今日も陰陽師は憂鬱だ!(新装版)
この作品はpixivで数年前に投稿した作品を再編集したものになります!
少しはレベル上がって、より読みやすくなったんじゃないかな・・なってたらいいなぁ…笑
「ヤバいっ!! 遅れる!!」
時計を二度見し、絶望の悲鳴を上げながらドタバタと出勤の準備を進める。
今日に限って、朝から災難に見舞われたせいでいつも以上に時間がかかってしまったのだ。
「毎度毎度、俺を弄びやがって!」
どれだけ理不尽な悪態をつこうとも、無情にも刻々と過ぎていくのが時間というものだ。世の中、本当に理不尽極まりない。
なんとか最低限の支度を済ませ、弾かれたように家を飛び出す。
背に腹は代えられない。今日は普段使わない路地裏ルート――いわゆる「裏道」を全力疾走することにした。
会社まであと一歩というところで、同僚の峰太の姿を発見する。
普段の彼は冷静沈着、隙のない完璧超人と言っても過言ではない男なのだが。
うん。様子が、非常におかしい。
変というか、なんというか・・
ネクタイを頭に巻き、路上でキレッキレの阿波踊りを踊っている。
泥酔した昭和のサラリーマンかよ!!
(いかん。本来なら大爆笑する場面なんだろうが、コイツだと逆に笑えん)
妙な怪奇現象は日常茶飯事だが、相手が「笑えないヤツ」だと、人間というのは驚くほど冷めた感情になるらしい。
とにかく、いつも通りやるべきことをやって正気に戻すか。
「おい、峰太! 大丈夫か!?」
「・・ん? 和也か、おはよう。どうしたんだ、そんなに焦って?」
「あ〜・・うん。何でもない、おはよう」
一瞬だけさっきの奇行を説明しようかと思ったが、プライドの高いコイツが知ったら確実に社会的に立ち直れなくなりそうなので黙っておくことにした。
当の峰太は、自分の荒れた服装に一瞬「!?」と動揺しつつも、光の速さでネクタイを締め直し、何事もなかったかのようにキリッとした表情で歩き始めた。うん、見なかったことにしてやろう。
そのまま他愛のない雑談をしながら出社し、自分たちの部署のドアを開けたのだが――。
「「・・・」」
俺と峰太は同時に立ち尽くした。
「なー、峰太。これって、いつも通り・・じゃないよな?」
「明らかにおかしいだろ。一体、みんなに何があったというのだ!?」
誰が見ても一目でわかる異様な光景。
我が部署のアイドルであり、才色兼備なリーダーの木之下由奈は、ニヤニヤと怪しい薄い本(表紙に『BL』って書かれてないか、あれ)を読み耽っている。
いつも穏やかな笑顔を絶やさないが、それが逆に一番怖い雰囲気を醸し出している美人上司、天草綾乃部長に至っては、「ニャンニャン♪」と甘い声を漏らしながら後輩女子の膝枕で甘えていた。
他にも、北海道出張なのに福岡行きのチケットを取ったり、コーヒー買ってきてと頼むと豆だけ買ってくる(ミルないだろ!)というド天然の川田正樹は、今まさにプリントアウトしたばかりの重要書類をシュレッダーに投入している。
あ、待て。アイツの行動だけはいつも通りだわ。
とにかく! 普段のこの人たちならあり得ない混沌空間と化しているこの状況を打開すべく、俺は腹を括って『力』を使うことにした。
「《我、此処に有りけり。汝、我の言の葉に応え、古の業を急急如律令せよ――式神『六根清浄』!!》」
部屋中にまばゆい光が走り、ウギャアアアッという怪異の呻き声が響き渡る。
「嫌だっ!? 私、なんで会社でこんな本開いてるのっ!?」
「あら? ごめんなさいね後輩ちゃん、なんだか急に甘えたくなっちゃって///」
「はっ!? しまったぁぁーッ! 今日の会議で使う書類をシュレッダーにかけてしまったぁぁあッ!!」
よし、駆除完了!
「お、おい和也。今のは何なんだ? 急に変な呪文を唱え始めたと思ったら、みんなが光り出して、黒いモヤみたいなのが消えていったぞ?」
「あーまあ、目の前で見られたら今更隠せんわな・・」
俺は頭をガシガシと掻きむしりながら、諦めて白状した。
「俺、実は『陰陽師』なんだわ」
「・・お前、疲れてるのか? 頭、大丈夫か?」
「そういう反応が返ってくると思ってたよッ! やめろよ、その『可哀想な奴を見る目』は! 俺の頭はいたって正常だ! 信じたくないなら信じなくていいよもう!」
「いや、すまん。 あまりにも突拍子もなさすぎて混乱したんだ。その、マジなのか? 陰陽師なんて、物語の中だけの存在だと思っていたが」
「まあ無理もない。本来、俺たち陰陽師は表舞台に出てはいけない掟がある。だが今日は、ちと特殊な事情があってな・・」
(まったく、アイツ何がしたいんだ)
「ん? 最後になんて言ったんだ?」
「いや、何でもねーよ! それより仕事しようぜ!」
とりあえず事態を整理するため、俺は一旦トイレに駆け込んで一人になった。
朝の自宅での出来事といい、さっきのオフィスの惨状といい、マジでアイツは何がしたいんだ?
理由は知っているが、それにしても今日は度が過ぎている。今までは俺の屋敷の中だけで暴れていただけだったのに――。
――数時間前の回想。
今朝、ふと背筋に嫌な違和感を覚えて目を覚ますと、部屋の中に悪霊がギッシリ詰まっていた。
とはいえ、我が家には厳重な対策が施されているため、取り憑かれたところで危害は加えられない。相手もそれを分かっているのか、ニヤニヤと俺の顔を覗き込み、俺が飛び起きるや否や「ヒュッ」と逃げて行った。
我が家は代々続く陰陽師の家系。
世間一般で有名なのは安倍晴明の一族だが、うちはその師でもある『賀茂保憲』の血を引く一族だ。千年以上続く名家であり、敷地も無駄に広い。
この地域一帯は歴代当主の『思業式神』によって守られており、現在は第二十代当主である俺が家臣たちと共に管理している。はずなのだが、なぜかこうして易々と侵入されている。
『初代に並ぶ天才』なんて持ち上げられていても、これじゃ立つ瀬がない。
寝巻きのまま跳び起き、屋敷を調べて回ると、悪霊どもが俺の姿に化けて変顔をしながら遊んでいた。
イラッとして形代を投げつけるが、すばしっこく逃げられる。
そうこうしているうちに、奥の部屋で見覚えのある「親玉」が出現した。
人間並みの知性を持ち、なんと『時空間を移動できる』という厄介極まりない能力を持った悪霊。
そう、コイツのこの特殊能力のせいで、どんなに強力な式神を使っても土壇場で逃げられてしまうのだ。そしてそれをいいことに、時々現れては俺にちょっかいを出してくる。
「やあ、おはよう! 今日もこの子たちと遊んでくれて嬉しいよ!」
「アホ抜かせ! 遊んでやってるんじゃねーよ! 毎度毎度、迷惑甚だしいわッ!」
コイツが頻繁に俺の前に現れるのには理由がある。
「まあまあ、そう怒らんといて。こうして戯れることで親交を深めようとしとるだけやないの。そろそろ仲も深まってきたことやし、ウチの陣営に来んかい?」
「だから! 仲良くなってなんかいないだろッ!」
「んもぅ、相変わらず冷たいんやから〜」
なぜか俺はコイツに気に入られており、毎回イジり倒された揚げ句にスカウトされるのだ。
「大体な、なんで人間で、しかも陰陽師の俺を勧誘しようとしてるんだよ! おかしいだろ!」
「ん? 別におかしなことあらへんよ? だって、キミがいた方が面白そうやないの!」
イラッ
「こっちは毎度お前のせいで振り回されてるんだよ! ってか、どこの世界に悪霊に協力する陰陽師がいるんだッ!?」
「おるやない、目の前に(笑)」
「俺は違うわッ!! このボケぇぇえーッ!!!」
堪忍袋の緒が切れた俺は、連続で大術を叩き込む。
「式神!! 青龍=逆行天照輝閃!」
「さらに犬神召喚!」
「いけぇッ! 悪行罰示神! 十二神将!!」
「相変わらず凄まじい才能やねぇ。晴明ちゃんでもここまでは出来んかったのに〜」
ぼそっと何か言った気がしたが、それよりもこれだけ力を行使しても全く歯が立たない。ひょいひょいと空間を歪めて攻撃をかわされるのだ。
(クソッ、本当に行動がすばしっこい!)
それにしても、今日はやけに連れている数が多いな。いつもは5〜6匹程度なのに、今日は屋敷が足の踏み場もないほどだ。
「おい! 今日は何でこんな大勢で押しかけてきやがった!? これじゃ陰陽家じゃなくて『悪霊家』じゃねーか!」
「んー。観光? 家族旅行的な?」
「いい加減にしろーーッ!!」
怒号を飛ばしたその瞬間、俺は見逃さなかった。
いつもふざけて玩び、こっちが困っているのを楽しんでいるこいつが、一瞬だけ冗談を捨てた『真剣な目つき』になったのを。
――回想終了。
こんな不毛なやり取りを日常的に繰り返していたが、「アイツら」に限っては俺の屋敷内だけで暴れていたため、問題ないだろうとどこか油断していた。
しかし、今回は会社の同僚たちにまで危害?が及んでいる。流石に放置するわけにはいかない。
近いうちに問いただす必要があるな。
もし本気で俺を勧誘するためだけにこんな嫌がらせをしたんなら、一族総出で叩き潰す!
―――その頃、賀茂家本家にて
「宗ちゃん、そろそろ限界じゃないの?」
「そうだな。あんたも気づいたから今日、全軍で乗り込んだんだろ? アイツはまだ分かってないみたいだが」
「そうねぇ、ちょっと遊びすぎたかしらね。でも、向こう(人間界の裏側)で大きな動きがあったみたいやから、帰ってきたらちゃんと話してあげんとね」
「ああ。いい頃合いかもしれん。奴らが本格的に動き出す前に、片を付けんとな」
男の姿をしたその悪霊の名は――源博雅。
平安時代を生きた公卿であり、伝説的な雅楽家である。
天皇家に連なる高貴な身分でありながら、実は陰陽の力を秘めて生まれた類い稀なる異才であった。
しかし立場上、公にはできずその事実を知るのはごく一部の人間のみ。当然、歴史書にその記録はなく、陰陽師の中でもごく限られた者にしか語り継がれていない人物なのだ。
その事実を知る者――ひとりは、彼の盟友であった『安倍晴明』。
そしてもうひとりが、『賀茂保憲』を筆頭とする歴代賀茂家の当主たちであった。
彼が悪霊(幽体)となったのは、かつて保憲と共に「都を脅かす大悪霊」と対峙した時のこと。
太古より存在していたその悪霊は、かつて起こった『恵美押勝の乱』で戦死した者たちの膨大な怨念を吸収し暴走。都を壊滅させかねない勢いを見せていた。
「くっ・・保憲! 致し方ない、禁術を使う! 後は頼んだぞ!」
「博雅! それはダメだ! まだ打つ手はあるはずだ、諦めるな!」
「いや、このままではジリ貧だ。我が『源』の名にかけて、都は守ってみせる」
「違う! そうじゃない! その術は命を削る・・死ぬぞ!?」
「なに、心配するな。我はいつでもおぬしと共にいる。ほれ、敵が来るぞ! 時間を稼いでくれんか!」
そうして戦いが終わった時、瀕死の保憲は一命を取り留めたが、そこに博雅の姿はなかった。
家臣たちの話によれば、博雅は「保憲によろしく」と言い残し、突如ふわっと空へ浮かんで姿を消したという。
それから一ヶ月後の満月の夜。
保憲が目を覚ますと、縁側に博雅が座っていた。
『やあ保憲。実はな、あの悪霊の怨念を俺の体内に封印したんだよ。その結果……人であることをやめてしまってね! ははは!』
『笑い事か! 姿はあるのに、お前はもう・・』
『大丈夫だ。こうして時々、お前の前に姿を見せよう。まあ、昼間は出歩けないんだがね』
そう言って優しく笑い、宙へと消えていった博雅。
以来、彼は「死んだ存在」として歴史の陰に隠れ、幽体のまま千年以上の時を生き続けていたのだった。
―――― 現代・賀茂家の本邸
「――というような経緯があってな。博雅公は今もなお、幽体の身で我ら一族を見守ってくださっておるのだよ」
目の前で茶をすする祖父の話を聞き、俺は眉間を押さえた。
「話は分かった。でもさあ爺ちゃん、なんでそんな偉大な大物が、千年も経った今になってうちの屋敷で嫌がらせばかりしてくるんだ? しかもこの前なんて会社の連中にまで取り憑いて。いくらなんでもやり過ぎだろ!」
「それについてだが、お前の会社での出来事は博雅公の仕業ではない。別の悪霊どもの仕業じゃ」
「なっ!?」
すると、空間がぬっと歪み、例の男が現れた。
「そうよー。ウチがそんな非道なマネするはず無いやないの」
「お前っ!? なんで本家の結界を突破して入ってこれるんだよ! 爺ちゃん、ここの結界は完璧だって――」
「何を言っておる。この結界の原形を作ったのは、そこにいる博雅公じゃぞ?」
「そうなんよ! ここは元々、保憲ちゃんと甘い青春を過ごした思い出の場所やからね!」
「・・・なるほど。納得はいかないが理解はした。じゃあなんで普段、俺に嫌がらせばかりしてくるんだよ?」
「嫌がらせなんてひどいなぁ。だから言ってるじゃないの、和也ちゃんを勧誘(育成)してたんやって」
「だから悪霊に協力なんて・・あ。」
俺はハッと気づいた。
「もしかして、会社に現れた『本物の敵』を退治するために、俺を鍛えてたのか?」
「正確には、その裏にいる親玉を倒すためやけどね!」
「ワシから博雅公にお前を鍛えてもらうよう頼んでおったのだ。お陰でだいぶ強くなったじゃろ?」
「はあぁっ!? あれがトレーニングだったって言うのかよ!? どう見てもただの嫌がらせだったろ!?」
「でもぉ、この数年で使える術式めちゃくちゃ増えたでしょ? 同時に複数の術を発動できるなんて、ウチの知る最強の晴明ちゃんでも2つが限界やったのに。和也ちゃん、とんでもない才能の持ち主なんよ?」
「・・急に褒められても納得いかねーぞ」
「それにね、あなたのご先祖様の保憲ちゃんに雰囲気がそっくりなのよ。だから嬉しくてはしゃいでたら・・ついつい本来の目的を忘れちゃってたの! てへぺろ☆」
「ッ〜〜〜!! てへぺろじゃねーよ!! やっぱりバカにしてただろッ!! 今度こそ除霊してやるーーッ!!」
「《明鏡止水! 風雷華!! 青龍・白虎・朱雀・玄武・勾陳・帝台・文王・三台・玉女――破邪の法!!》」
「あはははっ! ほーら届かない〜!」
「やれやれ。相変わらず騒がしい奴らじゃのう」
呆れる祖父の声をバックに、俺たちのドタバタな除霊劇は今日も続くのだった。
(その後、裏で動いていた本物の悪霊は、覚醒した和也によってあっけなく一掃されるのだが――それはまた別の話。)
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