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ソルジャーズ・スカイスクレーパー  作者: オウサキ・セファー
第一章 シルバークライシス -少女の慟哭-
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第15話 影の正体

 歩美からストーカーの話を聞いて、最終的にそれを突き止めて欲しいと頼まれたその日の放課後。


 私は歩美と共にその自宅へと向かっていた。登下校でいつも使っているバスに歩美と共にバス停から乗り込む。いつもは歩美が私の家に来てくれるけど、今日は私の方から歩美の家へ行く。

 バスの中で、歩美に更に詳しい話を聞くとそのような気配を感じたのは先週の月曜頃。最初は特に気にしておらず、気に病む事もなかったという。

 だがその気配は日に日に強まり、家に帰ってくる歩美を後ろからつきまとうようになった。


 その気配の強さ、誰かがいるような気がするけど振り返っても誰もいない……そんな不気味な気配の正体が何者かを歩美のためにも、私は突き止めなければならない。


 実の所、それがソルジャーだと仮定しても、気配以外の全くの情報がないのでどういう存在か見当がつかないし、何よりソルジャーだって確証もあるとは言えない。ひょっとしたらソルジャーじゃない何かかもしれない。

 だけど、普通の人間では建物の中まで感じる気配を認知されずに発する事は到底不可能だと思う。建物の中には歩美以外誰もいなかったというし、それなら建物の中に不審者がいる事になる。不気味だ。

 ただ、十中八九、それが幽霊とか実体がない存在じゃなく、この世に存在するものなら、恐らく只者じゃない存在と私は仮定している。

 この目で確かめなければ、何もわからない。歩美が狙われる理由も、その時分かるだろう。


 いつも降りているバス停から十分ほどした先のバス停で降り、そこから住宅街の狭い道に入り、やがて、広い道に出る閑静な住宅街を少し歩く。

 午前中降っていた雨により、アスファルトは濡れ、黒く染まっていて、地面の凹みに水が溜まって水たまりが出来ている所もあった。


 でも、今は空はすっかり晴天だ。お陰で持ってきた傘がお荷物になってしまっている。空は少しずつ青から茜色へと染まりつつある。

 歩美の家に行くのは別に久しぶりというわけでもない。今年もゴールデンウィークに一回行ったっきりだ。

 それ以前にも何度か来ているので、この途中の民家が建ち並ぶ住宅街を見るのも慣れている。

 だけど、今回は変な緊張感がする。住宅街を歩き、左右に大きな民家が建ち並ぶ真っ直ぐ続く広い道に出た所で私は歩美に尋ねた。


「歩美。今、歩いてるこの場所が、その例の気配がしたところ?」

「う、うん……私が帰る時は、いつも大抵真っ暗なんだけど、ここを通る時に誰かが後ろにいる気配を感じるんだよ。だからいつも怖くなって家まで走っちゃう……」


 歩美は暗く怯えた顔をして答えた。この道は街灯も全くない。暗くなれば、この道が不気味に感じるのは私も同じだった。

「そう……少し怖いよね、この道」


 私は目を細め、辺りを広く見渡してみた。他にも背後の道、そして先の道。周辺の家の屋根の上なども見てみる。


 この長く続き、車も通る広いコンクリートの道に隠れられる場所はどこにもない。あえて言うならば、民家の駐車場など。

 だけど、長時間隠れてると家主に気付かれて怪しまれる可能性も高いので、ここに隠れるという事は恐らくないだろう。


 普通の人間だったら、ここで誰かの後をバレずにこっそりつけるには相当な距離を取らなければ無理なはずだ。追っている相手の背中が小さく見えるほどに。でなければ振り向いた相手にバレてしまう。

 それに夜で視界が暗いと追う側も途中で相手を見失ってしまうんじゃないだろうか。


 今回のストーカーは歩美が後ろを振り向いても姿を見られていない。かつ相手にも気付かれるほどの気配を発する存在。幽霊、まるで影のように歩美に恐怖感を与え、付きまとっている。一体、何者なんだろう。

 私は歩美と共にストーカーが誰かを推理しながら歩美の家を目指した。


 広い道から右に曲がり、更に右に曲がった所に歩美の家はある。私の視界に歩美の家が映り、だんだん近づいていく。


「見えてきたね」

 私は隣を歩く歩美の方を見て言った。


「うん、着いて少ししたら夕ご飯の準備始めようか」

「何にする?」

「うーん、零さんが食べたい物があったら昨日の残りで作れる範囲で何とかするよ?」

「じゃ、それで。食材見てから決める。歩美がいいって言うなら」

 ここはお言葉に甘えさせてもらおう。歩美がそう言うならば……


 歩美の家は住宅街の中に建つ一軒家なんだけど、その辺の民家とは違い、お金持ちだけあって一際大きな建物で、白を強調した四角く広がる二階建ての豪華でシックな建物。

 その様子は住宅街の中にどーんと建っていて、ひと際目立つ小さな豪邸といった所。


 入口のすぐ右横には芝生の庭と白い木のテーブルも置かれたテラスが広がっている。歩美曰く、小学4年生の頃からここに住んでいるのだとか。

 私は歩美の後ろについていき、玄関から中へと入った。


 中へ入った瞬間、家の中から慣れたこの家独特の甘い匂いが流れてくる。よその家では、こういう独特の匂いがよくするものだと思う。それは、時に自分の住む家とは違う雰囲気を感じさせる。

 私はこの匂いは好きだ。歩美の家に来たんだという安心感がグッと湧いてくる。

 中へ入り、床も壁も白いシックな玄関からすぐに見える正面のドアを開けた先は奥まで広く続くリビング。


 奥に大きなテレビが置かれ、その正面には丸いガラスとプラスチックで出来たミニテーブル、そして白いソファーがテレビの方を向いている。

 更にその下には白いフカフカした暖かい絨毯が敷かれている。


「思えば、まだ、夕飯には早いね。どうする?」


 歩美の言う通り、夕飯にはまだ早い。壁にある時計に目をやると今がちょうど時計が五時十五分を過ぎた所だ。

「いや、今から少しずつ夕飯の準備を始めよう。いつ、そのストーカーが来るか分からないから」

「それもそうだね。また、大変な時にお腹空いてたら困るもんね」


 そういう事で、私と歩美は少しずつ夕食の準備を始めた。

 テレビの更に奥にある、背の高い黒い四角いテーブルの奥の台所にある冷蔵庫や棚を探ってみると思いのほか、材料が残っていたので、ここは一つ……

「歩美、今晩はクリームシチューにしよう。シチューの具が残ってるし」

「そうだね。ちょうどいいかも。じゃあ始めちゃおうっか!」


 その後、私と歩美は手分けをして一緒にクリームシチューを作り始めた。セーラー服の上に歩美が貸してくれた青いエプロンを着用。

 歩美もセーラー服の上にピンク色のエプロンをしている。歩美が肉を包丁で切り、私はコンロの鍋の方を担当しつつ、二人で野菜の皮を剥いたりするなどの作業を行った。


 順調に作業を続ける中、まだ歩美の言う()()という物は私にも感じられなかった。夕方だからだろうか。

 ふと窓を見ると完全に日は沈んでいない。


 この調子で現われなかったらたぶん、夜にしか出てこないのだろう。ひとまず、今は焦らずに待ってみるしかない。

 今は歩美との時間を大切にしよう。


「零さん、お鍋の方はどう?」

 横で玉ねぎを包丁で切りながら歩美が話しかけてくる。

「だいぶ、出来てきたけど、あともう少し」

 鍋の中のスープをよくかき混ぜる。


 片目での生活に慣れてきた私は最近は仕事量も増やし、失明したばかりの頃よりも積極的に歩美の手伝いを出来ている。

 一応だけど、私は片目での野菜の皮むきや包丁の扱いもだいぶ出来るようになっているので、作業のテンポも早まってきており、回復は順調だ。

 思えば、失明して初めて包丁を握った時は失明前よりも勝手が違っていて驚いたのを思い出した。


 いずれは一人でやらなければいけない事だと思うからこそ、私は動いた。いつまでも歩美に頼ってばかりではいられないから。

 失明する前のように問題なく、自分で生活が出来るようになるのが今の私の目標でもある。


 そうして約一時間ほど作業をしているうちにクリームシチューのスープがちょうど良い感じになり、そこに歩美が横から野菜や肉などを入れていく。

 あとはスープが煮込むまでかき混ぜる。そしたら、完成だ。


 ――その時だった。ピンポーーーーーーン。ピンポーーーーーーン。


 台所まで大きく鳴り響くのはインターホンの音。宅配便だろうか。それとも……


「零さん、ここは私がやっとくから代わりに出て! たぶん、宅配便だろうから」

「……うん」


 私はエプロンを脱いでそれを近くのソファーにかけると、玄関の方へと駆け足で向かった。

「はーい」

 ドアをそっと開けると……


「えっ……うわぁっ!?」


 ドアを開けたその瞬間、私の顔面に目がけて何かが突っ込んできた。丸太のように太い何か。とにかく、危険を察知した私は横へとそれを回避した。


「な、なに……?」


 避けた所で、いきなり攻撃を仕掛けてきた何者かの姿をこの眼で確認した。すると、その正体がすぐに分かった。

 それは、全身が(わら)で覆われた大男だった。私よりも背が高い。

 長い足から長い腕まで、何もかも全てが藁で出来ていて、太い胴体のてっぺんには顔があって縦に伸びている。頭は藁でトゲトゲだ。


 顔にある目と口は藁に空洞が開けられる事で成り立っており、中は赤く不気味に光っている。口はギザギザで大きく開いている。

 もはやそれは人ではなかった。モンスターだ。それは、私の目の前に立っている。その瞬間、さっきまでの平穏な気持ちが一瞬で吹き飛んだ。


 やっぱり……ストーカーは只者なんかじゃなかった。モンスターだったんだ……というか、ソルジャーの他にモンスターもいるんだ……


 でも、怖がってはいられない。このモンスターを何とかしないと家がメチャクチャになる。先ほど飛んできた丸太のような物はそのモンスターの拳。腕は普通の人間と同程度。

 拳の先端はでたらめに藁が集まって尖っている。それで私を殴り倒そうと襲いかかってきたのである。


 戦うしかない。そう決心した私はソウルを光らせ、素早く剣を出現させた。右手は(つば)がダイヤの形をした剣、左手は鍔が×の形をしている剣。

 それ意外は違いは見られない剣。だけど、これがあれば戦える。

 今こそ特訓の成果を見せる時だ……!


「ヴヴォワァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」


 モンスターが太い雄叫びをあげて左手の藁の拳を私に振りおろしてきた。私はそれを左に避け、そのモンスターの藁で覆われた腹をまず、左手の剣で刺すと続けて右手の剣も素早く刺し、二つの剣で続けて相手の体を貫いた。

 ズサッ……


 腹を二つの剣で貫かれたモンスターは悲鳴を上げる事なく、まるでエンジンが切れた機械のように動きが止まり、仰向けでその場で倒れた。藁を辺りに散乱させ、動かなくなった。

 同時に刺された剣も地面に落ち、その場で銀色の光の粒子となって消滅した。


 倒した……? ひとまず、これで動かなくなったようだけど……


 バタン!!!!


「どうしたの!? 零さん!! なんか、変な雄叫びが聞こえたけど……!」

 後ろからリビングへのドアが大きく開かれる音とともに歩美が慌てて駆けつけてきた。


「歩美、気をつけて。例のストーカーが現れた。しかも正体は怪物だった」

「えええっ!? じゃあ、この倒れてる大きな案山子(かかし)みたいなのが……ストーカー!?」


 目を丸くした歩美が指差した先には私が先ほど倒したモンスターが倒れている。

「歩美はここにいて」

「零さん、どこ行くの?」


「私はちょっと外を見てくる。外が気になる。念のため、私が出たら中から完全に鍵をかけて敵が入ってこないようにして!」

「うん、気をつけて! 私は警察呼べるようにしとくから! 頑張って、零さん!」

「ありがとう、歩美」


 私は歩美の応援の声を後押しに玄関から外へ出た。そして、再び両手に剣を出現させ、装備して敵を警戒しながら慎重に家の敷地を出て、正面に左右に広がるコンクリートの道へと行き、辺りを見回してみる。

 逃げる人影も一つもない。一体、誰が何のために歩美の家にこんな物を……


案山子の兵隊(スケア・トルーパー)!!!!!!!!!」


「!?」


 直後、謎の男の声がどこからともなく高い所から響く。私が声がした方向を見ようとした直後、私を挟み撃ちにするように先ほどと同じ姿をした案山子のモンスターが二体、空から降ってきた。


「ヴォワァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!! ヴォワァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!!!!」


 モンスターは両手を上げ、怪人のように雄叫びをあげる。その姿は特撮で怪人が「ばーっ!」と子供を驚かすのと同じだった。

 モンスター二体は藁でできた拳で私に殴りかかってくる。

 私は前後から拳が飛んできた直後、すかさずそれを左に跳んで避けて、敵の方を向き、二体の敵と臨戦態勢になる。

 モンスターも仲間意識があるのか、お互いの拳が自分の仲間に当たる直前で殴りかかるのをやめ、こちらを向く。


 そして、正面にいる左側の一体を左手の剣で素早く正面から腹を貫く。貫かれたモンスターは一撃でさっきのモンスターと同じく、エンジンが止まった機械のように機能停止し、その場でうつ伏せに倒れた。


 間を置く事なく、横から殴りかかってくるもう一体も手元に残った右手の剣を左手に持ち替え、敵が振り下ろしてくる拳を避けて高くジャンプ、


「はぁぁっ!!!!」


 掛け声と共に斜めからそのモンスターの腹を剣で貫いた。ふう……ジャンプ力はバレーで鍛えてるから、慣れてる。

 と、モンスターに気を取られている場合じゃなかった。


 私は先ほどの、叫んだ男の声がした方向を確認するのを思い出し、その方向を見た。その男だ、モンスターを作って送り込んでいたのは。逃がすわけにはいかない。


 方角はちょうど歩美の家の屋根の上。自分のちょうど背後だ。確かに、さっき、声は確かにあそこから聞こえた。

 高い所から私に向かって力を行使する声は確かに聞こえた。そして、私の予感は的中した。


「これはこれは……弱いコマだけでカタがつくかと思いきや……あなた、ソルジャーでしたか」


 芝居がかった怪しい声がした。歩美の家の屋根の上には一人の男が肩をすくめて、私を見降ろすように、高みの見物をするように立っていた。

 黒いマントを羽織り、茶色いハットを被っていて、とっさに吹いた風でマントがなびくと男は被っているハットを左手で抑えた。


「あなたは……?」


「はじめまして。私は案山子を使役し、操れる案山子人間……藁色のソルジャーソウルを持っております。どうぞ、さすらいのドレッド・スケアクロウとお呼び下さい……」


 ドレッド・スケアクロウと名乗る芝居がかった挨拶をする男は不敵な笑みを浮かべ、右手をヒラリと目の前に下げながらお辞儀をし、紳士的に挨拶をする。


 恐らく年齢は三十代後半から四十代ぐらい。やっぱりソルジャーだった。ドレッド・スケアクロウ……さっきのモンスターを作り出したのも彼だろう。

 まさか、モンスターを作れる人がいるなんて思ってもなかった……こんな力を持った人もいるんだ……


 この前戦った、大バサミのシーザーとはまた違う雰囲気……一体、モンスターを作る以外にどんな攻撃を仕掛けてくるのだろう。


 ソルジャーである以上、そう簡単にはいかない。だけど、今の私には戦う他ない。歩美のためにも絶対にコイツを倒さなきゃ。生きて戻って、また一緒に……


 私はスケアクロウに対し、両手の剣を手に、構えた。

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