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第3話:冷酷なリストラ

 ギルドの執務室。私は震える手で、一枚の魔導書類を夫に差し出した。

 ギルドの経営は火の車だった。

 ライオスが「芸術的価値」にこだわり、高価な稀少石を贅沢に使った贅沢な建築ばかりを優先した結果、一般市民からの依頼は激減。維持費だけが膨れ上がっていたのだ。


「フン、数字など瑣末なことだ。私の美学に金が追いついていないだけだ」


 ライオスは優雅にワインを傾け、私を見ようともしない。


「でも、このままでは現場で働く職人さんたちの給料も払えません! それに、隣の区画からは連日、移住受け入れの悲痛な要請が……」

「うるさいと言っているだろう!」


 ライオスがグラスを床に叩きつけた。ガシャン、と鋭い音が響き、赤い液体が私の靴を汚す。


「いいか、私は決めた。この『ライオス建築ギルド』を再建するために、徹底的なコストカットを行う。……無能な連中を全員切り捨てることにした」

「え……?」

「幸い、隣の区画の有力者……カシムだったか? あの男が、移住枠の確保のために多額の『裏金』を提示してきた。私はそれを受け取り、ギルドの負債を帳消しにする」


 私は耳を疑った。

 隣の区画の人々は、住む場所がなくて死に直面している。その弱みに付け込み、大金をせしめようというのか。


「それだけではない。リストラの筆頭は……君だ、アリア」


 冷たい声が、心臓を直接凍らせる。


「君の『詰め込み設計』は、我がギルドのブランドを汚す不快なゴミだ。君が現場の隅に勝手に作った『避難スペース』とやらは、今日中にすべて取り壊す。そして——君との婚姻も、本日をもって解消する」

「……待ってください! 私がクビなのはいい。でも、あのスペースを取り壊したら、あそこに住んでいる人たちはどこへ行けばいいんですか!?」

「知るか。ゴミはゴミ箱へ、君は路地裏へ。それだけのことだ」


 ライオスは冷酷な笑みを浮かべ、あらかじめ用意されていた『絶縁状』と『解雇通知』を私の顔に投げつけた。


「さあ、出て行け。二度とその薄汚い図面を私の前に見せるな」


 数年の献身。

 寝る間を惜しんで計算し続けた日々。

 夫を支えようと耐えてきたすべてが、紙屑のように宙に舞った。


 私は、一言も言い返すことができなかった。

 ただ、震える手でその紙を拾い上げ、雨の降らない地下都市の、暗い街頭へと放り出された。

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