もうひとつの赤い目
エドアルドは夢うつつに掴んだのが、なんなのか無自覚なままに声を発していた。
「だれだ」
返事の代わりに、向けられたのは…赤い…闇にきらめく光。
その色に手が凍りつき、一気に現に頭が切り替わる。
左手で剣を引き寄せ、斬りつけようと体勢を整えようとして。
もう一度、光を見上げて…違和感に気づく。
見覚えのない…猫のようなその目。
人には非ざる者だとわかったが、不思議とエドアルドは恐怖は覚えなかった。
これはジャイーンではない。
むしろ自分を案じるかのように、赤光が幾度か瞬く。
エドアルドは、逃がさないようにもう一度手のひらに力を込めた。
「名を名乗れ」
誰かはわからないが、細い足だった。
自分の掌で簡単に一周できてしまう。
力を入れたら折れてしまいそうなほどで。
赤い目がなければ、近隣の村の子どもが戯れにここを遊び場にしているのではないかと勘違いしてしまいそうだ。
戸惑いを覚えた目が、もう一度瞬き。
足が無言のままに抗う。
エドアルドから逃げようとしている。
子供とは思えないほどの強い力。
何度から振られたら、逃れてしまうかも知れない。
そして、二度と会えない。
そんな予感を感じた。
逃がさない!
エドアルドは、とっさに剣の柄から手を離し、左手でもう片方の足があるだろう方向に手を伸ばし、それをつかんだ。
「おれにさわるなぁっ!」
エドアルドの意図に気付いた、それが叫んだ。
まだ幼いその声は…。
悲鳴のように城に木霊し。
声は、古い魔王の城の壁に吸い込まれて。
それは時遅く。
右手が触れたその場所から、エドアルドの全身を爆発的な…内側から全身を針で刺されるような…総毛立つ何かが駆け抜け。そこから一気に血を根こそぎ抜き取られるような気持ち悪さが広がり。「がはぁっ!」
喉から血反吐を吐くような痛みの声をあげ、エドアルドの意識は飛んでいた。