会話
ひやりと頬が濡れた布で頬を拭われた。
エドアルドはとっさに目を覚まし。
飛び起き。
いつもどおり左に置かれた剣を構えて。
次の瞬間、全身を覆う隠しようのない倦怠感と残った痛みに、がくりと膝を付いた。
布が離れていく気配に思わず、その手の主を捕まえようとして手を伸ばしかけ。
主が後ろに引いたのがわかった。
逃げる…っ。
そう思ったが、逃げていく気配はなく。「同じ過ちを繰り返す気か」
暗闇で叫んでいたまだ耳に残っている、そのままの声で静かに告げられた。
どこか諭すような響きに、昨夜の出来事が…声の主に触れたからだと思いついた。
何が自分に起こったのか。
ただ、触れただけなのに。
魔法でも使われたのか。
「あれは魔法ではない」
エドアルドは重く崩れ落ちそうになる身体を膝に手を当てて支え、ギッと顔をあげた。
目に入ったのは、薄汚れた布ですっぽりと覆われた者。
「何者だ」
「…」
返事は沈黙。
「どういうつもりだ」
「なにがだ」
「人に会う時くらい、それを取れ」
手を伸ばすが。
あっさりと後ろに下がられる。
その拍子に、昨日エドアルドが捕まえたと思った足首がのぞくが。
手に感じていたとおり、両足とも細く…そして白かった。
その足に理由もなく魅入り。
意味もなくゾクリと何かがエドアルドの全身を這い上がる。
「お前はだれだ?」
黒に覆い隠された薄汚い布の奥から赤い目が覗いていた。
エドアルドの質問の真意を探るように、いくどか瞬く。
そして、しばしの沈黙の後。
エドアルドが諦めることがないことを認めて、ささやくように言葉を載せた。
「リュウ」
そして、エドアルドが幾度めかの痛みに堪えきれず、目をつむった瞬間。
その姿は幻のようにかき消えていた。