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ラスボスの仲間になってしまったが。(仮)2

 朝焼けが山々に広がり、鳥たちの(さえず)りが朝を知らせる。そんな城下町から西へ西へ、山の奥、その又ずっと奥に忘れ去られた古城がある。


 今や、魔王アークラウエルの配下が根城として活動拠点にしている古城は嘗て繁栄を極めたメギド帝国跡地。約三百年前に滅亡したという。


 当時、発展途上中の科学帝国メギドと東の魔法王国クスーゼの両国間の関係は不可侵状態にあった。帝国の発展はめざましく、科学が進み生活が豊かになりつつあるのに対し、クスーゼ王国は今だ魔法に頼りきった生活水準に、二歩も三歩も遅れていた。


 いずれクスーゼ王国はメギド帝国に、のまれてしまうのではないかと恐れた国王は間諜を帝国に密かに派遣させる。


 数年後に、帰ってきた間諜から聞かされたものの一つに軽視できないものがあった。


 それは帝国軍が所有する新兵器なるものの情報だった。クリスタ鉱石と零魔素(地球のウランとプルトニウムに相当される)で造られた魔洸砲弾セラフィムによる実験で帝国と交戦中だったアルビオン国の三万の軍隊を一瞬のうちに消し去ったという凶器。


 その情報を得たクスーゼの国王は焦った。いつ此方へ飛び火するかを恐れ、有能な参謀に相談。間諜らを含め、不可侵条約を無視した動きに出る。繁栄国の内側からどの様に崩壊させるか、だ。


 発展途上都市における環境問題に着目した参謀は言った。


『人が密集している所こそ狙えばいい』


 どんな方法で王国が帝国を落としたのかは、どの歴史書にも載らなかった。どの様にして帝国は、その機能を失ったのかは当時の人々以外、誰も知らない。





◇◇◇




 太陽の陽射しが窓から射し込み朝を知らせ、暖かさを背中に感じて久遠は目を覚ます。そして、心の中で絶句した。


(こ、この状況は……!!)


 視線だけ動かせば、寝台の上で向き合う形で水色の髪の可愛い系お姉さんに抱きつかれている。


(む、胸が!)


 どこのラノベだよと激しく脳内でツッコミをいれつつ、この状況をどう打破するか戦慄させる。体を捻り、腰に引っ付いた華奢な手をゆっくり剥がそうとするが離れず。起きるだろうかと思ったが、水髪お姉さんは起きる気配がない。


 仕方なく寝台から周囲を見渡す。コンクリートに似た造りの床と壁、吹き抜けの小窓、部屋の広さは十畳ほどか。


 デュンヘルの竜に乗せてもらったあとの記憶が曖昧だが、どうやらそのまま眠ってしまったらしい。


 ここがメギド帝国城跡地なのは間違いないだろう。細かな描写など矛盾点はいくらでもあると思うが。


 覚醒していない頭で考え、夢の中で夢は見ない。つまり、これは夢ではない。どうしよう、夢の方が良かったと思うのは。


 起きた時、ああ夢でよかったと済ませられるのならば。これが現実なら何て事だろう。


 頭の中で自問自答を繰り返すが出口が見つからない迷路のように、答えは出ない。


「んっ……」

「!」


 身動ぎした水髪のお姉さんを一見。起きるかと思って期待したが再び眠ってしまった。

 今ので緩まった水髪のお姉さんの腕をほどき、何かないと心許ないと思い代わりに枕を抱かせておく。そのまま音を立てずに部屋を出て、考える。元凶である魔王と闇のデュンヘル、そして各四大属性を司る四天王。


 四天王の一人、蒼のディーネル。


 水の女神に愛された、ほんわかな女性。外見は二十歳前後くらいで、設定資料によれば元々は亡国の姫だった。人間の強欲とも呼べる内部紛争により国は崩壊。家族すべてを失い、暴走した自らの力で傾いた国を吹き飛ばした。何もかも、敵も味方も全て。


 失意の中、彼女の目の前に現れたデュンヘルに拾われ人間の体を捨てて魔人として今に至る。


 しかし、彼女は四天王とはいえ無防備に寝てて、いいのだろうか。いや、いくら拠点とはいえ隙がありすぎるだろ。




 小窓から射し込む朝焼けの太陽が廊下を照らした。


 浴びる日の光を感じ、風の香り。これが現実だと判った途端、何をすればいいのか分からなくなってしまった。


 帰れるのだろうか、元の世界に。


「……はぁ」


 取り敢えず歩いて廊下の先の階段を上がる。上の階を目指せば誰かいるだろうかという目論みは当たっていた。


「うん?」


 丁度、階段を上がった所に燃えるような深紅のポニーテールがふわりと揺れ、悪人面つり眼と目が合った。


 ああ、悪役令嬢っぽい……


「君!!」


 ビシッと人差し指を差され、その者は大股で此方へ来た。その迫力に思わず後退したのは本能か。


「起きたな客人!! メシは出来ている。さあ来たまえ!!」


 ぐわしと腕を捕まれ深紅の令嬢は歩き出した。痛たたた!!




◇◇◇



 俺は、ブレアーデ様の直属の部下。蜥蜴の魔物である。


 ブレアーデ様の命令により、客人を迎えに来たものの寝台の上にはディーネル様御一人が居られたのみ。


 城内には幾ばくか、それぞれの四天王の従属する俺のような魔物がいる。もし客人と遭遇した場合、一応箝口令は出してあるが万が一、襲ってしまっては元もこもないので迎えに来たはいいが、探すべきか。ああ、超面倒くせぇ。


 思考を思い巡らしていたら寝台からムクリと起きたディーネル様と目が合った。


「おはようごさいます、ディーネル様」


 猫目の綺麗なスカイブルーの瞳が、瞼をぱちぱちと瞬きを数回。そして、客人が居ないことに気付き腕に抱いていたクッションをポロッと落とした。




「!! 私のプリンセスッ!」


 悲壮な顔をされて叫ぶディーネル様に驚き、この部屋に入った時の冷静に判断したことを伝える。


「恐らく城内を歩かれているかと存じます」


 あわあわと慌て出したディーネル様は、客間から飛び出していった。


 普段、氷のような厳しい表情ばかりのディーネル様を射止める客人とは、いったいどんな御方なのだろうか。


「平和だな……」



 しかし、ふと俺は思う。仕えるブレアーデ様を始めとした四天王の方々は人間への憎しみが一段と強いはずだ。魔物である俺でさえ人間は嫌いだが、あの客人は人間だと聞く。

 デュンヘル様が気に入られたから連れてきたらしいが。風のフェタリオ様を除く、ブレアーデ様とディーネル様は客人に対し友好的な感じだろう。実際、どんな奴かは見ていないが。


 俺は数時間後、更に衝撃を受けることになるとは今はまだ知らない。       



       

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