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ソルジャーズ・スカイスクレーパー  作者: オウサキ・セファー
第一章 シルバークライシス -少女の慟哭-
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第10話 唐突な別れ

 信じられない……本当に信じられない。


 私は自宅のリビングの畳んである布団の上でぐったりと仰向けになっていた。ショックで身体を起こす事が出来ない。無気力状態だ。

 自宅に帰ってくる途中も、私の頭の中で称太郎があの時、私に言ったあの言葉が常に頭の中で響いていた。



 * * * * * *



『ごめん、俺、他に好きな子が出来たんだ』


 悔しかった。ショックだった。その言葉が何度も何度も……私の中でこだまする。


 髪が銀髪になるまでは部活でずっと一緒だった称太郎を、一緒に半年間部活で過ごして、告白までした称太郎を、クリスマスやお正月、楽しい思い出を一緒に作りたいと思っていた称太郎を、こうも容易く、私よりも短時間の付き合いしかない他の女の子、しかもあの学校じゃない人に取られてしまった事が。

 脳裏にさっきまでの出来事が鮮明に蘇る――


『ど、どういう事・・・・・・?』


 その衝撃の告白を受けた私は、称太郎に戸惑いながらも尋ねた。聞けばその女の子と称太郎は高校の受験会場で初めてたまたま出会ったという。

 筆記試験が終わり、次に面接に移る待ち時間の間、図書館で他の受験生達と自分達の面接の時間まで長い間待たされていた二人は互いに話をして仲が深まり、連絡先を交換して交流が生まれたらしい。


 その高校への入学がお互いに決まった後メールで約束して春休みにまた二人で会い、デートに行ったらしい。

 そこで称太郎は私ではなく、その子を選ぶ決心を固めた。ちょうど私が歩美と新宿の方に度々遊びに行ったりしてる時だ。


 しかもその子は称太郎を積極的にデートに誘った。称太郎自身、断る気はなかったんだろうか。

 私を捨ててまでその子と付き合いたかったんだろうか……私の事なんてどうでも良かったんだろうか……


 考えれば考えるほど、切なく、悲しくなる。私は称太郎にその事実を告げられた後、私は大きく取り乱し、動揺した。

 今思い出せば思い出すほど、胸に突き刺さる。一連の経緯を聞かされた後、称太郎とその時最後に交わした言葉の数々が追い打ちをかけるように私を襲う。

 経緯を聞かされた時は、私も称太郎の事情を半分しか理解していない事に私はまだ気づいていなかった。


「ごめんな、零……約束守れなくて。かなり悩んだけど……俺は高校に入ってからはその子と付き合おうと思う」

「なによ……私の事よりもその子の事が大事なの? 告白した時、約束したじゃない……ずっと一緒だって……茶番だったの? あの告白は……」

 申し訳なさそうに謝ってくる称太郎を前に私の目から涙が流れ落ちる。


「ああ、茶番にしてしまった事は謝るよ。本当にごめんと思ってる。でもしょうがない事なんだ」

「バカ……それ言うぐらいなら……なんで他の人と付き合ったりなんかするのよぉ!!!!」


 泣きながら、涙をこぼしながら、私は称太郎に向かって叫んだ。既に憧れの先輩というイメージは脆くも崩れ去っていた。

「ごめん、これが俺の素直な気持ちだ。正直、君よりもその子に俺の気持ちが傾いてしまった」

「やっぱり……私がこの髪になってしまったから?」


 私は自分の銀髪を左手で指差した。


「違う、君のそれは否定しない。君はまだ聞いてないだろうけど、実は俺、親父の転勤で新潟の方へ引っ越すんだ。それで引っ越し先の家からも近い高校を受けて、そして受かったというわけなんだ……同時に彼女とも出会った」


 この期に及んで……どうしてそんな事を今更言うの? 

 初耳だ。称太郎が卒業後に引っ越す事は。今更そんな事を聞いて私の気持ちが丸く収まると思ったら大間違いだ。私にはそんな事よりも……

「どうして……どうして……だからってなんで違う子好きになるのよぉ!!!!!」


 どうせ引っ越しするのなら……違う女の子と付き合わず、たとえ遠く離れていても私との繋がりを大切にしてほしいと思った私。

 メールや電話とか、離れてても通じ合えるものはいくらでもある。

 でも称太郎は――


「新潟に来てその子に好かれて、デートまでしてしまった以上、こうなる事は俺も分かっていたさ」

「板挟みになるけど、なかなか会えなくなる君よりも、俺は慣れない新潟で出来た一番最初の友達であり、一番近くにいるその子を選ぶ事にしたんだ」


「新潟で親父が家買ったんだ。だから俺もこれからは新潟暮らしなんだよ」

「納得いかないよ……突然聞かされて、はい、さよならで済むと思ってるの!?」

 絶対に納得出来ない。こんな都合よく別れられるってなんなの……?


「恨んでもいいよ。こんなどうしようもない俺の事を。君を傷つけてしまった事は何でも謝罪するから」


 言い訳のような言葉が私を苛立たせる。謝罪……それでおさまる問題なの……?

 この時点で、もう私は彼に失望した。


「もういいぃ!!!!!! 称太郎なんか知らない!!!!!! 私の気持ちなんかどうでもいいんだ……どうでもいいんでしょ……?」

「どこへでも行けば!!!!? もう、勝手に新潟でもどこへでも行けばいいじゃない!!!!!」


 私は泣きながらそう言い捨て、私の行動に驚いた称太郎の「待って」という引き留めにも耳を貸さず、涙をこぼしながらもその場から走り去った。

 周りから注目を集めていたけど……そんな事はいい。もう知らない……どうでもいい……


 私は悔し涙を流しながらバスに乗り込み、自宅に逃げ込むように駆け込んだ。正直、今でも思い出せば思い出すほど溢れる涙が流れてきて止まらない。



 * * * * * *



 悔しい、それだけ悔しくて悲しいんだ。怒りと悲しみ、そして後悔、それら様々な感情が複雑に私の中で入り混じっていた。

 私を放り捨てて他の女の子と付き合った挙句、事前に何も伝えずに今日になって唐突な別れを告げると同時に新潟行きを暴露した称太郎と、その称太郎をとった子への怒り、悔しさ。

 一人の愛してた人を失った悲しみ。身近にいた存在が一つ消えた切なさ。


 もしかしたら髪が銀髪になっても遠慮しないでアタックをかけてればこんな事にはならなかったかもと思うと後悔がぐっと私に襲いかかる。

 ちゃんと年末年始に思い出を作っておけば、称太郎が他の女の子に傾く事もなかったかもしれない。怒りや悲しみが交差し合う中で一番大きな気持ちが後悔だった……


 歩美が家にやってくるのは夕方頃。だいたい十七時くらい。それまではずっと一人。沈黙と静寂に包まれ、青い空が見える窓から日差しがそっと部屋に差し込んでくる。

 今日はお昼は近くのコンビニで買ってきた弁当で済ませる予定だったけど、コンビニへ行く気もなくなってしまった。

 食欲が全然わかないからだ。ショックがあまりに大きすぎて。夏もバレーの練習頑張ってきて、告白だってしたのに。

 告白もして、こうもあっさり裏切られ……捨てられるなんて、夢にも思わなかった。


 夏がある意味一番、部活動した季節。みんなで合宿にも行ったし、試合だって色んなとこでやった。楽しかった。

 それだけたくさん思い出も作ってきたのに……それをどうして、新潟にいる初対面の子なんかに……どうして……


「はっ・・・・・・!」


 私は畳んである布団の上で目を覚ました。外は日が落ちて茜色が徐々に夕闇へと染まり始めていた。若干の茜色の空の光がこちらに差し込んでいる。


 いけない……いつの間にか眠ってしまっていたみたいだ。もう、起き上がれないほどのぐったり感は消えていて、私は自然を身体を起こす。

 帰ってきた後も着替えてないからセーラー服のままで寝てしまっていた。


 そういえば、もう時計を見れば十七時半だ。いつもは十七時辺りかその前にこの時間に来るはずの歩美が来ていない。夕飯の買い出しは昨日のストックがあるから大丈夫。


 さっきまで食事が喉を通らない気分だったのか、不思議な事に空腹感はあまりなかった。やっと食事が喉を通るって所かな。ただ、小腹が空いてきた気分だ。

 今日は昼食を抜きにしたし、歩美が来たら私は追加で何か買って来よう。


 私は歩美がメールか電話か何かしてくれてるかもしれないと思い、バッグからスマートフォンを取り出して確認してみた。

 すると、一件だけ新着メールがある事が確認出来た。受信時刻は十七時をちょっと過ぎた時間。もしかして、歩美、何かの事情で遅れてるのかな……


 私は三十分前に送られてきたメールの中身を開いた。しかし、その内容を見て、私は慌ててそのまま外へと駆けだしていた。文面はこうだった。


 * * * * * *

 From: 歩美

 sub: 

 添付ファイル:

 お前のダチは預かった。

 返してほしければ、今すぐ近くの公園の森の中へ来い!!

 来なければダチの命は無い。

 通報しても殺すからお前一人で来るんだな!!


 By 大バサミのシーザー

 * * * * * *


 冗談だと思った。でも、こんな手の込んだ文章はとても冗談じゃない。

 歩美だって、こんなふざけたメールはまず打たない。それは私の複雑な感情と平穏を取っ払い、驚愕させた。

 森がある近くの公園というと心当たりがある。


 私は住んでるマンションを出て、全速力で住宅街の中を走って真っ先に例の公園へと向かった。この場所で近くにある森がある公園というと一つしか浮かばない。

 場所は私が住むマンションから歩いて五分ぐらいの所にある公園だ。買い出しで高台下りた先にあるスーパーに行く時に通る事がある。

 走りながら様々な推測が私の中で飛び交う。


 歩美がさらわれた……? 大バサミのシーザーというのは一体誰だ……? 

 ……木村、それとも西?

 いや、違う……あいつらが偽名使ってまでこんな一歩間違えれば通報になるような事をするはずは……


 いつもは私達を痛めつけても、小林の件以来、彼らは決してボロを表に出したりしない。そうだと信じたい。

 誰かの悪戯だと信じたい。歩美を人質に取ってまでこんな事するのは……

 そう考えているうちに公園に到着した。この公園は結構広く、高台からコンクリートの階段を駆け降り、広場へ出ると遊具や砂場や水飲み場があり、中央に小さな噴水がある。

 この大きな円状の広場から左側に行くと木が生い茂る小さな森がある。たぶん、そこだろう。


 私は高台から階段を急いで駆け降りる。公園には誰もいない。私は言われた通りに森の奥へと急行した。すると……


「バァハハハハハハハ!!!!! 来やがったな、待ちくたびれたぜェ!!!!!!」


「!?」


 突如、男の大きな笑い声が響くと私は足を止めた。声がした方向を向くとそこにはロープで体を縛り付けられて膝をついた歩美とやせ型で長身の若い男がいた。

 しかし、その男は普通ではなかった。両手が楕円形で先端が尖った巨大な銀色のハサミとなっている。


 冬物のフワフワとした毛が首元にあるコートをマントのように羽織っており、ジーンズに薄い緑色のシャツ、頭には赤いバンダナを頭を覆うように巻いていて、後ろから金髪が飛び出ている。

 それは、小林、木村、西でもない。目つきも尖っていて全くの別人。いかにも凶暴そうな男だった。

 

 その瞬間、これはただの悪戯ではなく、本物の悪人による犯行だと私は確信した。日常から非日常へと変わる。

 チョキン!! チョキン!!

 両手のハサミの同時に開いて閉じる音……対象を切り刻む音が響く。


 だけど、おもちゃではない事を私に見せつけるのには充分だった。心臓の鼓動が早く感じる……徐々に早くなる。

 一体、彼は何者……? 背筋が凍るような焦りがぐっと出てくる。


「よォ……オレは大バサミのシーザーってんだ。捜したぜ、久しぶりのいい獲物だ……さあ、覚悟しなァ!!!」


 シーザーと名乗るその男はそう叫ぶと右手のハサミを軽々と動かし、こちらを指した。なに……?

 両手のハサミ……あれは両手に装備する武器? いや、違う……あんな両手に装着するハサミは見た事も聞いた事もない。汗のひと滴が頭皮から流れると同時に心臓の鼓動が更に促進される。


 両手の巨大なハサミは鋭い切れ味と重さがある文字通りの大バサミ。

 ちょっと腕を下げれば先端が地面に刺さってしまうぐらいの大きさで、恐らくかなりの腕力がないと両手が巨大バサミの重さには耐えられない。

 そして、そのハサミに挟まれたら最後……文字通りに体を真っ二つにされるだろう。


 彼は……一体……

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