番外編 だれも知らない2
レイの目は赤くなることがある。
それを知っているのはリナだけ。
今、レイはリナの四肢を自分の手で押さえつけながら、リナを見下ろしていた。
「離して」
リナは嫌そうに顔を背ける。
同い年の女の子たちがどれほど騒ごうと、レイはレイだった。
今も昔も変わらない。
レイは時々本当に怒ると目が赤くなる。
それも片目だけ。
かつてはリナが男の子たちに襲われているときに一度。
赤く光って。
その後、男の子たちはリナに手出しをしなくなった。
むしろ、不気味なほど従順になって、リナは不思議に感じたものだった。
彼らはレイの赤い目を見ていないと言う。
だが、リナはレイの目が赤かったことを知っていた。
そして、今も。
赤くなっている。
「エリンのところに行くつもりなんでしょう」
エリンというのは、最近仲良くなった旅芸人の子供だ。
リナの三つ上の男の子。
リナは先日、そのエリンに手を握られて、額にくちづけられた。すきだよ、という言葉と共に。
13になるリナだが、その言葉の意味がわかっていた。
その先も。
時々、動物たちがしているアレだ。
エリンはリナを見るとそうなるのだという。
リナにはわからなかったが、男の人の生理というのはそういうものだと、リュウに聞いていたから不思議には思わなかった。
今、不思議なのは、この状況。
「レイ。離してくれないと、エリンのところに行けない」
「行かせない」
四肢を掴んだ手はびくともしなかった。
リナは本気を出していた。
どんな男の人でもリナを留めることはできないと思っていた。
確かに大人の男の人だけど、体躯はエドよりは遥かに細い。
そんなレイの手を振り払うことができないのが不思議だった。
「そんなに行きたいんだ」
レイの人形のようにきれいな顔が、かすかに歪んで。
「いけない子だね。リナは」
リナのすぐ近くまで、ゆっくりと下りてきた。
首筋に下りて、かすかに覗いた耳朶を噛む。
「っ。痛い」
チリと痛みが耳から走って、本当に噛まれたのだと知った。
耳元から唇を放したレイの唇は、赤く染まっていた。
まるで、大人の女の人のように妖艶な顔をしたレイ。
「やめて。レイ」
その唇がリナのものに重なり。血の味がした。
自分のものだとわかっているのに、くらくらとめまいがするほど…濃厚な血の匂いに酔う。
「やめない。君は、ぼくのものだ」