第26話 T-3地区
休日ゆえに人々で混み合う新秋葉原駅のホーム。
モノレールを待っている間、隣に立つハインは紫色のスマホで自分の家にいるユヒナに連絡をとっていた。
「キョースケ。ユヒナと連絡がついたわ」
「なんか言ってたか?」
ハインの通話が終わるとその詳細が知りたくて僕は尋ねた。
「私達を待ってるって。……驚いてたわ」
「まぁ、いきなりこんな事になったもんな」
その驚きの原因が果たして昨夜の事件後にいきなりの訪問だからなのか、それとも女同士の部屋に異性が上がり込むからなのか――それは分からない。因みにユヒナには事件の詳細は伝えられていない。
しかし、これでユヒナは目を覚ましている事は確認出来た。
行ってみる他ないだろう。
因みに仮にユヒナが出なかったとしても、ハインが鍵を持っているのでどっちみち行く事には変わりなかった。
その後、互いに会話することなく3分ほどそこでハインと隣り合って待っていると、僕らはホーム上のアナウンスの後に線路の奥から現れたモノレールに乗り込んだ。
私服姿や制服姿の学生及び、私服姿やスーツ姿の社会人で混んでる車内。
しかし、窮屈というわけではなく身動きがとれるスペースは十分にある。
僕はつり革に掴まる。すると横でハインも手を伸ばし隣のつり革に掴まった。
するとモノレールは新秋葉原駅のホームを発車し、街の上空へと走り出していく。
T-3地区の「T-3ステーション」までの道のりはここからモノレールだと約10分。途中でT-1地区のふた駅とT-3地区のひと駅を通過する事となる。
「T-1第一ステーション」と「T-1第二ステーション」、「理事会本部前」だ。
余談だが、僕が住むマンション――カルミアがある最寄駅の「T-2地区6丁目」に行きたい場合は、反対側の「ネオ・アキバドーム前」方面のモノレールに乗っていく。
ドームを越えた先はA-2地区、T-2地区の駅と続き、そして中学エリアのT-6の駅、高校エリアのT-4地区の駅……というようにこの島のモノレール及び地下鉄は終点なく一周する。
これから向かう「T-3ステーション」は「理事会本部前」とT-4地区の「T-4地区2丁目」にちょうど挟まる形で存在する――。
……――そういえば、魔神麺でエクスサードとかソルジャーとかの話をアレクさんから聞いた時、一つだけ忘れていた事がある。
あまりに話が衝撃的だっただけにユヒナが精神高揚剤で暴走した理由を訊きそびれたんだ。
だから、行き際にアレクさんに訊いてみたんだ――そしたら険しい表情で、
『それは恐らく、ユヒナさんの中にある"普段は決して表に出ない破壊衝動"が薬によって一時的に解放された――と私は考えています』
ユヒナが昨日のように暴走した事はアレクさんにとっては初めてのケースだという。
だが、裏社会に出回る薬の中には体質次第で人体に悪影響を及ぼす薬も存在し、本来の効果から逸脱した異なる効果をもたらす物があるらしい。
その中で特にメジャーなのが肉体強化、精神高揚などをもたらすドーピング薬。
いずれも戦闘力を一時期に高めるために服用するものだが、薬の成分が特殊な体を持つユヒナを暴走させた――とアレクさんは語っていた。
更にハインにも訊いてみたら、その言葉はより詳細が含まれていたものの再度僕に厳しい現実を突きつけた――。
『私も所長さんと同じ考えよ。そもそもユヒナは人間じゃないわ。錬金術を応用して作られた化物なのよ。――どんなに人間らしく振舞っても結局、化物としての要素が内包されている事には変わりないの』
その要素を当然消し去る事は出来ない。ユヒナがユヒナである限り。
更にハイン曰く、ユヒナは普段は力や衝動を自分でコントロール出来るという。そして、人は決して食べようとしない。
凶暴なユヒナはハインも過去に"一回"しか見た事がなく、その時の原因も薬によるものではなかったという。
じゃあ、その原因は何なのか? とハインに訊こうとした所で『その話はちょっと面倒だからまたどこかでね』と返されてしまった。
それだけあの間違って刺さった薬が凶暴性を引き出すほど特殊でユヒナの体質に良くなかったという事なのだろうか。
ユヒナは振る舞いは普通の人間と差し支えない。翼を生やして戦っていても真木田の薬が誤って刺さるまでは正気だったし、それまでは明るくて純粋な女子そのものだった。
そんなユヒナを豹変させるほどの恐ろしい薬をなぜ真木田が持っていたのだろう。真木田は秘密兵器の如く、あれを持って来させていた。本当に安全な薬だったのだろうか。
あと、昨日の事はユヒナはどう思っているんだろう。
純粋で心優しい彼女だ。精神的にも傷ついている可能性の方が高そうだ。
直接会って確かめなければ――。
「キョースケ? なにボーッとしてるのよ。行くわよ」
右耳から聞こえるハインの声でふっと我に返る。モノレールは気がついたら目的地である「T-3ステーション」に到着していた。
10分って長いようで短いんだな――と感じつつも、僕はハインについていく形でホームへと降りた。
暑い真夏の気候でぼんやりしていたのかもしれない。
ホームは広々としていて、自動販売機は勿論、ホームベンチも綺麗に並んでいる。
また、ホーム上には寒い冬用にガラス張りの小部屋があって中にホームベンチがあったりする。
この時期はクーラーがかかっていて、サウナのようなこの暑さをしのぐ事が出来る。
「ついてきて。私達の家に案内するわ」
人々で賑わう駅内を通り、ハインの後ろをついていく。
ホームからエスカレーターで下り、改札口を抜けて駅の東口から歩いていく。
床がレンガ調の白いタイルで覆われた駅前の広場に出ると、真ん中に涼しげな水が大量に噴き出る噴水が見えてくる。
あれはこの広場のシンボルでもある。
夏場は極稀に、大量に水が蓄積されたあの噴水に飛び込むバカが出てくるほどだ。
……まぁ、そんなバカはシーガルス送りになるのだが。
周りを見てみるとここでも決まった位置――駅の壁の前などに水色制服姿のシーガルスが立っている。
そして、ちょうど今僕らが立っている場所から遠く離れた左右に横断歩道がそれぞれある。
駅前広場はコーヒーショップやコンビニ、ファミレス、本屋、銀行などがあり、ここは平日休日問わず常に賑わっている。
辺りを見ると普段着や制服姿の学生の姿が多く目立つ。それはそうだろう。ここはそういう島なのだから。
この近辺はマンションやアパートが多い構成となっているのもある。
僕が住むT-2と同じで住宅地が中心で、かつスーパーやコンビニなどをはじめとした日常生活に不可欠な店で固まっている部類である。
また、休日なのに制服姿の学生がいる理由は、この島の中学高校では休日は校外で活動する分には普段着は許されるが、校内での活動時はめんどくさいが制服に袖を通さないといけないからだ。
部活とか生徒会とか、植物への水やりや鶏への餌やりなどの当番とか――そういうのだ。
最も、その中には好んで外を歩く際は必ず制服姿という変わり者もいる事がある。
ハインは二つ見える横断歩道のうち、右手の方角へと黙って進んでいく。
てっきり横断歩道を渡るのかと思いきや、横断歩道の前をスルーして更に右手へと進んでいく。
完全に駅の東側を真っ直ぐ突き進んでいるルートだ。
暑い日差しが照りつける中、車も通る大きな道路の横の歩道を進んでいく。
道路を挟んだ左手には雑貨屋とかスーパーなどが並ぶ。
右手には金網と川を挟んでT-4地区の歩道と街並みが見える。
確かこの道を真っ直ぐ先へ進めば、右手から東京湾と遠くの新木場の陸地を大きく一望出来る場所に辿り着く。
T-3地区はいずみ島の中でも一番右上に位置する場所で理事会本部がある。
そのため、右上つまり右端だが時ノ町の中心でもある。
左をふと見ると5~6階の建物が並ぶ更に奥に、それらと比較出来ないほどでっかく西洋の作りの派手な銀色の時計塔がそびえ立つ。
植物が絡みついたような装飾をした太い四角い柱の上に丸く大きい時計がつけられており、時を刻んでいる。
あの時計はこの島では一番高い建造物でいずみ島――いやこの近辺にとってはスカイツリーみたいなシンボルでもある。
新木場駅からこの島へ向かう道のりでも拝めるし、西の羽田空港からも小さいが拝む事が出来る。
無数の高いビルが建ち並ぶ新秋葉原からも場所によっては拝む事が出来る。
そして実はあの時計塔、理事会本部内の美しい公園に建っている。
更に言うと時計塔の裏側に鍵のかかった扉がある。
あそこから時計塔の中に入れるようだが、常に閉ざされていて僕は中を見た事がない。
昔、タカシとコージが謎を解明すべく、夜にあの扉が開かれるのを隠れて見張っていた事があるが、警備員につまみ出されたという。
まぁ、開放されてない場所だし、当然と言えば当然だろうが――。
暑い中、歩き続けて黙ってハインの小さい背中について行くこと約5分。
右手には東京湾が広がる。奥には新木場の大地も。
青く清々しい空から眩しく暑い日差しが一層照りつける。
眼下の海も、とても気持ちが良いくらい真っ青で藍色に染まっている。
日陰はないが、暑い気候に少しだけ涼しい海風が吹いてくれるお陰で先ほどよりも暑さが和らぐ。
空を飛ぶカモメの鳴き声も聞こえてきた所でだいぶ汗をかいてきたので、ポケットからハンカチを出して拭う。
すると先頭を歩くハインが急に立ち止まる。
両手を腰に当ててこちらを振り向いた――。
「キョースケ。この海岸沿いの先に私とユヒナの家があるわ」
「この海の近くに家があるのか」
道路を辿るように奥を見るとマンションらしき建物が並ぶ箇所がある。
「あそこか?」
僕は適当にその場所を指差した。
そのマンションは青色をメインに細部に白色のラインが入った建物で9階の建物だった。
「そ。あそこの青いマンションの3階に私達の部屋があるから――鍵を渡しておくわ」
当たりのようだ。ハインはそう言うとどこからか鍵を出して僕に投げて渡した。
宙に舞う鍵はちょうど放物線を描いて僕の傍まで落下してきたので僕はそれを受け取った。
鍵には316と部屋番号も書かれている。
だが、別にハインと一緒にこれからその部屋に行くのだから、わざわざここで鍵を渡す必要はないんじゃないだろうか。
「なあ、なぜ鍵を渡すんだ?」
「キョースケ。今のアンタの仕事はね、ユヒナを守ること。死んでもらっちゃ困るのよね」
唐突にハインは両手を腰につけながら、誰もいない海の方を見て話し出した。
目の前はただ青い空の下で、海が静かに潮の音を奏でているだけ。
何を言ってるんだ? 死んでもらっちゃ困るって……?
「ほら、もうバレバレよ? さっきから私達を見てるのはもうお見通しなんだから」
ハインは海に向かって誰かいるように問いかけている。
海を見下ろしてみると2mほど離れた所でブクブクと泡がたっているのが見える。
泡は次第にたつのが早くなり、やがてこちらに近づいてくる。
まさか……! 誰かが海に潜っているのか?
そんなはずはない。この場所はどんなに澄み切った青い海をしてようが、海水浴をしてはいけないはずだ――。
バシャァァァァァァァァァン!!!!
泡が立つ場所は一気に弾け飛び、大きな水しぶきをあげた。
驚いた僕は反射的に両手で顔を覆い隠すが、微かに目を開けるとそこにはとんでもないものが海中から飛び込んできていた。
僕は恐怖心から、その場から三歩ほど後退りした。
歩道の上で、距離が離れた僕とハインの間には一人の男が立っていた。
「……っと! まさかバレるとはなぁ……!」
現れて着地した男はとても背が高く、迫力ある大きな体格をしている大男だった。
身長174cmの僕より一回りも二回りも大きく、太く鍛え上げられた両腕、立ったボサボサでとげとげしい黒髪に大きく横に伸びた顎と鋭い眼。
全身メイクをしたような青い肌、大きな上半身には黒いタンクトップを着ていて下半身には白い半ズボンとスニーカーを履いている。
大きな左肩には波の模様に丸く囲まれたジャンプしてるシャチの刺青がある。
そのとても普通じゃない――まるで海賊みたいな容姿を見た途端に僕は確信した。
「海中にいるオレの存在に、地上から気づくとはやるじゃねぇか」
その男はハインに感心があるように言った。
そう、こいつは明らかに敵だ。しかもソルジャーだろう。水の中から現れた時点で只者じゃない。
「フフ……私はアンタみたいなのとはココの作りが違うのよ」
ハインはそっと自分の頭を右手人差し指で二回つっついた。
余裕な表情だ……完全に相手を嘲笑している。
「ははははははは!! 随分と知性と気品ある可愛い女じゃねえか」
「言っとくけど、私はアンタみたいな男に興味はないわ。そこをどいて――と言ってもどいてくれないようね」
ハインは鋭い目で男を見た。
「そうとも。オレはお前を捜してたんだからな」
「オレの名は殺戮鮫のリッパー。"ブルーアシード"のソウルを持つオレの名前くらいは知ってるだろぉ?
おい!」
「えぇ、知ってるわよ。″殺戮鮫″のリッパー・ヴェノス。――三日前に東京湾で船沈めたのもアンタでしょ?」
「へっ? ……はあぁっ!???」
ハインがさらっと言った一言――あまりにも予測不可能な変化球に思わず、僕は声が裏返った。
そして更に東京湾……殺戮鮫……それらキーワードが結びついて、忘却の彼方にあったある記憶が頭の中で突然蘇ってくる。
まさか――コイツがテレビでやってた東京湾に潜むという巨大サメ男なのか……?
横に伸びた大きな顔と口にトゲトゲな歯、顔もまさに正面から見たホオジロザメを彷彿とさせるのだが……?
「……っははははは!! マスコミは海賊のせいとか言ってるが――そうさ、オレがやったんだよ!!」
「貿易船一隻沈めてやったぜ……! お陰で東京湾ではJGBが船の護衛だの海上警備だの警戒にあたるほどに奴らはオレという存在を恐れている!! サイコーのエンタメだと思わないか?」
うわっ、コイツ自分が犯してる事を誇らしげに自慢し出したぞ……危ない奴だ。
あとJGBが動いてる情報初めて聞いた……そんな事になってるのかよ……
JGBは警察でも自衛隊でも対処出来ない事件担当する組織だぞ――それが出て来たらとなるともうそれは尋常じゃない。
――ハッ!? もしかしてJGBって……そのまさかかもしれない――。
こういう事件の場合、普通は海上保安庁が海の安全のために立ち上がるものだろうが、それをもってしてもコイツは何とか出来ないのかよ……
マスコミもこんな危険なテロリストを取り上げないなんてどうかしてるだろ……
巨大サメ男は本当に実在した。現に今、僕らの前に立ちはだかっている。
なのになんでテレビはこれを事実ではなく娯楽のようにしか扱わない……!
もはや現実逃避してるだけだろこんなの……
「そうね。破壊と略奪……野蛮なアンタにはさぞお似合いなサイコーのエンタメねぇ」
ハインは腕を組んで軽くリッパーを誉める。最もそれは誉める以外にも皮肉も含まれていそうな言い方だが。
「ははははは!! そうだろうそうだろう!! お前は話が分かる奴のようだな。殺すのが惜しいぜ」
どうやら当人は皮肉られても気にしていないらしい。
「で、今度奪うのは私の命というわけね。長瀬川篤郎の差し金で来たんでしょ?」
「あぁ。お前とユヒナとかいうエクスサードを消すように命令が出ている。まずはお前から飲み込んでやろう!」
リッパーの顔が機嫌がいいものから険しいものへと変わる。野獣のような顔だ。
「それならちょっとお仕置きしてあげる。……いいかしら?」
ハインは相手の発言を流す涼しげな顔から一転、最後だけにっこりと笑顔を作った。
可愛い笑顔だが、それは明らかに危険な香りしかしないものだった。
笑顔を浮かべた後、ハインは右手を前に出してそっと広げる。
すると掌から黒い尖った光弾が高速で放たれる。
よし、先手必勝だ! ……え!?
「ハッ、ちょろいんだよ!」
リッパーは飛んできた光弾を太い右腕でなぎ払い、打ち消した。
体格は華奢な女子のハインとは対照的で大きく、その包み込んでしまうほどの体格に身を任せて打ち消してしまった。
「シャーク・ショット!」
リッパーはその右手から青く煌めく水の塊をブクブクと湧き上がらせてハインに投げつけた。
昨日の牙楽とは違って、コイツは殺戮鮫の異名通り水使いか。
ハインはそれを横に跳んで避けるも、リッパー自身がそこに自慢の体格を武器に突っ込んでいく。
その時、リッパーを見るハインの瞳が一瞬だが怪しく光る。
「グオッ!! ……っなんだこの固い壁は!!」
リッパーの顔面が行く手を阻む何かと痛烈に衝突する。
勢いで突っ込んだリッパーは顔面を見えない何かに強打したようだった。
「クッソォ!!」
リッパーは目の前に渾身のストレートパンチを何回も放つが見えない何かに阻まれてハインに攻撃がとどかない。
どうやらハインが何かしらの術を使い、見えない壁らしきものを出しているようだ。
あの一瞬怪しく光る瞳がそうさせているようだった。
僕が昨日、かけられて眠ってしまった催眠と同じようなものだろうか。
まるで本当の超能力者みたいだな……
「ハハッ、バーカっ!」
すかさず、ハインがリッパーの横に回り込む。
子供のように笑い、右手を前に出すと手から黒いエネルギー弾が素早く膨張――その弾に弾き飛ばされリッパーは海の中へと真っ逆様にふっ飛ばされた。
「グォォァァァァァ!!」
「キョースケ、アンタは先に行って。こいつは私が止める」
「ハイン……大丈夫なのか?」
「いいから早く行きなさい! そして連れてきて」
「――分かった!」
振り向いたハインに発破をかけられ、僕は前に走り出した。
幸い、リッパーがさっき現れた時、僕はこれから行こうとしている方へと後退りしていた。
このまま突っ切れば、振り切れる。リッパーが怯んでいる隙に……あっ!
背後から弾ける水しぶきの音がする。
走りながら後ろを見やると顔が腫れてやや真っ赤になっているリッパーの姿が見えた。
「これで勝ったなんて思ってねぇだろうな……?」
まずい、狙いはこっちに向いてる。視線を感じる。
「ん? おい、連れの一般人! どこに行きやがる!」
リッパーは全速力でこちらを追ってくる。
くそっ、このままでは追いつかれる……一体なんなんだあいつは。
どうやら僕も攻撃対象のようだ……さすが殺戮鮫――顔も無抵抗な人間を丸呑みする鮫を彷彿とさせる。
頭の上に微かに見える青い角みたいなものと無駄に口が大きく顎の幅のでかい顔――パニック映画に出てくる鮫そのまんまだ――。
「グウゥァッ!」
えっ……!?
リッパーの悲鳴が聞こえたので、走りながら後ろを見る。
するとリッパーはなぜか仰向けのまま高く吹っ飛ばされていて、そのまま歩道のコンクリートの上に激突した。
凄い――映画の次は漫画みたいな光景だ……
どうやらハインが後ろからさっきのような黒いエネルギー弾を後ろからリッパーの背中目掛けて撃ってくれたようだ。
チャンスだ!! 急ぐぞ!!
僕は全速力で走り出す。一刻も早く、ユヒナの所へ行かなければ――。




