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ソルジャーズ・スカイスクレーパー  作者: オウサキ・セファー
第三章 プレゼンス・サード -航路の行方-
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第28話 殺戮鮫のリッパー・ヴェノス

 体から青いオーラが炎のように燃え上がり、自らジェット噴射するロケットのようにこちらに高速で突っ込んでくるリッパー。

 見れば背筋が凍る、赤い歯ぐきから生えたギザギザな歯がある口を大きく開け、こちらに食らいつくように迫り来る。

 頭に生えた背びれのようなツノと巨大な体格も相まって、その姿はまさしく鮫映画のお約束であるホオジロザメを想起させる。まるでそれが陸上でそのまま活動出来るようになったような男だ。


「境輔は危ないから下がってて!!」


 隣にいたユヒナに守られて右手で軽く押された僕はその場から後退りして距離をとった。その力は華奢な女子なのになかなか強いものだった。

 すると狙われているユヒナはすぐに高く垂直に天へと飛び上がる。凄い脚力だ――4メートル以上も飛んでいる。

 普通の人間にはとても真似できないジャンプだ。やはり昨日、鋼の翼で空を飛んでいたからこそ成せるワザなのか……? くっ、眩しい太陽で上空のユヒナを目で捉えられない…!

 リッパーが突っ込んでくるが当然、目の前には誰もいない。それでも真っ直ぐに突撃をやめない奴の真上から体を回転させて刃を振り下ろして降ってくる――そう、彼女が。


「ぐほぉぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 空中でグルグルと縦に回転し、光る刃の剣がリッパーの脳天に直撃する。このままいけば、奴の頭の上からそのまま両断されてもおかしくないような光景だ。

 リッパーは頭からバランスを崩して仰向けに倒れた。ドスンと大きな音を立てて。

 そのリッパーを頭から攻撃したユヒナもその手前に綺麗に剣を左手に着地した。


「よくやったわ、ユヒナ。さて、追い打ちといくわよ」


 リッパーの後ろに立っていたハインが遠くから両手を前に広げた。ハインの白くて綺麗な手が紫色のモヤのような光を放つ。それと同じような光が同時に仰向けに倒れているリッパーの体を包み込む。

 ハインが広げている両手をそっと上にあげると――。


「な、なんだこれは!? 浮いてるだと!?」


慌てて驚くリッパー。それもそのはず、彼の体は仰向けになったままハインの特殊な力で浮いているのだ。所謂、念力か。


「アンタが倒れている所を、私の力で包み込んであげただけよ。暴れるアンタもこうやって捕まえる事が出来れば無力。例えば、ほら」


「グゥ……グァァァァァァァァァァァァァ!!! ァァァァァァ!!!!」


 ハインはそう怪しく微笑み、広げていた両手を握ってグーの形にした途端、リッパーが急に悲鳴を上げて何かに全身をキツく縛られるような声を出した。

 なるほど、恐らく念力で締め付けているんだろう……初めて見たがあの手の動作で力を操っているのだろう。

 よくテレビでマジシャンが物体を浮かせるマジックを披露するが、あれとも違う。仕掛けでもない正真正銘の力だ。常識を覆すものをまた見てしまったようだ。


「グハッ!!」


 リッパーはハインの力に開放されてそのまま仰向けになったまま地面に叩きつけられた。――終わったのか? 勝ったのか? やっ――。


「なにしやがるこのアマァ!!!!!!!」


 開放されて倒れた直後、倒したと思ったリッパーがいきなり起き上がり、ハイン目掛けて剛速球の水弾を思い切り投げつけた。

 その水弾は先ほどまでの物よりも大きく、一瞬のうちにハインの方向に飛んでいき大きな水しぶきをあげて爆発した。


「ハイン!!!」


 ユヒナの叫びも虚しく、ハインは唐突なリッパーの反撃をまともに食らって近くの横断防止柵に背中を強くぶつけて動かなくなった。


「はははははははは!! 勝ったと思ったか? 大間違いなんだよ!!」


 ハインから開放されて、こちらを嘲るように笑いながら立ち上がるリッパー。

すると僕らのいる方向を振り向く。ユヒナに斬られた事で額に傷があり、グロテスクな赤い血が流れ出ている。


「オレは”ブルーアシード”のソウルを持つソルジャー。”ホオジロザメ人間”のオレは水の力以外にもスタミナにも優れているんだぜぇ!!」


 リッパーはそう語りながらユヒナに右手で殴りかかってくるが、ユヒナはそれを左へと素早く回避する。

 それはともかく、ホオジロザメだって……? それを想起させたのは偶然ではなかったようだ。

 昨日の牙楽は見た目そのままのコウモリを操る吸血鬼ドラキュラだった。おっかないのがどんどん出てくるな……自分が現実にいるのかさえ分からなくなるほどだ。


「ハインになにするのよ!! たぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」


 ユヒナは回避してから力強く剣を振り下ろす。しかし、その時だった。


「アクアガントレット!!」


 リッパーの右腕が突如水流に包まれる。水に包まれたその豪腕で、すなわち素手でユヒナの振り下ろした剣を防いだ。互いに鍔迫り合いの状態となる。


「えっ!?」


 しかもユヒナの剣の刃はリッパーの右腕に当たってこそいるものの手応えがない。全く斬られたという様子がないのだ。


「この水の力を使って作り出す篭手の前には――接近戦の武器は効かねえ!」


 剣を意外な技で防がれて驚くユヒナをリッパーは手すきの左手を伸ばして首元を掴んで持ち上げた。掴まれても動ける左手に握られた剣を振り回すが、リッパーはそれを水で覆われた右手で弾き落とす。


「ユヒナ!!」


 僕は思わず、その名前を叫んだ。


「なぁ、お前。理事長代理のアレクシオネリアがどこにいるか知らねえか? 見つけたら最優先で捕まえろって言われてるんだよ」


 リッパーはユヒナの首元を掴んだまま、苦しむユヒナに対してまるで尋問のように訊いた。

 くっ、リッパーの狙いはユヒナとハインだけじゃなくアレクさんもなのかよ……


「知っててもあなたには絶対に……教えない……」


 ユヒナは首元を掴まれて苦しそうにしながらその問いに答えた。


「そうか、嫌か。――だったらこうだぁぁあ!!!」


「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 リッパーはその場でユヒナをレンガで出来た歩道の床の上に叩きつけた。ユヒナは強く叩きつけられてうつ伏せに倒れた。が、リッパーの猛攻はそれだけで終わらない。


「はははは!! 追撃のシャーク・スマッシュ!!」


 リッパーは水で覆われた右手を高速で足元に倒れるユヒナに向かって振り下ろした。

 振り下ろされた右手を覆う水は直撃と同時に噴水のように一気に弾けてあたりに一斉に飛び散った。僕も飛んできた水しぶきに対して距離をとる。

 ユヒナは間一髪その追撃を自分の体を素早く転がして避けていたようで、追撃を受けてはいない。

 すぐに立ち上がって構えるユヒナ。左手にいつの間にか先ほどと同じ光る刃の剣を持って。一見、さりげないがこれも含めてユヒナは人間じゃないと改めて感じた。


「アレクさんのこと、絶対に教えない!! たとえあなたに指示した人に見つかっても私が守ってみせる!!」


 剣先をリッパーに向けるユヒナ。先ほどまでの号泣して僕に謝っていた時とはまるで別人なほどにその姿は凛々しかった。しかも地面に叩きつけられたばかりなのに朦朧ともしていない。


「生意気なガキがぁぁぁぁぁ!!」


 リッパーは再度右手を水の篭手に覆ってユヒナに殴りかかった。ユヒナはそれを避けて剣で反撃する。リッパーはユヒナに斬られて体が傷ついても多少怯むだけで倒れずユヒナへの攻撃をやめない。

 水弾を投げつけ、自分の拳でユヒナを捻り潰そうと襲いかかる。ユヒナもリッパーという怪物を倒すために相手の直接攻撃と遠距離攻撃を的確に避けて、リッパーに斬りかかる。

 互いに怯まない接戦の末、だいぶダメージを受けたリッパーは再び先ほどの水の篭手によるパンチを放つがユヒナの剣と衝突してつばぜり合いとなり、ユヒナが競り勝って水しぶきと消える。

 その時だった――。


「私の事も、忘れてもらっちゃ困るわよ」

 

 外野からした女の声。僕らは一斉にその方向を向いた。そう、右手を腰につけたハインだった。トレードマークの黒い服は先ほどのリッパーの攻撃で全身ずぶ濡れだ。綺麗な漆黒の黒髪も水に濡れていて太陽の光に照らされて輝いていた。


「お前、まだ倒れてなかったのかよ」


「ええ、さっきまでの水遊びよりは強力だったけど――甘いわね」


 ハインは濡れた髪をかき揚げながら優越な笑みを浮かべた。よし、これで再び二対一だ。

 しかし、リッパーもかなりダメージを負っているはずなのに倒れる様子がない。まだ安心出来ない。そしてそこから分かる事はどちらも普通の人間以上にタフだという事――。

 普通に考えてさっきユヒナやハインが食らったみたいな攻撃されたら、立っていられるかは怪しい。

 

「ちっ、大人しく寝てればいいのによ」

「お前もお前も!! まとめて飲み込んでやる!! アクアガントレットォ!!」

 

 リッパーは前後にいるユヒナとハインをそれぞれ見た後、再度、右手を水の篭手で覆い、ユヒナではなく背後にいたハインに殴りかかる。

 が、ハインはリッパーの水のストレートをスッと避け、更にもう一発来る振り返りながらの生身の左手の拳もスルリと素早く軽い身のこなしで避ける。

 そして、宙を舞い、華麗なムーンサルトでリッパーを回り込んでユヒナがいる隣へと着地した。


「ハイン、戦える?」


「服は濡れちゃったけど、これぐらい何とかなるわ」


 そう言いながら、ハインは両手を紫色のエネルギー弾で覆い、構えた。


「服が濡れてちゃ体が重てえだろ? おらぁぁぁぁぁそこだ!! メガロロケット!!」


 リッパーは力を溜めると頭を前にハインに猛スピードで突撃してくる。その体は再び全身が青いオーラが炎のように燃え上がっていた。

 あの青色こそが厳密にはブルーアシードという色なのだろう。ソルジャーごとにソウルは様々な色をしているとアレクさんが言っていた。本人の口から再度改めてその色の名前を聞いてから見ると、強いエネルギーの呼応と現実とかけ離れた非現実性を感じさせる。

 まさかあんなものが人に宿ってるなんてな……現実の常識じゃとても考えられないだろう。

 ハインはライオンのように突っ込んでくるリッパーを横にローリングして避けるとリッパーはすぐにUターンして、


「シャーク・ショットォ!!」


 リッパーは水で覆われた右手とそうじゃない左手から一斉に水弾をハインに二発投げつけた。


「そんなのは私には効かないわよ」


 ハインは先ほど単独で戦っていた時と同様に今度は両手を前に出し、不思議な力で水弾を反射する――ええっ!?


「その手は分かってるんだよ!! メガロロケットォーーーーーーー!!」


 僕はその予想外の行動に目を丸くした。なんと、リッパーはそれまで繰り出していた自分の技を利用して斜め上に空を飛んだのだ。ハインによって反射された水弾はそのまま建物の壁に当たって辺りをびしょ濡れにする。

 しかし、技を出している間しか飛行能力がないからなのか、2秒ほど斜め上に飛んだ後、すぐに地面に地響きをあげながら着地した。ちょうどユヒナとハインがいる間だ。


「シャーク・スマッシュ!!」


 リッパーの水に覆われた右手によるストレートパンチがユヒナを襲う。水だけでなく、青く光っている。パワーは十分そうだ。

 ユヒナは殴りかかってくるリッパーの右肩を踏み台にして頭の上に乗っかる。するとリッパーは頭に引っ付いたユヒナを振り落とすべく暴れだす。

 一方、ユヒナは振り落とされないようにリッパーにしがみつき、左手にある剣でボサボサでトゲトゲとした黒髪で覆われた頭を何回も叩くように攻撃する。


「チイッ!! 降りろ!! このアマ!!」


「ユヒナ、そのままでいなさい。とっておきいくわよ!」


 ハインは声掛けをしてユヒナに合図を送ってユヒナの返事を聞くと何もない状態で弓を引くような体制をとる。あれは日常の中では弓道やアーチェリーの選手が弓を引くためにとるポーズそのままだ。当然、ハインの手には弓も矢もない。


「一矢撃てれば光を貫き、暗黒の傷を生むアルクス。これで――沈めてあげるわ」


 ポーズをとるハインの手から何やら突然瞬時に黒い光とともに武器が出現する。右手には黒く紫がかった弓、左手には同様の色をした矢が現れた。

 それらをそのまま使い、ハインは狙いを絞った。標的は今もユヒナを振りほどこうと必死のリッパー。ユヒナは懸命に振り落とされないように頭にしがみつき依然、剣による攻撃を繰り返してリッパーをタコ殴りにしている。

 そこに、一本の、暗黒の矢が放たれる――。


「なっ!?」


 ユヒナと格闘するリッパーが気づいた時はもう遅かった。激しく黒く燃えるエネルギーがこもった矢は放たれると速度を緩める事なくそのまま真っ直ぐリッパーに直撃した。


「ぐぉあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 あたりに大きな断末魔が響く。それもそのはず、矢はリッパーの腹に命中し、直撃したのだ。黒い稲妻がそこからあたりにほどばしる。僕も目の前に飛んできた黒い稲妻をあわや当たりそうな所で何とか避ける。一体、なんなんだ……?

 暗黒のエネルギーに腹を貫かれたリッパーはそのまま矢に押し飛ばされて豪快に歩道のタイルの上に仰向けに倒れた。

 ユヒナも矢を受けたリッパーが倒れると同時に跳んでハインがいる方の地面に着地した。

 勝った……のか……?


「なあ、勝ったのか?」


 リッパーを倒したハインに僕は後ろから問いかけた。


「そうね。かなりのダメージは与えたと思うわ。この弓矢は連射出来ないここぞという時のとっておきだから」


 ハインがそう話していると同時に彼女の右手に握られている弓が黒い塵となって海風とともに消え去った。

 リッパーは大きく手を広げてぐったりと仰向けに倒れている。ギザギザした歯がある今にも肉を丸呑み出来そうな口を大きく開けて。更に白目を向いている。

 ハインの放った矢が効いたのだろう。本当に狙いも外せないほど強力な矢なのだろう。


「ん? あれは……」


 と、考えていると「T-3ステーション」の方角からアスファルトの上を一台の車の影がこちらに近づいてくるのが見えた。

 それはどうやらワゴン車だ。僕達の近くまで来るとブレーキをかけて止まる。白色に水色のラインが入っていて、一匹のカモメの影が書かれている。そのデザインを見ただけで僕には誰の車なのかすぐに分かった。


「大丈夫? 怪我はない?」


 ショートヘアーの黒髪で後ろ髪が左右に飛んでいる髪型に水色の瞳、そしていつもの白色を基調とした水色のラインが入った裾の長い半袖コートを着ている。

 そう、ワゴン車の助手席から飛び出して走ってきたのはシーガルスの団長、阪上さんだった。そう、このワゴン車はシーガルスが所有するものだ。警察で言うならばパトカーのようなもので、シーガルスはこの白に水色の装飾が特徴的なワゴン車をいくつも所有している。


「美景さん!」


 ユヒナは阪上さんの姿を確認するとその近くに駆け寄った。


「ユヒナちゃん! ってええ!? 森岡くんも一緒!? ど、どうして……?」


阪上さんは僕の姿を見ると唐突に拍子抜けするような顔を見せた。


「昨日、真木田組に誘拐された後、かくかくしかじかで色々と巻き込まれてしまいまして……」


 昨日から今日に至るまでのことを一言で説明せよ――。なんて仮にそんな事を言われたとしても、とても一言では説明出来ないほど壮大だ。腰を低くしてこう言うしかなかった。


 すると阪上さんは目の前でダウンしているリッパーを見て、


「って、こいつはリッパー・ヴェノス!! 学生から何やら大男が暴れてるって通報があったから駆けつけてきたけど、まさかこいつを倒したの?」

 

「私も戦ったけど、トドメを刺したのはハインなの」


 ユヒナに言われて阪上さんは眉をしかめてハインを見た。急に不機嫌そうな顔になる。どうしてだ? せっかくリッパーを倒せたのに。


「礼は言っておくわ。フン」


 阪上さんは冷たくハインにそう静かに短く言い捨ててリッパーに歩いて近づく。

一方、ハインは冷たくされたにも関わらず特に不快な顔をする事もなければ怒る様子もない。ただ、平然とした表情をしている。

 当人にとってはどうしようもない当たり前の事なのだろうか。それとも阪上さんの事なんかどうでもいいと思ってるのだろうか。予想がつかない。


「とにかく、こいつはJGBに引き渡さないと。殺戮鮫のリッパー、アメリカからやってきた大物よ」


 そう口にしながら、阪上さんが倒れているリッパーの前で水色のスマホを出した時だった――。

 そのスマホが突然咆哮とともに伸びてきた青い手により弾かれて宙を舞う。スマホは突然の事で目を丸くする阪上さんの後ろにそのまま弾き飛ばされるようにして飛んでいき、硬い歩道のタイルの上――ちょうど僕らの目の前の足元に叩きつけられた。

 そして、その青い手の主が阪上さんの前で素早く起き上がって、背後へと距離をとった。


「……大人しく捕まってたまるかってんだ!! 今日はちょっと油断しただけだ……また来るからな!!」


 そう捨て台詞を残して、走って道路と向かいの歩道の向こうにある海の方へと逃げていくリッパー。

 しかしハインの放った矢により、腹からは多量の血が流れ出ている。その傷を右手で塞いで時折フラつきながら早足で逃げていく。

 通った場所には体からが次々と赤く濃い血がポタポタと流れて血痕の跡を残している。フラつきながらも走るその姿はその重傷さを物語っている。


「待って!!! 絶対に逃がさないから!!」


 ユヒナがすかさずリッパーを追いかける。しかし、そのまま追いかけず少し走った後、立ち止まって、両手を広げて何かを構える――。何か技を出すのか?

 が、突如ユヒナの体を微かな稲妻が走る。どうしたんだ?


「くうっ……やっぱりダメ……? お願い、出て……私の”翼”!!」


 が、途端にその言葉で僕はある事に気づく。ユヒナは昨日背中から生やしていた鋼の翼を一切出さないで光る刃の剣だけでリッパーと戦っていた事を。

 そう、ユヒナは剣とその高い身体能力、瞬発力、攻撃を読む洞察力だけでリッパーと戦っていた。ハインのように特別な魔法みたいなのは先ほどから一切使っていない。


「ったく、しょうがないわね!!」


 ハインが舌打ちをしてユヒナの横を走り抜けてリッパーを追いかける。僕も気になってその後を追った。

リッパーの背中を追いかけるハインは走りながら両手で黒いエネルギー弾を作り出してリッパーにすぐに投げつける。

黒いエネルギー弾は飛びながら膨張を続け、重傷のリッパーに追いつく。


「くっ……メガロロケットォ!!! はははははははははは……!!」


 なんと、追いついた途端にリッパーは先ほど空を一瞬飛んだように海に向かって同様の技を放ち、こちらを嘲笑いながら海に向かって高く飛んだ。青いソウルを燃やしながら、青く透明で底が見えない海へと大きな水しぶきをあげて落下する。

 ハインが右手から黒いエネルギー弾を撃って追撃を試みるがリッパーは素早く海の中へと消えていった――まるで逃げた魚のように――。

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