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ソルジャーズ・スカイスクレーパー  作者: オウサキ・セファー
第一章 シルバークライシス -少女の慟哭-
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第13話 変わりゆく日常

 突如、私の前に現れた、大バサミのシーザー。

 彼は両手が巨大なハサミになっており、そのハサミで歩美を人質にして、なにも分からない私に戦いを挑んできた。

 殺されるかと思った。死ぬかと思った。本当は怖かった。でも……土壇場で自分の力を使い、シーザーを倒し、歩美を助ける事が出来た。


 そんな日から数日後。

 あれからはいつもと変わらない平穏な毎日が続いている。春休みも終わりに差し掛かり、学年も二年に上がり、新学期が始まろうとしていた。


 称太郎に見事に振られてしまった私だけど、もうそれを引きずってはいない。今の私にはやるべき事があるから。ソルジャーとしての。

 それに、これで良かったのかもしれない……もしもあのままお付き合いが続いたのなら、称太郎も歩美のように私のせいでシーザーに目をつけられて巻き込まれていたと思うから。


 最悪、称太郎がシーザーに殺されていたかもしれない……そんな事を思うと背筋が凍った。因みに称太郎に振られた事はシーザーを倒した後、歩美にも話したけど、かなり驚いていた。


 歩美はそれを聞いた直後、「ウソォ!?」ってビックリ仰天してた。それぐらい歩美も私が称太郎と上手くいくと信じていたようだ。

 無論、それだけじゃない。彼が新潟に引っ越す事、そこの学校を受験した際に新しく彼女が出来たという振られた理由も。

 驚くのも当然だろう。恋愛における大きな通過点でもある告白までしたのに、その矢先ソルジャーになって空白の時間が出来て、その間にまるで都合が良くあっさりと振られてしまったんだから。


 告白した時は私も「やった!」って内心、嬉しかったし、安心した。興奮も止まらなかった。でも容易くそれらを打ち砕かれてしまった……

 結局、告白して受け入れてもらえても付き合っていくか決めるのは相手次第。場合によっては、それを切り捨てる事も辞さない人もいるのだろう……


 その相手というのも実際、どういう顔をした人か気になったけど、フラれてあの後泣いて……それでその後すぐシーザーと戦いになって……今更知ろうという気もなくなってしまった。


 その相手とはこれから始まる長い高校生活を共に歩むのだから、称太郎は離れ離れになるこんな私よりもこれからも一緒にいられるその女の子を選んだとしか割り切れない。

 シーザーとの戦いを通して、私は化け物と蔑まれていた自分が本当はソルジャーだという存在である事を知った。

 ソルジャーソウルを持ち、ソルジャーという特殊な存在になってしまった以上、私は恋愛や部活よりもやるべき事があった。


 そう、早く自分のこの力をもっと使いこなすように自主的に訓練する事だ。


 私は今、紺色のジャージ姿で昼下がりに誰もいない晴天の自分が住むマンションの屋上で、ソウルを出す方法、武器である剣を出す方法、剣の扱い方……それらを徹底的に練習している。

 この屋上はせいぜい掃除の時間とかそれぐらいしかマンションの職員も来ない静かな場所だ。訓練には最適。

 また、他に誰か上がってくる様子もない。


 どちらも強い意志が関係する。

 私の戦いたいとかそういう強い意志が強ければ強いほど、身体のソウルは湧きあがり、武器もまた、私が必要と思う強い意志がなければ出現しない。


 半端な意志では、武器も出現しない。変に力をこめるだけでもダメ。これじゃ……いざという時に困る。

 コツは強い意志を増長させること。そうすると体の内から自然と力が炎のように湧き上がってくる。出した剣もその場で横や縦に振ってみたりして感触を確かめる。


 訓練しながら分かった事はこの武器は正面に突く以外にも普通の剣のように横に振って相手を叩いても重りでダメージを与えられる。強い意志をこめると武器が銀の光をまとう。より強いダメージを与えられそうだ。

 また、剣は意志を駆使すれば瞬時に手元に戻せること。今の所、分かるのはこれぐらい……かな。


 あの時、シーザーに襲われた時に歩美との会話を思い出し、強く願って武器が現れたのも私の強い意志に呼応したものなのだろう。

 私は利き腕は左利きなんだけど、武器の扱いは右でも不自由なく出来たりする。勿論、使いやすいのは左手だけど。バレーボールは右でも問題ないけど、左の方がシュートが打ちやすい。でも、鉛筆やお箸は迷わず左。右ではとても扱えない。


 幼稚園や小学生の時同様、中学に入って友達になって間もない歩美や出会ったばかりの右利きの人達にも左利きなのを珍しがられたり、羨ましがられたけど、左が当たり前の私にはそこまで珍しいのかなとも思った。

 でも、そのお陰で新しく出会う人と話すきっかけが得られたような気がしなくもない。


 またいつ、シーザーのようなソルジャーが現れて、襲ってくるか分からない。シーザーは新宿で遊んでいる私達を発見して、ここまでつけて来た。

 逆を言えば、私もあの時、異様な気配を度々感じていた。私もいつの間にか他のソルジャーの気配を察知出来るようになっていたんだろう。

 上がった身体能力と同じだ。黒髪だった時よりも、私の体は強くなっている事を感じる。


 これから遠くへ遊びに行く時は常に警戒した方がいいのかもしれない。ソルジャーがみんな、血の飢えた獣のように獲物を狙ってるなら尚更だ。歩美と遊びに行く時も、歩美にもしも何かあって、その時守れるのは私しかいない。

 どんなに強い相手が来ても、私は歩美を守るし、自分の身も守る。


 この事は叔母さん達には内緒にしておく。叔母さん達を危険な事に巻き込むわけにはいかないから。これは私自身の問題。

 髪が銀髪になった事についても実は叔母さん達にはまだ伝えていなかったりする。伝える気になれない。伝えようと思っても悩んだ末に直前で電話を置いてしまう。

 この事が叔母さん達に知れたら、連れ戻されるかもしれない。それだけは嫌だ。せっかくこうして都会に出てこれたのだから。


 今はまだ、叔母さん達に髪の事を伝える気にはなれない。近況報告はやっているけど、銀髪になってからはその事は伏せてきた。

 それに、私がいなくなれば、また歩美に何かあった時、誰が歩美を守るんだろう。戦えるのは、頼れるのはもはや自分だけ……私はそう自分に言い聞かせた。

 思い返してみれば、あの戦いの中でシーザーはこう言っていた。その言葉が脳裏に過る――。


『こっちはせっかく異名付けられるほどまで売り出したんだから、次は四天王に匹敵する所までいきてぇんだよォ!!』


 確かに言っていた。彼が言っていた四天王って具体的になんだろうか?

 この言葉を鵜呑みにするのなら、シーザーよりも強いソルジャーが四人はいるという事。どういう人達なのかは分からない。けど、わざわざ四天王と呼ばれてる以上、恐ろしく強いんだろう。


 もしかすれば、いずれ四天王とも戦う事になるのかもしれない。それで、私の前に現れて歩美に危害を加えるというのなら、その時に太刀打ち出来るのは私だけ……襲ってきた時は戦うしかない。自分の身は自分で守らなければならない。


 訓練を終え、部屋に戻って一人休憩をとっていると時計がもうすぐ、十六時に差し掛かりそうなのを確認した私は支度をして夕食の買い出しに行くべく、ジャージを着たままで再び外へ繰り出した。

 青空が茜色に染まり始めている。春風とも言える暖かい風が吹き込んできて、長い銀色の髪がなびく。

 スマートフォンを確認すると、ちょうど歩美からメールが来ていた。いつもこの時間帯に私が買いに行く時はいつも来るオーダーメールだった。


 * * * * * *

 From: 歩美

 sub: 

 添付ファイル: 無し

 今夜はビーフシチューにしたいから

 材料を買ってきておいて^_^;

 * * * * * *


 ――ビーフシチューか……

 ビーフシチューだったら、前に歩美と一緒に部屋で食べた事がある。材料や必要な物も知ってる。家の家事は歩美だけに任せているわけじゃない。

 右目を失って歩美が家に来てくれるようになってから、少しずつ片目の生活に慣れるべく、私も歩美の手伝いをしながらその生活に慣れていこうとしている。


 買い出しは今は私の仕事。今日のように歩美の注文に答えて材料を買いに行ったり、個人的に足りない日用品などを買い足すために私は今日も近くのスーパーへと買い物へ行く。

 マンションから住宅街を歩いて十分ほどの場所で、それほど遠くはない。

 右目を失明したばかりの頃は買い出しも歩美に任せていたけど、今は私が買い出しをしている。


 来てくれるだけでも、本当に嬉しい。だからその分、負担をかけさせたくない……私は前に歩美にそう主張した。


 最初は歩美は『本当に大丈夫……?』と心配してくれた。けど、片目状態で動く事にも徐々に安定してきたし、歩美ばかりに任せるわけにもいかない。私も歩美の力になりたい。

 だから、自分から動く事を決めた。


 外出して外を歩く時も、私は新宿で偶然つけてきていたシーザーを感知出来たように心の中で意識を集中させ、常にソルジャーが回りにいないかどうか気をつけている。

 気配を無意識に読み取れたのなら、迫り来る気配を意識を集中させて読む事が出来るはず。


 気配を感じ取れる距離がどれぐらいかは分からないけど、少なくともこちらから敵の存在に気づいて、向こうが気づいていないのなら、逃げたり、対処するチャンスは十分ある。

 ただ、シーザーは気配をほぼ消して私達に接近してきた。なので気配を感じ取るだけに過信してはいけないのかもしれない。

 もしかしたら、気配を消して接近する方法があるのかもしれない。でも、今は自分の出来る限りの事をしようと思った。


 今の私は通行人や向かってくる車などの気配をある程度感じる事も出来る。民家の隙間から、飛び出してくる物が何かと思わず構えるとそれは可愛い黒い野良猫だったり。

 ソルジャーになったばかりの時は身体能力の上昇などに目が行きがちだったけど、気配を読む勘もまた、ソルジャー化する前よりも確実に上がっていると思った。

 元々バレーボールで反射神経はそれなりに自信はあったけど、それも影響してるんだろうか。


 通い慣れたスーパーで手早く買い物を済ませ、私はスーパーから出て、歩いてきた閑静な住宅街を歩き出す。

 私はこのスーパーは世田谷に来てから買い出しで必ず行くので、回り慣れている。商品の場所とかはだいたい頭の中に記憶してある。


 休日のバーゲンセールの時は入口正面に広がり、店の中からの電気に照らされる駐車場も車や自転車が停まってかなり混雑する。でも平日のこの時間はかなり空いていて、特別混んでいる様子はない。


 この周辺ではスーパーはここぐらいしかない。もう一つ近くにスーパーがあるんだけど、そこはマンションから行くにはバスを使わないと行けない。

 行き方はこの前シーザーと戦った公園を通り、その先にあるバス停からバスに乗る。たまにそちらにも行く。野菜のお値段がいつも行くスーパーよりも安い事が多いから。

 因みにバス代は叔母さんから学生料金で定期を買ってもらっているので気にならない。一方、電車は自費なのでこの前のように新宿で遊んだりする時は気をつけないといけない。


 だから実はこの前も、事前に叔母さんから送られてくるお金の範囲で食費などの生活費を貯金も含めて計算して、余裕を確かめた上で歩美と新宿に出かけた。

『お金の計算は大切だ』

 って……小学校時代、電卓を素早く叩きながら叔母さんはよく言っていたから……


 今も眼帯で隠れている右目の腫れも、今はもうすっかり治ってきた。目の周りの赤みもだいぶなくなってきている。

 ふと広い閑静な住宅街の道の左側で立ち止まり、右目を覆う眼帯に手をやり、めくって見えない目で茜色の空を見てみる。

 民家の黒い屋根とか、ハッキリと景色は見えないけど……空から私を照らす茜色の光だけは右目でも明るさを微かに捉える事が出来ていた。

 そこには、ひょっとしたら右目の視力が治るかもしれないという微かな希望もちょっぴりあるような気がした。

 痛みはなく、腫れも治ってきて、もうとっくに眼帯を外す時は過ぎてるんだけど、私は右目を晒したまま、春休み明けの始業式を迎えるつもりはない。

 片目だけが不安定な視界では意識が情緒不安定になりかねない。


 眼帯は、これからもずっとつけていく。

 今の状況、脅威と思われるあらゆるものに対して警戒という意識が離れない。学校だけでなく、外にも脅威は存在するから。

 けど、歩美との時間は束の間の平穏を引き戻してくれる。


 でも、よくよく考えれば逆に一人だと、色々な考え事をしては考え込んでしまう。ソルジャーの事とか、これからの事とか。癖なのかな……私の。


 そういう事もあって、歩美との時間は私にとって一番大切で、かけがえのない物へといつの間にかなっていたのは言うまでもない。

 いじめられ始めてからそうだ。歩美と二人で作った思い出は、どれも大切だ。それはきっと、歩美も思ってる事だと思う。


 帰り道を歩きながら、茜色の空を見ながら……こういう平穏な時間が出来るだけ長く続けばなと思った。楽しくて、平凡でも平和な時間が。


 少しだけでもいい。少しでもこの時が続くのならば……私は幸せだ。

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