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ソルジャーズ・スカイスクレーパー  作者: オウサキ・セファー
第三章 プレゼンス・サード -航路の行方-
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第40話 決着?

「はい、森岡です」


「あ、境輔くん。アレクです! 大変お待たせしました! 境輔くんとユヒナさん、お二人に逃げて頂く場所をジョニーさんが見つけてくれたんですよ!」

「その場所は――」


「あの、アレクさん。長瀬川倒しちゃったんですけど」


「え?」


 僕の目の前には今も翼を広げたユヒナが地面に這いつくばる長瀬川の額に剣先を向けている。僕はひとまず、今起こっている状況をアレクさんに説明した。


「なるほど。そうでしたか。ユヒナさん、力が戻ったんですね。それで長瀬川をあっさり倒してしまったと」


「この後、どうしますか? 敵のトップを倒した以上、もう逃げる必要もないでしょう?」


「そうですね。阪上さんに連絡してウエストゲートブリッジに車で人員を送ります。そこで待機していて下さい」


「は、はい……」


 もう勝負あったという状況だ。長瀬川は立ち上がって襲いかかってくる様子もない。意識はあるが、ユヒナの攻撃によるダメージも大きく立ち上がろうにも立ち上がれず、ユヒナが向けている剣先も相まって唇を噛み締めるだけで抵抗出来そうにない。


「ぐ……シーガルスが来やがるか……」


「そうよ! それであなたは警察に引き渡されて逮捕される! もう悪い事なんて出来ないわ!」


 この島で犯罪を犯した場合、シーガルスの手から警察に引き渡されるのが通例だ。その先の事は分からないが、長瀬川は裏社会とも大きな関わりがあるヤクザ。ましてやこの島にヤクザを送り込み、乗っ取りを企てていた。その辺も含めてそう簡単に出てはこれないだろう。

 この戦い、僕達の勝ちだ――。


「ッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!!」


 長瀬川の背後。僕らが来た道の方から大きな人影が一人現れた。背格好は僕よりも高い。それはどこかで聞いたような笑い声。


「ここまでご苦労さんでした。ナガセの兄貴」


 人影は慣れた口調で長瀬川にざっくばらんに挨拶をする。そして、近づいてきた人影の正体が明らかになると、僕らは目を丸くした。


「お前は……真木田……!」


 そこにいたのは死んだはずの真木田だった。僕らだけでなく、長瀬川も信じられないような顔で死んだはずのそいつを見た。

 何もかも、昨日死んだままの姿。

 モヒカンのような、尖らせた黄色い髪に屈強で大柄な体格、ジーンズ。

 上半身裸の上に黄色い袖がない上着を着たそこそこ焼けた肌。

 昨日、自分が用意した薬のせいで暴走したユヒナにその肉体を食われて死んだはずの男が僕らと長瀬川の目の前に余裕な表情で立っていた。


「おい、どういう事だよ!! 真木田は昨日死んだはずだろ!?」


「そうだよ!! 私が暴走してあなたを食べてしまったはず……!」

「なんで生きているの!?」


 まさかこの後に及んで、死体の真木田を誰かが生き返らせたとかそんなオカルトが出てくるはずもない。

 僕は確かにユヒナが真木田を食う所をこの目で見た。真木田は長瀬川に助けを求めながらも抵抗出来ず、そのまま力尽きてしまった。


「ちょうど良かった……! 真木田、なんで蘇ったのか知らんがまずはこのガキどもをぶち殺せ……!! 話はそれから――」


「先には死ぬのはあんただよ」


 突如の銃声が全てを沈黙に包む。心臓の動きが早くなり、体が熱くなる。

 真木田の持つ銃から地面に向けて放たれたそれは大きな銃声を響かせ、長瀬川の横の地面に着弾し、火花が散る。


「な……真木田……! どういう事だよ?」


「決まっているだろ。俺があんたを殺して長瀬川会二代目会長になるためだ」


「何フザけた事……言ってるんじゃあ!!」


 長瀬川はユヒナから受けたダメージを抱えながらも気合で立ち上がり、真木田の方を見た。


「親に逆らうっていうなら……お前は今日から絶縁――ぐあっ!!!」


 喋っている長瀬川に真木田は容赦なく銃弾を撃ち込む。撃たれた長瀬川は胸から血を流して後退りしながら仰向けに倒れてしまった。


「真木田……お前いつからこんなぁ……」


 倒れている長瀬川に真木田が近寄っていく。


「元々、この島にあんたが攻め入る事も、そもそも俺が殺される事も、全部俺と根来興業が裏で動かした計画通りだったんだよ」


「なん……だって……」


「俺は根来興業に寝返った。二代目会長になった暁には、ナガセの兄貴の後を継ぎ代々木柴浜会での地位を磐石なものとしながら――根来興業に寝返るつもりだ」


 根来興業。確か、真木田が使っていた精神高揚剤も根来興業から仕入れたと―牙楽が言っていたな。


「ぐっ……根来興業……じゃあ、俺がこの島を乗っ取ってゴルフ場を作る計画のため、お前らを島に送りこむために……根来会長に頼った時点で俺は都合よく動かされていたのか!?」


「あぁ。厳密にはその後だがな。俺だってこのまま下っ端で終わりたくねえ。裏社会の頂点に立ちたかった」

「あんたが根来会長に頼み込んで、真木田組を真木田ガードナーズとして上手くこの島に潜入出来るようにした後、会長が直々に俺の下を訪ねてきたんだ」


「根来会長が!?」


「それで根来会長の描いた絵に沿って俺は昨日まで動いていた。あんたという円川浩次と並ぶ代々木柴浜会を支える幹部の一角を潰すために。そして俺が二代目長瀬川会会長となるために」


 根来と真木田。二人の陰謀のためにこの島は巻き込まれたという事か。


「根来会長は、時が来るまで通常通りあんたからの仕事をやるよう言った。理事長の情報を得ようと、そこの特別公認事業所の女が、そこの小僧と交流がある事を知った俺は牙楽を使って誘拐させた」


「じゃあ、昨日牙楽が見てきたっていうあの死体は誰なんだよ!!」


「あれは根来会長が用意してくれた俺の影武者だ。何でも、会長は自らの手足として自由に動かせるスパイや裏工作などを行う特殊部隊がいるらしくてな。あの影武者はそこから連れてきたらしい」


 影武者だって……じゃあ僕があの時見たあいつは……


「まさかあんなにそっくりな影武者を用意してくれるとは思わなかった。影武者と俺は牙楽が小僧を連れ帰るまでに入れ替わった」

「本物の俺は部下にも気づかれる事なく身を隠した。当然他の組員はこの事実を知らない。当初は影武者が細工を施した精神高揚剤を打ち、ドーピングに失敗して自殺する事で俺がこの島の連中に殺されたとあんたに思わせる計画だった」


じゃあ、あの時、ユヒナに追い詰められ窮地に追い込まれたのも全て影武者の演技だったという事なのか……


「ところが、薬が女に誤って打ち込まれ、暴走したそうじゃないか。影武者が死んだから結果オーライだったが、あれは予想外の事だった」

「あの薬は普通の人間に打ち込まれれば、高い効力も相まってまともに戦う事すら出来ないまま薬物中毒で死に至るように仕組まれていたはずなんだ」


 ユヒナはそもそも人間じゃない。人間でもソルジャーでもない第三の存在であるエクスサード。ホムンクルスだからその薬物にも体が耐えられた。しかし、暴走してしまったという事なのだろうか。


「まぁ、そんな事はどうでもいい。お陰であんたも牙楽も見事に俺がこの島の奴らとの戦いでそのまま死んだと認識し、リッパー・ヴェノスを送り込んだり徒党を組んでこの島に侵攻したりとよく暴れてくれた」


「ねえ!! あなたもこの島が狙いなの?」


 真木田がここまでの衝撃的真相を次々と暴露し、全て最初から全部仕組まれていた事に寒気を感じる中、ユヒナが尋ねる。


「違うな。俺の目的は最初から現長瀬川会の会長、長瀬川篤郎の首だけだ。こいつ殺したら俺が二代目会長だ。そしたらこの島からもオサラバしてやるよ」

「この島なんか乗っ取らなくても、長瀬川会の会長にさえなってしまえばそれに匹敵するぐらいのカネも権力もゆくゆく得られるんだ!!」


「というわけで、そろそろ冥土の土産にネタばらしした所であんたの首を頂くとしよう」


「くっ……お前のような親に楯突く裏切り者がそんなに簡単にいくと思うなぁ……!」


 ユヒナから受けた傷だけでなく、先ほど撃たれた傷も抱え、満身創痍の長瀬川は何とか立ち上がって一本距離をとり、真木田に対する。


「それはどうかな」


 真木田は素早く長瀬川に再び持っている銃をぶっ放した。


「ぐおぁぁぁぁっ!」


 腹に傷口が増えて後退る長瀬川。続けて三発の銃弾が連続で胸元から腹部まであちこち撃ち込まれ、血しぶきが飛散し長瀬川の着ている青いアロハシャツを血だらけのボロボロに染めていく。

 そのむごい姿を僕とユヒナは見ているしか出来なかった。

 が、長瀬川はそれでもなお両手を広げて必死に耐えている。


「真木田……テメエ……この拳で……テメエをぉぉぉ――」


「黙るのはあんたの方だぁ!!!!」


 苦しみながらも、耐えながらも、ファイティングポーズで構え、真木田を自分の拳で倒そうとする長瀬川よりも早く、真木田の鉄拳が長瀬川を炸裂する。

 長瀬川以上の体格と太い腕から繰り出されたそのパンチは長瀬川を鉄柵の向こうへと突き飛ばし、暗い東京湾が広がる奈落の底へと消えていった。

 と足元の底から水面に大きく叩きつけられる音が小さく聞こえてくる。

 あっという間に終わる光景にユヒナが思わず叫ぶ。


「ええええええええええええ!?」


 僕も叫びそうになったがぐっと堪える。


「今日から俺が長瀬川会の会長だ!!! ッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!!!」


 あんな傷だらけでは早く手当しないと、傷口に海水が入り込んで助からないだろう。

 しかもこの天空に架かる橋から高く落下した先に広がるのは夜の東京湾。自力で泳いで陸地にたどり着こうにもあの傷では泳げるのかすら怪しい。

 こいつ……マジでやりやがった……任侠映画のお約束展開でもある親殺しを……


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