第三話:告白
一瞬今日の占いが気になった。恋愛の運勢はどうだっただろうか。コンビニで確認しようと思ってやめた。
何だか告白をやめるための理由を探している気がしたから。
いるかどうかわからないその路地へ向かうはずの足は、時より方向を変えていた。事務所から歩いて十分で着くその路地に、二十分かかっても着かない。時間だけがいつの間にか過ぎていく。いたら告白。もし振られて私は正気でいられるのだろうか。暗くなった空の下、酔っ払い何人かで歌っている歌さえ耳に残らない。
私はドリームキャッチャーを握り締めて、路地へ近づく。近づくたびに意識が遠く白くなっていく。メインのローターリーから二回ほど曲がったその路地へは古着屋が最後の角となる。
一度立ち止まり息を呑む。いるだろうか。告白できるだろうか。吐きそうになりながら、古着屋のガラスを見ると、情けない自分の姿が淡く映っている。
勢いをつけて私は古着屋を曲がる。
いた。
うっかり落としそうなったドリームキャッチャーに力を入れる。この前同様真人は片付けていた。
ドリームキャッチャーを握り締めた手からじんじんと痛みが滲んだ。
とくとくと体内を流れる血液は私の心を強く叩く。鉛のよう重くなった足を一歩一歩送り出す作業が何だか億劫に感じられる。近づくたび胸が痛くて苦しくなっていく。だけど、もう引き返すわけには行かない。
真人の前まで来ると私に気がついた。
「まいったな」
最初の一言に私は簡単に動揺した。
「うた、聞いててくれたのかな」
真人の言葉に私は首を横に振る。
「通りかかっただけか。結構遅い時間だけど」
「うん、バイトの帰りでね」
私は笑って見せたけれど、顔が固まっていた顔がきしきしと音をたてている気がした。真人と話したのは初めてではなかったけれど、久々に発した私の言葉は嘘であるところが何だか悲しい。
「家、どっち方面?」
真人はギターボックスを担いで聞いてきた。
「駅のほう。隣の駅だから」
私が答えると
「調度良かった。俺もそうなんだよ。一緒に帰ろうか」
真人の提案に私はこぼれそうになる笑顔を必死に堪える。
「いこうか」
真人はハンチングを被るとそう言って歩き出した。私も急いで横に並んで歩き出した。何だか彼氏と彼女のポジションと言う感じがして嬉しかった。
「ねえ、好きなアーティストとかっているの」
私が聞くと、当たり前だろ。と言っていつもの笑顔を見せる。
「ブルーハーツが好き」
もっとマイナーな名前が出てくると思っていた私は少し拍子抜けした。
「ブルーハーツみたいになれたらいいなって思うよ」
真人の横顔に私の恋心を再確認する。
「私も好きだよ。ブルーハーツ」
真人の前でいうすきという言葉を意識してしまって少し顔が熱くなった。
食べ物では焼肉が好きだとか、テストがやばいとか、そんなどうでもいい話が私の耳を通して心の中でぽかぽかと幸せに育つ。好きなんだ。私は真人が好きなんだ。その言葉も、声も、思考も。まだまだ知らないことばかりなのに、きっと何が来ても私はやっぱり私はそんな真人が好きなんだと思う。
好きなんだと思うたび真人を見てはその笑顔に私も笑った。一駅なんて早すぎて電車に乗っていることすら忘れそうになった。もう少し、本当はもう少し二人で、本当の本当は終点まで行きたかったけれど、たった一駅で私たちは降りて、反対口に下りる真人と別れた。
「じゃ、明日」
真人は最後まで笑顔だったけれど、私は最後まで笑顔でいられたのか不安だった。
学校で会えることは嬉しいけれど、それまでの間を私は何だか一人取り残されている気がした。帰り道私はブルーハーツを借りた。布団に入ってドリームキャッチャーを掛けると私はイヤホンでブルーハーツを聞いた。ブルーハーツの熱い言葉を聴きながら、私は眠りに落ちた。