第29話
次回更新は7月21日です。
落ち込んでる副団長を横目に馬車は進んで行った。相変わらず王女様は笑顔で騎士達の側にいる。頬を引きつらせながら、笑顔を返してる騎士達におかしくて涙が出そうだ。
「副団長、王女様頑張ってるぞ。後で誉めておいてくれ」
俺がそう言うと顔を引きつらせてる。オカンだろ当たり前だ。
「え?ジーク、私が誉めるんですか?」
子守を任されてるだろ。躾は大事だと思うぞ。
「副団長が誉めなくて、誰が誉めるんだ。頑張れ未来の婿!」
ちょっと冷やかしてみた。ガーンって感じで固まったな。
「うっ!ジーク、それだけは勘弁してくれ。私には別に好きな人がいる」
え?いるの?好きな人。それは…気の毒だな。暴走騎士と王女様のダブル子守だと心が荒むか。
「へー、王女様じゃないのか。気の毒だな。このまま放って置いたら逃げられないぞ」
有能な王が、貴重な子守要員である副団長を逃すとは思えない。気が付けば、それは逃げたくなるよな。
「ジーク!助けてくれ!」
子供で平民の俺に言われてもな。王女様は面倒臭いし。
「平民の俺に言っても無理がある」
「いいや!大丈夫だ!命の恩人の話なら陛下も聞いてくださる!」
必死だな、副団長。しょうがない、これからの為にも助けておくか。
「王女様を可愛い子にすれば副団長以外の候補がでてくる。王城に帰るまでには意識を変えられれば逃げられるだろう」
元々子供な王女様を、変な風に教育していたのが悪いんだが、本人が変われば自然に周りも変わるだろう。
「ジーク頼む!何でも言ってくれ!協力する!」
副団長も本当に必死だな。王女様は、今なら友達作りの為と言えばなんでもしそうだ。
「ジーク!笑顔できた。これでいい?」
素直だ。やっぱり家庭教師に言われるまま、我儘王女様になってただけか?見た目は大人だが、これならなんとかできそうだ。これから特訓だ。特訓あるのみ!難点は男しか釣れないとこだが、そこはこの際無視だな。可愛さを極めれば女の子もその内釣れるだろう。
「悪くないぞ!その調子だ。可愛い子になれば友達いっぱいだ。それと、怒られたらごめんなさいだ。言えるな」
うんうんと、頷いてる。良い子の道も一歩からだ。
「いっぱい……頑張ることできる!」
目をキラキラさせて意気込んでるよ。本当に見た目よりなかみ子供なんだな。
「練習だ。練習あるのみ!王女様ならできる」
「はい!ジーク師匠!」
師匠?王女様の中で、俺の立ち位置が恩人から師匠にジョブチェンジした。扱いやすいな。
「じゃ、師匠の言う事は絶対に守れるか?」
真剣な顔になってる。これなら大丈夫だな。
「はい!ジーク師匠守れる」
笑顔で返事をしてくれる。良し!耳付き姉妹の可愛らしさ真似させれば少しはましになるはずだ。似非(身体は大人)でも極めれば本物に近くなる。
「俺の住んでる町に着いたら、可愛い友達を紹介する。仲良くするんだぞ」
「と!友達!仲良くするわ!」
期待に満ちた目に楽しみだ。と思う心が透けて見える。根は単純なのかもな。数日後の対面が楽しみだな。そんな考えに浸っていた時、遠くから争う声が聞こえて来た。御者と騎獣に乗った騎士達も騒いでいる。
「副団長、先の方で魔獣と冒険者達が戦っています。劣勢みたいです」
騎獣に乗っていた部下が窓から副団長に報告してる。
「戦って勝てる魔獣なのか?シルキー様の安全が第一だ。周りを固めつつ助けられる範囲で助成する」
窓から外を見ると冒険者らしき人達がC級魔獣と戦っている。この辺りにC級魔獣が出るとは言って無かったが……あ!まさかあれが原因か!
「嘘だろ!C級の魔獣が出るとは聞いてないぞ!くそっ!」
「ラインが悪いのよ!簡単だって言ったのに!」
「喧嘩してる場合じゃない!チチア!魔法ぶっ放せ!」
「やけくそよ!燃えちゃえファイアーボール!丸焼けよー!」
「チチア!こっちに打つなんて!魔力全開のファイアーボールなんて危ないじゃない!」
「ごめん!ミミル!えへへ、きゃあああーっ!こっちに来る!」
「チッ!退け!俺が行く!」
ごめん冒険者の人、頑張ってくれ。手助けはできないがポーションは融通するから。悪いね、本当の事は言えない。人の良い副団長なら助けてくれそうだ。
「ジーク、私は彼らを助けに行く。充分な戦力を残して行くので心配は無用だ」
副団長が助けに行く事にしたようだ。
「分かった。馬車で俺たちは大人しくしてるよ」
下手に動いて足手まといにはなりたくない。適材適所だな、魔法書でも読んで強力なポーションでも作れないか見てみよう。普通のは持っているが怪我が酷いと治せないのは困る。バックに入ってる珍しい薬草数種類と綺麗な水すり鉢に入れてごりごり混ぜ合わせながら魔力を微量に流す。段々色が変わってきたぞ、成功か?不思議だよなぁ〜。混ぜて合わせていくと段々色が澄んでくる。本に書いてある事が本当ならこれで完成だ。後は瓶に詰めてたら終わりだ。結構できたな、これで一安心だ。
魔獣がここにいる原因を作ったのは、俺が数日前に王都に来る時使った魔獣避けの薬草が原因だろう。零した薬草を薄めておくのを忘れてた。多分ご先祖様も俺と同じ失敗してるんだろうな。
道理で魔獣避けの薬草の事を、誰も子孫でさえも知らされてないのを、おかしいと思っていた。被害が出て言えなかった、って言うのが真相だろうな。俺だって言いたくない。雨が降れば良かったんだが、そこを避けて影響のない場所を魔獣が横切っているんだろう。運悪く出会ってしまった冒険者達は気の毒だな。
「ジーク、魔獣をジブリール達が倒したよ」
副団長、ありがとう。俺の失敗の尻拭いさせたな。お礼に王女様を可愛くするのは任せてくれ。
「流石副団長だな。冒険者も無事みたいだ」
無事で良かったよ。目の前で死なれたら寝覚めが悪くなるとこだった。この間の場所で休憩したら薄めておくか。雨が降ってくれれば問題ないのにな。ご先祖様、同じ事してる俺は、間違いなく子孫だよな。あの魔獣避け薬草の秘密は墓場まで持っていくしかない。あ!ミアにも秘密は守ってもらわないと。同じ体質の子孫が生まれたらやっぱりやるかもな。
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魔法
ファイアーボール
魔力調整で威力が変わる。
ジークが作ったポーション。
最上級のレアポーション。但し本人はわかってない。先祖が魔法書に書いているのはどれも人に真似できないものばかり。作る時に魔力を流して作る。調整が難しく魔力が見えない人には無理な作り方。




