17‐3
驚いて首だけ動かして後ろを見てみると、そこにいたのはサジャだった。
満面の笑みである。
だが、腰に回っている手の力が強くて少々きつい。何か怒ってないか?
「お母さん、迎えにきてくれたの?」
今までに見たことがないほど甘えた感じで首を傾げる。やばいときめいた。
でも腰は痛い。
明らかにサジャの様子はおかしいのだが、かわいくて流されてしまう。
「あ、うん、サジャが心配で。昨日は大丈夫だった?学校は?」
「知り合いの家に泊めてもらったよ。学校は嵐で窓ガラスが割れて、危険だから今日は休み。ね、お母さん。その人、誰?」
サジャが、私自身存在を忘れていた男に視線を移した。
ぽかんとした表情でサジャを見ていた男ははっとして、私の手を離す。
既婚者でしたかすみません、など小さく言いながら男は去っていった。
男が見えなくなった頃にサジャは私の腰から離れた。
振り返って見ると、さっきの笑顔はどこへやらすごく不機嫌な顔をしている。
「チャニさん、行こう」
戸惑いながらもサジャについて行き馬車乗り場から離れた。
人気のない裏路地に着くと、前を歩いていたサジャは私に向いて言った。
「チャニさん、手出して」
言う通りにすると、逆、と言われたので不思議に思いながらも違う手を出す。
サジャは片手で私の指先を握って、もう片手で手の甲を擦ってきた。
「サジャ?」
「・・・・・・」
まさかの無視。
そして擦る力が強すぎて少々痛い。
サジャが擦るのをやめた頃には私の手の甲はすっかり赤くなっていた。
「サジャ、どうしたの?」
サジャは私の問いには答えず、指先を握ったまま言った。
「手、痛い?」
「ちょっと」
「ごめんなさい」
両手で私の手を包んで額を押し付ける。
なんだかよくわからないけど、反省している様子だったので、余っている手で頭を撫でてみた。
「さっきはありがとうね。あの人、しつこくて困ってたの」
「・・・・・・恋人じゃなかったの?」
「馬車で会ったばかりよ」
サジャはちょっと顔を上げて、良かったと微笑んだ。
機嫌直ったのかしら。よし、このままいつも通りに!
「恋人なら昨日別れたわ」
ちょっと嘘だ。でもこれから別れるつもりなのでいいだろう。
笑って言うとサジャは予想に反して、機嫌を急降下させていた。
「・・・やっぱりいたんだ」
小さく呟いて、それきり無言になってしまった。
・・・私は何か間違えたらしい。
さらっと流すつもりがどうしてこうなった・・・!
悪いのはチャニさんの手にキスした観光客です。きっとそうです。
町編、続きます。