第十話:帰り路
少しずつでも進めてなんとかこの小説は書き終えよう思いました。いつか、書き終えたいです(汗)
布団に入ると真人の歌が浮かんできた。
真人のギター姿とともに。
真人は未だにその人の事を想っているのだろうか。
肺に入ってくる冷たい空気が身体の火照りをどんなに下げようとしても冷やすことはなく、ただ頭がさえていく。ただ同じ事をぐるぐると考え、頭の横に転がる携帯も同じようにぐるぐる廻す。
真人は私たちを送ってくれると言ったけれど、何となく真人と時間を共有するのが気まずくて、断った。それにそこまでしてもらうのも何だか悪い気もした。暫く話もせず香織と二人して星を見ながら歩いた。寒さは一段と増していたけれど、寒いほど星が綺麗に思えるのは何故だろうか。そして寒いほどアスファルトは温かみを持っているような気がするのも。
「まだ好きなのかな」
学校の近くを通り過ぎたところで突然口を開いたのは香織だった。
「どうだろう」
私はその言葉の解釈に少し戸惑った。私が?香織が?それとも真人が?
暫くアスファルトを二人の靴がたたくと再び香織は白い息を吐いた。
「中学生の頃の恋心なんて」
ふわっ、と浮かんだその白い息は一瞬で消え、なんだかそれが切ない。
小学生だろうと中学生だろうと、いまだに歌い続けているのだからやはりまだ好きなんだろう。小学生の頃の恋心なんて忘れてしまったし、中学生の恋心だって私の場合、今となってはただの思い出となってしまっているけれど、それはきっと私が歌い続けるだけの想いがなかったからで、それはもしかしたら真人と出会ったからかもしれない。
「まだ好きなんじゃないかな」
私はそう言ってもう一度星をみた。
「そうなのかなぁ」
そう言って香織も星を見た。
「そうなんだよ」
「そうなのかぁ」
そこまで話すと、香織と別れるところに辿り着いた。
「じゃ、今日はありがとう気をつけてね」
香織の言葉に、私も同じ挨拶を交わした。
まだ好きなのだろうか?
香織と別れて一つ一つ足を繰り出すたびに、その言葉が頭でちらちらと気になりだし膨らんでいった。途中猛スピードで走る自転車に轢かれそうになって罵声を浴びせられた。ふと私は踵を返して公園へと向かった。まだ真人はいるかもしれない。直接会って聞いてみよう。
公園から出て二十分、いるはずもないのに、身体は勝手に動いていた。繰り出す足は徐々に速くなり、歩くペースから早歩きになり、上体を前に倒した。それでもなお加速は収まらず、私は走り出した。みるみる学校まで近づいたと思ったらすぐさま後方へと流れ、吐く息は大きく白くまんべんなく排出された。じわりと汗が滲み出し、頭の中はシンプルに真人の答えを求めた。
公園の入り口に仁王立ちし、中を見たがよく解らず、そのまま地面の感触を踏みしめるように中へ入っていった。歌を聴いたベンチまで辿り着いた。額から零れた汗が顎を伝って地面に落ちる。
いない。
当然だ。
私は一人ブランコに乗りながら、呼吸の乱れが収まるのを待った。急激に身体は冷やされていくのがひどく心地いい。ブランコを少し漕ぐとベルトのきしむ音が聞こえた。私は何だかそれが嬉しくなって精一杯漕いだ。ぶんぶんと揺れる身体が宙に浮いているようで一人はしゃいだ。
何だか恋心も悪くない気がした。
そして家に帰って風邪をひいた。