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黄金の王子

 新ガルドス王国歴75年。


 王国は賑わっていた。

 数十年前の悪夢のような日々を覚えている者も数多くいる中、新しい命も生まれていた。

 そうした中、この年、残虐な魔王を倒した聖王ロアルドはとうの昔に死去し、そのロアルドの子も退位の年を迎え、孫のアルフレッドが齢40歳にして即位した。

 母親似の暗褐色の髪に、かすかにそばかすの散る顔に刻まれた柔らかな茶色の瞳。穏やかな顔はそれでも聖王と呼ばれたロアルドと同じように正義に溢れて、国民の誰もが新王の誕生を喜んでいた。

 即位式の行われた後、民の騒ぎに負けぬほど、城の中でも盛大な晩餐会が開かれていた。

 各国の王や女王、姫が参列し、即位を祝う。

 各国からの招待客が紹介されるたびに大きな拍手が巻き起こる。

 乾杯という声も会場のそこかしこから響いていた。





 時を同じくして、王庭の片隅では別の饗宴が終えるところであった。


「ぁっ」


 かすかな女の嬌声。

 時を少し遅くして、立ち上がるひとつの影。長い髪を無造作に後ろにひとつに括り、庭を吹き抜ける夜風にその髪が揺れた。乱れた髪の隙間から、いつまでもまごまごと動き出さない女の上に皮肉げに視線を落とす。


「ルイーズ殿。君の父上がそろそろ君を探し出すころだ。ドレスをなおして、会場に戻れ」


 そう命令口調で言った男は、脱ぎ捨てたシャツを拾い上げて羽織り、流れるような動作でカフスを留めていく。そして、髪を軽く撫で付ければ、ルイーズが声をかけた時と同じ、黄金きんの王子様の完成である。

 対するルイーズと呼ばれた女は、めくれ上がったスカートをもどす仕草さえせず、膝を摺りあわせた。

 まだ、中に彼がいるようだ、とルイーズは思っていた。

 エドアルドは自分の中には子種を出さなかったけれど、それでもあれほど自分は感じることができたのだ。本当に感じたときは意識が飛びそうになると女学校の友達のエリザベスが教えてくれたとおり、自分は何度も飛んだ。

 そして、エドアルドも自分と同じように感じていたはずだと思っていた。


「つれないですわぁ。エドアルド様。先程まであんなに熱い時を過ごした二人ですのに」

 甘えた声を出すルイーズををエドアルドは聖王ロアルドの生まれ変わりとも言われる翠の瞳で冷たく見下ろした。


「行くぞ」


 そう言い捨てて、さっと踵を返す。

 ルイーズのスカートを戻す優しささえ無く、そして、一瞥さえなく。


「エドアルド様っ!」本気で立ち去るとは思っても居なかったルイーズが驚いて目を見開く。しかし、エドアルドがルイーズの声に静止することはなく、そのまま立ち去ったのであった。


 先程までの熱い時間はまるで幻のようであるかのように…ただ、ひっくり返った蛙のように足を広げたままのルイーズを残して。「エドアルド…様」

 自分がまるで性欲を沈めるだけの女のように扱われたのだと知ったルイーズの顔は、みるみるうちに怒りと恨みで顔色を変えていったのだった。



 

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