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最終話 君を全裸にはさせない

「ああああああああ!!!!」

 突然、己の右腕が吹き飛んだリップは、その激痛に耐え切れず、ひたすら叫ぶしかなかった。

「人間の悲鳴というのは、いつ聞いても良いのお。これだから『魔王』はやめられない」

 リップの近くには、先程まで魔王が手にしていた剣型のモンスターがいた。

「そいつは宙に浮かんで移動するんじゃ。ワシ直々に手を下したかったんじゃが、やっぱ自分で戦わせた方が強いの」

「くっそがああああ」

 リップが苦悶の表情で魔王を睨みつける。

「ふん。ワシが弱くてガッカリしたか? だがの、貴様よりも強いモンスターを生み出したのはワシじゃ。つまり結局は」

 剣型のモンスターがリップ目がけて飛びかかる。

「ワシが最強ってことじゃろう?……じゃあの」

 

 フレアは、街の人々を避難させつつ、上空での戦いを見守っていた。

 遠くて声は聞こえないものの、何とか視認できる程度の距離だった。

 彼女は思う。

 リップは自分と組んでいた頃、いつもこんな気分を味わっていたのだろうか。

 大切な人が命をかけて戦っているのに、助けることができない。無力な自分。

 でも、これからはきっと、お互い助けあっていくことが出来るはず……だから負けないで、リップ。

 フレアが心の中でそう願った瞬間、戦況が大きく動いたのが分かった。

 剣型のモンスターがリップの右腕を切り落とすやいなや、今度は心臓を突き刺そうとしたのだ。

「……リップ!!」

 思わず叫んだフレアの声が、上空からの絶叫にかき消された。


「ぬぐううううううあああああああ!?!?!?」


 魔王の股間に、切り落とされたリップの右腕がめり込んでいた。

 

「っはあ……はあ……右腕落とされんのと、金玉潰されんの、どっちの方が痛いんだろうな?」

 右腕は当然、衣服ごと切り落とされていた。つまりは自在に操れる。

 リップは出来うる限りの勢いをつけて、魔王の股間目がけて、右拳を叩きつけたのだ。

「俺の身体能力を舐めんじゃねーぞ……はあ……はあ……こんなモンスター、避けるくらいわけねーんだよ……さっきはお前のあまりの弱さに腹が立ちすぎて、油断しただけだ……はあ……痛ってえなぁちくしょう……」

 そう言う彼の左手には、剣型のモンスターが握られている。

「ぬっうっっううーっ……!!」

 魔王は何も答えられずに悶絶し続けている。

「ケエエエエ!!」

 鷲型のモンスターが魔王を連れて逃げようとする。

 が、あと一歩遅かった。


「じゃあな、魔王。お前はそのまま、無様に死んでゆけ」

 魔王の首が飛び、悪行の限りを尽くしたその生涯が幕を閉じた。 

 

 鷲型モンスターに剣型モンスターを突き刺し、その隙に何とか地上へと降り立った途端、リップは力尽き地面へ倒れてしまった。

「リップ!! 大丈夫!?」

 フレアが悲痛な表情を浮かべながら駆けつけてきた。

「おう……フレア……俺さ、やったぜ……魔王のクソ野郎を……」 

「うん……うん……すごいよリップ……でも……その腕……」

 耐え切れず、フレアの目から涙がこぼれた。

「フレア、俺、お前と、握手を……」

「え? 握手……?」

「もう一度、俺とパートナーに……」

 そう言うと、リップは残った左腕をフレアに向けて差し出した。

「…………」


「フレアさん! モンスターはほぼ片付けましたよ! リップの奴はどうなって……」

 駆けつけてきたサムが数秒固まり、すぐに大きなため息を付いた。

「……はーあ。まあ、こうなることは分かってましたけどね」

 サムの視界の先には、左腕を突き出したまま気を失っているリップがいた。

 そして彼は、号泣するフレアに、きつく抱きしめられていた。



――そして、それから一年が過ぎた。



「ああ、もう……暑い……脱ぎたい……」

 荒野のど真ん中。

 赤いローブを着た、全身汗まみれの女がブツブツと呟いている。

 彼女の手には火の点いたライターが握られており、前方には大量の炎が舞っている。

 そしてその渦中には、明らかに人間ではない異形の者が多数――モンスターの群れである。

 それらは必死で逃げ惑っているが、炎はまるで生きているかのようにうねうねと動き回り、決して逃がそうとはしない。

「我慢だ、フレア……危ないっ!」

 フレアのやや後方に立っていた男が叫ぶと、彼女の身体が宙に浮き、背後から近づいてきていたモンスターの攻撃を間一髪でかわした。

「ありがとう、リップ……」

「よし、よく頑張った! 残りは俺がやる!」

 リップが右手の手袋を外すと、鉄のような指先が現れた。

「いくぜっ! ロケットパンチ!!」

 そう叫ぶと、リップの右腕が高速回転を始め、分離し、物凄い勢いで飛んでいった。

 そしてモンスター達を次々と串刺しにした後、彼の右肩へと帰ってきた。

「よしっ全滅だ!」

「お疲れ、リップ……やっぱその義手、凄いわね」

 フレアは相変わらず汗だくで、やや虚ろな目をしている。


 魔王討伐後、リップ、フレア、サムの三人は、英雄として讃えられることとなり、王国からも多額の報酬が支払われた。

 しかし、魔王が死んでもモンスターが消えることはなく、世界が真の平和を手にすることはなかった。

 サムは報酬を受け取った直後、姿をくらました。

 時折、『英雄・氷王子』の噂が聞こえてくるので、傭兵は続けているらしい。

 リップとフレアは、報酬の一部のみを手元に残し、残りの大半をモンスター被害が大きい街々に寄付した。

 そして、二人は現在、改めてパーティを組み、モンスター全滅を目標に世界中を旅していた。


「……俺さ、強くなったか?」

「なによそれ。魔王を討伐した男が言うセリフ?」

「だから、魔王自体はめちゃめちゃ弱かったんだって。でも、それでも、俺、最近は割とよくやってるっつーか」

 リップは何やら思いつめたような顔をしている。

「いや、その、俺さ、お前のこと、一応、守ることはできている、よ、な?」

「…………」

 フレアは何も言わずにニヤけている。

「……あのな、フレア。俺と、その、正式に付き合ってはもらえないか」

「ぷっ」

「な、何で笑うんだよ!」

「あははは! だって、その顔!!」

「そ、そんなに変だったか?」

「ていうか今更過ぎて……私はもう、とっくに、あんたしかいないって思っているわよ」

「…………はあ。かなわねえなぁ、全く」

 フレアの笑い声につられて、リップも笑った。

 やっぱり彼女の笑顔は最高だな。そう思いながら。

「フレア。臭いのは承知だが敢えて言わせてくれ」

「ははは……なによ?」

「君を一生守る。そして、君を全裸にはさせない……俺の前以外では」

「……なんか、サイテー」

「うそっ!! ずっと温めていた決め台詞だったのに!?」


 二人の旅は、まだまだ続く。

 

最後まで読んでくれた方がもしいるのなら、物凄く嬉しいです。

ありがとうございました。


今回はとにかく、連載を完結させてみることが目標だったので、色々と雑な部分が多かったかと思います。すみませんでした。

次回作は世界観やキャラクターをきちんと練り上げてから投稿したいと思います。

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