第九話:冬の公園
ここに出てくるオリジナル曲はいずれ発表しようと思います。因みにこの物語を作ろうと思ったキッカケです。
人はどうして人を傷つけるのだろうか。
幸せは傷と引き換えに手に入れるものなのだろうか。
冬に行く夜の公園はひどく寒い。
今日の学校での香織は終始明るく振舞っていたが、逆にそれが痛々しくて、つらくても泣くことが出来ない学校の教室は窮屈なものだと思った。一度家に帰り、公園近くのコンビニで香織と合流すると公園に向かった。向かいながら私と香織の間に会話は無かった。約束の時間に少し早く来着いた園に人は誰もいなく、隅で猫だけがのっそり歩いていた。
「わたし、浮気されたんだ」
ベンチに座って私が真人に着いたことをメールで知らせると、香織はそう言った。私は香織のほうを向くと、香織は空の星を数えるように上を向いていた。その姿をみながら、私は無性に香織の元彼に対して腹が立った。
「そんな男は最低だ」
「ほんと最低だよね」
私の言葉に香織が応える。
「でも、そんなあいつが本当に好きだったんだ」
香織の言葉に私は、そう。と言って私も空を見た。小さく輝く星が時々空気にゆれ、刹那的に消えてはまた輝いた。
「おまたせ」
「ぜんぜん」
私がそう答えると、真人はブランコの仕切りの棒に座ってギターと取り出した。いつも笑顔の真人は真顔のまま、何も発せずおもむろにギターを鳴らし始めた。曲名も言わなかったからよく判らなかったけれど、昔のコピー曲で二曲目はブルーハーツの『ラブレター』だった。
三曲目を終えると。
「こっからはオリジナル曲」
そう言って、歌いだした。真人の歌声は特別声量があるとか、音域が広いとかは思わなかったけれど、歌に心がこもっていて、聴く人を優しく包んでくれているようだった。
オリジナルの一曲目の途中で、香織は泣き出したから、私も思わず泣き出した。
泣きながら、香織の横で不謹慎だと思いながらも、こんな歌を歌える真人がますます好きになった。
オリジナルの一曲目は幸せな優しい曲だった。
「俺はさ、基本的に本当に好きだったなら、いくらでもチャンスはあると思うんだ。これからの長い人生の中、学校生活の中でも、もう一度振り向かせることが出来るチャンスが」
真人はそれだけ言って二曲目を歌いだした。
二曲目は悲しい歌だった。子供の頃の恋心の歌。
そしてそれが真人のことだと思うと、泣けてきた。真人が路上で歌っている理由がわかって、同時に真人の恋心も解って告白する前に振られた気持ちだったけれど、それでも、それだからやっぱり私は真人のことが好きなんだと思った。
「実話なの?」
私の言葉に真人は、
「昔の話だけどね」
そう言って照れ笑いを見せたけれど、それがどうしても悲しそうだった。
「以上、真人でした」
真人がそう言うと香織はありがとう。と礼を言った。