17‐1
嵐がきた。
比喩じゃなく文字通り。
風が強すぎて酒場のドアはガタガタしているし、叩きつけるような雨粒のせいで窓の外は見えない。
嵐がきたのは夕方だった。
村と町をつなぐ辻馬車はそのせいで村に足止めされている。
意味することは一つだ。
「サジャが帰れない・・・!」
客のいない酒場で一人頭をかかえる。
流石に今日ばかりは酒好きな人達も家から出ずじっとしているらしい。
いや、それはどうでもいい。
朝はばっちり晴れてたから欠片も心配してなかったのに、まさかの嵐。
備えに宿屋に泊まれるくらいのお金は持たせてあるが、始めての出来事なのでサジャが心配だった。
ちゃんと泊まれたかな、嵐の日はどこの宿も満杯になるし、いや、同級生の家に泊まらせてもらってる可能性もあるんだから、でも・・・。
カラン、と音がしてドアに目を向ける。
「サジャ!?・・・じゃない」
酒場に入ってきたのは恋人だった。
がっかりである。
「何の用?」
期待した分、辛辣な言い方になる。
恋人が言うには嵐が酷くて心配だった、戻るのも大変なので泊まらせてほしいと。
苛々と聞いていたら、いつもいる子どもはいないんだからいいだろうと言いやがる。
普段なら大目に見る下心も今の私には非常に腹立たしかったため、タオルを貸して、さっさと追い出した。
次に会うときに別れてやる、と誓う。
また一人になった酒場でうろうろと歩きまわって、際限ない心配を繰り返した。
このまま明日、サジャが帰る時間まで待つなんて出来そうにない。
私は朝一番の馬車に乗って町に行くことを決めた。
チャニが町に行く編。
今まで出てきた恋人は全員違う人です。一応。