小話1 「さあ、行くぞ」と言われて去りました。
本編とは少し雰囲気が違います。
―逃亡直後の二人の会話
「普通、空を飛んで迎えに来て、さあ、行くぞと言われれば王道では飛んで逃げるだろう」
「馬鹿が。おれのこの身体で、飛んで二人運べるわけはないだろう」
確かに、リュウは細い。
時が止まったのは、14、5くらいだというが、エドアルドの同じ年に比べると遥かに小さいだろう。
「ぐっ」
「闇で相当の炎は消したのだから、いいじゃないか」
「相当、はね。だが、真っ赤になった木切れがいっぱい転がってたんだぞ。おかげで、足の裏が爛れて、大変なことになったじゃないか」
「命があっての物種だろう。ぜいたくなヤツだな」
「・・・」(わたしはぜいたくなのだろうか?)
―1年後の話
ドサリ。
上から相当の速度で落ちてきたのは牛の塊。
とっさに影に気づいて避けなかったら、今頃、死出の門をくぐっているぞ。
というか、人を殺す気か。
「リュウっ」
「あ、すまん。手が滑った」
すべってこう持ちにくいんだよなー、とつぶやきながら舞い降りるリュウの姿は1年前と変わらない。
「美味そうだったから、とって来た」
以前よりも遥かに親しげな口調。
確実に自分とリュウの間は縮まっていると思うエドアルド。
つい口元が緩みそうになる。
「何でもかんでもとってくるなよ。いくらなんでも私の体重の倍はありそうな重い牛に落ちてこられたら…」
ん?
自分の発言に首を傾げるエドアルド。
「牛ってわたしより重くないか?」
リュウはエドアルドの発言にぎくりと身体を震わせて、目線を逸らした。
しまった、とでも言いたげな顔である。
「・・・」
あの重度の火傷のあと、エドアルドは一月以上も走ることができなかったのだ。火傷をした足の裏の痛みで傷がひきつれて。
「さて、おれは水浴びでもしてくるか」
バサリと翼が広がり、あっという間に消えてしまった。
「リュウ~」
後には、巨大な牛(要調理)とエドアルドが残されていた。