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これから音信不通の彼氏を殺めちゃうぞ?

作者: 猫の集会
掲載日:2026/05/20

 わたしは、人を殺めたことはない。

 

 しかし…まさに今、これから人を殺めてしまう可能性が高い。

 

「死ねくそが、くたばれ、しねしねしねしね…」

 

 …

 

「ちょっと千砂ぁ、なに休み時間に呪ってるわけ?マジウケる」

「あ、みくちゃん‼︎聞いてよ‼︎片耳だけでもいいから聞いてくれない⁉︎」

「両耳で聞くよ…。で、どうした?」

「実は…彼氏からの音信不通が早、二週間…なんですけど⁉︎これってもう空き家じゃないんですか⁉︎それとも留守⁉︎なに?旅行でも言ってるわけ?え?どういうことなの⁉︎」

「ちょ…落ち着きなさいって。家に行ったの?」

「いえ、家だけにいえ…」

「冗談言えるくらい元気なら大丈夫なんじゃない」

 

 …

 

「ダメです。頭痛が好き好き(ずきずき)します。好きすぎて苦しいのに、彼氏が音信不通ってなに⁉︎ねぇ?なぜ?どういうこと⁉︎」

「あー…、てかさ…もうそんな男忘れちゃいなって。」

「ムリなんだよ…。だって…だって…」

 ポロポロと涙が溢れだす。

 

 このまま、机が湖にでもなって溺れちゃえばいいんじゃないかなって思うくらい、ドバドバと溢れる涙。

 

 あんなに…あんなに毎日一緒だったのに…

 

 学校違くても、毎日毎日わたしの学校に迎えに来てくれてたのに…

 

 なのに…

 

 なのにいきなり好きな人できたとかさ…

 

 それっきりって何⁉︎てっきりドッキリかと思うじゃん‼︎

 

 てっきりドッキリじゃないの⁉︎

 

 なに?

 

 ガチ⁉︎

 

「あのー…よかったら、コレ…」

 

 ⁉︎

 

 ガシッ‼︎

 

 わたしは、だれから差し出されたかも確認せずに、差し出されたティッシュを、奪うように頂戴した。

 

「このキャラ…あれだ…わ。初めてプレゼントされた…やつじゃん。ハヤト⁉︎まさかあなたハヤトなの⁉︎」

 

 ガバッと顔を上げると、そこにいたのは…

 

 だれ?

 そこには、知らない人がいた。

 

 てか、めっちゃ顔整ってるなぁ…

 

「あー、うん。オレ、はやと…です」

 

 ⁉︎

 

「はあ⁉︎違うじゃん‼︎ハヤトじゃないじゃんか‼︎だれよアンタ‼︎」

「いえ、はやとですけど。航大こうだいはやと」

 

 …

 

 あぁ…

 

 たしか、いたな…そんな名前の人。

 

 自己紹介のとき、彼氏とおんなじ名前だなぁって、なんとなく考えてたような…

 

 あ、てかわたし…せっかくくれたティッシュを奪うようにして…挙句にありがとうも言わないで、あんただれ呼ばわりして…

 

「最低…」

「えっ⁉︎ちょっと千砂…」

「あ、ううん。最低なのは、わたし。はやと氏、ティッシュありがとう。そしてごめんなさい」

 

 …

 

「え、さっきから千砂…どうしたのよ?」

「どうもこうも…あれもこれも…ないよ」

 

 …

 

「あの…さ、まぁ、そんなすぐに忘れられないかもだけどさ、前向いて生きてたらいいことあるかもだよ。千砂さん」

「うん…。ありがとう、はやと氏。てか、はやと氏って前の席…なんだ?」

「うん、そうだよ。よっぽど周りに興味なかったんだね。」

「はい…すみません」

「でもよかった。やっと前向いてくれて。今まで一回も目合わなかったよね」

 

 …

 

「申し訳ありません。人の目をみるのは、常識ですね。ほんと気をつけます…」

 

 てか、はやと氏…

 

 目…めっちゃ澄んでるなぁ。

 

 キレイな目…

 

 フッとはやと氏が微笑んだ。

 

 

 この人…

 

 笑うと…目じり下がって、口角がめっちゃ上がるんだな。

 

 ハヤトは…ハヤトは、いっつもイタズラな顔で笑ってて…その顔が大好きで…

 

 ずっとずっと好きで…

 

「ちょ‼︎千砂⁉︎どうした⁈」

 

 思わず無意識に涙が溢れだす。

 

「はやととハヤトって…なに?これ…どういうことなの?全然似てなくて…泣けてくる。ごめんなさい…はやと氏は、何にも悪くないです。」

「うん。オレこそ、紛らわしい名前でごめんなさい。」

「ちょっとー、なに二人してごめんなさいごめんなさいってさぁ。てか、千砂情緒不安定すぎ」

「はい…ごめんなさい」

「だからぁ…もう…」

 

 困り果てているみくちゃんのところにみくちゃんの彼氏がやってきて、この空気なに?と、みくちゃんとはやとくんに聞いていた。

 どうやら、みくちゃん彼氏とはやと氏は、知り合いのようだ。

 

 話を聞いたみくちゃん彼氏が、わたしに

「うたおう‼︎放課後発散しよ」

 と、声をかけてくれた。

 

 それはもちろん、

「行く‼︎はやと氏も行くよね‼︎」

 なぜか、わたしは…ぐしゃぐしゃの泣き顔のまま、はやと氏を誘っていた。

 

 

 そして、はやと氏もオーケーしてくれた。

 

 優しいな。

 はやと氏。

 

 

 好きになっちゃいそう。

 

 名前…一緒だし、なんなら顔もタイプだし…

 

 ハヤトは、はじめタイプじゃなかったんだ。

 

 でも、仲良くなって…どんどん距離が縮んで…

 

 それで…

 

 …

 

「ぅぐっ」

 

「もぅ、泣かないの」

 

 …

 

「ゔんっ。ごめんなざぃ」

 みくちゃんが、肩をポンポンしてくれた。

 

 それをみて、はやと氏が眉を下げて少し困ったようにみくちゃんの彼氏と顔を見合わせていた。

 

「うううううぅゔ…うわぁーん」

「よしよし」

 わたしが泣けば泣くほど、皆が困るってわかってるのに、どうしてかな…

 

 涙がとまらなかった。

 

 これは、絶対ハヤトのせい‼︎

 

 でも、さっきまでの殺めたいって気持ちは、どこかにふっ飛んでいた。

 

 これはきっと…

 

 優しさという皮に包まれた皮。

 あ、間違えた。

 

 包まれたから。

 

 でも、この皮が破れたら…わたしは、また恨む?

 

 ううん。

 恨まない。

 

 なんか、そんな気がする。

 

「アップルパイ…」

「なに?千砂アップルパイ食べたいの?好きだもんね」

「アップルパイ…になれた」

「え?どういうこと?」

「わかんないけど、わたしみんなのおかげでアップルパイになれた。今度バイト代入ったら、みんなにアップルパイ奢る‼︎みんなありがとう‼︎」

 

 …

 

「まぁ、元気になったならよかった。」

「うん‼︎大丈夫‼︎みんながいる。」

「うん、いるよ」

 

 みくちゃんがそういうと、彼氏もはやと氏も頷いた。

 

「ううううぁー…ありがとう」

 涙腺崩壊が治らない。

 

 でも、殺める気持ちが崩壊しなくてよかった。

 

 みんな、ありがとう。

 

 わたしは、みんなの優しさのおかげで素敵なアップルパイになった。

 

 

 これから辛いときは、アップルパイを食べて、このことを、みんなの笑顔を思い出すんだろうな。

 

 みんな、ほんとうにありがとう。

 

 

 

 おしまい♡

 

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