第9話 桜の木の下で
三月。だいぶ暖かくなってきたけど風は少しだけ冷たい。
自殺しようとして、歩美に助けられたあの日……私は新たな一歩を踏み出した。
あの日以降、私は毎日欠かさず失明した右目に医療用の白い眼帯を常にして生活するようになった。診察を受けた病院で目薬と一緒に先生からもらったものだ。
改めて実感した。失明してしまった右目がやたらと意識を不安定にさせていたけど、眼帯をしてからは
完全に見える左目に意識が集中されて、気持ちが精神的に楽になる。
殴られた右目とその回りは赤く腫れ、酷く炎症を起こしていた。目も赤く染まっていた。その不気味な目を隠す事、腫れと炎症を治す事と視界を安定させる事も含め、私は眼帯をしている。
今はだいぶ治ってきたけど、目の回りの赤みはまだ少し残っている。
しばらくは家事をしようとすると危ないとも病院の先生に言われてしまったので、歩美が言ってくれたように、家まで来てもらって、悪いけど当分の間は家事の手伝いをしてもらう事にした。
歩美は社長令嬢だけど、料理は好きでよく料理本や料理番組をチェックするのだとか。学校でいない間にやってる料理番組も録画したりしている。お母さんがいないからこれまでもきっと私みたいに一人で家事をこなしてきたんだろう。
歩美が作る料理は自分のと比較してもたぶん私の料理よりも美味しい。私は料理本のレシピこそ見るものの、歩美ほど熱心に料理研究はしてないから、この面では劣るのかもしれない。出来れば、春休みにでも教えてもらおうかな……
平日は歩美が家まで毎日ついてきて、一緒に夕飯を食べるという生活が始まってからも、学校でのいじめは私が右目を失って眼帯をし始めた影響で一時は冷めた。
眼帯姿も最初は回りから珍しい目で見られた。でも、少しして私の眼帯姿が皆見慣れた頃にはまた再発した。
だけど、私達は支え合って生き延びた。周囲からは、その眼帯の姿から厨二病と呼ばれた。アニメや漫画と見られる決め台詞でよくからかわれるけど気にしない。
それに、私は私を散々あざ笑ってきた彼らのリクエストに答えるつもりはない。彼らのおもちゃになるつもりなんかない。
というか私はその手の元ネタを知らない。
自殺をしようとして歩美に止められたあの日以前よりも私の心はひたすら前向きな気持ちになった。歩美がいてくれる以上、私は倒れるわけにはいかないと心に決めた。
「零さんは右目見えないんだよ!!」と私をいじめる連中に一喝してくれる歩美。
因みに私も体張って歩美を守りたいと思ったけど、「零さんはいいよ。怪我してるから休んでて。私は大丈夫だから」と止められた。
言われて思い出した事がある。いくら小林が動けなくなったとはいえ、先生の言葉を借りるなら俗に言う問題児はまだ多くいる。
初日に私の髪を無理矢理切ろうとした小林に加担し、私を白い目で見て彼に同調した奴らだ。暴力を振られるとも限らない。
以前の自殺しようとした前日の夜に味わった左目も失う恐怖を思い出した私はここは歩美の言葉に従う事にした。
歩美にいつかこの分を返すと決めながら。
ところで、私を殴って右目を失明させたその小林だけど、先生に一喝され、両親にも強く叱られて引きこもったのだそうだ。
それで、本人に代わって後日、そのお母さんが私の所へ直接謝罪に来たからビックリした。あんな奴の事だから、両親も同類だと思っていた。
彼のお母さんの話を聞く限りだと、小林は父親がJGBで事務の仕事をしているため、その影響で『JGBに就職したい』という夢を抱いていたそうだ。
「本当に申し訳ありません」と言って何度も頭を下げる小林のお母さんに私は「いいんですよ」と両手の掌を前にそっと押し出して困惑しながら笑顔で許した。
元はと言えば……私が暴力をふるったのがいけないから……歩美に屋上で助けられた時は小林達が悪いのか自分が悪いのか、よく分からなかったけど私は自分に非があったと思う。
それに、このような状況になった以上、私が小林達の事を恨めば、叔母さん達にも迷惑をかける。だから自分がいけないと思うようにしたんだ……
あと、これは荻野先生が教えてくれた事なんだけど、私が結城先生に連れられて病院に行った後の事。
夜になって先生達が小林を当分の間、停学処分にしようと検討している所に彼のお母さんと共に彼のお父さんも来て、揃って頭を下げて全面謝罪したという。
同時に、小林のお母さんがお詫びに私の目の治療費を全額負担してくれる事になった。
叔母さんにも荻野先生の勧めでこの事は報告したんだけど、その時に心配して「治療費出してあげる」って言ってたけど、そのお陰で叔母さんに負担をかける事もなくなって良かった。
目の腫れなどが治っても視力が治る見込みはたぶんないだろうけど、嬉しかった。
因みに銀髪になった事に関してはまだ叔母さんには言っていない。怖いから……もし、埼玉に連れ戻されたりでもしたらどうしようと不安だった。
叔母さんも小林の事を凄い許せないって怒っていたから。それに私が怪我した事を悲しんでいた。
お義父さんに至っては後で小林の家に訴訟を起こして慰謝料請求してもいいくらいだと言っていた。それに加えて、私の体の異変を知ったら、たまらず私を連れ戻そうとするかもしれない。
そう考えると……凄く怖かったんだ……やっとここまで来たのに。
元はといえば私が蒔いた種。あの時、小林を怒りに任せて強く殴らなければこんな事にはならなかった。もっと他の方法があったかもしれない。そう思うと心が痛い。
もう、こうなってしまった以上、叔母さん達まで巻き込むわけにはいかない。それにまた叔母さん達に面倒をかけてしまっては私がこの生活を目指したきっかけでもあり、理由と大きく矛盾してしまう。
だから私は、叔母さんとお義父さんをなだめて「来なくていいから」「私は大丈夫だから」と何度も説得した。
叔母さんも「本当にいいのかい?零ちゃん一生に関わる大怪我させられたんだよ!」と私のためを思って何度も言ってきたけど、元はといえば私がいけない事と経緯と私の気持ちを素直に話したら、私の意向を仕方ない様子でのんでくれた。
小林も両親や先生に散々叱られ、厳重にマークされたのか、それ以降は私をいじめる事もなく、ボーっとして大人しくなった。
けれども、他の連中、木村や西らは変わらず私や歩美を敵視し、相変わらずいじめてくるので、安心出来なかった。
奴らは私が右目を失明した事をざまあみろと嘲った。最初とても腹が立ったけど、ここでまた暴力沙汰を起こせば、今度こそ本当に危ない。
彼らを避わしつつも、一年最後の期末テストを何とか歩美と一緒に無事に乗り越えて……
それで今は春休み。私が今の学校に入って、もうすぐ一年になる。
学校ではろくに自分で勉強も出来ないから、テスト勉強は歩美と一緒に私の家で夕飯前か夕飯後に勉強してあとは互いに自習する事でどうにか乗り切った。
時には近場のファミレスに行って二人で勉強したりもした。歩美曰く、あのファミレスは勉強目的だと追い出されないらしい。自分で作れない時はよく行く場所なのだとか。
特にテスト前はそういう事が増えた。夕飯の準備の時間も考えると勉強時間が減るから。テスト結果は……どうにか合格点は超えて、補習とか再テストを免れた。補習なのか再テストなのかは科目ごとに違う。
でも、どちらにしろせっかくの春休みなのに学校に行くハメになるのは嫌だし、何より成績は高い方がいい。
春休みになって、家で一人でいるのも退屈だと思ったある日、歩美と二人で羽を伸ばしに世田谷から新宿の街の方へ出かけた。
きっかけは歩美の誘いだった。「春休みだし、二人で新宿行って遊ばない?」という誘い。ある日の金曜日の夜に私の家で二人で夕飯を食べてる時の事だった。
「今、春休みだし、私達が邪魔なしで遊べるのもこの時しかないと思うんだ」
歩美のその言葉に押された私は首を縦に振った。歩美と互いの家以外で遊ぶのはこれまでなかったから。
夏休みは私は部活とかで余裕もなかったし、冬休みは私もいじめられてちょっとゆっくりしたかったから。
この日は朝早くにお互いに駅で待ち合わせして、午前中から日が暮れる夜まで目一杯遊んだ。空は青く、綺麗な青空が広がっていた。
二人でカラオケに行ったり、ゲームセンターに行ったり、最後は……歩美オススメのハリウッド映画を観に行ったり……
歩美と二人だけの時間はとにかく楽しかった。学校の時みたいに邪魔する人もいないし、変な目で見てくる人もいない……とても幸せな時間だった。
カラオケは実はこれが初体験だったりする私。最初、何を歌えばいいのか分からない私を後押しするように、歩美が私でも知ってるような歌を入れて私を誘う。
「零さん、一緒に歌お!!」
最初は自分の歌声を聴いて途端に体が熱くなり、恥ずかしい気持ちになる。だけど、次第にカラオケの空気にも慣れて思い切りはちゃけて……歌うのに夢中になった。
思い切って入れた曲を単独で歌う私を歩美は褒めてくれるけど、歌うどころか棒読みをしてしまうと内心、途端に恥ずかしさがたまらなくなる。
一方、そんな歩美も歌が凄く上手い。歌う歌は流行りの歌や歩美が好きなバラードなんだけど、その歌声はとても澄んでいて、聞きとりやすくて、ノリノリ軽快でメロディーの流れに乗っている。
学校の音楽の授業でも聞く機会がなかった歩美の歌声。とても綺麗で心地いい声。
カラオケで初めて私はその歌声を聴いて、歩美を見習って、たまにはもっと上手く歌えるようにこういう場所で練習するのもアリかもしれないと歩美の歌を聴きながら思った。
その後、昼食をとって映画のチケットを買った後にゲームセンターへ行った。映画の上映時間までまだまだ時間があったから時間潰しも兼ねて。
ポーチやキーホルダーなどがたくさん入ったクレーンゲームに歩美と二人で千円札をそれぞれ一枚ずつ崩して格闘した。
掴めそうな所、落とせそうな所にクレーンを毎度持っていくも、あっさり景品がクレーンから離れてすぐ落ちてしまったり、景品が入ってる箱が棒と棒の間に挟まって傾いてしまって、落とそうにもまた元に戻ってしまったりで、結局、私も歩美も千円を無駄にするだけに終わり、ため息を漏らした。
「歩美、そっちは?」
「うんうん、私も一つも景品とれなかったよ~……」
歩美は首を横に振り、残念そうに言った。
クレーンゲームを切り上げた私達は、ゴーグルかけて迫り来る恐竜を撃つリアリティ溢れ、スリルが爽快といわれている最新のシューティングゲームに挑んだ。
ジュラシック・シューティングというそのゲームは四角い機械の中に入って座り、ゴーグルを装着すると目の前のジャングルが映し出された映像からまるでそこにいるかのように小さい恐竜やプテラノドンが飛び出し、私達に襲いかかってくる。
座って手前にあったピストルで次々と群がって襲ってくる恐竜達を倒していく。
私は迫ってくる恐竜の群れの動きを瞬時に見て、一匹、また一匹、次やってくる三匹と素早く一瞬で撃ち落とした。
「凄いね、零さん!! 目の前に恐竜がいるみたいだよ!!」
「そうだね、歩美!!」
恐竜を撃ちながら会話を交わす私達。そんな感じで最初のステージをクリアし、次のステージに進む。だけど、その二つ目のステージでの終盤の事。
「きゃっ!!」
「歩美!!」
撃ち漏らしたプテラノドンの吐いた酸弾が歩美を襲い、歩美はゲームオーバーに。二つ目のステージに入ってから、私もだけどかなり歩美はライフを消費していた。
「あっちゃ~……零さん、ごめん……あとは頑張って!!」
これ以上、お金を使うわけにはいかないからコンティニューはしないようだ。残された私はひたすら、先ほどよりも数が多い恐竜達の急所を上手く突いて倒していく。
やっていく中で感じた感覚はとりあえず目や顔を撃てば一撃で倒せる事が多く、口を開けてる際は口に向かって撃てば怯ませる事が出来るようだ。
私はその感覚を信じて、いよいよ二つ目のステージ最後の敵まで進んだ。その時の事だった。歩美が左腕の時計を見て大きな声で私に伝えた。
「あっ、零さん!!あと二十分で時間だからそろそろ映画館行かないと時間的にギリギリになると思う!!」
「そっか……じゃあ、ここまでにしようか」
そう伝えられた私は仕方なく、目の前の食虫植物のような怪物を前にしながら、抵抗せず、放たれた酸弾を受け、自滅した。
ゲームセンターを後にし、私達は人混みに溢れる新宿の繁華街を歩き出す。
「零さん、強いね。ああいうゲーム得意?」
「いや、得意ってわけじゃないんだけどね……」
思い返せば、敵の動きが上手く捉えられてたなと思う。叔母さんの家にはテレビゲームとかなかったし、ゲームをやる機会自体は殆どないんだけど……テレビゲームは友達の家に行ったりとか、ゲームセンターは叔母さん達と入ったりした事があるぐらいで。
私にとっては新鮮すぎる事がたくさんこの新宿の街にはあった。たくさん建ち並ぶ塔のような高層ビルに道路や高速道路を駆けるたくさんの車、行き交う人々。
都会の空気にも去年、東京にやってきて慣れてきたと思ったけどまだ世界はとても広くて、自分がどこにいるか迷ってしまいそうな気持ちになる。
賑やかなカラオケ店やゲームセンター、建ち並ぶ綺麗なお店、そして、これから再度行くビルの上にある映画館。
綺麗な歌声で歌ったり、ゲームを楽しむ、普段は見れない歩美の一面も見れて……本当に街にいるだけで楽しさのあまり、あっという間に時間だけが過ぎていった。
ところで、大勢の人が右往左往するこの新宿の街中を移動する最中、度々誰かに遠くから見られていると感じるのは私の気のせいだろうか。
「零さん、どうしたの?」
何か気配を感じ、立ち止まって後ろを振り向く私に歩美も止まって訊いてくる。
「いや、なんでもない……」
再び、私達は歩き出した。銀髪が目立つからゆえの周囲の視線とかじゃなく、遠くから誰かの特殊な視線を感じる。気のせいなのかもしれないけど。いつもいじめを仕掛けてくる連中がわざわざ休日潰してまで私達をしつこく尾行するとは思えない。
それに、仮に尾行してる人がいるならこんな人ごみの中、どうやって私を遠くから認識出来るのかと思う。
あまり気にしなかったけど、街を歩く中で何回もその気配がしたので気になった。最初にその気配がしたのは昼食をハンバーガーショップで食べてる時ぐらいだっただろうか。よく覚えてないけどたぶん、それぐらいだ。
私は新宿の街へ来ても周囲のすれ違う人の視線なんてどうでも良かった。もう散々、周囲の人から珍しい目で見られたのもあるけど、こんな事で警察やJGBに通報されるような事はまずないだろう。
大きな街だ、外国人だっているんだから。
だけど、さっき感じた遠くからの特殊な視線はそれらとは違い、どうでも良いと片づけられるものとはまた違う、少し恐ろしい気配を感じるものだった。
でも、ひとまずあまり考えすぎないでその場を楽しむ事にした私だった。
映画館で午後二時半から始まる映画を観て、その後五時前になると夕飯をファミレスで食べて私達は電車で新宿から世田谷へと帰った。帰ってきたのは八時頃だった。
観た映画はシリーズものの3Dを盛り込んだ宇宙戦争映画。今回は二作目で歩美は前作を観てハマったらしい。
私は前作は観てないゆえに全く触れた事がない作品。名前だけしか聞いた事がない。
最初は話を理解する事が難しかったけど、宇宙を舞台にしたロボットとロボットがぶつかり合う迫力溢れる戦闘シーンや艦隊のビームの撃ち合いは凄かったし、強化人間である主人公、ジャンの葛藤には惹き込まれるものを感じた。
『俺は力を持ちたくて生まれてきたわけではない。人間であって、人間ではない。だけど、愛を持つ事は出来る。ゆえに、大切なものを守るために戦うまで……』
反乱軍の総大将と剣でぶつかり合う中、ジャンが相手にぶつけるように言ったそのセリフは今の自分と少し重なった。
人間であって人間ではない。学校での私の扱いはそんな感じだ。毎日、魔女狩りの如くいじめられる。髪が銀髪以外は普通の人間なのに……
この映画では主人公ジャンは宇宙人の遺伝子を使って生まれた強化人間ゆえに自分を受け入れ、自分の正義で戦っている。
初めて観た映画だけど、私の心には大きく響いた。
歩美はジャンが結構好きなようで、観た後は目を輝かせ、カッコよかったと絶賛していた。私も……観に来て良かったかもしれない。
ジャンのように強く、歩美と一緒に生きていけたら……そう思う。あの時、自殺していたらこの映画を観る事もなかったし、今日という日もなかった。
楽しくもあり、ちょっと考えすぎる事もあったりして、思う存分にはしゃいだ私の春休みの長い一日は過ぎていった。
楽しい時間はすぐに過ぎていくってやっぱり本当だったんだ。
そして時は流れ……新宿に行った日から二日後。今日は3月15日。称太郎の卒業式の日であり、旅立ちの日でもあった。
青空が広がる晴天、桜も満開、もはや卒業式としては言う事のないコンディションだった。私も、最後に称太郎にこれまでの謝罪とこれからも付き合ってくれないかとお願いをするため、卒業式が終わるまでセーラー服を着て学校の校舎前で待機していた。本当に今更だって気持ちが拭えない。
結局、テストを乗り越えて考えに考えた末、この日しかなかった。称太郎も新生活を迎える準備やそれまでにやりたい事とかで色々忙しいし、なかなかメールや電話で会う約束をかける気になれなかった。
私と同じ目的で制服を着て、来てる一年生もわずかながらいる。二年生は卒業式に参加する事になっているけど、憧れの先輩を見送りたいという人も少なくないようだ。
だけど、私が見た限りだと称太郎目当ての見知った顔はいない。意外だ、あれほど学年問わず人気が高い称太郎だ……私以外にも称太郎のために来てる人は結構いると思っていた。
ドキドキとした心臓の鼓動が私を揺さぶる。髪が銀髪になってからは、称太郎と顔を合わせたくないと思っていたけど、自殺を歩美に止められたあの日からは前向きで行こうと思い、落ち着いたら称太郎にも会いたいと思った。だからここにいる。
二十分近く待っていると……ついに待ちわびたその瞬間が訪れた。
校舎の入り口から左胸に黄色い花のリボンをした制服に身を包んだ卒業生達がゾロゾロと出てきた。これから体育館で大掛かりなパーティが開かれるのだそうだ。
それまでの時間の間、一年生と最後の挨拶が出来るのがこの時間。
二年生は希望者はパーティにも行けるので、そちらで卒業生に挨拶したりなど最後の交流を楽しむ事になる。
私はまだ一年生なので、この時しかない。
他の同級生も自分の会いたい卒業生の所に向かう中、私はすかさず、真っ先に出てきた爽やかな称太郎の下へと走った。走りながら手を振った。
「称太郎……! 称太郎ーーーー!」
「零……零じゃないか!! 久しぶりだな」
嬉しそうかつ驚いた私を安心させる声が私に返ってくる。
あぁ……称太郎……
「ごめん……ちょっと髪がおかしな事になっちゃって……それで……」
あぁ、目の前に出て行くと何を言いたいか訳が分からなくなる。落ち着け……私……
「零、君の事は先生から聞いてるよ。病気で大変な事になって随分苦労してるんだって?」
「うん。……突然、身体がおかしくなって髪が銀色になってしまって……そしたら、とても称太郎に顔合わせなんか出来なくて……だからメールばかりで……」
「ごめん、称太郎……今日は最後だから謝りに来たのと、これからもこんな私だけど付き合ってくれるかお願いに来たんだけど……」
私は頬が赤くなりつつも、必死に思っていた事を伝えようとする。だけど……称太郎から返ってきた言葉は思いがけないものだった。
「その事なんだけどさ、零…………」
何やら歯切れを悪くして称太郎は話を切り出した。
な、なに……? どうしたの称太郎……?
「俺も君に伝えたい事があるんだ……」
「なに?」
「ごめん、俺、他に好きな子が出来たんだ」
「…………!」
それは、私の心に大きく突き刺さった、悲しい告白だった。




