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ソルジャーズ・スカイスクレーパー  作者: オウサキ・セファー
第一章 シルバークライシス -少女の慟哭-
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第19話 追跡

 フォルテシアさんは叫ぶ。

 突如、目の前にいるはずのスケアクロウが都内の複数の場所に一度に出現したと。そして、先ほどまでジーナさんが追い詰めたはずのスケアクロウは藁で出来た偽物だった。


 崩れ落ちた偽物をこの目で見て確信した。昨夜からスケアクロウとJGB(ジェージービー)の戦いは始まっていた事を。


「フォルテシアさん、私達はこれからどうするんですか!?」

「私についてきて下さい、ジーナの車に乗ります」


 私はフォルテシアさんに連れられ、後について行くとマンション近くに停められていたJGB(ジェージービー)用の黒いパトカーの向かい側にちょうどその人が乗ろうとしていた。

 その人はさっきまで屋上にいたのにいつの間にか、ワープしてきたかのように下まで降りて来ていて、私とフォルテシアさんを車の前でドアを開けて出迎えた。


「フォルテシア長官、お乗り下さい」

「ええ、あなたがここまで来てくれていて助かります」

「長官は後ろの席に。そちらの重要参考人の彼女と一緒にお座りください」


 ジーナさんは口調は物静かだけど、少し怖い印象を感じた私。怒ると怖そうだ。女の人だけど、身長も私より高い。

 でも、凛々しさを感じるフォルテシアさん同様、綺麗で、クールな人という感じだ。


 合同捜査本部からの連絡により、フォルテシアさんからその情報がもたらされた私はジーナさんの運転する車へと連れられ、乗り込んだ。


 なぜすんなり乗せてくれるか気になったけど言われるままに左側からドアを開けて後ろ座席に乗り込む。フォルテシアさんも右側から乗り込み、左側に私、右側にフォルテシアさんの順番で座る。


 すると私達の乗る車はそのまま前方にある同じ黒い車と列を組んで走り出す。同時に車の青いサイレンの音も鳴り始める。

 アクセルのかかった車は徐々にスピードを早めていく。


 先ほどまで人だかりを形成していた黒服の男達……もといその場にいたJGB(ジェージービー)のメンバー全員も散らばって、猛スピードに車を走らせ、交差点を曲がっていく。

 列はやがて二手に分かれ、出現したスケアクロウの退治にそれぞれ素早く向かった。




 走り出してしばらくしてからのこと。既に前と後ろを見ても他のJGB(ジェージービー)の車は見当たらない。

 私は後ろの座席の左の方に座って過ぎていく窓の景色を見ている。


 ジーナさんが運転する車はJGB(ジェージービー)専用の黒いパトカー。パトカーの頭にある青いサイレンを鳴らし、通行する車をどかしながら最高速度で走る。


 運転席の真ん中にはカーナビがついていて、目的地に向けて赤い矢印が車を誘導してくれる。スケアクロウの居場所に関係する場所なのは確かだ。

 走り出してから聞いた事だけど、現在、フォルテシアさん曰く、都内の五ヶ所の場所にスケアクロウは出現している。


 うち、一ヶ所には今、私達が向かっている。ここから三十分ほどした所だ。普通の車だと一時間近くかかるけど、ジーナさん曰く、通行する車をサイレンでどかせば、半分の時間で到着するらしい。


「フォルテシアさん、残りのスケアクロウはどうするんですか?」

「残りの四ヶ所にはそれぞれ最寄りの部隊が対処するので大丈夫ですよ。恐らく偽物ですが、とにかく排除しないといけないのです」


 私の質問に対し、フォルテシアさんは答える。その言葉はどこか、何としてもそれをやらないといけないような雰囲気を感じた。


「こちら合同捜査本部。ターゲット、A,B,C,D,E、いずれも健在」

「こちら諜報部。定時連絡。マップに異常無し」

「こちら総本部第三部隊!! これよりDに攻撃を開始する!!」


 サイレン以外にも車内は運転席のカーナビ近くのラジオから無線連絡が次々と流れる。諜報部や合同捜査本部、他にスケアクロウを追跡しているJGB(ジェージービー)の捜査員からだ。

 声は男女様々。内容はスケアクロウの追跡状況の報告などだ。恐らく、捜査員全員の車に流れるようになっているんだろう。


 ところで、私は具体的に気になった。昨夜何があったのかを。なので直接フォルテシアさんに訊いてみる事にした。

 また、スケアクロウが出現して、なぜ偽物と分かっていて、排除しないといけない理由も不明だ。敵だからというのもあるだろうけども、私にはそれ以外の別の意味があるだろうと思ってならない。


「あのフォルテシアさん、昨夜、何かあったんですか?」

「ああ、そうでしたか。あなたにはまだ話してなかったですね」

 そう言って、フォルテシアさんは顔を運転座席の方に向いたまま、語りだした。


「あなたが眠っていた昨夜、事件発覚後の事です。奴は既に自分の分身を都内の各所に二十人配置していました」

「に、二十人!?」


 二十人……私が歩美の家の前で倒したものやジーナさんがさっき倒したもの……それらが二十人も……!

 驚く私にフォルテシアさんは頷いた後、続ける。


「はい。我々はそれらを操る本物を捜し出すべく、諜報部が居場所の特定を進め、部隊を分けて討伐に向かいました。しかし……」

 ここでフォルテシアさんは言い留まった。


「しかし……? どうしたんですか?」


 フォルテシアさんの顔からは悔しさがにじみ出ていた。俯きながらフォルテシアさんは続ける。帽子で私には顔が見えないようにして。


「十八人仕留めて、残り二人に差し掛かった時、もう一人を追いかける一方で、仕留め損ねた一人が……道路上で突然、爆発したのです……!」

「爆発!?」

 爆発の恐ろしさは私も前日、味わったばかりでその時の事が脳裏に蘇った。


 絶対に仕留めなきゃいけない、フォルテシアさんのこういう姿勢から何かあった事は察していたけど、まさか爆発だなんて……

 スケアクロウは作り出した偽物に爆弾も仕込められるようだ。そのままフォルテシアさんは私の方を向かず、語る。


「爆発した場所は練馬でした。通行中の民間人の車を爆風に巻き込んで車二台の衝突事故を誘発、七人が搬送され、うち二人が意識不明の重体です……今、手当を受けています」

「そ、そんな……」


 他に被害者まで出てたなんて……歩美を誘拐するだけならまだしも、無関係な人にも危害を及ぼす必要はあるのかと彼に問いたくなる。

 私があの時スケアクロウに勝ってれば、こんな事にはならなかっただろう……


「その後も朝まで追加で出現した15人のスケアクロウを追う事になり、私はあなたに会うためにジーナの車から降りて追跡を部下に任せ、早朝、無線で対応しながら単独であなたが搬送された病院に向かった、というわけです」

「そうですか……」


 新たに十五人出現した事よりも、あの時、スケアクロウに負けた後悔が重く私にのしかかった。フォルテシアさんも、私が勝っていればこんな事にはならなかっただろうに……昨日からたぶん寝ないでずっと事件の捜査をしていたんだろう。

 それだけじゃない。私がスケアクロウに勝っていれば、歩美も誘拐される事もなかった……

 その後も、フォルテシアさんは私の質問には親切に答えてくれた。

 まず、どうしてJGB(ジェージービー)は現在現れているスケアクロウの居場所がすぐに分かるのか。


 それは、JGB(ジェージービー)の科学部が開発し、諜報部が運用している相手のソウルの反応を特殊なカメラでスキャン、詳しい事は分からないけどそれで詳細データを読み取り、同じような反応がする場所をレーダーに表示するシステムのお陰で東京都各所にいるスケアクロウの居場所が分かるらしい。

 先ほどのジーナさんが戦っていた時に浮遊していた複数の丸い球体がそれだという。


 前方のカーナビもそれらのシステムと連動していて、今、カーナビが示す方向もそのシステムが割り出した、スケアクロウの居場所のデータが用いられているのだという。

 だが、どのスケアクロウが本物であるかは実際に行って確かめる他なく、今はしらみつぶしに現れたスケアクロウを潰していくしかないのだという。

 ソルジャーによってソウルの色が異なるように、いや、厳密にはソルジャーごとにソウルから取れるデータは詳しく解析すると異なるのだそうだ。


 また、歩美のスマートフォンにはGPSがついているので、これで居場所を調べる作業が警視庁とJGB(ジェージービー)の諜報部連携で続けられているという。


 フォルテシアさん曰く、歩美がスマートフォンを持ってるのは確かだという。私がスケアクロウに気絶させられて警察に助けられた後、例のメールが送信され、誘拐事件が発生、歩美の家にもJGB(ジェージービー)の捜査員が入った。

 リビングに放置されていた、学校用のバッグや歩美の自室にある充電器にも何もなかった事から、スマートフォンは持ち出されている事を確認したという。

 歩美がスマートフォン持ってる事は歩美のお父さんに確認、いつも欠かさず防犯のために持つように言い聞かせているという。


 そんな歩美の居場所を調べる手掛かりを得るためにJGB(ジェージービー)は歩美のスマートフォンも捜索したようだ。

 また、歩美の家は中は荒らされておらず、玄関のドアだけが破壊された以外はそのままだという。


 偽物をモグラ叩きのように潰していき、歩美のスマートフォンから居場所を特定、そうやって徐々に彼を追い詰めていくという作戦だ。

 おおよそスケアクロウの偽物はJGB(ジェージービー)を振り回すために配置されているのはフォルテシアさんも承知のようだ。


 しかし、偽物を潰さなければ、また昨夜のような爆破事故に繋がる。途中に本物の居場所が分かり次第、偽物を追うグループと本物を追うグループに分かれるのだという。

 本物のスケアクロウは身代金交換の人質である歩美と一緒にいる可能性が高い。歩美の居場所さえ分かれば、本物のスケアクロウにもぐっと近づくだろう。


「ところで失礼、あなたのスマホの着信履歴とメールの履歴を拝見してよろしいですか?」

 話をしているとフォルテシアさんが話を切り上げ、断りを入れてくる。

「は、はい……」


 私は大人しくフォルテシアさんにスマートフォンを手渡した。

「失礼」


 すると十秒もしないうちにスマートフォンをすぐにこちらに返す。それはそうだろう、着信履歴とメールの履歴見るだけなら。

 この手渡しの時、フォルテシアさんの素肌の手に一瞬触れた。暖かくて優しくて、綺麗な手をしていた。

「ありがとうございます。奴から着信が来てないか、気になったんですよ」


 私が連れてこられた理由が分かった気がした。

 合同捜査本部に戻るのは都合が悪いとか助かるとか言われたけど、スケアクロウは昨日、私と歩美としか顔を合わせていない。

 つまり、私の事を知っているので、スケアクロウが身代金の要求等も含めて、歩美のスマートフォンでかけてくるとフォルテシアさんは思ったんだろう。


 因みに私が昨日、スケアクロウに歩美の家の前で気絶させられた後から私のスマートフォンにはメールも着信も入っていない。

 少し期待しちゃったけど、ドラマとかでよくあるように、歩美がこっそり目を盗んでメールや電話で助けを求めるような事はしてなかったようだ。


「ところで、重要参考人、あなたはソルジャーだろう?」

「はい、銀のソルジャーソウルを持っています」


 運転してハンドルを動かしながらジーナさんが話しかけてくる。ジーナさんにキチっとした表情で私は言った。

「言っておくが、あなたはあくまで重要参考人だから、大人しくしていて欲しい。余計なマネは無用だ」


 車を運転し、ハンドルを右にきりながら素っ気ない態度で私に話しかけてくるジーナさん。

「……分かりました」


 厳しい事を言われたけど、ジーナさんの言ってる事は至って普通だ。警察も私達を守るために部外者の現場への無断な立ち入りを禁止しているので、それと同じだろう。

 言われた通り、出しゃばりはしないつもりだ。でも重要参考人として出来る事があるのなら、役に立ちたい……


「というより長官、なぜその子を連れてきたんですか?」

 ジーナさんがハンドルをきりながら、フォルテシアさんに訊いた。私を厄介そうに、怒っているようにもツッコんでるようにも聞こえた。


「今、この状況で合同捜査本部へ戻る事は得策ではないと踏んだからです。戻る間にも、奴が何を仕出かすか分かりません。それに、彼女が傍にいれば、奴の被害者のスマホを使ったアクションにも対応しやすいでしょう」


「愚問でしたか、失礼。奴は二週間前、大阪本部の織田(おだ)一佐が取り逃した凶悪犯です。侮れませんよ」

「そうですね。もう少しの所で奴の機転でまんまと逃げられたなんて……その二週間の間も消息不明でしたが、まさかこの東京に現れるとは……」

 冷静にジーナさんと会話を交わすフォルテシアさん。


 するとフォルテシアさんはいきなり私の方を見て、

「それと、零さん、くどいかもしれませんが、メールか着信があった時は()()私に言って下さい。奴からの可能性もあります」

「はい」

 私にそう注意すると、フォルテシアさんは再びジーナさんの方を見て、話し始める。


「ジーナ……あなたが思っているように、彼女は戦わせるために連れてきたのではありませんのでご安心を。重要参考人ですから」

「そうですか、それなら心置きなく戦えるので、何よりです。部外者に勝手に動かれては困りますので」

「余談ですが、彼女はまだ、この世界に入ったばかりです。彼女から病室で話を聞いて、経緯については話を聞きました」


「それでも、戦いの邪魔になるような事はご勘弁頂きたい。これは、新人教育ではなく、実際の起こってる事件(ヤマ)なのですから」

「分かっています」


 終始厳しいジーナさんにフォルテシアさんは少し視線を下に向けると今度は私の方に視線を向ける。


「零さん、この事件を期に学ぶといいでしょう。我々JGB(ジェージービー)が秩序を守る事で存在する、表の日常と裏のソルジャー界の存在を。あなたをいじめた連中が言っていた事とは違う景色が見えるはずです」

「……はい」


 私はそっと頷いた。今のフォルテシアさんの言葉が、私の心に重くのしかかった。ソルジャー界……この世のちょうど裏に広がる世界と言っていいんだろうか。

 以前、シーザーが言っていた言葉がその時の光景と共に私の脳裏に過る。


『オレ達ソルジャーはな、一般社会の裏でこうしたゲームのような血の飢えた抗争を毎日繰り広げてんだよ!!』

『ある者は自分の力を世間に轟し、名声を得るため……』

『そしてまたある者は自分の力を行使して何かしらの欲に走る。カネとか自分の欲しいモンを手に入れるためになァ……!』

『要は終わる事を知らない巨大な殺し合い《バトルロイヤル》さ……分かるかァ!!?』


 シーザーの粗暴に響く声が脳内に響く。ソルジャー界。簡単にまとめるとソルジャー達が中心に形成する社会。

 普通の人はまず、この世界を知らないだろう。私だって知らなかったんだから。


 JGB(ジェージービー)はそんな非日常のソルジャー界においては強い権力を持った専門の警察であり、フォルテシアさんのような人達がいるお陰で、ソルジャー化する前の私や歩美、学校のみんなは安全な暮らしが出来るんだろう。

 表社会と裏社会のボーダーライン、裏社会側がこの境界線を踏み越えてくる事がある。それが、表に来ないようにするのが、世間的には存在していても、あまり中身まで認識されていないJGB(ジェージービー)の仕事なのだろう。

「到着しました、長官。情報によれば、この近くに一人、スケアクロウがいます」


 色々と考えている途中で、ジーナさんの運転する車が急ブレーキで歩道の左横に突然停車する。私の左手にある車の扉のロックが解除されると、私はそこから下車する。

 フォルテシアさんは反対の右手の車の扉を開けて車から飛び出す。


「スケアクロウを捜します。ジーナはあっちを、零さんは私についてきて下さい」

「はい!」

 私はすぐにしっかり返事をする。

「了解」

 ジーナさんはクールに返事をすると、指差された正面の歩道を真っ直ぐ走っていく。一方、フォルテシアさんに連れられ、私はちょうど左の住宅街へ繋がる道の捜索へ向かった。


 私は小走りのフォルテシアさんの背中を追いかけていく。白いコートと綺麗な金髪がひらひらとなびく。


 よく見ると走るフォルテシアさんの右手には、いつの間にか細い棒状の先端に丸い球体がついたアンテナが伸びた黒い機械が握られていた。無線機とは違う。

 アンテナからノイズのような音とピュインピュインした電波の音が微かに聞こえる。それをフォルテシアさんは前方の道に向けながら動いている。

「フォルテシアさん、それはなんですか?」


 立ち止まって、前方の道、後方の道、周囲の至る所にアンテナを向けるフォルテシアさんに尋ねた。



「これですか? ソルジャーから発するソウルのエネルギーを感知するソウル探知機です。辺りに力を放出するソルジャーがいない以上、音がする方向にいるのが恐らく奴でしょう」

「私はその機械に引っ掛からないんですか?」


「あなたが力を行使していれば、反応しますが、これはあくまで()()()()()()に反応する物なので大丈夫ですよ」

「なるほど……」


 ソルジャーの力をコントロールするには、意志のコントロールが不可欠。訓練はしてるので、もう剣を出す事自体は大丈夫だけど、その意志で私の中に眠る力を呼び起こせば、これに反応するんだろうなぁ……


 左右、正面、背後……至る所に探知機を向けるフォルテシアさん。そうしていると音がする方向は……右方向。

「こっちですね」


 フォルテシアさんが走っていく方向に私もついて行く。

 閑静な住宅街を右に歩いて進み、そして見える十字路を左に曲がった先の交差点の横断歩道を渡った先に通行人が行き来する中に、見覚えのある男の姿があった。

「いました!」


 フォルテシアさんが急に立ち止まる。

 茶色のハットを被り、黒マントを纏っているその姿はどこからどう見てもジーナさんに倒されたものと同じ、私が遭遇した本物と瓜二つ。

 交差点にいるスケアクロウと思われる男はこちらの姿を発見するや否や、来た方向と思われる後ろの道へと逃げるように移動していく。


 信号が青になっているのを確認すると、フォルテシアさんはその男を追いかけて横断歩道を走り出す。

 横断歩道を渡り、通行人を避けて、一直線に追いかける。私もその後ろに続いてスケアクロウを走って追いかける。

 スケアクロウは私とフォルテシアさんに追いつかれるのを察知すると逃げるように足を速めた。


 だけど、追いかけるフォルテシアさんは男の姿を捉えると右手で何かを取り出し、逃げる男の背中目がけて素早く、真っ直ぐに追撃するように手裏剣のように……それを投げた!


「粛清します!!!!」

 それは非常に小さいナイフだった。ちょうど掌に収まるぐらいの手裏剣サイズのナイフ。

 しかし、見た目に反してフォルテシアさんが素早く投げたそのナイフは男の背中の真ん中に見事に命中し、それが後ろから刺さったスケアクロウはその場に一撃でうつ伏せで倒れてしまった。


 凄い……あんなおもちゃのような物で……

 そのまま、私とフォルテシアさんは倒れたスケアクロウの身柄を確認するべく近づいた。


「また、偽物でしたか」

 倒れた男から藁が散らばった事からフォルテシアさんはすぐに偽物と見抜いた。


「長官、いかがでした?」


 その声と共に奥から目の前で倒れてるのと同じ姿をした藁人形を背中に抱えてジーナさんが現れた。抱えてた藁人形をドサっとその場に置いた。


「また、偽物です。そちらは?」

「こちらも、見ての通り偽物です。手がかりは何も」

「……念のため、こちらの今、私が倒したものも含めて調べてみましょう」

「はい」

 ジーナさんは静かに頷いた。


 フォルテシアさんは目の前で倒れてるスケアクロウ……もとい、藁人形のコートをどかし、ジーナさんとそれを調べ始める。

 ブルルルルルルルルル……ブルルルルルルルルル……


 だが、その時だった。ポケットに入れてあったマナーモードの私のスマートフォンがブルブルと震える。

 長くブルルルルルと震え、また長くブルルルルと震えるこの感触はメールの着信だ。電話ならば、もっと短い感覚で素早くブルルルと震える。私はすかさずスマートフォンを取り出した。


「フォルテシアさん! メールです!」

 フォルテシアさんがとっさに反応し、横から私のスマートフォンを覗き込む。そこにはこう書いてあった。



 * * * * * *

 From: 歩美

 sub: 

 添付ファイル: 無し


 しんじゅく


 * * * * * *


 間違いない、これは歩美のスマートフォンから送信されたメールだ。歩美はスマートフォンを持ってるんだ……ポケットとかに入れたままだったんだろう。


 平仮名でただ、地名だけなのは、きっと急いで打ち込んだんだろう。逃げ出しているのか、はたまたスケアクロウの目を盗んでスマートフォンが使える希少なチャンスがあって打ち込んだのかは不明だけど。

 歩美……新宿にいるの……?


「フォルテシアさん、電話していいですか?」

「ええ」

 そう言われると私は急いでスマートフォンを操作して、歩美に電話をかけた。


『おかけになった電話は電波の届かない所にいるか、電源が入っていないため、かかりません。おかけ……』

 聞こえてきたのは歩美の声ではなく、アナウンスの声だった。私は即、通話を切った。という事はまだ捕まっているのかもしれない。


「出ませんか?」

 フォルテシアさんが尋ね、ジーナさんは黙って私を見ている。

「はい、繋がりません」

「ならば、直接現地に行ってみる他、ありませんね」

「新宿へ行くという事ですか」

 ジーナさんがフォルテシアさんの方を向いて訊いた。


「はい。しかし、罠の可能性もあります。新宿に敵のアジトがあるなら、手の空いた捜査員全員を新宿に集めた方がいいでしょう。私達よりも早くに到着する者もいるはず。ジーナ、サカ副長官にBのスケアクロウ撃破報告とメールの件の通達を」

「はっ!」

 フォルテシアさんの後ろにいたジーナさんは返事をすると、スマートフォンを取り出し、サカさんに繋げた。合同捜査本部だ。


「サカ副長官、こちら第二部隊のジーナです」

「長官より通達。Bのスケアクロウを撃破。同時に被害者(ガイシャ)からSOSのメールを重要参考人が受信しました。通話には応じず。内容から、被害者(ガイシャ)は新宿にいる可能性あり。至急、応援を」

 そう、言い残すとジーナはスマートフォンを下ろす。するとフォルテシアさんが、


「零さん、ひとまず今は先ほど来たメールに返信して、今、どこにいるか尋ねて送信しておいて下さい。行きましょう」

 私はそう頼まれると走るフォルテシアさんの後を追いかけながら急いで、『歩美今どこにいるの?』と書いて送信した。

 私達三人は急いで車へと向かい、乗り込むとジーナさんが運転するその車は再び青いサイレンを鳴らし、新宿へと全速力で走ってゆく。


 新宿……前に歩美と二人で春休みに一緒に遊びに行った場所だ。あの日は凄い楽しかったなあ……歩美……無事でいてね……

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