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ソルジャーズ・スカイスクレーパー  作者: オウサキ・セファー
第三章 プレゼンス・サード -航路の行方-
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第38話 逃避行

「ゴスゴス!!! 逃がさないゴスよ!!!」


 新秋葉原駅からモノレールに乗ってネオ・アキバドーム前駅で降り、改札口を抜けた先の広場で僕らを待っていたのは黒い鎧に覆われた巨大なサソリの化け物が率いる待ち伏せ部隊だった。

 そのままサソリをでかくした姿。鼻と生えている大きな4本の牙から顔はまるで狛犬のようだ。体だけでなく顔も大きく、噛み付かれたら自分の細い体もへし折られそうだ。

 僕らの居場所を知ってか、ヤクザが次々と増援で押し寄せ、サソリの化け物が8本の脚で無駄にうるさい足音を立てて追って来る。

 囲まれてしまってはここに来た意味がない。なので、僕はユヒナに行く手を阻む弱い敵――サソリの化け物じゃない無名のヤクザ――を倒してもらい、その空いた箇所を僕らは抜けてそれらから振り切るべくドームで バスやタクシーを拾う余裕もなく乗り場から激走する。

 単なる偶然なのか、待ち伏せなのか――ドームの周辺に広がる様々な店や施設が並ぶ煌びやかな歓楽街の中に逃げこんだものの、新秋葉原同様に長瀬川会の構成員が至る所で待ち構え、足止めをしてくる。が、ユヒナがその横を抜けてそれらを蹴散らして素早く道を切り開いてくれる。

 が、そうしている間にも背後からサソリの化け物がジタバタと他のヤクザを差し置いてそれらより早いスピードで僕らに迫ってくる。くそっ、あいつは一体なんなんだ……こんなのまでいるのかよソルジャーは……


「ゴスゴスゴスゴスゴスゴス!!! デッドリーテイル!!!」


 サソリの化け物は走りながらその巨体から長く伸びる尻尾を横に大きく振り回してくる。

 迫り来る化け物に恐怖を感じた僕は距離を離すべく自然と攻撃範囲から外れていたが、その後ろにいたユヒナを黒く硬いしなやかに伸びる尻尾が弾き飛ばした。


「ユヒナ!!!」


 名前を呼んだ時は既にユヒナは歩道からアスファルトの上に叩きつけられ、両膝をついていた。


「ゴスゴス!!! 思い知ったかエクスサード!!! このスコルビオン様の尻尾の威力を!!!」


 スコルビオンと名乗ったサソリの化け物はユヒナの方を見て自慢げに言った。


「あなたも……長瀬川の仲間?」


 ユヒナはアスファルトに手をついて立ち上がると光る剣を片手で振るって構えた。


「ククク、そうゴスよ? ”暴れん坊サソリ”と呼ばれてるゴス!!!」

「最も、オレは牙楽とかリッパーと違って、優しい男ゴス。オレの女になるというなら手荒なマネはしないゴスよ?」


「ダメ、来ないでえ!!!」


 スコルビオンがそう誘うとユヒナは剣を向けてその要求を拒絶した。近づこうとするスコルビオンの動きがピクリと止まる。


「あなたが長瀬川にいる以上、それはダメ」

「あと私……ごめん、あなたとは絶対に無理!!!!」


「ガヴィーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!」


 スコルビオンは超絶な悲鳴をあげながら体が真っ白になり、白目を向いた。だが、すぐに体の色と表情が元に戻り、


「く、クソ~……! 大人しくオレの女になってればいいものを……こうなったら本気の本気でぶっ潰してやるゴス~~~!!!!」


 怒り心頭になったスコルビオンは態度を一変させた。そして後ろからこちらを追いかけて走ってくるヤクザ達に、


「遠慮なくやるゴス!! 行けゴス!!!」


 ヤクザ達がその間を抜けてこちらに走ってくる中、スコルビオンはヤクザ達に命令する。


「ユヒナ、逃げよう!!」


「うん!!!」


 ヤクザの大群が目の前に迫る中、僕達はとにかく全速力で走った――救いを求めて暗闇に包まれた歩道を突っ切ろうと必死に走る――。

 だが突如、背後から轟音と悲鳴が響き渡った。何かが着弾し、辺りを消し飛ばす音。一瞬何が起こったか分からなかった僕はユヒナとともに背後を見た。


「ゴ、ゴス……」


「な、何か撃ち込まれたぞ!!」

「あのスコルビオンが一撃で!??」

「探せ!!! 敵はどこにいる!???」


 そこにはスコルビオンと追っ手のヤクザ達の一部がぐったりと倒れている。他の生存してるヤクザ達にも動揺の空気が広がる。

 すると真上から斜めの方向で小さい光線がどこからともなく放たれ、ヤクザ達の足元に着弾するとレンガ状の地面から突如、大きな爆炎が吹き出して辺りを吹っ飛ばす。

 爆風が僕達の方向にも吹き荒ぶ。辺りが見えない。何が起きているのか。分からない。すると爆風の中に一人の人影が見えた。

 だがその姿は、初めてというわけではなく見覚えがあるものだった。遠い記憶のかなたからそれが確かなものへと蘇ってくる。

白い白衣を身にまとい、緑のふちの四角いメガネに薄い緑色のおかっぱ頭の少女。

そう――。


「アークライト!」


 ユヒナはその名前を真っ先に叫んだ。


「お久しぶりです。ユヒナさん。助けに来ましたよ」


 アークライトはにこっと微笑むと、振り返って目の前で攻撃を受けて立ち上がろうとしているヤクザ達とスコルビオンの方を見た。かなりダメージを受けたのか立ち上がるのも辛そうだ。


「お前は……アークライト・ルーヴェンシュタイン!! JGBの援軍ゴスか!?」


「ええ。長官から島に上がり込んだお前達を排除するように言われてここに来ました」


 あの日、ステプラをユヒナとやっていた時や先ほど浮かべた笑みとはとても大違いの顔。微笑んではいるがどこか黒さを感じるそれは無性に身の毛がよだつものだった。


「同時に――」


 アークライトの真上の夜空から小さいプロペラがついた機械が飛来する。あれは――ドローンだ。手すりのようなものが下部には搭載されている。

 高度を下げたドローンにアークライトは左手でぶら下がると、ドローンは彼女を持ち上げて一気に飛行を始めた。そして、メカメカしい一丁の銃をどこからともなく取り出して銃口を彼らに向けて、


「ユヒナさんと、もう一人の男子には手出しはさせません!」


 引き金を引くと銃口から小さく細いレーザー光線が高い音とともに照射、夜の闇を照らす光り輝くレーザーがスコルビオン達に直撃しその直後――またしても爆風があたりを包み込んだ。


「ここは私に任せて下さい! ユヒナさん達は早く!!」


「うん、ありがとう! アークライト!」

「境輔!! 行こ!!」


 ユヒナがそう言うので僕は頷き、アークライトが戦っているその場から走って遠ざかった。


「なあ、ユヒナ。彼女はあれで大丈夫なのか?」


 走りながらユヒナに訊いた。


「うん! アークライトは凄く強いから大丈夫だよ! 私も戦った事があるけど、勝った事ないから」


「マジか!? ユヒナも打ち負かすって凄いな……」


 牙楽やリッパーとは違い、アークライトはあの様子だと動物をモチーフにした力を持っているわけでもなさそうだ。見た所、メカで戦うのには違いないので恐らく隠れた秘密兵器的なものを持っているのだろう。

 そういえばユヒナは出会ったあの日、アークライトとステプラをしていたがその時は確かユヒナが勝っていた。ユヒナもエクスサードだから普通の人間よりも格段に強いのは当然だ。それと自然に渡り合えるアークライトって……なんなんだ……

 ひとまず、ここまで来た以上目指す場所に向かって一直線だ。しかしそこまでの道のりは長い。ここから西にあるウエストゲートブリッジを渡って、目的地のテレコムセンター駅はそこから更に歩いた先にある。

 車ならば、10分ほどで到着出来るが徒歩となると30分はかかるだろう。ウエストゲートブリッジに入った時点で道は真っ直ぐだが車が行き交う脇の歩道を長距離歩かなければならない。

 だがそれでも行かないといけない。僕らは歓楽街を抜けて、海の見える場所に出ると右側の方向にその大橋はでっかくかかっていた。

 夜なので暗い海。そんな中、ウエストゲートブリッジは柱につけられている照明のお陰で形はくっきり見えるようになっている。

ここから長く続く海沿いの道を真っ直ぐ行き、車が行き交う坂道を脇の歩道を通って行かなくても確かこの先にエレベーターがあって、そこから橋の上に出られたはずだ。

 僕はユヒナを連れて記憶を頼りに夜の海風が吹く海沿いの道を歩いて行った。


「もし、私が空を飛べるならこの先もひとっ飛びなんだけど……」


 歩きながら、ユヒナは海を挟んだ向こうに見える島を見た。あの森林が見える先にテレコムセンター駅がある。確か、橋を渡った先の両脇には公園が広がっているんだった。


「でも、今は使えないんだろう?」


「うん……でもなんだか、戦ってて少しずつだけど力が戻っていくのを感じるの」


「薬で消耗していた力が?」


「うん。もし、翼が出せたら境輔は私に掴まってくれればそれでいいよ。足、凄く痛いでしょ?」


 そういえば、ホテルからここまで必死に走りっぱなしなのと、何度もヤクザやソルジャーに襲われて落ちつかなかったからさすがに体が重たくなってきたな……おまけに言うと熱帯夜だ。汗がダクダクで水が飲みたくなってきたな……

 念のために慎重に歩を進めるものの、長瀬川会の構成員一人も現れない静かな夜道を歩いた先に僕の記憶通り、そのエレベーターはあった。この橋の始まりを形成する坂道の柱のうち一番海に近いものがエレベーターとなっている。ちょうどその脇に自動販売機があったのでミネラルウォーターを安い小銭で二つ買ってうち一つをユヒナに手渡した。

 ユヒナも喉が乾いていたのか、嬉しそうにキャップを開けて水を一口飲んだ。

 ここに自動販売機があるのも、ここを歩いて渡る人や歩いてここまで渡ってきた人のためだ。僕のような学生は自分の車は持てない。だから橋の先へ行くには歩くかバスやタクシーを拾う、もしくは電車に乗るしかない。

 だが、歩く以外は金がかかる。電車も島の外に行く場合は学生の特権であるいずみ島特別定期券は無意味だ。

 その費用をゼロで抑え、体力を代価として払う選択をした者がこの橋を自らの足で渡る。最も、体力をつければこんな橋楽勝という奴もいて、実質鍛え抜いた体力によってその代価をゼロにしていた奴も昔いたな……


「さて、行くか」


「うん。先は長いけど頑張ろ」


 水を買って少しだけ一息ついた後、僕らはガラス張りのカプセルのようなエレベーターに乗り込み橋の上に出た。

 見上げると高い柱にさっき見えた照明がつけられていて、道路と僕らの道である歩道を優しく照らしてくれている。

 右手に広がる道路は時折、車が行き交う以外は静かだった。夜風が吹き、髪や服が揺れ、照明には羽虫は群がる。もうすぐで橋を渡り始めて、半分に差し掛かる所だった。背後からエンジン音が聞こえてくる。また車か。そのまま気にせず歩いていると――。

 その音は僕らの背後で消え、突然止まった。こんな駐車場もない広い橋の上で車が止まるのは不自然だ。何事かと思い、振り向くと黒いワゴン車が道路に止まっていた。

 ワゴン車の扉が開かれ、運転席から人が出てきた。それは――。


「よお。まさか俺達の追っ手を振り切って、このまま逃げ切れるなんて思っちゃいねえだろうな~?」

 

 因縁をつけ、鋭い眼光でこちらを睨みつける一人の男。ホテルでハインに倒されたはずの青いアロハシャツの男。両手を包帯で巻いている。そう、もう動けないはずのあの男だった。


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