表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

23/25

第23話:楽園の創造、あるいは地獄の門

 アリアの手によって、地下都市は「石の箱」から「至高の居住空間パレス」へと生まれ変わっていた。

 ミリ単位で計算された空気の対流、地圧を分散しつつもプライバシーを完璧に守るハニカム防音壁。さらには、都市全体の荷重を利用した「自家発電システム」により、スラムだった場所ですら、中央貴族の屋敷より快適な「黄金の個室」へと変貌を遂げたのだ。


「……信じられん。これが、あの暗く湿った地下だというのか?」


 隣接する軍事国家からのスパイや、周辺を荒らしまわっていた野盗の頭領たちが、入国審査の列に並びながら呆然と呟く。彼らはアリアの噂を聞きつけ、「隙間があれば住ませてくれ」と、家宝や略奪品を差し出して泣きついていた。


「アリア様! 私はかつて、あなたを『ただの女建築士』と呼んだ罪深き者です! 自分の指を切り落としてでも償います、どうか……この『アリア様仕様』の第十二区画に一枠だけ……!」

「アリア様の引いた線の上に寝られるなら、私は一生、この都市の排水溝掃除で構わない!」


 かつての傲慢な態度はどこへやら。屈強な男たちが、アリアが通りかかるたびに、道端の石ころのように平伏していく。

 だが、その熱狂の「隙間」を縫って、カシムが軍靴の音を響かせて現れる。

 地下最強の支配者が放つ威圧感は、もはや人間が耐えられるレベルを超えていた。


「……五月蝿いぞ、羽虫ども。アリアは今、私の私邸で、私のためにだけ新しい『癒やしの空間』を設計している最中だ。貴様らのような汚物に見せる顔はない」

「カ、カシム閣下……! 慈悲を……!」

「慈悲? そんなものはアリアにすべて使い果たした。……貴様ら、入居したいと言ったな? ならば、まずは私の軍門に降り、アリアを讃える『石像』を一万体、全区画に設置しろ。それが終わるまで、貴様らに与える隙間は……一ミリもない」


 カシムの一言で、周辺諸国の英雄たちが、ただの「石工(作業員)」としてアリアの足元に跪くこととなった。

 一方、カシムに抱きかかえられるようにして執務室へ戻ったアリアは、少し困り顔で図面を修正していた。


「カシム様……。あまり皆さんをいじめないでください。せっかく新しく作った『高密度テラス』、まだ空きがありますよ?」

「……アリア。君は優しすぎる。あんな連中を入れたら、私の『君との時間』が削られるだろう」


 カシムはアリアの指先を絡め取り、逃げ場を塞ぐように壁へと追い詰めた。

 地下最強の男が、たった一人の女性を独占するために、国家の全権を使い、他国の英雄を奴隷に変える。その重すぎる愛に、アリアは顔を赤らめるしかない。


「君の引く線は、世界を救う。……だが、その線の中に、私以外の男を入れることは、私が許さない。……分かっているな?」

「……はい、カシム様。私の設計図の中心には、いつもカシム様がいますから」


 アリアの言葉に、カシムの独占欲が甘く溶けていく。

 その頃、再建されたアリアの「ハニカム独房」に収容されたライオスは、自分がかつて「無能」と呼んだ設計の、あまりの快適さと機能美に、自らの建築学が完膚なきまでに破壊される絶望を味わい、ただただ嗚咽を漏らしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ