第五話:Saturday
私は翼がほしい
そら飛ぶ翼がほしい
けれど、翼があっても私はとべない
そら飛ぶ勇気がないから。
だから私はほしい
そら飛ぶ勇気が
あなたへ会う勇気が
あなたに触れる勇気が
ネットで見つけたこの詩が好きなんだって香織に言ったら、いい詩だねって言ってくれた。駅前のマックとスタバは込んでいた。だから私たちは少し離れた小さなドトールでカフェオレをすすった。ガムシロップを入れすぎたカフェオレが甘ったるい。
あの日からの一日は長かった。胸に膨らむ希望という名の風船はどんどん膨らんで、期待で胸がいっぱいになるというのは、こういうことを言うんだと思った。
「雨が降ったらやらないよね」
私が外を見て言うと、香織はうなずいた。
「まことのオリジナル曲、聴いたことあるの?」
私が聞くと、香織は一口カフェオレを口に入れた。
「あるよ。でも、一曲だけ。もう一曲あるらしいんだけど」
「へえ」
私はそう言って再び外を見る。空はひどく濁っていた。そんな空を見ると、なんだか悲しくなってきた。
「今日、聴けるといいね。二つとも」
私がうなずくと、雨が降ってきた。小さな水滴がガラスに鋭くへばりついた。いくつか続くとその数はとたんに増えた。外を歩いている人が傘を取り出す。一つ一つ花が咲くように開かれる傘がやっぱり私には悲しく映った。
そして、香織の携帯が鳴った。
「今日、だめだって」
やっぱり。自然と出た感想はやっぱりだった。私は真人の歌が聴けないんだ。
真人への想いは、あの日から教室で話す機会が増えて、切ない時間が幸せな時間に変わっていった。だけど、私はもうそれじゃ我慢できなくて、真人のオリジナル曲が聴きたかったし、真人ともっと話をしたかったし、真人に触れたかった。
「気持ちってさ、理性じゃどうしようもないよね」
私が黙っていると香織はそう言った。
「そうだね」
「ねえ、カラオケ行こうか」
私は声を張り上げて思いっきり歌った。告白もこのくらい思いっきりできたらいいのに。そう思いながら私は声をからした。