々はずんだ気分になった。


 思ったより盛り上がった。あれもこれも話したいという気持ちこみ上げてくる。ひとまず、大成功かな。そして、同時にこみあげてくるのが前向きな気持ち。


 これから友達を作り、楽しい三年間を共に過ごしていこう……私の心は、そんな前向きな気持ちで満たされていく。

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