第六話:雨の日
土曜日に降った雨は月曜日になってもやまずに、私の気持ちを少しずつ鬱にさせた。
学校へ行くのがだるい。身体を動かすのもだるい。そんなことを考えていると真人への恋心も友達との人間関係も何だかだるい感じがしてきた。
行って友達の中に混ざればそんなだるさも飛ぶのに。
土曜日のカラオケで私は香織を通して真人とメールアドレスと番号を交換した。そのアドレスも番号もまだ私の携帯とは無関係のようにただ入っているだけだった。
「体調悪いんだったら学校休む?」
私の心と無関係に母親がドア越しに聞いてきた。
「いや、いくよ」
何だか今日休んだら明日も明後日も休んでしまう気がしてそう応えた。
外に出ると冷たい空気がむき出しの顔を襲う。
六月の雨はあんなにうっとうしかったのに、十二月も近くなるとひどく冷たくなる。
そんなことを考えながら通り過ぎる周りの景色をぼんやりと眺めた。
特別目に留めることもなく流れる周りの景色が、何だか自分の高校生活を写しているようでぎょっとして立ち止まった。そのまま自分の行き場所を見失ってしまったような気がして、突然学校へ行きたくなくなった。
「まいったな」
そう呟いてみたけれど、誰が応えてくれるわけでもなく、言葉はただの言葉として私の耳にだけ届いて消える。真人にメールでも送ろうかと思って携帯を取り出したけれど、やっぱり何を送っていいのか解らなくてポケットにしまった。
私はそのままコンビニへ行って雑誌を買うと、近くのマックへ行った。
壮健美茶を持って禁煙席の二階へと足を運んだ。学校をサボると決めた途端足は軽くなり、雨の音さえ何だか心地よく聞こえてしまうのは何故だろか。そして、上り終え、隅の席が空いているか確認した途端私は壮健美茶を落としそうになった。
真人がいた。
「おう」
私のことに気がついた真人は待ち合わせの人が来たかのように、いつもの笑顔で私に挨拶をした。
「なにやってんの」
自分の立場を忘れそう聞いてしまったけれど、何だか真人の笑顔に救われた気がして恥ずかしい。
「いや、今日雨だろ。だから行く気がしなくて」
南の島の大王でもないのに真人は平然とそう言ってのけた。
そう思いながらも
「そっちは」
と言われて真人と同じ答えを返してしまった。
「早く座りなよ」
同じテーブルに座るのは少し気が引けたけれど、断る理由も見つからず対面に座った。
真人はホットケーキをプラスティックのナイフとフォークを器用に使って、一片にしたホットケーキを流れるように口に入れた。ギターをやっている人が全員そうではないだろうけど食べる姿が早くて綺麗だった。
「美由紀ってさ」
「うん」
「部活入っていなかったよね」
「うん」
「なんで」
「なんで?」
真人の手の動きに見とれていた私は何も考えずに、返事をしていた。
「何で部活やらなかったの」
ふと私が真人の顔を見ると、思ったよりも顔が近くて驚いた。慌てて硬い背もたれに背中を押し付けると、壮健美茶を手にとってストローを咥えた。どんなに考えても興味も無くて大変そうだったから。と言う理由以外見つからない。
ストローをくるくる廻しながら言葉を探した。
でもやっぱり見つからなくて
「興味がなかったから」
と言った。
「そうか、そうだよな」
真人は何に納得したのか解らないけれど、一人でそう呟いた。
「真人も入っていないんでしょ」
真人こそ軽音部にでも入ればよかったのに。
「そんな時間無くてさ」
何に忙しいのか解らないけれど、真人はそう答えた。
「俺、これから行くところあるから」
「そう」
真人が立ち上がると、取り残された気がして孤独が込み上げてきた。
「じゃ、またな」
「うん」
私は一人壮健美茶を啜ってこれから何をしようか考えた。