第八話:香織からのメール
―わかれちゃった。―
学校から家に着くと直ぐに来たメールは香織からで、二人で泣きあった電話の三日後だった。
真人のことでうきうきしていた自分、真人との些細なやりとりに嫉妬していた自分勝手さを思い出すと、自分自身に腹が立った。
電話でもしようと思ったけれど、何を話せばいいのか解らなくてベッドの上に横たわり携帯のディスプレイを眺めた。意味も無く電話帳を開いたり閉じたりしながら香織に掛ける言葉を探した。
私は香織にたくさん助けてもらっているのになぜ私は香織のために言葉さえ掛けることが出来ないのだろか。
そう思いながら寝返りを打った瞬間携帯が鳴った。
真人からだった。
通話ボタンを押して私は息をゆっくり吸った。
「おう」
「おう」
真人の挨拶に私も答える。
「今電話大丈夫?」
「うん」
「香織、別れたんだろ」
「そうみたい」
真人と香織の彼氏が知り合いだったことを思い出す。
「そうか、それだけちょっと確認したかったんだ」
「ちょっと待って」
私は何も出来ないかもしれない。けれど、真人には歌がある。一瞬そう思った。
「ねえ、歌ってあげてよ。香織、元気付くと思うんだ」
携帯越しの沈黙が重い。
「だめかな」
真人の部屋の音がするような気がした。実際にはただの沈黙なのに。
「俺のうた聴いたって元気になんないよ」
「そんなこと無いよ。私は聴いたことないけれど、香織は絶賛していたよ」
雨が降った土曜日のカラオケを思い出す。別れた彼氏とのはじめてのデート、最後に真人の路上ライブを聴いたのだと。そのときは気づかなかったけれど、悲しそうにそう言って笑っていた香織の姿が私の胸を刺す。
「わかった」
静かな返事が聞こえた。
「ありがとう」
私は少し興奮ぎみにお礼を言う。
「じゃあ、明日夜八時に仲良し広場に連れてきてよ」
「うん。わかった」
仲良し広場は学校から少しはなれた小さな公園だった。昔あったジャングルジムは壊され、背の低い滑り台とブランコが二つとベンチがいくつかあって、春には桜が咲くので、たまに花見の酔っ払いかジョギングをしている人のストレッチ場所以外めったに人は来ない。
「じゃあ、明日学校で」
「うん、じゃあね」
私は電話を切ると急いで香織に電話をした。
励ましの言葉も掛けずに
「明日、夜時間あるかな」
そう聞いていた。
「うん」
香織の声は思ったよりも元気で安心した。
「じゃあ、空けといてね」
「何かあるの?」
「それはお楽しみだよ。それより大丈夫なの?」
私の質問に少しだけ間をおく。
「うん。何となく解っていたし」
「そう。これからどっか行こうか。服とか買いに」
私の言葉に香織は、今日は少し一人で考えたい。と答えたから、香織がそう言うならそうするべきだと思って、明日もちゃんと学校に来てよ。と言って電話を切った。
電話を切って私は少し不安になった。本当に真人の歌を聴いて元気になるだろうか。
いや、きっとなる。私は自分の気持ちを盛り上げた。カラオケからの帰り道、私もすごい楽しみにしていたのに残念だな。と言った香織の言葉を思い出す。