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エドアルドの心情 (いただきものイラストあり)

「少なくとも握手くらいはどうかな。お付き合いの第一歩だとは思うんだが」



 そう述べるとリュウは冷たい視線を向けてきた。

 自分の言ってきたことを聞いていなかったのか、という意。


 それはわかる。

 わかるのだが。

 長く人と触れあうことをしてきた自分には、そうしたおつきあいが不可欠だ。


 正直なところリュウを見ているだけで腹の中が疼く。


 だから、もし今触れたら、握手では終えられない気はしている。

 自分が死んでもいいから、最後までしてしまうかもしれない。


 まるで自分が人に飢えた獣になったようだと感じて、エドアルドは軽くため息を吐いた。

 

 誰でも彼でも触れたいと思うわけではない。


 決して素行がよろしくなかったエドアルドには、今まで肉体的にそれなりに、精神的には淡泊にお付き合いしてきた数多くの女性がいた。

 彼女たちの存在は自らの欲をほどよく発散させるためにお相手として。

 だから、女性を見れば、抱き心地が良さそうだとか、シマリが云々など、男らしく下品なことも考える。

 ただ、終わってしまえばそれだけの存在。

 その後も、むやみに抱きしめたいとか思うわけではない。

 彼女たちの肉体労働のお礼に、時折、ドレスや宝石は買ってやったこともあったが、彼女たちの多くは、エドアルドの温かい言葉や仕草よりも、そうした物をもらうことに喜びを感じているようだった。


 そう考えると、ドレスにも宝石にも、もちろんエドアルド自身にも魅力を感じているわけではないリュウとのお付き合いは、総合的に判断して越えるべき山がいくつもある。


 まず、(たぶん)魔族だということで世間のハードルが高い。


 闇に触れたら、命も危うい(実際に死にそうになったし)。

 触れないでイタす方法も考えなければならない。


 おまけに性別が男の子。

 リュウの性的な意味での言動の幼さを聞く限りは、今まで誰とも肉体関係を持ったことはないのは明らかだったが。

 今は一人で過ごしているから、女のことを知らないだろうが。

 あの女独特の蠱惑的な胸のやわらかさとか、包まれる温かさとか知ってしまったら、今以上にわたしと距離をおくことは十分に考えられる。


 となれば、そういう意味での三重のハードルである。

 

 今のところ、有利なのは聖なる力とやらで、傍にいられるのが自分くらいしかいないということ。


 まあ、こういうのは確率の問題なので、いつ何時、聖なる力をもった女性が誕生しないとも限らない。


 つまるところ。



「どう考えてもわたしが圧倒的に不利だよな」



 真剣に考えながらつぶやくと、あからさまに不審なまなざしをリュウから向けられた。

 目は口程に物を言うというが、どうせ変質者とか、変態とか思っているのだろう。



 残念ながら、リュウに関することでエドアルドの辞書に諦めという文字はなかった。


 









 

 それにしても、人は落ち着いてきたら、自分の身の回りの出来事が見えてくるのだという。

 ちょうど今がその時かもしれない。


 あれから何日目が経ったのだろう。



 今の自分に何があるのか。できるのか。どうしたらいいのか。



 身体は。

 

 少なくとも足は治った。リュウを追いかけて走れるほどには。剣の鍛錬も、一人で一通りの型をやるだけだが再開した。

 

 武器は。


 剣が一本。あと何本か城に剣があったが、いずれも何を切ったのか、歯が欠けていたり…なんだりかんだ。

 いや、本音を言えば、諸々想像して使いたくないので理由を後付けしている。


 仲間は。


 リュウがいる。仲間、と呼んでいいものかどうかはわからない。


 情報は。


 皆無。


 エドアルドの持っている情報は、あの即位式の夜のまま停止している。

 伯父のジャイーンや母のアイーシャがどこにいるのか、何をしているのかもわからないし。

 

 だが、残してきた兄や妹の様子も気になる。


 もしかすると、王と同じように手にかけて。


 最悪の想像がよぎるが、想像に過ぎない。




 駒が少なすぎて勝負にならない。




「はぁ」




 その日、何度目かのため息を吐きながら、エドアルドはすっかり手馴れた仕草で、剣で枝を切っていた。枝は、薪にするのだ。



 せめて、もう少し。

 状況がわかれば、動くこともできるだろうに。

 リュウの手助けのおかげで、こうして、なんとか生きていくことが出来ているが、こうして生きていくだけでは、だめだ。



 森の中から、見慣れた小汚い布が見えた。

 リュウである。

 エドアルド以外、誰も見ないのに、相変わらず姿をかくして狩りに行っているようだ。


 遠目に伺うリュウは、今日は、鮮やかな緑の羽根の鳥を手にしていた。

 そのリュウの手から、今日の獲物が放られてエドアルドの足元に鳥が横たわる。

 エドアルドが見たこともない鳥のくちばしは大きく太く、そして赤かった。

 羽の先が真っ青に染まっている。

 さぞかし空を飛んでいるときは美しかっただろう。


 この森の生態は結構豊かだ。


 リュウはフードを取り払い、顔を覗かせた。

 相変わらず可愛らしい相貌だ。

 思わず顔がほぐれたところに、リュウから睨め付けるような視線を向けられて、キリっとさせた。

 これ以上、避けられては本当に飢えてしまう。


 そのとき、リュウがふと背後を振り返った。

 何かを伺うように目を眇める。


 気になることでもあるのだろうか。


「どうした?」


「別に」

 

 リュウはそれ以上、気になることについて述べる気はないようだった。

 エドアルドは、違う話題を考え。


「君は外の様子を探ることができるのか?」


 むき出しになった赤い円の中央に輝く金色の瞳孔が窄まった。


「もう一つ言い忘れていた」


「何を」


「おれは人には関わらない」


 ぴくりと狼の形をした右耳が動いた。

 短めで柔らかそうな毛並みの灰色の耳。

 あの耳に触れてみたいと、エドアルドは考えていた。


「つまり」


「あんたが何から逃れてきたのかは知らないが、どんなに同情する状況であっても手助けはできない」


 あっさりと、かすかに期待していたことを裏切ることばを口にしてリュウは首を横に振った。

 状況を打開する策は与えてはもらえないと言うことだ。

 闇の力を持ってすれば、きっと兵士を退けるのも容易いことだというのに。


 

「人は闇を恐れるものだ。闇を利用しようなんて考えないほうがいい」



 エドアルドの浅い考えを見抜くように、リュウはそう告げて立ち去った。



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 ごんたろう様が素敵な絵を描いてくださいましたので、

 ご好意に甘えて転載させていただきました。

 飄々とした表情のたまらないリュウです♪


 挿絵(By みてみん)









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